2017年11月21日火曜日

今週の今昔館(86) からくり錦絵「心斎橋」 20171121

〇今昔館の近代展示室を愉しむ(20) からくり錦絵「心斎橋」

 今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って、すぐ左手にある「からくり錦絵」の2枚目、「心斎橋」をご紹介します。


 明治6年(1873)3月、心斎橋が鉄橋に生まれ変わりました。ドイツから輸入した弓型鉄製トラス橋が長堀川に架かりました。大阪市内では高麗橋、新町橋に続いて3番目でした。

 心斎橋は、元和8年(1622)ころ美濃屋岡田心斉が中心となって、長堀川の開削と同時に両岸に沿うこの町の往来の便のため、南北に橋を架けたところから名づけられたとされます。

 心斉は、長堀川を開いて物流を盛んにし、大阪繁栄の基礎をつくったひとりでもあります。江戸時代の心斎橋は長さ18間(約35.5m)幅2間1尺(約4.2m)の木橋で、橋筋の人々が大切に維持管理する 「町橋」として近代までその生命を保ちました。

 文明開化の波にのって、明治6年(1873)、本木昌造の設計によってドイツ直輸入の鉄製弓形トラス橋となった心斎橋は橋脚なしに川をまたぐものでした。当時の人にとって鉄橋は非常に珍しく、大阪の人の間で話題となり、錦絵にも描かれました。

心斎橋(土木図書館蔵)

 心斎橋の弓形トラスは、1908年(明治41年)に心斎橋としての役割を終え撤去された後は、境川運河の境川橋として再利用され、1928年(昭和3年)に大和田川の新千船橋(大阪市西淀川区)と移設を重ね、1973年(昭和48年)に鶴見緑地にすずかけ橋として保存されました。1989年に現在地に移り、鶴見緑地公園の「緑地西橋」として余生を送っています。日本現存最古の鉄橋と言われています。

境川橋として再利用されている心斎橋の弓形トラス
(大正13年発行の大阪市パノラマ地図)


 明治42年(1909)には野口孫市の設計によって石造2連アーチ橋に架け替えられ、壮大な渡り初めが行われました。眼鏡橋として川面に映るガス灯と共に長く親しまれました。愛媛県今治市沖の大島産の良質の御影石を用い、西洋風意匠で組み上げた秀麗な雰囲気の名橋でした。


石造アーチの心斎橋(「絵はがきで読む大大阪」より)

 昭和37年(1962)に長堀川が埋め立てられて撤去された後、昭和39年(1964)に長堀通を横断する歩道橋として移築されました。映画「ブラック・レイン」にもワンシーンながら登場しています。

 その後、地下鉄長堀鶴見緑地線の工事のため撤去されましたが、平成9年(1997)にクリスタ長堀が完成した際、もとの心斎橋の位置に石造橋の一部がガス灯と共に復元されました。親柱、四つ葉のクローバー型の装飾のある欄干は建造時のもので、橋名・架橋年月・石工棟梁と石材提供人の名が刻まれています。クリスタ長堀の天井部を川に見立て、長堀川の水面が再現されています。南側歩道の東側に顕彰碑が設置されています。
 また、大阪市営地下鉄 心斎橋駅長堀鶴見緑地線ホームは、心斎橋の欄干やガス灯をモチーフとした装飾が施されています。


 それでは、古地図を通して心斎橋付近の変遷を見てみましょう。
 まず、江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、心斎橋筋には赤い線が引かれモデル観光ルートになっています。小梅エン、五レウ圓、大丸呉服店、ヲグラヤなどの老舗が並んでいます。戎橋を渡ると道頓堀の五座が並んでいます。心斎橋筋は、堺筋と並んで、長堀、道頓堀の両方に橋が架かり、南北方向のメインストリートであったことがわかります。堺筋の2つの橋(長堀橋と日本橋)は幕府が管理する「公儀橋」ですが、心斎橋と戎橋は町人が管理する「町橋」です。

「浪華名所獨案内」の心斎橋周辺(上が東)

 次は、同じく天保年間発行の「天保新改攝州大阪全圖」です。町名が詳しく書かれており、長堀に架かる橋も心斎橋、長堀橋のほかに、中橋、佐ノヤ橋も描かれています。名前の入っていない橋は三休橋です。
「天保新改攝州大阪全圖」の心斎橋(日文研蔵)

 明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」を見ると、心斎橋は長堀に架かる他の橋よりも太い線で描かれ、橋脚(杭)も表現されています。この時はまだ木造の橋で、翌年に鉄橋に架け替えられることになります。 
「大阪市中地區甼名改正繪圖」の心斎橋(日文研蔵)

 大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」を見ると、長堀に沿って東西に市電が通り、堺筋と四つ橋筋にも南北に市電が通っています。長堀よりも北の船場では通りに沿って東西方向の町が残っていますが、長堀の南の島之内では南北に「心斎橋筋一丁目」となっています。島之内の周防町より南側では、笠屋町、千年町など南北方向の町割りが多くみられます。
「實地踏測大阪市街全圖」の心斎橋(日文研蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」には、明治42年に架け替えられた石造アーチ橋が描かれています。心斎橋筋に沿って十合(そごう)、大丸もあります。長堀の北には市電が走り、停留所には電車の絵が描かれています。

「大阪市パノラマ地図」の心斎橋

 範囲を広げて見てみると、堺筋と四ツ橋筋には市電が走り、長堀通りの市電には心斎橋のほかに三休橋にも停留所があります。御堂筋は拡幅前で、長堀にも橋はありません。
「大阪市パノラマ地図」の心斎橋周辺

 最後に、明治時代以降の心斎橋付近の変遷を「今昔マップ」で見てみましょう。
 左上の明治41年の陸地測量部地図では、長堀の北側の通りが拡幅されていますが、それ以外の通りや筋は、江戸時代の町割りがそのまま残っています。堺筋も拡幅前です。

 右上の昭和4年の地形図では、長堀通りと堺筋が拡幅され市電が通っています。
 左下は昭和32年です。白くなっているところは、戦災で焼失した地域です。復興はまだあまり進んでいない様子です。

 右下は、最新の国土地理院地図です。長堀は埋め立てられ、広い幅の長堀通りになっています。西横堀も埋め立てられて、上を阪神高速道路環状線が通っています。

明治41年、昭和4年、昭和32年、最近の心斎橋(今昔マップ3)

 からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。近代都市として新しい発展の道を歩み始めた大阪の様子を、からくり仕掛けの錦絵で紹介しています。

からくり錦絵の解説板

 真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。明治時代に入って、文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。


赤いボタンを押す前の状態
3枚の演出が終了した状態

 今回は、からくり錦絵の第2回目として「心斎橋」をご紹介しました。近代展示室中央の光床「大阪市パノラマ地図」や、9階にパネル展示している「浪華名所獨案内」で位置を確認し、変化の様子をたどることで、より楽しく見学していただけることと思います。


〇特別イベント  民家をたのしむ!民家をつたえる!

★Part1 シンポジウム「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
◇日  時:平成29年11月26日(日)10:00~12:30 (受付開始:9:40~)
◇「大阪くらしの今昔館の町家建築物語」谷 直樹(大阪くらしの今昔館館長)
 「体験することはわかること―Weald and Downland Living Museumの民家建築と伝統的なくらしの学びを生き生きとしたものにするために―」通訳あり
  Martin Purslow CEO of the Weald and Downland Living Museum
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇定  員:150名(事前申込、先着順)
      定員になり次第、締め切ります。
◇参 加 費:無料

 Weald and Downland Living Museum(ウィ-ルド・アンド・ダウンランドくらしの博物館)は、1972年に開園した英国イングランド南部にある民家博物館です。広大な敷地に、600年の時代を通じた52棟の民家が学術的な修復を受けて移築され、当時のくらしを再現しています。
 同館では、民家の建築的保全とくらしの技術の保存の両面から学習プログラムを提供しています。現代に暮らす人たちに民家の保全への意識を持ってもらうこと、また伝統的な生活の技やものづくりに関心を持ってもらうことが目的です。おとなのための学習プログラムやヨ-ク大学大学院と連携した民家の保存技術の専門的プログラムにも力を入れています。
 シンポジウムでは、英国くらしの博物館と江戸時代の町家を再現した大阪くらしの今昔館の事例から、民家を楽しみ、伝統的な建築技術を伝える方法を考えます。

●司会:碓田智子(博物館住まい学習研究会代表、大阪教育大学教授)
●通訳:和田美貴((一財)日本国際協力センター)

★Part2イベント 「大工体験! 匠の技」
①江戸時代の町並みで実演 手道具を使った大工の匠の技
 棟梁による、手道具を使った大工の伝統の技をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (予約不要、自由見学)
◇場  所:大阪くらしの今昔館 9階常設展示室
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

②町家の二階の特別見学-町家の構造を見よう-
 通常は非公開の町家(薬屋)の2階に上がって、町家建築の構造をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (要予約 シンポジウム申込者を優先)
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

☆匠の技を体験しよう!
 「ミニ削ろう会in今昔館」の大工さんから大工の技を教えてもらいます。
 鉋削りの体験や削り花でつくる「かんなフラワー」も楽しめます。お子さんも体験できます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:30
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇参 加 費:無料

民家をたのしむ!民家をつたえる!
Let’s Learn from Historic Houses in the Museum
主 催:博物館住まい学習研究会、大阪くらしの今昔館
協 力:「ミニ削ろう会in今昔館」の大工棟梁のみなさん


申込はこちらからどうぞ。

https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/32955


〇次回の企画展「道具のむかしばなし展―ものから学ぶ昔のくらし―」
 わたしたちのくらしは、この数十年で大きな変化をとげました。古くから使われてきた道具にかわり、それまでになかった電化製品が登場し、料理や掃除、洗濯にいたるまで、より便利で快適な生活を実現してきました。
 本展では小学校の学習内容に合わせ、さまざまな生活道具を展示し、くらしのうつりかわりを紹介します。また、昭和期の茶の間を再現した展示や、蚊帳や黒電話など道具に触れる体験コーナーもあります。
 さあ、道具たちのむかしばなしに耳をすませ、楽しく昔のくらしを学んでみましょう。

会期:平成29年12月16日(土)~平成30年2月10日(土)
開館時間:午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
会期中の休館日:毎週火曜日、年末年始(12月29日~1月2日)

〈関連イベント〉
① 特別講演会「道具が化ける?絵巻で読む付(つく)喪神(もがみ)」

講師:田中貴子氏(甲南大学文学部 教授)
日時:2018年1月27日(土)14:00~15:30(受付開始13:30)
会場:住まい情報センター 3階ホール
参加費:無料
定員:100名(要事前申込、先着順)
申込み方法:インターネット、又はハガキ・FAXにて。氏名(ふりがな)、年齢、住所、電話番号、参加人数(4名まで、お連れ様の名前も記載)を記入。
インターネットからのお申込みはこちらから
≫ https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33011(住まい・まちづくり・ネット)

② ワークショップ「障子に親しもう」
日本家屋にはおなじみの障子。破れた障子を修理したり、影絵で遊んだりしながら、障子について学ぼう。
日時:2018年1月20日(土)、2月4日(日)14:00~
場所:9階木戸門横スペース
参加費:無料
小中学生以下は入場無料、高校生以上の方は常設展の入場料が必要です。
参加人数:先着10名 *事前申し込み不要。直接会場にお越しください。


〇今週のイベント・ワークショップ

11月22日(水)、24日(金)、25日(土)、27日(月)、29日(水)~12月2日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
時 間:11:30、14:30

11月23日(祝)、26日(日)、12月3日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

11月25日(土)
町家衆イベント ワークショップ 『千代紙ろうそくを作ろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

11月26日(日)
町家衆イベント 今昔語り

大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30~15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00

イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時

町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30~15:00

特別イベント 民家をたのしむ!民家をつたえる!
Part1 シンポジウム 「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
Part2 『大工体験! 匠の技』

12月03日(日)
イベント 邦楽演奏会

三味線、地唄、箏、尺八による邦楽の演奏会です
14時~15時
出演:菊聖公一、中萩あす香、ジェシー逅盟


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。


大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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