「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「淀小橋」をご紹介します。当時の宇治川は淀の町の北側を流れており、淀小橋が架けられていました。
■淀小橋
伏見から宇治川に沿って京街道を徒歩で来た旅人が淀の城下に向かうには、宇治川を渡らなければなりません。その宇治川に架かるのが淀小橋です。大きな橋ですが「小橋」と名付けられているのは、より大きな橋が木津川に架かっていて、そちらが「大橋」だからです。
「上り船の部」の本文は次のように記しています。
≪城郭の上にあり。長さ七十六間、橋下の大間に鉄灯炉を釣り終夜灯を灯じ通船の便とす。≫
「上り船の部」においては、淀川の左岸の風景を下流から上流へと紹介していますから、「城郭の上にあり」とは、淀小橋は淀城の上流に位置しているということです。
また、「下り船の部」には、
≪両岸共に茶店・旅店・貨食家多く繁昌なり。≫
と記しています。
淀の宿場には、本陣・脇本陣こそありませんが、交通の要衝で風光明媚な場所であるがゆえに、多くの旅館や茶店が軒を連ねていたのです。
淀川両岸一覧下船之巻「淀小橋」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
絵は淀川左岸から小橋の橋下を眺めた風景で、右が上流、左が下流です。橋脚の間から奥に見える鳥居が淀姫社で、淀川右岸の水垂村の産土神(うぶすな)でした。対岸には旅人目当てに商いをする店が並んでいるのが見えます。小橋といいながら大河の流れに耐えることができるよう、たいそう立派な造りの橋脚になっています。そこを通過する船が三艘。向こうの二艘が十石船で、手前は旅客を乗せた三十石船です。
淀小橋の橋下は水流が巻いている上、急流のため、船頭にとっては鬼門でした。「三十石船唄」にも
伏見下がれば淀とはいやじゃ いやな小橋をとも下げに
と船頭の気持ちを歌っています。「とも下げ」とは、船を回転させて艫(とも)つまり船尾から下ることを言います。
絵の右上の漢詩は次のとおりです。
酒慢(しゅまん)、茶檣(ちゃしょう)、又一湾/春雲碧(みどり)を涵(うるほ)し未だ山に帰らず/流れに乗りて偏へに恐る、誤って相触るるを/舟を転じ退き行く橋脚の間 島棕隠
川の流れによってコントロールが効かなくなって、誤って橋脚に触れることを恐れ、船の前後を回転させてスピードを落とし橋脚をやり過ごしていたのです。
西鶴の「世間胸算用」巻四ノ三「亭主の入替り」にも、「程なう淀の小橋なれば、大間の行燈目的に、船を艫より逆下し」とのくだりがあります。橋脚保護のため船尾を前にして失速させ、衝突事故を予防したのですが、下りといえども、ここでの舵取りは容易ではありませんでした。その行燈が、絵の中央左に描かれています。ここを通過する船の安全を守るため、こうした配慮が必要だったのです。
本文には、次のとおりの解説があります。
■淀小橋
長さ七十六間、南北に架す。両岸共に茶店・旅店・貨食家多く繁昌なり。領界より水上およそ二十三丁。橋下には夜、燈籠を照らし通船の便とす。
■納所(のうしょ)
右小橋の北詰なり。ここに過書船の番所あり。
■唐人雁木(とうじんがんぎ)
同所にあり。朝鮮人来朝の時、大坂より河舟にて上り、この所より陸地を行くなり。
■鳥羽川
加茂川の下流なり。横大路の辺に至り桂河の末と合し、唐人雁木の下にて淀川に入る。
■水垂(みづたれ)
鳥羽川の傍にあり
■淀姫社(よどひめのやしろ)
水垂村にあり。この所の生土神とす。
祭神三座、中央淀姫神、東間千観内供、西間天神。当社は千観法師の勧請なりと云ふ。若宮(本社の西にあり)多宝塔(鳥居の東にあり。大日如来を安ず)火大神祠・地蔵堂(本社の東にあり) 例祭九月二十三日、神輿一基あり。
■宮之渡口
右淀姫の社の鳥居前より鳥羽川の落合を小橋の北づめへの舟わたしなり。
■大下津
水垂村につづく
■法西川(ほうさいがは)
大下津村の下にあり。
この所より大坂まで陸路行程九里の場所なり。
「下り船の部」においては、淀川の右岸の地名や風景を上流から下流へと順に紹介していきますから、「○○の下にあり」という言い回しが、これ以降頻出します。「○○の下流側に位置する」という意味になります。
「都名所図会」には「淀姫社、浮田森、淀小橋」の挿絵があります。
本文には、「大橋(木津川の末にかくる橋なり、長さ百四十間あり。)、小橋(宇治川伏見の沢等の下流にかくる橋なり、長さ七十間、城郭造営の時かけ初しなり。)」と、解説があります。小橋の長さが「淀川両岸一覧」と差異がありますが、大橋が小橋の2倍ほどの長さがあったことがわかります。
都名所図会「淀姫社、浮田森、淀小橋」 (国際日本文化研究センターデータベース) |
次に、大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の淀小橋付近を見てみましょう。この絵は北から見た風景を描いていますので、左手が伏見、右手が大坂になります。絵の向こう側左寄りに淀城が描かれ、左端に描かれている橋が宇治川に架かる淀小橋、右上に描かれている橋が木津川に架かる淀大橋です。絵の手前側の淀川右岸には、納所村があり、左手に「とみの森」、右手に「水垂」「淀明神」などの文字が見えます。
「よと川の図」の淀小橋付近(大阪くらしの今昔館蔵) |
淀小橋付近および三川合流地域の様子を地形図で見てみましょう。
1枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。図の右上に見える大きな池は巨椋池、左下は山崎と八幡の間で三川が合流する所です。図の中央上部が淀城と城下町(=宿場町)です。当時は宇治川は淀の町の北側を流れ、町の北側に架かる橋が淀小橋です。淀小橋の下流で桂川が宇治川に合流し、淀川となります。淀の町の南側から町の西に向かって、木津川がかつて流れていた河道の痕跡が見られます。かつては町のすぐ近くで三川が合流していたことがわかります。
明治22年陸地測量部地図(仮製地図) 国際日本文化研究センター蔵 |
次に、今昔マップを利用して昔と今の様子を見比べてみます。一枚目は、左は明治42年陸地測量部地図、右は最新の地理院地図です。二枚目は、左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
左側の図では、宇治川が直線状に流れるように川筋が付け替えられた新しい河道が完成しています。「新宇治川」と表示があります。「京阪電気鐡道」に沿って旧河道も残っており、「舊宇治川」の文字が見えます。
右の図では、横大路沼は埋め立てられて横大路運動公園になっています。新旧宇治川の間、淀の町の東側に京都競馬場が見えます。競馬場中央の池はかつての地形を利用して作られています。黄色の道路は府道を示しています。
2枚目の地図の左側を見ると、横大路沼の部分は黄色に赤い横線が引かれ、埋め立てられたことを示しています。木津川の旧河道が青色の横縞で表示されています。かつての木津川と新しい宇治川がほぼ直角に交差しており、地形が大きく改造されたことがわかります。右側の図では、右上の宇治川の旧川筋は埋め立てられて宅地になっています。
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。5mから5m刻みで色を変えています。この地域は、大半が10m~15mの薄い水色ですが、淀城の石垣の内側と、宇治川と桂川の堤防、桂川の北側の淀水垂町の造成地に、黄緑や黄色が見られます。地図の中央「+」印のところが淀小橋があった位置です。
今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「淀小橋」をご紹介しました。
〇大阪くらしの今昔館は、4月10日(土)からは、「夏祭りの飾り」の展示になっています。
⇒http://konjyakukan.com/edo_1.html
〇次回の企画展は「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる」
令和3年4月17日(土)~6月13日(日)
大阪くらしの今昔館では現代日本画家の個展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ」を開催します。
日本の絵画は住まいの中で、座敷における「しつらい」として親しまれてきました。中でも四季の彩りを表す花鳥画は古くから愛好され、現代においても人気のある画題のひとつです。
重岡良子氏は自然の中に身を置いて花や鳥などの動植物を写生し、その心を50年にわたって描き表してきました。また、京都で培われた「琳派」に着想を得て「IMA琳派」として装飾性を持たせた作品も発表されています。今回は屏風を中心に代表的な作品を披露します。
春から初夏にかけて草木が青々とするこの時期に、日本画のもつ繊細かつ優美な色彩の織り成す世界をご堪能ください。
【インタビュー動画】重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ
こちらからどうぞ⇒https://www.youtube.com/watch?v=KJRYeH5yqWk
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています
ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
⇒http://konjyakukan.com/shop.html
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
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今昔マップより淀小橋付近 |
今昔マップより淀小橋付近 |
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。5mから5m刻みで色を変えています。この地域は、大半が10m~15mの薄い水色ですが、淀城の石垣の内側と、宇治川と桂川の堤防、桂川の北側の淀水垂町の造成地に、黄緑や黄色が見られます。地図の中央「+」印のところが淀小橋があった位置です。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「淀小橋」をご紹介しました。
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〇次回の企画展は「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる」
令和3年4月17日(土)~6月13日(日)
大阪くらしの今昔館では現代日本画家の個展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ」を開催します。
日本の絵画は住まいの中で、座敷における「しつらい」として親しまれてきました。中でも四季の彩りを表す花鳥画は古くから愛好され、現代においても人気のある画題のひとつです。
重岡良子氏は自然の中に身を置いて花や鳥などの動植物を写生し、その心を50年にわたって描き表してきました。また、京都で培われた「琳派」に着想を得て「IMA琳派」として装飾性を持たせた作品も発表されています。今回は屏風を中心に代表的な作品を披露します。
春から初夏にかけて草木が青々とするこの時期に、日本画のもつ繊細かつ優美な色彩の織り成す世界をご堪能ください。
【インタビュー動画】重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ
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喜雨滴る |
あお麦風々 |
桜東風 |
朝露涼夏 |
ランプシェード |
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
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ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
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〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
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〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
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「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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