「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。下り船之巻は「三条橋」からスタートします。
■三条橋
三条橋は東海道五十三次の上りの終点で、京都の玄関口でもあります。そのためか、この橋の東西には旅籠、茶屋が軒を連ね、交通の要衝として賑わいをみました。長州藩士と新撰組とが争った明治維新史跡の一つである池田屋旅館も、三条橋より西側、高瀬川を渡るとすぐの場所にありました。
挿絵の三条橋は、西南から眺めた風景で、右手が鴨川の下流、左手が上流ということになります。東山の大文字をバックにその賑わいを描き出しています。鴨川の中洲では反物を干しており、有名な友禅染の洗い干しのようにも見えますが、この洗い干しの技術が導入されたのは明治に入ってからのことで、少し時代のずれがありますが、河原に幾条もの花模様を連ねた京の風物詩は、橋上の通行の混雑に拍車をかけたに違いありません。
淀川両岸一覧下船之巻「三条橋」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
橋の欄干には擬宝珠が見えますが、これは幕府が管理をする公儀橋であることの証です。本文の解説には次のように記されています。
≪東国より平安城に至る喉口(ここう)なり。貴賤の行人常に多く、都の繁花はこの橋上に見えたり。≫
平安城の喉口は、東国へ向かう東海道、中山道のほかに、北国街道、八風街道などの脇街道へと通じる京の玄関口でした。絵の橋上には、日傘をさす京女や羽織に着流しの京男らに混じって、菅笠をかぶった旅人の姿が描かれています。主要街道に面した喉口ですから、彼らの姿は珍しいものではありませんでした。京の人と他郷の人とが行き交う橋の殷賑ぶりは、「都の繁華」を象徴する風物だったのです。
川下には釣り人が糸を垂れ、牛車が遡行しています。少し奇異に見えますが、橋板を痛める理由で、当時の牛車は河原を渡らねばならなかったのです。絵をよく見ると、橋の中央に馬の背に跨る旅人の姿を見つけることができます。このように、川中の牛と橋上の馬、それぞれを対比させることによって、読者に橋の通行のルールを知らせる効果もあったのです。
絵の右上の賛は、「三条は 橋の裏なり 春の月 梅室」、左上は、「かも河や 三条までか はるの水 若夢」となっています。
『都名所図会』にも「三条大橋」があります。こちらは、橋を南東の上空から俯瞰した眺めになっています。右側が上流になります。中央奥に「木や町」、左側奥に「三条小橋」の文字が見えます。小橋は高瀬川に架かる橋です。鴨川の右岸、三条大橋の左手に牛車が通行するために設けられた車道が描かれています。
『淀川両岸一覧』下り船之部上の本文は次のとおりです。『都名所図会』と同様の解説となっています。
■三条橋
加茂川に架す。東国より平安城に至る喉口(ここう)なり。貴賤の行人常に多く、都の繁花はこの橋上に見えたり。欄干には紫銅(からかね)擬宝珠十八本ありて、ことごとく銘を刻む。その銘に曰く
洛陽三条之橋、後代に至って往還人を化度(けど)す。盤石之礎(いしずゑ)地に入ること五尋、切石の柱六十三本。蓋し日域において石柱の濫觴(らんしょう)なり。天正十八年庚寅(かのえとら)正月豊臣之を始む。御代奉増田(ましだ)右衛門尉長盛之を造る。
更衣(ころもがえ)見ん三条の人通り 只丸
付近の様子を地形図で見てみましょう。
まず、最も古い測量図である明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)を見てみます。地図の中央が三条橋ですが、三条通も拡幅前の道幅で、江戸時代の町割りがそのまま残っています。町家がびっしりと建ち並ぶなか、多くの寺院が見られます。図の右端から鴨川に向かって流れる川は「白川」です。仮製地図ということもあってか、記載されている文字が少なく、三条通の「三」、四条通の「四」と、中央下部に「38.91」の標高が記されている程度です。
2枚目は、今昔マップを利用して三条橋付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
左側の明治42年の地形図では、三条通、河原町通には変化がありませんが、二条通と木屋町通に市電が走っていることがわかります。最新の地理院地図では、多数の寺院の記号が目に付きます。黄色の道路は府道を示しています。
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。標高15mから5m刻みで色を変えています。
京阪電車三条駅付近の標高は約40m、南側が低くなっています。
三条橋付近では、35m以上の2色しか見れませんが、伏見までの間、同じ配色を使って地形を見ていきたいと思います。京都市役所のある御池通付近の標高は約40m、伏見の中書島付近は約15mとなっています。京都盆地が東山、西山、北山に囲まれている様子、盆地の中も平らではなく、ひな壇状に北側が高くなっている様子がわかります。東山の南の突端部にある伏見城は、戦略上も重要な位置を占めていることに気が付きます。
今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「三条橋」をご紹介しました。これから鴨川を五条大橋まで下り、竹田街道を経由して伏見へ向かい、伏見から三十石船で大坂八軒家をめざします。下り船の巻では、船から見て右手、淀川右岸の風景を訪ねていきます。
〇企画展「くらしと漆工」開催中です
令和3年2月14日(日)まで、残りわずかとなりました。
古来より漆は日本人のくらしや文化と密接に結び付いてきました。実用性と美観に優れる漆は、日用品としての食器類をはじめ、ハレの日の装身具や調度、建築装飾に至るまで幅広く用いられており、今日に至るまで日本の伝統文化を支え続けています。
2001年の開館以来、大阪くらしの今昔館には「住まいの歴史と文化」に関する資料の一分野として、形も用途も様々な漆工品が集められました。
本展では、それらのコレクションの中から魅力あふれる作品を選りすぐり、漆商いの中心地であった大坂所縁の作品とともに展観します。今昔館では初となる漆工をテーマにした展示を通し、長い歴史と共に育まれてきたその魅力に迫ります。
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています
ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
『都名所図会』にも「三条大橋」があります。こちらは、橋を南東の上空から俯瞰した眺めになっています。右側が上流になります。中央奥に「木や町」、左側奥に「三条小橋」の文字が見えます。小橋は高瀬川に架かる橋です。鴨川の右岸、三条大橋の左手に牛車が通行するために設けられた車道が描かれています。
都名所図会「三条橋」 (国際日本文化研究センターデータベース) |
『淀川両岸一覧』下り船之部上の本文は次のとおりです。『都名所図会』と同様の解説となっています。
■三条橋
加茂川に架す。東国より平安城に至る喉口(ここう)なり。貴賤の行人常に多く、都の繁花はこの橋上に見えたり。欄干には紫銅(からかね)擬宝珠十八本ありて、ことごとく銘を刻む。その銘に曰く
洛陽三条之橋、後代に至って往還人を化度(けど)す。盤石之礎(いしずゑ)地に入ること五尋、切石の柱六十三本。蓋し日域において石柱の濫觴(らんしょう)なり。天正十八年庚寅(かのえとら)正月豊臣之を始む。御代奉増田(ましだ)右衛門尉長盛之を造る。
更衣(ころもがえ)見ん三条の人通り 只丸
付近の様子を地形図で見てみましょう。
まず、最も古い測量図である明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)を見てみます。地図の中央が三条橋ですが、三条通も拡幅前の道幅で、江戸時代の町割りがそのまま残っています。町家がびっしりと建ち並ぶなか、多くの寺院が見られます。図の右端から鴨川に向かって流れる川は「白川」です。仮製地図ということもあってか、記載されている文字が少なく、三条通の「三」、四条通の「四」と、中央下部に「38.91」の標高が記されている程度です。
明治22年陸地測量部地図(仮製地図) 国際日本文化研究センター蔵 |
2枚目は、今昔マップを利用して三条橋付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
左側の明治42年の地形図では、三条通、河原町通には変化がありませんが、二条通と木屋町通に市電が走っていることがわかります。最新の地理院地図では、多数の寺院の記号が目に付きます。黄色の道路は府道を示しています。
今昔マップより三条橋付近 |
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。標高15mから5m刻みで色を変えています。
京阪電車三条駅付近の標高は約40m、南側が低くなっています。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
三条橋付近では、35m以上の2色しか見れませんが、伏見までの間、同じ配色を使って地形を見ていきたいと思います。京都市役所のある御池通付近の標高は約40m、伏見の中書島付近は約15mとなっています。京都盆地が東山、西山、北山に囲まれている様子、盆地の中も平らではなく、ひな壇状に北側が高くなっている様子がわかります。東山の南の突端部にある伏見城は、戦略上も重要な位置を占めていることに気が付きます。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「三条橋」をご紹介しました。これから鴨川を五条大橋まで下り、竹田街道を経由して伏見へ向かい、伏見から三十石船で大坂八軒家をめざします。下り船の巻では、船から見て右手、淀川右岸の風景を訪ねていきます。
〇企画展「くらしと漆工」開催中です
令和3年2月14日(日)まで、残りわずかとなりました。
古来より漆は日本人のくらしや文化と密接に結び付いてきました。実用性と美観に優れる漆は、日用品としての食器類をはじめ、ハレの日の装身具や調度、建築装飾に至るまで幅広く用いられており、今日に至るまで日本の伝統文化を支え続けています。
2001年の開館以来、大阪くらしの今昔館には「住まいの歴史と文化」に関する資料の一分野として、形も用途も様々な漆工品が集められました。
本展では、それらのコレクションの中から魅力あふれる作品を選りすぐり、漆商いの中心地であった大坂所縁の作品とともに展観します。今昔館では初となる漆工をテーマにした展示を通し、長い歴史と共に育まれてきたその魅力に迫ります。
草花蒔絵引盃 |
草花蒔絵熨斗形香合 |
鉄線蒔絵双六盤 |
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています
ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
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大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
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大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
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「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
コメント欄より失礼いたします。大変貴重なお話、毎回ブログを楽しく拝読させていただいております。現在、大阪の先祖のことを調べております。神崎屋清兵衛が靭中通り二丁目で海産物問屋を営んでいた事、昔使っていた半纏が残っておりますが、大阪中央図書館の市史編纂部の方にお願いしお調べいただきましたがわかりませんでした。酒井様の知恵を拝借し、他に調べる手段がありますでしょうか?ご教示頂けますと幸いと存じます。
返信削除コメントをいただきありがとうございます。気が付くのが遅くなり、大変失礼いたしました。市史編纂部でもわからなかったとのことで、残念です。私には、この分野の知識はありませんが、大阪の商業関係を研究されている研究者の中には、興味を持たれる先生もおられると思います。詳しくはわかりませんが、宮本又次先生、宮本又郎先生の流れを引く先生の中には、海産物に詳しい方がおられるかもしれません。お役に立てなくて申し訳ありません。
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