大阪くらしの今昔館の江戸時代のフロアの見どころをシリーズで紹介しています。前回までで、表通りの両側の町家・表長屋のご紹介が終了しました。今回は、路地(ロージ)の奥の裏長屋をご紹介します。
表の町家の背面には、狭い路地に沿って裏長屋が並びます。近世大坂の典型的な都市景観です。
路地と裏長屋 |
裏長屋の屋根の上には、明かり取りと煙り出しを兼ねた天窓が開いています。軒先には物干しが作られています。
裏長屋の屋根 |
裏長屋の建築のわかる資料には、「山本屋太郎兵衛屋敷絵図」や三井家の「掛屋敷絵図」があり、ほかに三井家や住友家の建物の仕様書、谷町に残っている明治末期のものと推定される長屋の実測データを参考にして設計されました。
裏長屋に通じる路地口は表通りの町家の脇に設けられます。突き当りには、祠が見えます。
裏長屋に通じる路地口 |
町会所の脇から入る路地の突き当たりには、朱塗りの祠が祀られています。祠は大坂町三丁目が町中で祀っているもので、商売繁盛・家内安全の御利益があるとのことで、町内の住人から篤い信仰を集めています。背後の楠木は高密度な都市空間にあって貴重な緑でした。
朱塗りの祠と楠木 |
裏長屋の一画には共同井戸と共同便所が設けられています。大坂では共同便所は惣雪隠とよばれ、屋根は瓦葺で戸も内法の高さがありました。江戸の裏長屋の共同便所は、屋根は板葺きもあり、戸は半戸といって、上半分は開放されたままでした。
共同井戸と共同便所 |
大坂の町家の建て方に関して、元禄四年(1691)に来坂したドイツ人のケンペルは『江戸参府旅行日記』のなかで、「畳や戸や襖は同じ大きさで、長さが一間、幅は半間あり、すべての部屋のみならず家そのものも、畳の大きさや状態や寸法に従って造られ、そして建てられている」と紹介しています。「畳割」とよばれる方法です。
十六世紀末までは、建物の各部屋の大きさを決めるのに柱の真々距離、すなわち一間を基準の長さとした柱間の間隔が用いられていました。「柱割」という設計方法です。これに対して、畳を基準に各部屋の大きさを決定するのが「畳割」です。柱割では畳は部屋によって寸法が異なりますが、畳割では畳の寸法が一定であることから互換性があり、さらに、柱間の内法寸法も規格化されるので、襖や障子といった建具や天井なども、規格化されるという利点が生まれました。この畳割は江戸時代になって生まれてきた方法で、西日本で広く普及しました。畳や建具が規格化されてくると大量生産が可能になり、商品として販売されるようになりました。
こうした畳割の普及と建具類の商品化を背景として、大坂では借家の賃貸について独特のシステムが成立していました。大坂では戸締りの建具以外、つまり畳や室内の建具などの内造作は、借主が用意することになっていたのです。家主が借家に備え付けている建具などを「家付物」といいますが、内部の家付物がない大坂の借家システムは「裸貸(はだかがし)」とよばれていました。
現代の「スケルトン賃貸」にも通じる合理的なシステムが、江戸時代にすでに行われていたわけです。
裏長屋の路地口に近い部屋はここしばらくは空き家のままで、玄関横に「かしや」の張り紙が斜めに張られています。江戸ではまっすぐに張るのに対して、大坂では斜めにされていました。室内を見ると、畳も襖も入っていない裸貸しとなっています。
「かしや」の張り紙のある空き家 |
空き家の室内(裸貸) |
人が住んでいる隣の部屋を見ると、借主が用意した畳や障子などが入っています。
人が住む裏長屋の室内 |
裏長屋の住人は、路地口に近い空き家の隣は作兵衛で、若いが腕の良い大工で、脇棟梁を勤めることもあります。家族は二人です。
その隣は伝吉で、青物の振り売りを生業としており、家族は三人です。
そして、いちばん端の部屋は、ひとり暮らしの松太夫で、昔は油問屋を家業としていましたが店が逼塞し、今は若いころに打ち込んだ義太夫節の師匠として余生を送っています。
今回は、表通りの町家の裏側に、狭い路地に沿って建つ裏長屋をご紹介しました。
〇企画展「ユニーク家電大行進!! 昭和レトロ家電®-マスダコレクション展-」は、2月19日(日)まで。残りわずかとなりました
昭和30年代のレトロ家電に魅せられ、20年以上にわたって収集した増田健一氏の貴重なコレクションを3年ぶりに大公開します。7回目となる今回はマスダコレクションの中からとっておきのユニーク家電約150点をずらーっと展示。なんでも電化してみようという時代ならではの驚きのアイデア家電や、宇宙ブームなど時代を反映した家電、デザインが特徴的な家電などなど、たっぷりとお楽しみください。
〇今昔館は昨年10月29日から全面開館しています
天井改修工事にともない閉鎖していた9階常設展室及び10階展望フロアが令和4年10月29日(土)から再開されています。
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
●入場料変更のお知らせ
令和4年10月29日(土)から通常料金になっています
【一 般】600円(団体500円)
【高校生・大学生】300円(団体200円)
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2021年に開館20周年を迎えました。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画はこちらからどうぞ。
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/@user-hm7hq2uu4o/videos
https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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