大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室(江戸時代のフロア)および10階展望フロアが閉鎖されています。8階展示室(近代のフロア)にある「住まいの大阪六景」の4つ目は、「空堀通 -商店街・路地・長屋-」をご紹介します。この模型は、昭和13年(1938)8月、地蔵盆の日の昼下がりを再現しました。
空堀通 -商店街・路地・長屋-(住まいの大阪六景) |
大阪市中央区空堀地区は、戦災を免れた地域で古くからの町家や長屋が多く残っています。空堀という地名は、空の堀=水の溜まっていない堀からきているといわれ、豊臣大坂城の南総構堀があったところと言われています。上町台地の上に位置しており、大坂城の一番の弱点と言われる南面に防御のための堀が掘られましたが、水を溜めることはできませんでした。水のない堀=空堀です。
江戸時代にはこのあたりは瓦を造る土を採っていたところで、江戸中期頃から市街化し、明治時代には商店街になっていました。瓦の土取場の跡地とあって、掘り下げられた土地に長屋が建てられていて、思いがけない高低差にびっくりさせられます。大河ドラマ「真田丸」が放映された影響もあって、現在注目されているエリアのひとつです。
この模型は、空堀通と善安筋が交差する辺りを切りとって製作しました。写真の左が北です。現地での実測調査や聞き取り調査、そして資料調査(古写真や航空写真、文献調査)を行い、昭和13年(1938)8月の地蔵盆の日という設定をしました。町並みだけでなく、人々の暮らしや生業を詳細に再現しています。
昭和23年 米軍の撮影による航空写真の空堀地域 (国土地理院HPより) |
上の写真左側の川は東横堀で、その東(右)側の大通りが松屋町筋です。松屋町筋の東側、上町筋との間の黒っぽい屋根がびっしりと写っているところが戦災を免れたエリアです。長堀通の北にある榎大明神のえんじゅ(槐)の大樹が、炎を食い止めたことによって、奇跡的に延焼を免れたとも言われています。
ちなみに、槐は中国原産のマメ科の落葉性の樹木です。日本には仏教が伝わった頃に、槐も伝わったと言われています。大気汚染に強いため、街路樹として見かけることができます。また、建築材としても使われることもあります。開花期が過ぎると数珠のような実をつけます。
「近代都市住宅年表」の下の段には各時代の代表的な住宅の立面図が同じスケールで描かれており、空堀の表長屋もあります。模型制作に使われた立面図で、空堀通りに面して角地に建っている表長屋です。
南から見た空堀通りの模型の写真です。左上が立面図の表長屋になります。手前の表長屋の裏側に、物干台がずらりと並ぶのが圧巻です。
左手前から2軒目が立面図の表長屋で、角地に建ち隅切りがあります。空堀の通りは煉瓦舗装が施され、往来には自家用車(トヨダA4型・昭和11年製)や人力車、大八車、自転車が往来しています。しゃれた街頭は「すずらん灯」と呼ばれていました。表を掃く人、水撒きの人、通行人、そして、八木歯科医院の前で駄々をこねている子どもなどがいます。手前の町家は、断面模型になっているので、室内の様子がよくわかります。
看板は変わっていますが、現在も残る「ぜにや」ふとん店。
善安筋の坂の突当りは寄席の喜楽亭。冒頭に野漠が出てくる「らくだ」や高津神社が出てくる「高津の富」などが演じられました。この建物は屋根が入母屋造りで越屋根がついた立派なものでした。
表通から見ると2階建てですが、裏側は地下2階まであります。
そして、裏長屋の路次には、行水の子どもや洗濯するおばさんがいます。
旧暦7月24日、昭和初期には夏休みが終わる前の8月24日に地蔵盆がありました。子どもたちが大きな数珠を囲んで座り、お坊さんの読経にあわせて順々に回す、数珠回しの風景です。その後、お供物のおさがりをみんなでいただくのが楽しみでした。提灯は町内のおじさんの手作り。
それでは、江戸時代の空堀周辺の町の様子を、幕末に刊行された「浪華名所獨案内」(「津の清」蔵、今昔館9階にパネル展示しています。)で見てみましょう。
安堂寺橋から東に向かう道に「ナライセ道」とあり、玉造町家の南に「二ケン茶ヤ(二軒茶屋)」とあります。暗峠奈良街道にあたります。東横堀と長堀が交差するところに「銅吹屋」(住友家)があり、その東側一帯が空堀にあたります。「ノバク」「髙ハラ」「コノ辺桃谷ト云」の文字があります。
「浪華名所獨案内」の空堀付近(「津の清」蔵) |
天保8年(1837)刊行の「天保新改攝州大坂全圖」(国際日本文化研究センター蔵)を見ると、道路の様子も詳しく描かれ、御城代屋敷や御太鼓坊、御蔵があります。「清水谷屋敷ト云」という文字や、真田山、真田山イナリもあります。その西側、東横堀に架かる安堂寺橋、末吉橋、九ノ介橋との間が現在の空堀にあたります。このあたりには、同心の屋敷のほか、「■印十一ケ所 字瓦土取場」があります。 大坂城南総構堀の跡地周辺が、瓦土の取場となり、土を取った後に長屋が建てられていることがわかります。
「天保新改攝州大坂全圖」の空堀付近 (天保8年、日文研蔵) |
つぎに、8階フロアの中央にある「大阪市パノラマ地図」で、当時の様子を見てみましょう。鳥瞰図ですので左上が北になります。
東西の通り(現在の長堀通と千日前通)には市電が通っています。南北の通りは谷町筋を北から六丁目まで、上町筋を上本町2丁目から南へ市電が通っています。空堀のあたりは、谷町筋の拡幅前で市電は上町筋に迂回し、住宅と寺院がびっしりと建っています。南側には、高津神社、生魂神社も描かれています。
「大阪市パノラマ地図」の空堀付近 (大正13年、大阪くらしの今昔館蔵) |
最後に、今昔マップ3を使って、空堀付近の変遷を見てみましょう。
左上は明治41年、江戸時代の町割がほぼそのまま残っています。右上は昭和4年、長堀通と谷町筋、上町筋に市電が通り、道路が拡幅されています。長堀通よりも南の谷町筋は未拡幅です。左下は昭和22年、空堀から安堂寺町周辺のみが戦災を免れた様子がよくわかります。右下は、現在の国土地理院地図です。谷町筋が拡幅されました。地下鉄谷町線と長堀鶴見緑地線が通っています。
明治41年・昭和4年・昭和22年の地形図、最近の国土地理院地図の 空堀付近(今昔マップ3) |
都心部にありながら奇跡的に戦災を免れ、今なお戦前の佇まいを残すまちが空堀です。長屋や町家、坂道や石畳の路地など、表情は豊かで人と人とのつながりが残っています。地元の空堀まちなみ井戸端会の皆さんは、平成16年度からHOPEゾーン事業を活用し、「お地蔵さんが見守るつながりを生かすまちなみ」をテーマに、地域資源の掘り起こしや情報発信、建物の修復整備など、空堀の特性を活かしたまちなみづくりに取り組んでおられます。
〇企画展「漆造形の旗手 栗本夏樹の世界」開催中です
2022年4月16日(土)〜2022年7月3日(日)
天然の塗料である漆は、古くから日用品や調度、建築装飾などに多用され、その独特な美観でもって、日本の伝統的な住まいやくらしの中に彩りを添えてきました。大阪出身の造形作家である栗本夏樹は、日本人の生活文化と密接に関わってきた漆という素材を、新たな生命を吹き込む神聖な存在と捉え、現代の生活空間を飾る様々な作品へと昇華してきました。栗本が漆を塗る対象は流木や樹皮、石などの自然物をはじめ、使用されなくなった紙管や自動車のボンネットなどの人工物にも及びます。1994年には大阪南港にあるアジア太平洋トレードセンターで行われたモニュメント制作の指名コンペティションに参加。この時に選出された“アジアの中の私”は、1996年のおおさかパブリックアート賞を受賞し、これを機にその活躍の場は公的な空間に置かれる造形物にまで広がりました。
本展では立体、平面、器物を中心とした栗本の過去から現在に至るまでの代表的な作品を一堂に集め、栗本が取り入れてきた表現の移り変わりを概観することができます。長い歴史の中で育まれてきた伝統的な美を継承しつつも、新たな発見に満ちた漆造形の世界をご覧ください。
◇ギャラリートーク◇
4/23(土:終了しました)・5/28(土)・ 6/25(土)
/8階企画展示室にて14時から約1時間(申込不要)
※入館チケットが必要です
※状況により人数制限をする場合があります
〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ
大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。
・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
一般 400円 団体(20名以上)300円
高・大生 300円 団体(20名以上)200円 *要学生証提示
【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。
【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。
イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。
開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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