大阪くらしの今昔館は、展示替えのための臨時休館が終わり、9月18日から開館していますが、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されています。前回に引き続き近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」の見どころをご紹介します。
下の地図は大阪市パノラマ地図の大阪城の部分です。天守台の石垣はありますが、天守閣はありません。
パノラマ地図に描かれている天守台は江戸期の徳川天守のもので、この天守台の上に豊臣期の天守を模した昭和復興天守閣が昭和6年に再建されました。
江戸時代の古地図を見ると、浪華名所獨案内では、櫓が多数描かれていますが、天守はなく、「御城」の文字があります。「京ハシ口」「追手口」「玉造口」の記載もあります。
天保新改攝州大阪全圖では、城の中は白地になっており、「御城」の記載があるだけです。堀には「京ハシ口」「追手口」「玉造口」に加えて「青屋口」の表示があり、青屋口のそばには「御蔵」の文字が見えます。御城の文字は左を上にして横向きになっています。追手口が正門ということでしょうか。
浪華名所獨案内の大坂城付近(上が東) |
天保新改攝州大阪全圖(天保8(1837)年発行)の大坂城付近 |
上町台地は大阪のルーツともいえるところで、かつては、上町半島という形でせり出し、西は大阪湾、東は河内湖となっていました。半島の先端部には古代には難波の宮がありました。同じ場所に中世には大坂本願寺(石山御坊)が立地、織田信長はこの地に関心を持ち、信長公記にも「抑々大坂は凡そ日本一の境地なり。」と記されています。本願寺戦争(石山合戦)と呼ばれる10年に及ぶ攻防ののち、本願寺は撤退しました。しかしその後、本能寺の変によって信長は亡くなり、後継者の豊臣秀吉が大坂城を築城しました。
豊臣大坂城の天守は、地図で貯水池となっている場所にありましたが、大坂夏の陣の後、徳川氏の盛り土によって地中に埋められました。
徳川氏による大坂城修築工事は3期にわたる工事を経て1629年(寛永6年)に完成しました。その後1665年(寛文5年)には落雷によって天守を焼失し、以後は天守を持たない城となりました。
現在の天守閣は、豊臣時代の大坂城をモデルにした鉄筋コンクリート造の建築で、徳川大坂城の天守台の上に昭和6(1931)年に再建されたものです。パノラマ地図の発行の7年後に再建されたことになります。いわば、ハイブリッドな天守と言えます。
大大阪記念博覧会の際に天守台の上に築かれた「豊公館」というパビリオンが人気があったこともあり、大正時代に城周辺の公園整備計画が持ち上がり、1928年(昭和3年)、当時の關一(せきはじめ)大阪市長が天守再建を含む大阪城公園整備事業を提案し、昭和天皇の即位記念事業として整備が進められました。集められた市民の募金150万円によって陸軍第4師団司令部庁舎と天守閣の建設がすすめられました。天守閣の基本設計は波江悌夫が行い、大林組の施工で、再建工事は1930年(昭和5年)に始まり、翌年完成しました。
大大阪観光地図大阪城 昭和6年(1931)大阪城天守閣竣工 |
当時お城の周辺はほとんど軍の施設で、市民の入れないところでしたが、天守閣の再建と合わせて、大阪城公園として市民に開放されるようになりました。同時に師団司令部も建て替えられましたが、天守閣の復興に47万円、公園の整備に26万円を要したということですから、市民の募金150万円の半額以上が師団司令部の新築に充てられたことになります。
パノラマ地図中の師団司令部となっている木造の建物は、明治18(1885)年に和歌山城から移築された紀州御殿で、司令部庁舎として利用されていました。師団司令部の建て替え後は天臨閣と改称され、戦災には生き残りましたが、昭和22(1947)年、米軍の失火により焼失しました。残っていれば重要文化財級の建築物であったと思われ、残念なことです。
現在、初代豊臣期大坂城の石垣を掘り起こして公開する「豊臣石垣公開プロジェクト」が進められています。募金(ふるさと納税)の方もよろしくお願いいたします。
昭和6年建設の師団司令部庁舎は、戦後、米軍に接収されたのち、大阪市警視庁、市立博物館などとして活用されていましたが、平成13(2001)年の大阪歴史博物館の開館に合わせて閉鎖されていました。大阪城公園は、平成27(2015)年4月1日より「大阪城パークマネジメント株式会社」の管理に移行し、師団司令部庁舎も改修の上で再生されることになり、平成29(2017)年にミライザ大阪城として開館、レストラン等の複合施設として使用されています。
明治41年、昭和4年、昭和22年地形図、最近の航空写真の大阪城付近 |
大阪市パノラマ地図を見ながら、「昔は何があったのかな?」「今はどうなっているのかな?」と考えを廻らしてみるのも面白いと思います。
大阪くらしの今昔館近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」 |
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【住まいのミュージアム20周年記念事業】
「大阪くらしの今昔館」のバトンを繋ぐ
「大阪市立住まいのミュージアム」は、大阪の住まいや暮らしの歴史を再現・発信する体験型ミュージアムとして2001年4月に開館し、本年4月に20周年を迎え、これまで延べ540万人を超える方々にご来館いただきました。
このたびの20周年を記念し、開館から本年3月まで館長を務めた谷直樹先生と、本年4月に館長に就任した増井正哉館長による新旧館長の講演と対談が開催されます。
■日 時:令和3年10月23日(土)13:00~15:20(開場12:30~)
■場 所:大阪市立住まい情報センター3階ホール
■定 員:150名(定員を超えた場合は抽選)
※今後の新型コロナウィルス感染症の状況により定員の変更やシンポジウムを中止する場合があります。
■参加費:無料
■主 催:大阪市/大阪市立住まい情報センター
詳しくは、こちらから。
https://www.osaka-angenet.jp/event/117
申し込みは、こちらから。
https://www.osaka-angenet.jp/event/117/entry
〇企画展「商都慕情Ⅱ‐水のまち大阪を巡る -」開催中です
令和3年9月18日(土)~11月14日(日)
江戸時代、淀川は京都と大坂をつなぐ動脈として、人や物資が往来し、絵画にもよく描かれました。とくに、円山応挙が京都伏見から大坂天満橋までの両岸の光景を描いた絵巻がよく知られています※。この絵巻から昭和初期に大阪の絵師が6つの場面を模写していました。それが庭山耕園とその門人らによる「淀川両岸帖」です。当館はこの作品を2020年に新収蔵しました。収蔵後、本展が初公開となります。
大坂の市中には堀川が網目のように張り巡らされ、八百八橋と称されました。橋上や舟の上は町民にとって夕涼みや花火見物を楽しむ憩いの場でした。天神祭の船渡御の舞台も大川です。その熱気は江戸の浮世絵師歌川貞秀の錦絵にも描かれています。また、道頓堀の芝居をかける際に、役者が船に乗って市中を巡る「船乗込」も川筋で華やかに行われました。商いの流通や暮らし、そして文化が水とともにあった大坂。本展では大阪くらしの今昔館所蔵の絵画や錦絵を用いて、水都とよばれた大坂の情景を想起します。
※「淀川両岸図巻」公益財団法人アルカンシエール美術財団蔵(本展の出品はございません)
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
閉館日 :火曜日
会 場:大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)企画展示室
入館料 :(8階常設展示室の入場料を含む)
一般400円(団体300円)
高校生・大学生300円(団体200円)(要学生証提示)
(注)団体は20名以上
大阪周遊パスでもご入場いただけます。
中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料です。(要証明書提示)
【町家と茶室の展示】
企画展示室内には、江戸時代における大坂の商家座敷の再現や、重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵」の構造模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)など実物大の模型を設置し、2種の建築から住まいと暮らしの様相をお見せします。
淀川両岸帖(部分)庭山耕園他 |
よど川のすずみ船 菅 楯彦 |
浪速天満祭 歌川貞秀 |
『滑稽浪花名所』のうち ざこば魚市 芳豊 |
〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ
大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
天井改修工事の実施に伴い、9月18日より令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。
・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
一般 400円 団体(20名以上)300円
高・大生 300円 団体(20名以上)200円 *要学生証提示
【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。
【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えました。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。
イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。
開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。
〇大阪くらしの今昔館を紹介する動画作成プロジェクトが「2021年度都市住宅学会賞・業績賞」を受賞しました
受賞対象は「歴史博物館から発信する大阪の町家と住文化の魅力-子ども・若者・外国人に町家と住文化を理解してもらうための動画制作プロジェクト-」です。
この動画制作プロジェクトは、2018年度に申請者らからなる博物館住まい学習研究会が「建築技術教育普及センター」の助成を受け、大阪くらしの今昔館の9階常設展示「商家の賑わい」で撮影・編集し、2019年3月に完成しました。ドイツ人留学生のザビ-ネさんがナビゲートし、今昔館ボランティア「町家衆」の皆さんが江戸時代の住民に扮して出演しています。その後、2019年7月からYouTubeで配信しました。
大阪くらしの今昔館を紹介する学習ビデオは、「なにわの町並み」、「町家の商い」、「町家のくらしとおもてなし」、「裏長屋のくらし」の4編(それぞれ日本語字幕版と英語字幕版)で構成されています。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
0 件のコメント:
コメントを投稿