2021年8月25日水曜日

今週の今昔館(281) 淀川両岸一覧全行程(2) 20210825

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(60)

 琵琶湖から大阪湾へと流れる淀川は、人の流れ、物の流れを担う交通の大動脈として機能してきただけでなく、人々の暮らしと大きく関わり、政治・経済・文化にも大きな影響を与えてきました。

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズ前半では、淀川両岸一覧(上り船之巻)に沿って、大坂から京都までの淀川左岸(川の流れから見て左側)沿いの風景を訪ね、後半では、下り船之巻に沿って、京都から大坂までの淀川右岸沿いの風景を訪ねてきました。

 前回に引き続き、地形図等を使って淀川両岸一覧の全行程を振り返ります。

 全行程の後半は、大阪府から京都府に入り、山崎から淀にかけてのエリアからです。江戸時代は京都府のこの付近を含む一帯は山城国でした。本文にも「山州」という言葉が登場しました。このエリアは、木津川、宇治川、桂川の三川が合流する地域で、水害の多発地域で幾度も河川改修が行われました。上り船では、15_狐渡口から18_淀小橋、下り船では、41_淀小橋と42_山崎が挿絵に描かれています。
 挿絵のなかから、淀大橋と淀小橋・淀姫社、全編の中で最もワイドな連作となっている「淀大橋から淀城全体」を取り上げました。

明治41・42年陸地測量部地図(大山崎~淀小橋)
河絵図(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
「よと川の図」の淀付近(大阪くらしの今昔館蔵)
淀川両岸一覧上船之巻「淀大橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

淀川両岸一覧下船之巻「淀小橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
淀川両岸一覧上船之巻「淀大橋から淀城全体」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 次は、伏見から藤森にかけてのエリアです。三十石船の起終点の伏見は、上り船の巻では京橋付近の風景を、下り船の巻では三十石船に乗船する旅人が滞在する船宿を描いています。
 伏見から先は、上り船の巻では伏見街道、下り船の巻では竹田街道を経由します。ここから北は、よと川の図や河絵図の範囲には入っていませんが、「淀川両岸一覧」は三十石船の起終点である伏見をゴールとせず、行きと帰りの経路を変えて、京までの陸路に沿って名所の風景を描き、本文を書き進めています。旅の手引書としての便宜を考えてのことと思われます。
 上り船では、19_伏見京橋から23_藤森社、下り船では、35_竹田分道と39_伏見船宿が挿絵に描かれています。

明治41・42年陸地測量部地図(伏見京橋~藤森社)
河絵図(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

「よと川の図」の伏見付近(大阪くらしの今昔館蔵)
淀川両岸一覧上船之巻「伏見 京橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

淀川両岸一覧下船之巻「伏見船宿」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 次は、伏見稲荷付近のエリアです。上り船では、24_宝塔寺から26_東福寺、下り船では、34_稲荷御旅所から38_東竹田が挿絵に描かれています。挿絵のなかから、伏見稲荷社と稲荷御旅所を取り上げました。御旅所はずいぶん西に離れたところのありますが、御旅所の周辺は重要な氏子の多い氏地だったのでしょう。伏見御旅所は、高瀬川・竹田街道を伏見に向かうルートからは西に外れていますが、伏見稲荷社とセットである御旅所を訪ねるために、五条通から油小路通を経由して迂回するルートをとっています。

明治41・42年陸地測量部地図(東竹田~東福寺)
淀川両岸一覧上船之巻「伏見稲荷社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

淀川両岸一覧下船之巻「稲荷御旅所」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 最後は、大仏門前から三条橋にかけての鴨川沿いのエリアです。上り船の巻では、挿絵は27_大仏門前までとなっていますが、本文では、瀋谷越(しるたにごえ)の道の両側の名所を、粟田口日岡から来る大津街道(東海道五十三次)と瀋谷越の道が打ち会う「奴茶屋」までの間について紹介し、「奴茶屋」で本文を締めています。山科追分の髭の茶屋とも呼ばれていました。下り船の巻では、東海道五十三次の起点でもある31_三条橋を起点にして鴨川の右岸を下り、竹田街道を経て伏見へ向かう行程になっています。このエリアでは、31_三条橋から、四条橋、五条橋、34_伏見御旅所までが下り船の挿絵に描かれています。挿絵の中から、大仏門前と三条橋を取り上げました。

明治41・42年陸地測量部地図(稲荷御旅所~三条橋)
淀川両岸一覧上船之巻「大仏門前」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

淀川両岸一覧下船之巻「三条橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 全行程の振り返りの最後に、ブログでも繰り返し使用してきました国土地理院の主題図「明治期の低湿地」に挿絵に描かれたスポットを重ねてみました。
 水色は明治20年頃の河川及び水面、黄色は水田、黄土色は深田、緑色は荒地、うす紫は湿地、肌色は砂礫地を表しています。黒く塗られている部分は明治40年ごろの市街地や集落地を示していますので、白い部分は、水田以外の農地(畑)や山地、丘陵地などを表しています。
 下り船の巻の行程に沿って、京・三条橋から大坂・難波橋へと向かいます。干拓によって農地や市街地となった巨椋池のかつての姿、木津川・宇治川・桂川の三川合流地域では流路が大きく付け替えられてきたこと、枚方宿、守口宿が淀川の流れの近くに形成され、水陸の交通の結節点になっていたこと、明治18年の淀川大水害以降の淀川改良工事で誕生した新淀川などがよく見てとれる地図です。


明治期の低湿地(三条橋~宝塔寺)
明治期の低湿地(宝塔寺~淀小橋)
明治期の低湿地(淀小橋~鵜殿)
明治期の低湿地(鵜殿~三嶋江)
明治期の低湿地(三嶋江~逆巻)
明治期の低湿地(逆巻~難波橋)

 今回は、「淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂」の連載を終了するにあたり、地形図や河絵図、よと川の図などを利用して全行程を振り返りました。
 今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、八軒家から木村堤のエリアの大正時代の様子を確かめていただくことができます。
 昨年6月から連載してまいりましたシリーズ「淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂」は今回で終了します。



〇企画展「掌(てのひら)の建築展 ― 橋爪紳也+遠藤秀平 建築ミニチュアコレクション ―」開催中です。
 令和3年7月10日(土)~8月29日(日)まで。残り僅かとなりました。

 誰しもがどこかで手に取り、1つや2つは部屋に飾っている建築ミニチュア。私たちが住まう都市を形作る建築への愛着の結晶が建築ミニチュアではないでしょうか。「掌(てのひら)の建築展」では、世界中の建築ミニチュアを一堂に会して展示し、建築ミニチュアを通して都市や建築・住まいが持つ魅力に触れていただきます。
 建築ミニチュアを展示する企画は、2015年に開催された「ENDO SHUHEIワールド・ミニチュア・ワールド」展を始めとし、「みんなの建築ミニチュア展」としてこれまでに東京、大阪、京都、滋賀、岡山など日本各地で開催されてきました。
 今回の展覧会では、世界中の建築ミニチュアを展示し、観覧される皆様に世界旅行の気分を楽しんでいただける内容となっています。
また、写真家川村憲太氏と橋爪紳也氏のコラボレーションによる写真展「ミニチュア・ワンダーランド」を併催し、掌サイズの建築ミニチュアと巨大な都市空間や自然の景色とを組合せた作品をお楽しみいただきます。
※本展は生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2021の連携プログラムです。

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日 :火曜日(ただし祝日を除く)
会 場 :大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館) 企画展示室
      〒530-0041 大阪市北区天神橋6丁目4-20 住まい情報センタービル8階
入館料 :企画展のみ300円
     常設展+企画展 一般800円(団体700円)
           高・大生500円(団体400円)(要学生証原本提示)
*団体は20名以上。
*周遊パス・年間パスポートでも入場可。
*中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名含む)、大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書原本提示)。
交 通 :地下鉄堺筋線・谷町線、阪急電鉄「天神橋筋六丁目」駅3番出口から直結
     JR大阪環状線「天満」駅から北へ650m
主 催 :大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)
協 賛 :鹿島建設株式会社、淀鋼商事株式会社
協 力 :鹿島出版会、一般社団法人日本建築設計学会、神戸大学光嶋研究室、
     生きた建築ミュージアム大阪フェスティバル実行委員会、海洋堂、
     大阪府立大学観光産業戦略研究所、
     株式会社橋爪総合研究所、遠藤秀平建築研究所
監 修 :橋爪紳也 遠藤秀平


企画展エントランス
タワーシリーズ
太陽の塔
エッフェル塔
海洋堂
フィレンツェ大聖堂
サンマルコ広場
タワーシリーズ1
タワーシリーズ2
ミラノのドゥオーモ
(写真 川村憲太)


〇天井改修工事の実施に伴う臨時休館および一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事に伴う展示替えのため、令和3年9月1日から9月17日までは、全館臨時休館となります。また、天井改修工事の実施に伴い、9月18日より令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。

・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。

・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は、6月21日から再開しています。

【イベント、ワークショップ、およびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)中止のお知らせ】
イベント・ワークショップ等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。

※スタッフによる展示解説(町家ツアー)は1日3回実施しています。お気軽にご参加ください。

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。

スタッフによるまちの解説(町家ツアー)スケジュール
①11:00~(約30分)
②13:00~(約30分)
③14:00~(約30分)



〇大阪くらしの今昔館を紹介する動画作成プロジェクトが「2021年度都市住宅学会賞・業績賞」を受賞しました

 受賞対象は「歴史博物館から発信する大阪の町家と住文化の魅力-子ども・若者・外国人に町家と住文化を理解してもらうための動画制作プロジェクト-」です。
 この動画制作プロジェクトは、2018年度に申請者らからなる博物館住まい学習研究会が「建築技術教育普及センター」の助成を受け、大阪くらしの今昔館の9階常設展示「商家の賑わい」で撮影・編集し、2019年3月に完成しました。ドイツ人留学生のザビ-ネさんがナビゲートし、今昔館ボランティア「町家衆」の皆さんが江戸時代の住民に扮して出演しています。その後、2019年7月からYouTubeで配信しました。

 授賞理由・受賞者・動画の詳細は、以下のとおりです。

・審査委員会の講評(授賞理由)
 本事業は、「大阪くらしの今昔館」の江戸時代の町並み展示を活用して、大阪の町家の建築と生活文化を伝える教育動画を制作し、YouTubeで配信するものである。変化した現在の町家でなく、江戸時代当時の建築と生活が学べる点で他の動画にはない独創性を備えている。また、制作された動画は教育効果の高い内容に加えて、外国人留学生がナビゲートする演出など様々な工夫がされており高く評価できる。本動画は、海外旅行者や社会科見学等の団体見学者に対する事前学習の活用が意図されているが、今後のITCを活用した授業の優れた教材の提供、コロナ禍における博物館の情報発信の面でも先駆的な試みであり、日本の伝統的な生活文化を世界に発信するツールとして今後の展開が期待できる。以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。

・受賞者
 大阪くらしの今昔館 前館長 谷直樹氏
 大阪教育大学教授  碓田智子氏
 大阪くらしの今昔館 特別研究員 岩間香氏
 大阪市住宅供給公社 渡邊望氏

 大阪くらしの今昔館を紹介する学習ビデオは、「なにわの町並み」、「町家の商い」、「町家のくらしとおもてなし」、「裏長屋のくらし」の4編(それぞれ日本語字幕版と英語字幕版)で構成されています。

 日本語字幕版と英語字幕版の動画はこちらをご覧ください↓↓↓
大阪くらしの今昔館 「商家の賑わい」学習ビデオ【日本語・English】



〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html




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