今回は「浪華の賑ひ」の「茶臼山」をご紹介します。
■茶臼山
この地は天王寺の西南にあたりて、一心寺の後なり。もとの名、荒陵(あれみささぎ)といふ。慶長・元和の年間(ころ)、御陣営となる。これより後、当山に登ることを禁ぜらる。
また、この南の向ふに邦福寺といふ禅寺(ぜんでら)あり。この方丈の座敷より眺望殊に美景なり。春秋の花・紅葉はもとより、蛍・水鶏(くひな)・時鳥(ほととぎす)・萩・薄(すすき)・菊・女郎花(をみなへし)・雪の景色ひとしほよくして、遊観たえざる勝地なり。そのうへ、地音(ちいん)の徒(ともがら)乞ふに任せて、普茶の料理を出だせり。
浪華の賑ひ「茶臼山」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
浪花百景には、「茶臼山」と「茶臼山雲水」の2枚が描かれています。
■茶臼山(芳雪画)
茶臼山については、5世紀ごろ築造の全長200m近い前方後円墳であるという説があります。しかし昭和61年(1986)の発掘調査結果によると、古墳に欠かせない葺(ふ)き石や埴輪(はにわ)が全く見つかりませんでした。一方、規則正しい作られ方をしている盛り土は、堺市の大塚山古墳や御勝山古墳にも共通していることから、茶臼山が古墳丘ではないとも断定できず、専門家の間で議論が繰り広げられ、結論が出されていないのが現状です。
いまひとつの説として、延暦7年(788)に和気清麻呂が上町台地を東西に横切る運河の開削を試みましたが未完成に終わりましたが、茶臼山南側の河底池(こそこいけ、通称ちゃぶいけとも言う)はその際の河川の遺構で、茶臼山は掘り出した土を積み上げたものだとする説があります。
明治期には住友家の邸地となり、須磨への本邸の移転後は、大正15年(1926)に住友家から大阪市へ寄贈され、天王寺公園として市民の憩いの場となっています。
町家衆の湯川さんの分析によると、茶臼山の色紙の文様は躑躅(つつじ)で真田幸村を連想させ、満月と時鳥が描かれていることから、 茶臼山の5月15日の情景が描かれているとのことです。
浪花百景「茶臼山」(大阪市立図書館蔵) |
大坂冬の陣の際には徳川家康が本陣を置き、夏の陣では豊臣方の真田幸村が陣を布き、天王寺口の戦いとして激戦地となった舞台。幸村は最前線で徳川方を迎え討ちますが、壮絶な戦いの末、すぐ北の安居天神に落ちてゆきます。
合戦の後、茶臼山山頂にて家康が戦勝を祝しました。江戸時代はこれに敬意を表して禁足地とされていました。現在当地には、「大坂の陣史跡・茶臼山」の石碑が建っています。
大坂の陣史跡の石碑 |
■茶臼山雲水(芳雪画)
茶臼山の河底池に南接する邦福寺は、宝永6年(1709)黄檗四代独湛を招請して中興とした黄檗宗別格寺院。修行に励む雲水が大勢いたことから雲水寺とも称されました。
黄檗の寺らしく仏殿・楼門など諸堂すべてを中国様式で整えていました。庭には桜や紅葉が多数植えられ、茶臼山もまるで園内にあるかの如く借景として取り込まれ、方丈座敷からの眺望はことのほかすばらしく、来観者が絶えませんでした。
それら客の需に応じて出された普茶(ふちゃ)料理(中国風精進料理)は当寺の名物でした。煎茶の急須塚も祭祀されるなど、江戸時代以降、多くの文人が訪れた名刹でした。境内には湯が湧き、湯屋も設けられていたといわれます。昭和45年統国寺と改称されます。現在はベルリンの壁があることでも知られているお寺です。
色紙は、茶臼山にちなんで「茶べた」となっており、普茶料理、煎茶も連想させます。
浪花百景「茶臼山雲水」(大阪市立図書館蔵) |
統国寺にあるベルリンの壁 |
天保年間発行の「浪華名所獨案内」では、地図の右端(南端)に茶臼山があります。大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」では、天王寺公園の脇に茶臼山が描かれ、住友邸の文字も見えます。
浪華名所獨案内(「津の清」蔵・上が東です) |
大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵) |
大坂冬の陣、夏の陣の戦況をふりかえり、なぜ茶臼山に両陣の本陣が置かれ激戦地となったのかをみていきましょう。
冬の陣では豊臣方は天下の名城大坂城に籠城し、総構え堀の外に陣を構えた武将は、真田丸の真田信繁(幸村)のみでした。真田丸は大坂城の最大の弱点である南側を守るために作られ、徳川方に大きな被害をもたらしました。家康は茶臼山に、秀忠は岡山(勝山:生野区)に本陣を構えました。茶臼山からは、大坂城を望むことができたといわれます。
大坂冬の陣布陣図(Wikipediaより) |
冬の陣の後、大坂城は総堀を埋められ、夏の陣では豊臣方は城を出て城外で戦います。徳川方の関西の拠点は京都の二条城と伏見城。京都から大坂を攻めるのに、最短距離の淀川沿いの京街道を使わず、大坂のはるか東、南を迂回して郡山・法隆寺を経由して行軍します。なぜ遠回りをしたのか? 夏の陣の初戦は、道明寺や若江が戦場となったのはなぜか? 主戦場が大阪城の南側、上町台地上に限られたのはなぜか?
これには、大坂の地形が大きく関係しています。当時の大和川は河内平野を北西へ流れ、大坂城の北で淀川と合流していました。大坂城の東は湿地帯で大軍が進軍することは難しかったのです。このため、上町台地の付け根に当たる道明寺や平野付近が戦場となりました。5月7日の最終決戦では上町台地上を攻めてくる徳川方を迎え撃つため、豊臣方は上町台地上に陣を張ることになり、真田幸村は茶臼山に本陣を構えました。
大坂夏の陣布陣図(Wikipediaより) |
今回は、「浪華の賑ひ」の「茶臼山」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」開催中です
2020年2月14日(金)まで
みどころ
・大坂の屋敷の台所を模して特注で制作された特大のミニチュア台所
・当時の家庭雑誌「暮しの手帖」を生活道具とともに紹介
・ダイヤル式電話機など、触って昔の道具を体験できるコーナー
調理と食事、衣類の手入れ、住まいを整えるなど、家事は今も昔も家庭内で日々行われています。生活に使われる道具は、高度経済成長期に電化製品が普及し、より便利に効率的な生活となるように改良されていきました。現代においてはあえて自動化せずに、鍋でご飯を炊くなど手間ひまをかけて生活を楽しむ「ていねいな暮らし」という言葉も生まれ、それぞれの家庭の暮らし方は多様になりました。
昔の暮らしは、どのようなものだったのでしょうか。電気・ガス・水道の整備や生活道具の変化だけでなく、家族の形態や家庭の機能も大きく変化しています。例えば、職住が一致していた時代には、従業員も住み込みで家族とともに暮らすため、大きな台所にたくさんの食器が必要でした。また、来客に備えて住まいには座敷や客間を設けており、膳や座布団なども多数そろえておくことが当たり前でした。しかし、そういったふだんの暮らしというのは記録に残りにくいものです。その一端を、大阪くらしの今昔館が所蔵する生活道具を展示することを通して紹介します。商業都市として栄えた大阪で育まれた豊かな生活文化までをのぞいてみませんか。
旧八代敏所蔵雛飾り台所ミニチュア(部分) |
吸物椀 |
暮しの手帖 |
電話(さわってみよう) |
〇今週のイベント・ワークショップ
今昔館は毎週火曜日が休館日です。
カレンダーは、こちらです。
≫ http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202001
1月15日(水)~18日(土)、20日(月)、22日(水)~25日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
1月19日(日)、25日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
1月19日(日)
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00
町家衆イベント 連鶴(有料)
折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
14:30~中級者以上向け
町家衆イベント 紙芝居
昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
時 間:11時~12時
1月22日(水)
イベント 町家寄席―落語―
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時
1月25日(土)
町家衆イベント ワークショップ『鬼のお面を作ろう』
①13時30分 ②14時30分
各回先着10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します
1月26日(日)
イベント 座敷舞
山村流の立ち方が華やかな舞を披露します
出演:山村若女御一門 地方:井上満智子連中
14時~15時
町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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