2019年5月15日水曜日

今週の今昔館(163) 浪華三大橋 20190515

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(2)

 暁鐘成が著した大坂名所案内記「浪華の賑ひ」は浪華三大橋から始まります。
 初編の跋に「原来(もとより)其行方(ゆくて)の順路をつづりて一巻となしぬれど、行程許多(そこばく)なれば一日には歩行かたし。されば高麗橋より始め天満・川崎および桜の宮・網島・御城の辺りに至れば一日の遊覧事たるべし。」とありましたが、高麗橋の前に、難波三大橋の絵が2枚あります。1枚目に「浪花江や橋と舟とに月いくつ 翠鶯」の句が記されています。まずは、全体を俯瞰してみようということでしょうか。

浪華の賑ひ「浪華三大橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
浪華の賑ひ「浪華三大橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 この2枚は並べるとパノラマになっています。

浪華の賑ひ「浪華三大橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 画面手前を大川が流れ、左手から順に天満橋、天神橋、難波橋が描かれています。難波橋の右手に中之島が描かれ、堂島川と土佐堀川に分かれます。土佐堀川には、栴檀木橋(せんだんのきばし)が架かっています。
 天満橋と天神橋の間には、八軒屋が描かれ、背景には大坂城が詳細に描かれています。櫓が多数あった様子がよくわかります。さらに背景には生駒山が描かれています。
 天神橋と難波橋の間で、東横堀が分かれ、いくつかの橋が架かっています。手前から、葭屋橋、今橋、高麗橋、平野橋、思案橋です。
 船場や内町の町家が描かれていますが、詳しく見て見ると、大坂城の右手には釣鐘屋敷があります。高麗橋の西詰には矢倉屋敷が描かれています。

 細部まで詳細に具体的に描かれている点が「浪華の賑ひ」の特徴と言えそうです。

 難波三大橋は浪花百景にも描かれています。

浪花百景「三大橋」(大阪市立図書館蔵)

 大川に架かる橋は手前から、難波橋、天神橋、天満橋。現在の中之島の御堂筋上空あたりから東南の方向を臨む風景です。水の都と呼ばれていただけに、町を縦横に走る川や堀には数多くの橋が架けられていました。その中でも整然と3つ並んだ橋の光景は美しかったに違いなく、「浪華三大橋」と称されました。大坂城の櫓や四辺の青松を含めたこれらの橋の眺望が人々に愛されていました。江戸時代に大和川が付け替えられ、明治後期に新淀川が開削されるまで、大川は旧淀川と大和川の二大河川が流入する文字通り最大の川で、川幅が広く水量も多く架橋は困難でした。

 秀吉の大坂城築城に伴い、まず天満橋が架けられ、江戸時代初期には三大橋が出そろいました。いずれも公儀橋として幕府が維持管理を担いました。三大橋は大坂を政治的、経済的に支えるのみならず、庶民の遊興、娯楽がこれらの橋を中心に生み出されました。大坂城越しに生駒山から昇る朝日が町の繁栄を象徴しています。

 いま、「難波橋」は親柱の上のライオン像から「ライオン橋」と呼ばれ、そして、「天神橋」は流麗なアーチを持ち公園周辺の風景に溶け込んでいます。「天満橋」は後に出来た高架橋により“重ね橋”としての風景を生み出しました。風景は大きく変わりましたが、これら浪華の三大橋は今もその重要な役割に変わりはありません。

 同じ三大橋を描いても、浪花百景では、「浪華の賑ひ」の左3枚をぐっと圧縮して縦長の構図としています。朝日や鳥が大きく描かれ、難波橋には武士の一団の行列が描かれています。アート的・イラスト的・トピック的な表現となっていることがわかります。

 暁鐘成が描いている、幕末・大坂の観光ガイドマップ「浪華名所獨案内」の難波三大橋付近を見てみましょう。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天神橋は現在と同じ位置に架かっていますが、天満橋は現在よりも一筋東の天満橋筋に、難波橋は現在よりも一筋西の難波橋筋に架かっていました。

 大正3年の地図を見ると、新旧2つの難波橋が架かっています。新しい橋には「大川橋」の名前がついています。市電敷設に伴う道路拡幅の際に、一筋東の堺筋が拡幅されて新しい橋が架けられました。旧難波橋の撤去後に、大川橋から難波橋に改称されました。
 天満橋は、現在の谷町筋に架け替えられた後の姿が描かれています。市電は橋の東側の別の橋を走っています。北岸の一筋東に「天満橋筋」の地名がありますが、かつては、この筋に「天満橋」が架かっていました。

大阪市内詳細図(大正3年)
(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見てみましょう。天満橋と天神橋は現在とは異なりトラスの鉄橋が架かっていました。橋名の入った額が、それぞれの橋の北詰と大阪天満宮の星合池のほとりに保存されています。

大阪市パノラマ地図(大正13年)
(国際日本文化研究センター蔵)

 トラスの鉄橋時代の天満橋・天神橋の橋名の入った額と、現在の天満橋・天神橋・難波橋です。


 今回は、「浪華の賑ひ」の「難波三大橋」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、「難波三大橋」を確かめてください。


〇企画展「おかげさまで第6回 吉例 昭和レトロ家電 ―マスダコレクション展―」開催中。5月26日(日)まで。

 大阪くらしの今昔館で好評を博してきました昭和レトロ家電の展覧会が、今年も開催となりました。

 本展では、家電コレクターである増田健一氏が20年以上にわたって収集したコレクションの中から、魅力あふれるレトロ家電を選りすぐり、販売当時の懐かしいポスターやチラシ等と共に展示します。どうぞお楽しみに。

(松下)大阪万博記念トランジスタラジオ
「パナペット70」
昭和45年
(三洋)アート・ドア冷蔵庫「金馬車」
昭和44年


〇今週のイベント・ワークショップ

5月15日(水)~18日(土)、20日(月)、22日(水)~25日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

5月19日(日)、26日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



5月19日(日)
町家衆イベント 連鶴(有料)

折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
    14:30~中級者以上向け



町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00


町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00


イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付にてお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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