今回は、「からくり錦絵」の3枚目、「梅田ステン所」を取り上げます。
梅田ステン所(初代大阪駅)は、明治7年(1874)5月11日に大阪駅~神戸駅間の鉄道開通と同時に開業しました。駅舎はゴシック風の赤煉瓦造り2階建てで現在の大阪駅よりも西の大阪中央郵便局旧局舎付近に当たる場所にあり、周辺は民家がわずかにあるだけで田圃が広がっていました。
駅のある場所は明治22年(1889)の市制施行時における大阪市域にも含まれず、明治30年(1897)まで西成郡曽根崎村に属していました。市街地を避けて建設されたことがわかります。
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堂島に当初計画された予定地と初代梅田ステンショ (「大阪駅の歴史」より) |
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初代大阪駅(「大阪駅の歴史」より) |
当初の計画では市街地に近い堂島付近に頭端式(阪急梅田駅、南海なんば駅のようなターミナル型の駅)で建設される予定でしたが、設置場所は曽根崎村の梅田に変更されました。堂島から梅田へ変更されたのは、堂島付近での設置反対があったからという説もありますが、将来東へ線路が延伸された際に京都駅~神戸駅間の直通運転に都合が良いよう、頭端式を採らず、通過式の駅構造にするためだとも言われています。
鉄道黎明期に頭端式ホームを採用した横浜駅がその後の時勢変化で二度移転を強いられたことからしても、折り返しを要さない東西直通運転を可能にしつつ市街地に駅をできるだけ近づけさせる構造にした大阪駅には、先見の明があったといわれることもあります。それは、明治末期に山陽鉄道や九州鉄道といった大私鉄が国有化された後、西日本各地から東京への直通運転の実現が容易となり、利便性を高めたという点でも大いに役立つこととなりました。
大阪駅がターミナル型でないことを惜しむ声もありますが、東京駅、品川駅、上野駅も、すべて通過式の駅に変わってきています。汽車の時代から電車の時代になって、折り返しよりも通り抜けの方が便利で効率的ということでしょうか・・・?
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初代大阪駅(「大阪駅物語」より) |
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初代大阪駅(「大阪駅物語」より) |
開業当初、大阪駅は「梅田駅」「梅田ステーション」「梅田すてん所」などと呼ばれていましたが、阪神・阪急や貨物駅の梅田駅が開業すると、次第に大阪駅のことを「梅田駅」などと呼ぶことはなくなりました。
次に、古地図で大阪駅周辺の変遷を見ていきましょう。
まず、江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」では、市街地の北の端に「曽根崎新地」「北野」の地名があります。天満堀川の傍には「ゴモク山ト云」という文字もあります。
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「浪華名所獨案内」の大阪駅あたり(「津の清」蔵) |
天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大阪全圖」では、曽根崎村の北側には水路が流れていて、地図中央左寄りに「梅田墓」の文字があります。
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天保8年発行の「天保新改攝州大阪全圖」の大阪駅あたり(日文研蔵) |
明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」を見ると、曽根崎村には「新建屋」「新屋」の文字が何か所かあり、農地の中に家が建ち始めています。図の左端中ほどに、墓を意味する「梅田三昧」の字があり、図の左上の川には「十三渡」の字も見えます。
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明治5年発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」(日文研蔵) |
明治15年(1882)発行の「大坂明細全図」には、「梅田ステーション」が描かれ、「神戸行鐡道」、「西京行鐡道」の文字があります。駅の西側には「明治十一年新堀」と書かれた水路が描かれ、「出入橋」の文字も見えます。
駅の東側の「ステーショ道」は桜橋、渡辺橋につながっており、現在の四つ橋筋にあたります。駅が現在よりも西に位置していたことがわかります。
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明治15年発行の「大坂明細全図」(日文研蔵) |
大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」を見ると、大阪駅の前に市電が通り、西に阪神電車、東に阪急電車の梅田駅ができています。阪急電車は省線(鉄道省が運営する鉄道)を高架で跨いでいます。
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大正元年発行の「實地踏測大阪市街全圖」(日文研蔵) |
大正13年(1924)発行の「大阪市パノラマ地図」を見ると、駅の北側に「大阪駅構築予定地」と書かれ、貨物駅の整備が始まろうとしています。阪急電車が省線を跨いでいる様子が描かれています。阪神電車の地上駅も描かれています。
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大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」(大阪くらしの今昔館蔵) |
昭和12年(1937)発行の「大大阪観光地図」では、省線が高架になり、城東線(現在の大阪環状線)は電車化しています。線路の両側に書かれている破線は高架を表わし、赤色の線路は電化されていることを示しています。阪急線は地上線になり、省線の下をくぐっています。この工事は、昭和9年5月31日の深夜、一晩で行われました。
昭和8年には地下鉄の梅田(仮駅)~心斎橋が完成し、大大阪観光地図にも反映されています。駅前には「市電案内所」があります。このあたりは、映画「大大阪観光」と対応しています。
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昭和12年発行の「大大阪観光地図」(日文研蔵) |
切替直前の大阪駅と阪急梅田駅の様子です。このあと、昭和9年5月31日の深夜、一晩で省線は高架に、阪急は地上線に切り替えられます。この写真には、工事中の地下鉄梅田駅も写っています(阪急百貨店の右側)。この時期には大阪駅周辺で大工事が進められていたことがわかります。
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切替直前の大阪駅周辺(「大阪駅の歴史」より) |
最後に、今昔マップ3の地形図によって、大阪駅周辺のまちの変遷を見てみましょう。
左上は明治42年で、大阪駅の北側には農地が広がっています。その中に、工業学校(現在の大阪市立大学工学部)があります。阪急電車は、梅田駅を出た後、省線(国鉄)を高架で跨いでいます。
右上は昭和7年、駅の北側で梅田貨物駅の建設が進んでおり、入り堀が国鉄の北側まで伸びています。工業学校は立ち退いています。阪急電車は、淀川の鉄橋まで高架線になっています。高架線に沿って東側には地上を北野線が走っています。
左下は昭和42年。梅田貨物駅は最盛期を迎え、入り堀が埋め立てられて建屋になっています。阪急電車は昭和9年の切替工事で省線の下をくぐり、阪神電車は、昭和14年に東へ延伸されて地下駅になっています。
右下は、最近の国土地理院地図。阪急梅田駅は、JR(国鉄)線の北側に移転し、うめきた1期と大阪駅北ビルができています。
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明治42年、昭和7年、昭和42年と最近の地形図 (今昔マップ3) |
【現在の大阪駅】
大阪-神戸間の官営鉄道開通に合わせて1874(明治7)年に開業し「梅田すてん所」の愛称で親しまれた初代大阪駅は、その後、大阪市パノラマ地図に描かれている二代目のゴシック風駅舎、1980(昭和55)年まで約40年間使用されたインターナショナルスタイルの第三代駅舎と引き継がれ、第四代大阪駅は、駅業務機能を担う「北ビル」と百貨店・ホテル・旅行サービス機能等を取り入れた総合ターミナルビル「アクティ大阪」となりました。
2011(平成23)年に誕生した現在の大阪ステーションシティは五代目。「抜本的な駅改良」「広場・通路の整備」「新北ビルの開発」「アクティ大阪増築」を4つの柱として、「感動と発見にあふれた、新しい大阪駅(OSAKA Grand Station)の創造」をめざして建設されました。2階にある6本のホーム全体を覆う大屋根(ドーム天井)が特徴で、3階の連絡通路と5階にある時空の広場が、南北に建つ2つのビルを結んでいます。ノースゲートビルディングにある風の広場、天空の農園からの展望は絶景です。
さらに、2023年3月18日(土)には、大阪駅の新たな地下ホーム「うめきたエリア」が開業しました。うめきたエリアは「近未来」をテーマに新設されています。顔認証ゲート、壁面を使った巨大なスクリーン、全面ガラス張りで、あらゆる列車のタイプに合わせて、襖(ふすま)のように自在に動くホームドアなど、新しい試みが見られます。
また、2024年9月には、うめきた2期グラングリーン大阪の先行まちびらきが行われました。初代大阪駅があった場所に建っていた大阪中央郵便局が建て替えられて、JPタワー大阪「KITTE」が誕生しました。旧郵便局の建築の一部が曳家によって移転し保存されています。さらに、JR西日本が建設した「イノゲート大阪」がオープンしています。
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大阪ステーションシティの大屋根 |
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ホーム全体を覆う大屋根(ドーム天井) |
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JPタワー大阪「KITTE」 |
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グラングリーン大阪 |
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グラングリーン大阪 |
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グラングリーン大阪 |
からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。
からくり錦絵の解説板 |
真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。明治時代に入って、文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。
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赤いボタンを押す前の状態 |
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3枚の演出が終了した状態 |
今回は、「からくり錦絵」の3枚目、右端の「梅田ステン所」をご紹介しました。これで、からくり錦絵は完結です。
〇企画展「布のすがた―いまむかし」開催中です
2024年10月23日(水)〜2025年2月2日(日)
昔の人々が日々のくらしの中で使用してきたものと、現代の私たちが手にし、目にするものには、どのような関係があるのでしょうか?そこには様々な色や形、材質、用途などの共通項や差異があり、古い時代のものであっても現代のくらしに通じるヒントやアイデア、工夫などを見出すことができます。
本展では日本人のくらしや文化と密接に関わってきた「染織」にスポットを当て、大阪芸術大学工芸学科テキスタイル・染織コース出身の現代の染織家達の作品と大阪くらしの今昔館の収蔵品との共演により、新しい布のすがたを発見し、染織文化の奥深さや動向を広く発信します。
関連イベント
【講演会】 演題:「織物以前のこと、南太平洋のタパや装い」
日時:2024年11月24日(日)14:00~15:30(開場13:30)
講師:福本繁樹(美術家 ノンフィクション作家 元大阪芸術大学教授)
会場:大阪市立住まい情報センター3階ホール
参加費:無料
定員:170名(要事前申込)※応募多数の場合抽選
申込方法:「おおさか・あんじゅ・ネット」の特設ページ(以下URL)よりお申し込みください。
https://www.osaka-angenet.jp/event/374
申込締切:令和6年11月10日(日)
【ワークショップ】 内容:「カード織りでストラップ制作」
日時:2024年12月14日(土)13:00~完成次第終了(所要時間約3時間)
講師:岸田めぐみ(大阪芸術大学非常勤講師)
会場:大阪市立住まい情報センター5階研修室
対象:中学生以上
参加費:2,000円
定員:15名(要事前申込)※応募多数の場合抽選
持ち物:はさみ
申込方法:「おおさか・あんじゅ・ネット」の特設ページ(以下URL)よりお申し込みください。
https://www.osaka-angenet.jp/event/375
申込締切:令和6年11月30日(土)
〇ワークショップ・イベントのご案内
和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
*スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。
〇入場料のお知らせ
【常設展】一般 600円(団体500円)
高校生・大学生 300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
今回の企画展は500円です。
詳しくはホームページをご覧ください。
※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。
〇着物体験サービス
感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。
着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。
●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日
※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。
【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。
〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム
〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
今昔館の展示関連の動画を集めました。
⇒https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました
「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」
コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))
■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください
■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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