今回は、「からくり錦絵」の2枚目、「心斎橋」を取り上げます。
明治6年(1873)3月、心斎橋が鉄橋に生まれ変わりました。ドイツから輸入した弓型鉄製トラス橋が長堀川に架かりました。大阪市内では高麗橋、新町橋に続いて3番目の鉄橋でした。
心斎橋は、元和8年(1622)ころ美濃屋岡田心斉が中心となって、長堀川の開削と同時に両岸に沿うこの町の往来の便のため、南北に橋を架けたところから名づけられたとされます。
心斉は、長堀川を開いて物流を盛んにし、大阪繁栄の基礎をつくったひとりでもあります。江戸時代の心斎橋は長さ18間(約35.5m)幅2間1尺(約4.2m)の木橋で、橋筋の人々が大切に維持管理する 「町橋」として近代までその生命を保ちました。
文明開化の波にのって、明治6年(1873)、本木昌造氏の設計によってドイツ直輸入の鉄製弓形トラス橋となった心斎橋は橋脚なしに川をまたぐものでした。当時の人にとって鉄橋は非常に珍しく、大阪の人の間で話題となり、錦絵にも描かれました。
心斎橋(土木図書館蔵) |
心斎橋南詰(大阪市立図書館蔵) |
心斎橋から北を望む(左手奥に南北御堂が見える) (大阪市立図書館蔵) |
心斎橋の弓形トラスは、1908年(明治41年)に心斎橋としての役割を終え撤去された後は、境川運河の境川橋として再利用され、1928年(昭和3年)に大和田川の新千船橋(大阪市西淀川区)と移設を重ね、1973年(昭和48年)に鶴見緑地にすずかけ橋として保存されました。1989年に現在地に移り、鶴見緑地公園の「緑地西橋」として余生を送っています。日本現存最古の鉄橋と言われています。なお、大阪市パノラマ地図には、境川橋として再利用されているアーチ橋が描かれています。
境川橋として再利用されている心斎橋の弓形トラス (大正13年発行の大阪市パノラマ地図) |
心斎橋の弓形トラスが再利用されている緑地西橋 |
心斎橋の弓形トラスが再利用されている緑地西橋 |
緑地西橋の顕彰プレート |
明治42年(1909)には野口孫市氏の設計によって石造2連アーチ橋に架け替えられ、壮大な渡り初めが行われました。眼鏡橋として川面に映るガス灯と共に長く親しまれました。愛媛県今治市沖の大島産の良質の御影石を用い、西洋風意匠で組み上げた秀麗な雰囲気の名橋でした。
石造アーチの心斎橋(「絵はがきで読む大大阪」より) |
昭和37年(1962)に長堀川が埋め立てられて撤去された後、昭和39年(1964)に長堀通を横断する歩道橋として移築されました。映画「ブラック・レイン」にもワンシーンながら登場しています。
その後、地下鉄長堀鶴見緑地線の工事のため撤去されましたが、平成9年(1997)にクリスタ長堀が完成した際、もとの心斎橋の位置に石造橋の一部がガス灯と共に復元されました。親柱、四つ葉のクローバー型の装飾のある欄干は建造時のもので、橋名・架橋年月・石工棟梁と石材提供人の名が刻まれています。クリスタ長堀の天井部を川に見立て、長堀川の水面が再現されています。南側歩道の東側に顕彰碑が設置されています。
また、大阪市営地下鉄 心斎橋駅長堀鶴見緑地線ホームは、心斎橋の欄干やガス灯をモチーフとした装飾が施されています。
それでは、古地図を通して心斎橋付近の変遷を見てみましょう。
まず、江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、心斎橋筋には赤い線が引かれモデル観光ルートになっています。小梅エン、五レウ圓、大丸呉服店、ヲグラヤなどの老舗が並んでいます。戎橋を渡ると道頓堀の五座が並んでいます。心斎橋筋は、堺筋と並んで、長堀、道頓堀の両方に橋が架かり、南北方向のメインストリートであったことがわかります。堺筋の2つの橋(長堀橋と日本橋)は幕府が管理する「公儀橋」ですが、心斎橋と戎橋は町人が管理する「町橋」です。
「浪華名所獨案内」の心斎橋周辺(上が東) |
次は、同じく天保年間発行の「天保新改攝州大阪全圖」です。町名が詳しく書かれており、長堀に架かる橋も心斎橋、長堀橋のほかに、中橋、佐ノヤ橋も描かれています。名前の入っていない橋は三休橋です。
「天保新改攝州大阪全圖」の心斎橋(日文研蔵) |
明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」を見ると、心斎橋は長堀に架かる他の橋よりも太い線で描かれ、橋脚(杭)も表現されています。この時はまだ木造の橋で、翌年に鉄橋に架け替えられることになります。
「大阪市中地區甼名改正繪圖」の心斎橋(日文研蔵) |
大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」を見ると、長堀に沿って東西に市電が通り、堺筋と四つ橋筋にも南北に市電が通っています。長堀よりも北の船場では通りに沿って東西方向の町が残っていますが、長堀の南の島之内では南北に「心斎橋筋一丁目」となっています。島之内の周防町より南側では、笠屋町、千年町など南北方向の町割りが多くみられます。
「實地踏測大阪市街全圖」の心斎橋(日文研蔵) |
大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」には、明治42年に架け替えられた石造アーチ橋が描かれています。心斎橋筋に沿って十合(そごう)、大丸もあります。長堀の北には市電が走り、停留所には電車の絵が描かれています。
「大阪市パノラマ地図」の心斎橋 |
範囲を広げて見てみると、堺筋と四ツ橋筋には市電が走り、長堀通りの市電には心斎橋のほかに三休橋にも停留所があります。御堂筋は拡幅前で、長堀にも橋はありません。
「大阪市パノラマ地図」の心斎橋周辺 |
最後に、明治時代以降の心斎橋付近の変遷を「今昔マップ」で見てみましょう。
左上の明治41年の陸地測量部地図では、長堀の北側の通りが拡幅されていますが、それ以外の通りや筋は、江戸時代の町割りがそのまま残っています。堺筋も拡幅前です。
右上の昭和4年の地形図では、長堀通りと堺筋が拡幅され市電が通っています。
左下は昭和32年です。白くなっているところは、戦災で焼失した地域です。復興はまだあまり進んでいない様子です。
右下は、最新の国土地理院地図です。長堀は埋め立てられ、広い幅の長堀通りになっています。西横堀も埋め立てられて、上を阪神高速道路環状線が通っています。長堀が埋め立てられたのち、地下街のクリスタ長堀が完成するまでの間は、心斎橋の欄干や照明塔を歩道橋に利用していた時期がありました。
明治41年、昭和4年、昭和32年、最近の心斎橋(今昔マップ3) |
歩道橋として利用されていた二代目心斎橋 (写真で見る大阪市100年より) |
■現在の心斎橋
それでは、現場を訪問することにしましょう。最寄り駅は、大阪メトロ御堂筋線、長堀鶴見緑地線の心斎橋駅です。クリスタ長堀の「南10号エスカレーター」を地上に上がったところが、長堀通と心斎橋筋の交差点になります。ここにかつては東西に長堀が流れ、南北に心斎橋筋が架かっていました。現在は欄干の一部と親柱、照明塔を地上の横断歩道わきに設置して、ここにかつて橋があったことを表しています。
現在の心斎橋交差点 |
親柱と照明塔 向かって右側は漢字表記 |
向かって左側の親柱はひらかな表記(変体かな) |
からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。近代都市として新しい発展の道を歩み始めた大阪の様子を、からくり仕掛けの錦絵で紹介しています。
からくり錦絵の解説板 |
真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。明治時代に入って、文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。
赤いボタンを押す前の状態 |
3枚の演出が終了した状態 |
今回は、からくり錦絵の第2回目として「心斎橋」をご紹介し、現場を訪問しました。近代展示室中央の光床「大阪市パノラマ地図」や、「浪華名所獨案内」で位置を確認し、変化の様子をたどることで、より楽しく見学していただけることと思います。
〇企画展「布のすがた―いまむかし」が始まります
2024年10月23日(水)〜2025年2月2日(日)
昔の人々が日々のくらしの中で使用してきたものと、現代の私たちが手にし、目にするものには、どのような関係があるのでしょうか?そこには様々な色や形、材質、用途などの共通項や差異があり、古い時代のものであっても現代のくらしに通じるヒントやアイデア、工夫などを見出すことができます。
本展では日本人のくらしや文化と密接に関わってきた「染織」にスポットを当て、大阪芸術大学工芸学科テキスタイル・染織コース出身の現代の染織家達の作品と大阪くらしの今昔館の収蔵品との共演により、新しい布のすがたを発見し、染織文化の奥深さや動向を広く発信します。
関連イベント
【講演会】 演題:「織物以前のこと、南太平洋のタパや装い」
日時:2024年11月24日(日)14:00~15:30(開場13:30)
講師:福本繁樹(美術家 ノンフィクション作家 元大阪芸術大学教授)
会場:大阪市立住まい情報センター3階ホール
参加費:無料
定員:170名(要事前申込)※応募多数の場合抽選
申込方法:「おおさか・あんじゅ・ネット」の特設ページ(以下URL)よりお申し込みください。
https://www.osaka-angenet.jp/event/374
申込締切:令和6年11月10日(日)
【ワークショップ】 内容:「カード織りでストラップ制作」
日時:2024年12月14日(土)13:00~完成次第終了(所要時間約3時間)
講師:岸田めぐみ(大阪芸術大学非常勤講師)
会場:大阪市立住まい情報センター5階研修室
対象:中学生以上
参加費:2,000円
定員:15名(要事前申込)※応募多数の場合抽選
持ち物:はさみ
申込方法:「おおさか・あんじゅ・ネット」の特設ページ(以下URL)よりお申し込みください。
https://www.osaka-angenet.jp/event/375
申込締切:令和6年11月30日(土)
〇企画展「レトロ・ロマン・モダン、乙女のくらし」は終了しました
〇6月1日よりミュージアムショップが再開しました
今昔館が発行する刊行物(図録)や各種地図はもとより、和小物や大阪のお土産物など取り揃えております。どうぞご利用ください。
〇ワークショップ・イベントのご案内
和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
*スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。
〇入場料のお知らせ
【常設展】一般 600円(団体500円)
高校生・大学生 300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
ホームページをご覧ください。
※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。
〇着物体験サービス
感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。
着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。
●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日
※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。
【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。
〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム
〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
今昔館の展示関連の動画を集めました。
⇒https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました
「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」
コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))
■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください
■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
0 件のコメント:
コメントを投稿