今回は「浪華の賑ひ」の「一方楼」と「大津湯」をご紹介します。
■一方楼
この家は難波村中の東にあり。江南随一の大貨食家(りょうりや)にして、宴席広く美を尽し庭前の林泉風流なり。さる程に諸祝儀の振舞、楼内の参会数百人の集客をも引き受けて饗応(もてなす)こと他の小料理屋の及ぶ処にあらず。さればとて一両輩の遊客たりともその饗応程よくして歓楽せしむるは、流石(さすが)練磨の功といふべし。
もとより座敷料理むき、万寛濶(よろずかんかつ)にして苛(こせ)つかず。僅かの杯を傾くるにも花街(くるわ)に譬ふれば揚屋・大青楼(おほちやや)等に遊ぶ心ぞせらる。
浪華の賑ひ「一方楼」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
■大津湯
この所は薬湯の養生所にして、温泉にはあらずといへども、その効能多しとして湯治する人間断なく、居間をかりて飲食をなし音曲を楽しむもの多(さは)なり。
されば諷ふあり、舞ふあり、鼓(う)つあり、弾くあり、踊るありて、その賑はしきこと他邦の温泉湯治所にはかかる賑はいは聞くも及ばず。
げにやかかる湯治に養生せば、お医者さんでも有馬の湯でも治り難きと言ひ伝ふ惚れた病も早速に平癒しなんと思ひやらる。
浪華の賑ひ「大津湯」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
天保年間発行の浪華名所獨案内を見ると、今宮村のすぐ北側(左)に「戎社」があり、さらに北に「廣田」とあるのが廣田神社、その北に「御蔵」とあるのが難波御蔵で、道頓堀川から入堀が通じています。
江戸時代の大坂は幕府の直轄地でしたが、江戸と異なり大半が町人地で武家地は少なく、武家地は奉行所、城代屋敷、蔵、与力・同心の住まいなどに限られていました。数少ない武家地のうちのひとつ「難波御蔵」は、享保の大飢饉を機に享保17(1732)年に新たに設置され、翌年に道頓堀川と難波御蔵を結ぶ難波入堀川が開削されました。
難波御蔵の西側(下)に「仙一方」と「大津湯」の文字が見えます。戎神社と瑞龍寺を結ぶ道路に面して、仙一方と大津湯が並んで位置しており、モデルルートにもなっています。大阪府立図書館のライブラリーに「難波料亭仙一方引札」という資料があります。引札(ひきふだ)とは、現在の広告チラシやポスターに相当するものです。一方楼は仙一方とも呼ばれていたようです。
浪華名所獨案内の難波付近(上が東)(「津の清」蔵) |
難波料亭仙一方引札(大阪府立中之島図書館蔵) |
天保8年発行天保新改攝州大阪全圖の難波付近を見ると、道頓堀川から難波入堀が引かれ、その先に難波御蔵と新御蔵があります。入堀の西に瑞龍寺があり(赤い丸印)、その南には祇園社(八坂神社)があります。また、難波御蔵の南東には戎神社と廣田明神(赤い丸印)があります。
浪華名所獨案内によると、戎神社と瑞龍寺を結ぶ道路に面して一方楼と大津湯があったようですが、こちらの地図には両者の記載は見当たりません。
天保8年発行天保新改攝州大阪全圖の難波付近(上が北) (国際日本文化研究センター蔵) |
大正13年発行の大阪市パノラマ地図の難波付近を見てみましょう。右下の緑の印が今宮戎、左上の緑の印は瑞龍寺です。一方楼と大津湯はこれらの間の難波堀川より西側にあったものと思われます。難波病院や、市電の大黒社前、八坂社前の停留所のある辺りでしょうか。江戸時代に難波御蔵のあったところは、煙草専売局になっています。
大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵) |
難波御蔵の跡地には、明治37(1904)年にたばこ製造が専売となった際に、煙草専売局工場が建設されました。戦災により壊滅した後に、昭和25(1950)年には大阪スタヂアム(大阪球場)が完成し、プロ野球の南海ホークスが本拠地としていました。福岡ダイエーホークスとなった1988年以降は住宅展示場などとして利用され、1998年に解体されました。現在は、再開発されてなんばパークスとして利用されています。江戸時代の武家地が、様々に用途転用され利用されてきた典型例と言えます。
今昔マップ3を使って、地形図の変遷をたどってみます。
左上は明治42年、南海線が轢かれ、難波駅の北まで市電が来ていますが、それ以外は江戸時代の町割りが残っています。新川の文字が見えます。右上は昭和7年、煙草専売支局、鉄眼寺の文字が見えます。浪速区役所もあります。市電のネットワークが出来上がっています。左下は昭和22年、白い部分は戦災により焼失した地域で、大きな被害があったことがわかります。右下は昭和42年、大阪球場の文字が見え、高島屋百貨店があります。市電はすべて廃止されています。また、難波入堀が埋め立てられその上を阪神高速道路が通っています。
一方楼と大津湯があったのは、浪速区役所から大黒社前停留所にかけての辺りでしょうか。現在の大阪メトロの大国町駅の付近と推定されます。
明治42年から昭和42年の地形図(今昔マップ3) |
一方楼と大津湯があったと思われる大国町付近には、現在も大国主神社と難波八坂神社があります。現状を写真で見てみましょう。
大国主神社 |
敷津松之宮 |
大国主神社(正面)と松之宮(右) |
大国社(左)と氏神社(松之宮)(右) |
難波八坂神社 |
八坂神社拝殿 |
八坂神社舞台 |
八坂神社拝殿と難波葱の碑 |
今回は、「浪華の賑ひ」の「一方楼」と「大津湯」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
〇特別展「世界遺産をつくった大工棟梁―中井大和守の建築絵図細見」関連イベント
講演会「大修理‼建築絵図ビフォーアフター 文化財をよみがえらせる日本の修理技術」
講師:坂田雅之氏・坂田さとこ氏(坂田墨珠堂)
谷直樹(大阪くらしの今昔館館長)
日時:令和2年3月7日(土)13:00~15:00(12:30開場)
定員:150名(定員に達し次第締め切ります)
申込期間:令和2年1月25(土)~3月3日(火)
場所:大阪市立住まい情報センター 3階ホール
参加費:300円
申し込みはこちらからどうぞ。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33694
〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」開催中です
2020年2月14日(金)まで
みどころ
・大坂の屋敷の台所を模して特注で制作された特大のミニチュア台所
・当時の家庭雑誌「暮しの手帖」を生活道具とともに紹介
・ダイヤル式電話機など、触って昔の道具を体験できるコーナー
調理と食事、衣類の手入れ、住まいを整えるなど、家事は今も昔も家庭内で日々行われています。生活に使われる道具は、高度経済成長期に電化製品が普及し、より便利に効率的な生活となるように改良されていきました。現代においてはあえて自動化せずに、鍋でご飯を炊くなど手間ひまをかけて生活を楽しむ「ていねいな暮らし」という言葉も生まれ、それぞれの家庭の暮らし方は多様になりました。
昔の暮らしは、どのようなものだったのでしょうか。電気・ガス・水道の整備や生活道具の変化だけでなく、家族の形態や家庭の機能も大きく変化しています。例えば、職住が一致していた時代には、従業員も住み込みで家族とともに暮らすため、大きな台所にたくさんの食器が必要でした。また、来客に備えて住まいには座敷や客間を設けており、膳や座布団なども多数そろえておくことが当たり前でした。しかし、そういったふだんの暮らしというのは記録に残りにくいものです。その一端を、大阪くらしの今昔館が所蔵する生活道具を展示することを通して紹介します。商業都市として栄えた大阪で育まれた豊かな生活文化までをのぞいてみませんか。
旧八代敏所蔵雛飾り台所ミニチュア(部分) |
吸物椀 |
暮しの手帖 |
電話(さわってみよう) |
〇今週のイベント・ワークショップ
今昔館は毎週火曜日が休館日ですが、2月11日(火・祝)は開館しています。
カレンダーは、こちらです。
≫ http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202002
2月5日(水)~8日(土)、10日(月)、12日(水)~15日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。
2月9日(日)、11日(祝)、16日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
2月5日(水)
イベント 町家寄席-講談
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、講談をきいてみませんか
出演:旭堂南左衛門、旭堂南山、旭堂南雲
14時~15時
2月8日(土)
ワークショップ『木版画はがきを作ろう』
13時30分~15時
参加費:200円
2月9日(日)
町家衆イベント 上方ことば塾
14時30分~15時
町家衆イベント おじゃみ(有料)
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00
2月15日(土)
町家衆イベント 折り紙(有料)
季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00
2月16日(日)
町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00
町家衆イベント 紙芝居
昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
時 間:11時~12時
イベント 町家でお茶会
町家の座敷でお抹茶とお菓子をお召し上がり頂けます
協力:大阪市役所茶道部
当日先着50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
13時~15時
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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