「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「柳茶屋、車道」をご紹介します。
■柳茶屋、車道
稲荷御旅所から東寺道を東へ進み東洞院通へ出ると、南へ下る竹田街道筋に柳の並木があって、その前にきれいな茶店が軒を連ねていました。これが柳茶屋です。盛夏には風にそよぎ擦れ合う柳の枝のさわやなか葉音と、流水をたたえた街道沿いの車道の波しぶきが、茶店で足を休める旅人の心に涼風を運んだことでしょう。
挿絵のとおり、貨物を積んだ牛車の往来が多い竹田街道には車道が整備されており、さらに、凹状の輪石(車石)を敷設したところもあったようで、後世に街道沿いから輪石が発見されています。ここを利用する旅人と牛車の量がそれだけ多かったということなのでしょう。
淀川両岸一覧下船之巻「柳茶屋、車道」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
竹田街道は洛中では東洞院通の道筋に当たります。江戸時代、東洞院通九条村には柳茶屋という店があったことが、本文の解説によってわかります。「車道の傍に柳の並木ありて、美しき茶店」が軒を連ね、そのうちの一軒が柳茶屋だったのです。
絵の左にみえる店の、軒に吊るされた提灯には「柳茶屋」の文字が見えます。店先に設けた床几に腰掛け、煙管をふかす人たち。奥にはふたりの旅人が一献さす姿も見えます。
絵の上部、賛の発句は次のとおりです。
掃きおろす 牛の背中の 落葉かな 如行
行く水と 清さくらぶる 柳かな 文賀
沓(くつ)作る 車の上や 風薫る 衆雲
おそろしの 九条あたりや 初茄子 桃只
最後の句の「おそろし」という言葉を通して、当時すでに柳と幽霊との取り合わせが広く共有されていたことが知られます。店の屋号から連想されるイメージとはうらはらに、挿絵はうららかな春の状景を描いています。
竹田街道の西には鳥羽の作り道が通っていました。「拾遺都名所図会」にはこの両道の往来を描いた挿絵が収録されています。
都名所図会「竹田街道」 (国際日本文化研究センターデータベース) |
竹田街道の絵の解説には次のようにあります。
≪竹田街道を通う車、牛は日毎に伏見より都へ貨物を積み登る也。炎暑には夜を日にかへて牽(ひ)き通ふは牛の疲れざる要意にして、牛を飼ふのならひなりとぞ。≫
描かれた柳の様子から炎暑ではないとみられますが、「要意」を心得、牛の背に日よけが付けられています。ここでも、牛車と旅人は別の道を通っています。
これに対して鳥羽作り道の絵は、魚荷を運ぶ人足の一群とすれ違う旅人の様子を描いています。「都の市へ日毎に魚荷の鳥羽畷を走る」姿があったと絵の上部に記されているように、ここは本来運送用に使用される街道で、旅人はそのことを知らずに作り道を逆行してしまったのです。もしこれが竹田街道であったら、お互いの通行の邪魔にはならなかったのです。
都名所図会「鳥羽作り道」 (国際日本文化研究センターデータベース) |
二条の米蔵への年貢米の運搬を中心とした京の車稼ぎには、京組、京組外等の車組が組織されました。車賃は、京組外の問屋では4石につき7升で、活動範囲は、京組が許された伏見・大津での営業が、京組外には禁じられていました。伏見・竹田街道を往来する京組に対し、京組外は必然的に鳥羽街道を中心とする活動を強いられたと思われます。
「淀川両岸一覧」の本文には次のとおりの解説があります。
■柳茶屋
東洞院通九条村にあり。車道の傍に柳の並木ありて、美しき茶店多し。
■藤茶屋
東竹田村にあり。茶店に藤の棚あり。ゆゑに名とす。
右は、東洞院通の街道を伏見黒門口に至る道条(みちすじ)なり。
五条橋から伏見への道筋からすると、前回の竹田分道から北へ逆戻りしています。本文の解説を見ると、前回の安楽寿院の解説に「右は油小路より下る道条にして、すなはち安楽寿院の東門前より東洞院の街道に出でて伏見黒門に至る。」とありました。前回までは五条通をBで南下して油小路通に沿って稲荷御旅所、安楽寿院を巡り、今回はAで南下して東洞院通・竹田街道を進み柳茶屋を巡るという順路となっていることがわかります。
今昔マップより明治42年陸地測量部地図 油小路通(稲荷御旅所、安楽寿院)と東洞院通・竹田街道(柳茶屋)の位置関係 |
付近の様子を地形図で見てみましょう。
1枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。図の右寄りの南北の道が竹田街道(東洞院通)で、東九条村を抜けています。左の線は奈良鐡道です。柳茶屋は街道に沿って東九条村にありました。
明治22年陸地測量部地図(仮製地図) 国際日本文化研究センター蔵 |
2枚目は、今昔マップを利用して東九条村付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
地図の右端を南北に流れる川は鴨川です。治水地形分類図の黄色は微高地ですが、赤い点々が入っているので扇状地を表しています。右下の青色の横線は旧河道を、左下の薄い水色は氾濫平野を示しています。かつての鴨川が暴れ川であったなかで、東九条村は微高地に形成されています。最新の地理院地図では、赤色の道路は国道24号、黄色は府道です。国道は旧街道の東側にバイパスとして新設され、旧竹田街道は府道となっています。
今昔マップより東九条付近 |
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。15mから5m刻みで色を変えています。北東が標高が高く、南西に向かって低くなっています。東九条村は周囲よりも少し標高の高いところに形成されています。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
三条橋から伏見までの間、同じ配色を使って京都の地形を見ています。今回は北東へ逆戻りしましたので、前回よりも黄緑色や薄い水色が増えています。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「柳茶屋、車道」をご紹介しました。
〇企画展「博覧会の世紀1851-1970」開催中です
2021年2月20日(土)~2021年4月4日(日)
博覧会の歴史は1851年のロンドン万博に遡り、その後、欧米各国で開催されるようになります。世界中の国々で、今日に至るまで実に数千回にも及ぶ博覧会が開催され、日本においても明治以降、多種多様な博覧会が開催されてきました。
時代とともに博覧会の内容や展示手法は進化し、開催目的や性格も大きく変わっていきました。博覧会はその時代における社会的な要求や世相を映す鏡であったといえます。
本展では19世紀から20世紀の博覧会を俯瞰し、時代とともに変わってきた人々の価値観や他者へのまなざしを読み解くとともに、大阪を会場とした博覧会に焦点を当て、大阪の人々の生活スタイルや娯楽、都市文化を紹介します。
『元ト昌平阪聖堂ニ於テ博覧会図』 株式会社乃村工藝社蔵 |
第5回内国勧業博覧会『明治三六年之大阪』 大阪毎日新聞社発行 株式会社乃村工藝社蔵 |
『大礼奉祝交通電気博覧会鳥瞰図』 株式会社乃村工藝社蔵 |
'70大阪万博ペナント4種類 株式会社乃村工藝社蔵 |
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています
ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
⇒http://konjyakukan.com/shop.html
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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