2021年2月11日木曜日

今週の今昔館(253) 四条橋 20210211

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(32)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「四条橋」をご紹介します。


■四条橋
 鴨川に架かる橋として三条、五条と並んで古い歴史を持つ四条橋は、祇園社への参詣道として、氏子勧進募金で架けられた私橋(町橋)です。一方、前の二橋は公儀橋ですので、性格が異なります。幕府が管理する公儀橋は、洪水で流されたり、災害で破損しても幕府が費用を賄いますが、私橋では橋の両側に住む人々が負担をしなければなりませんでした。
 四条橋は、永治2年(1142)の架橋以降たびたび流失し、修復を繰り返しました。長らく仮橋しか架けられなかった時期もありました。明治初期には通行料を徴収した時期もあり、「ぜにとり橋」とも呼ばれました。

淀川両岸一覧下船之巻「四条橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 実際に、江戸中期に刊行された「都名所図会」の「四条河原夕涼之躰」には、中洲を挟んで枝分かれした川筋のそれぞれに小橋が渡され、大橋の姿は見当たりません。

都名所図会「四条河原夕涼之躰」
(国際日本文化研究センターデータベース)

 「淀川両岸一覧」の絵は四条大橋を南西の方角から眺めたものです。これをみると、仮橋ではなく大橋の様子が描かれています。「淀川両岸一覧」が出版される4年前の安政4年(1857)に、仮橋から架け替えられていたのです。

 四条河原の納涼は江戸時代から京都の名物で、両岸には納涼床が設置され、河原には床机がぎっしり並びました。
 橋の東詰にのぼりが林立し、ひときわ大きな屋根が見えるのが南座で、年末の1か月は歌舞伎の顔見世興行が行われ名優が競演し、人気を呼びました。

 絵の上部、左側の賛は次の発句です。

 顔みせや 川かみはまだ 千鳥の夜 霞川

 この句は夜を通して顔見世興行で賑わう四条、祇園界隈に比べて、上流に架かる三条大橋などはひっそりとしている様子を吟じています。

 一方、右側に掲げられた賛は次の和歌です。

 神ぞのの かみの御幸の 大御はし ふたたびかかる 美代に逢ふかな 瓢翁

 ここにある「神」とは祇園社にお祀りする牛頭天王すなわち素戔嗚尊のこと。四条大橋はこの産土神と氏子とをつなぐ役目を担っていました。この歌は、立派な橋が架けられていた往時に匹敵するような新しい橋が完成したことを祝っています。詠者の瓢翁は、「淀川両岸一覧」の序文を記した平塚瓢斎です。幕末の京都において、芝居興行による町の繁栄と人々の信心とが結びつくことで成就した四条大橋の完成は、人々の注目を引くトピックだったのです。

 絵をよく見ると、橋の左側(上流側)に交差させた木の杭が川中に打ち込まれています。これは上流から流される流木や石によって橋が傷つけられないようにするための防護杭です。

 「淀川両岸一覧」の本文は、三条橋の次は五条橋で、四条橋の解説は省略されています。



 付近の様子を地形図で見てみましょう。
 まず、最も古い測量図である明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)を見てみます。地図の中央が四条橋ですが、橋の付近の四条通は拡幅前の道幅で、江戸時代の町割りがそのまま残っています。四条通の東の突き当りは八坂神社ですが、この地図には表示がありません。図の右端から鴨川に向かって流れる川は「白川」です。仮製地図ということもあってか、記載されている文字が少なく、「建仁寺」だけは大きく表示されています。その他の表示は「下京」と、「高臺寺」、橋の東側に「38.91」の標高が記されている程度です。


明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵

 2枚目は、今昔マップを利用して四条橋付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 左側の明治42年の地形図では、四条通、河原町通には変化がありませんが、木屋町通に市電が走っていることがわかります。最新の地理院地図では、多数の寺院の記号が目に付きます。黄色の道路は府道を示しています。


今昔マップより四条橋付近

 3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。標高15mから5m刻みで色を変えています。
 四条大橋付近の標高は約40m、橋の南側には35m以下の黄色が少し見えています。


地理院地図+自分で作る色別標高図

 次回以降も、伏見までの間、同じ配色を使って京都の地形を見ていきたいと思います。四条橋付近の標高は約40m、伏見の中書島付近は約15mと約25mの標高差があります。京都盆地の中も平らではなく、ひな壇状に北側が高くなっています。東山・西山と盆地の間には橙色・黄色・黄緑・水色の部分が少なく、両方の山が東西にそそり立っている様子がわかります。東山の南の突端部にある伏見城は、戦略上も重要な位置を占めていることに気が付きます。

地理院地図+自分で作る色別標高図

 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「四条橋」をご紹介しました。下り船の巻では、船から見て右手、淀川右岸の風景を訪ねていきます。


〇企画展「くらしと漆工」開催中です

 令和3年2月14日(日)まで、残りわずかです。

 古来より漆は日本人のくらしや文化と密接に結び付いてきました。実用性と美観に優れる漆は、日用品としての食器類をはじめ、ハレの日の装身具や調度、建築装飾に至るまで幅広く用いられており、今日に至るまで日本の伝統文化を支え続けています。
 2001年の開館以来、大阪くらしの今昔館には「住まいの歴史と文化」に関する資料の一分野として、形も用途も様々な漆工品が集められました。
 本展では、それらのコレクションの中から魅力あふれる作品を選りすぐり、漆商いの中心地であった大坂所縁の作品とともに展観します。今昔館では初となる漆工をテーマにした展示を通し、長い歴史と共に育まれてきたその魅力に迫ります。

草花蒔絵引盃
草花蒔絵熨斗形香合
鉄線蒔絵双六盤


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
 ① 11 時 30 分~(約 30 分)
 ② 14 時 30 分~(約 30 分)

・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
http://konjyakukan.com/shop.html


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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