今回は「浪華の賑ひ」の「八軒家」をご紹介します。江戸時代、京・伏見と大坂を結ぶ三十石船が発着する水運の拠点でした。
「八軒家」の図には解説文や詩歌はなく、手前に八軒家の浜の様子、後方に天神橋が描かれ、「天神橋」の文字があります。
浪華の賑ひ「八軒家」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
「浪華の賑ひ」の本文には「天神橋」として以下のように記載されています。
淀川すじの大川に架せり。川上より第二の大橋なり。長百二十二間三尺、高欄壮観なり。南詰は京橋六丁目、北詰は天満十丁目という。 当橋の南詰より東に至れば八軒家の船着にして、京師への通船朝夕に出入ありて、最(いと)賑わし。所謂三十石の夜船、昼船、今井船の朝船等なり。されば下りの客に支度進むる舟宿、上り客集める船頭、陸に下り荷着ける馬子。何か声高にののしるあれば、船には仕切りの狭きを口角(いさかう)乗衆(のりて)ありて、終日静かなる事なきは、繁昌の証というべし。古名を十日宿といひて、いにしえよりの舟着なり。天和開版の大阪の図にも十日宿八軒家とあり。
浪花百景にも「八軒屋夕景」がありますので、見てみましょう。
浪花百景「八軒屋夕景(国員画)」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
八軒屋は、天神橋と天満橋の中間南岸の地名。古来、寺社参詣のため淀川から熊野街道に入る旅の中継地で、八軒の宿が軒を並べていました。
ここには京都へ行き来する様々な船の船着き場があり、船頭・馬子・旅宿の客を集める声や乗客たちの口論する罵声など、昼夜を問わず人々の喧騒に包まれ、まさに大川水運の一大拠点でした。
ちなみに、「東海道中膝栗毛」の弥次さん喜多さんを乗せた三十石船と呼ばれる川船は、京都伏見から大坂までを半日で、大坂から伏見までは丸一日で航行しました。
明治になると蒸気船に変わり、鉄道が開通すると船着き場の役割は低下し、衰えました。
八軒屋は、摂津名所図会にも描かれています。こちらでは、川の水位が上下しても船からの陸への人やモノの移動ができるように設置された階段状の「雁木」が描かれ、賑わっている浜の様子が詳細に表現されています。
摂津名所図会「八軒屋」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
「浪華名所獨案内」の八軒屋付近を見てみましょう。
江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、天満橋と天神橋の間に「八ケン家」があり、「三十石舟ツキ 宿ヤ多シ」と書かれています。南には「ザマヲタビ(坐間神社御旅所)」「火ノ見ヤグラ」があります。この地図は、東が上に書かれています。北を上にしましたので文字は右を向いています。
浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、天満橋の南詰に「▲京橋二丁メ」の文字があり、「▲四丁メ」の傍に「八軒屋」と書かれています。そこから南へ伸びる筋には「▲ヲハライスジ」の文字があります。八軒屋は熊野街道の起点となっていました。地図に書かれている▲の記号は、大坂三郷の「北組」を表しています。大川の対岸にある「〇」は「天満組」を表しています。
天満橋は、谷町筋より一筋東に架かっていたことがわかります。天神橋の北詰には、「〇十丁メ」の文字があり、天神橋筋は東から数えて十本目の筋ということから「十丁目筋」と呼ばれていたことが分かります。
天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵) |
大正3年発行の大阪市内詳細図です。八軒家の文字はありませんが、八軒家の位置に水上警察署の印があります。
大阪市内詳細図(大正3年) (国際日本文化研究センター蔵) |
大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、土佐堀通と谷町筋には市電が走り、天満橋と天神橋に停留所があります。その間に「八軒屋」の記載はありません。大川には川を上下する船が描かれています。
大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵) |
昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、パノラマ地図と同様土佐堀通と谷町筋に市電が走り、こちらでは、天満橋、八軒家、天神橋に停留所があります。八軒家停留所の前に「八軒家」の文字があり、寝屋川が付け替えられて將基島が埋め立てられています。対岸には「天満配給所」の文字があります。天満青物市場の跡地に当たります。
大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵) |
現在の八軒家浜には、2008年に観光用の岸壁である船着き場が整備され、常夜鐙が復元されています。2009年には観光船案内所、情報発信スペース、レストランからなる川の駅「はちけんや」が開業しています。かつては渡辺の津とも呼ばれた八軒家は、熊野街道の起点でした。
現在の八軒屋浜 |
川の駅「はちけんや」 |
川の駅「はちけんや」 |
現在の八軒屋浜(常夜鐙) |
熊野街道起点の碑 |
八軒家の解説板(浪花百景) |
八軒家から見た天神橋 |
八軒家からの天神橋夜景 |
八軒家からの夜景 |
今回は、「浪華の賑ひ」の「八軒家」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、付近の様子を確かめてください。
〇「企画展:2019年度 建築設計展」開催中です
前期:「設計競技 『住宅に住む、そしてそこで稼ぐ』入選作品展」
令和元年6月1日(土)~3日(月)
後期:「全国大学・高専卒業設計展示会」
令和元年6月6日(木)~9日(日)
開館時間:午前10時から午後5時(入館は午後4時30分まで)
■前期「設計競技『住宅に住む、そしてそこで稼ぐ』入選作品展」
日 時:令和元年6月1日(土)〜3日(月)
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会 場:大阪くらしの今昔館8階 企画展示室
内 容:設計競技『住宅に住む、そしてそこで稼ぐ』の入選作品を展示します。
入場料:無料
主 催:日本建築学会、同近畿支部
大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)
【講評会】
日 時:令和元年6月1日(土)午後2時~午後3時
会 場:大阪くらしの今昔館8階 企画展示室
内 容:展示作品の全体講評に加え、近畿支部入選作品を中心に取り上げながら、審査員が評価した内容などについて語っていただきます。
コンペに応募される学生および関係者には、貴重な機会となりますので講評会に是非ともご参加下さい。
講 師:前田 茂樹 氏(大阪工業大学 准教授)
■後期「全国大学・高専卒業設計展示会」
日 時:令和元年6月6日(木)~9日(日)
午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会 場:大阪くらしの今昔館8階 企画展示室
内 容:全国の大学及び高等専門学校の卒業設計優秀作を展示します。
入場料:無料
〇今週のイベント・ワークショップ
6月5日(水)~8日(土)、10日(月)、12日(水)~15日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
6月9日(日)、16日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
6月5日(水)、6日(木)
ワークショップ 『張子人形作り』
1日目に和紙を張り重ねて張子人形を作り、2日目に絵付けをして完成させます
※2日間とも参加できる方対象です
13時~15時
先着10名 参加費1,000円 5月10日(金)より参加受付開始
ハガキまたはFAXにて、住所・氏名・電話番号を記入の上、
大阪くらしの今昔館「張子人形」係までお送りください。
宛先:〒530-0041 大阪市北区天神橋6丁目4-20
FAX:06-6354-8601
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
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