2017年10月24日火曜日

今週の今昔館(82) 大阪市パノラマ地図の見どころ 20171024

〇今昔館の近代展示室を愉しむ(16) 大阪市パノラマ地図の見どころ

 前回に引き続き「大阪市パノラマ地図」の見どころをご紹介します。

 下の地図は大阪市パノラマ地図のちょうど真ん中に描かれている「四ツ橋」です。江戸時代にはどんなところだったでしょうか?また、現在はどうなっているでしょうか?


 四ツ橋という地名を聞くと、ご年配の方は「プラネタリウムのあったところ」とお答えになると思います。現在の大阪市立科学館の前身の電気科学館が交差点に面して建っていて最上階がプラネタリウムになっていました。若い方は「地下鉄の四つ橋線に駅があったかなぁ」くらいかもしれません。四ツ橋の昔と今を見ていきましょう。

 江戸時代の天保年間1820年ころの地図「浪華名所独案内」の四ツ橋周辺です。上が東になっています。中央部左右の川が西横堀川、上下の川が長堀川です。2つの川がクロスしているところに橋が4つ架かっています。4つまとめて四ツ橋と呼ばれていました。

浪華名所独案内の四ツ橋周辺(上が東)

 見慣れている図になるよう、北を上にして拡大してみました。

浪華名所獨案内の四ツ橋付近(上が北)

 もう一枚、ほぼ同じ時代の、詳細な古地図「天保新改攝州大阪全圖」の四ツ橋付近です。

天保新改攝州大阪全圖の四ツ橋付近(上が北)

 四ツ橋(よつばし)は、「堀川の十字交差部(大阪市内に唯一存在した)」に、架橋されていた4つの橋を一括して称した名称で、その周辺の地域の通称にもなっています。その後、堀川は埋め立てられたため現在は交差点名や駅名として残っています。

 もともとは、長堀川と西横堀川(両方とも埋め立てられた)が交差する地点に「ロ」の字型に架けられていた4つの橋の愛称です。道路、水路、市電にとっての重要な交通の要所でした。
・上繋橋(かみつなぎばし)西横堀川に架かる北の橋。1964年(昭和39年)撤去。
・下繋橋(しもつなぎばし)西横堀川に架かる南の橋。1964年(昭和39年)撤去。
・炭屋橋(すみやばし)長堀川に架かる東の橋。1970年(昭和45年)撤去。島之内西端の旧町名「炭屋町」に由来。
・吉野屋橋(よしのやばし)長堀川に架かる西の橋。1970年(昭和45年)撤去。北堀江東端の旧町名「吉野屋町」に由来。

 四ツ橋は、昔から、建物が建て込んだ都心部の中にあって貴重な開けた場所でしたので、散策コースとして市民に親しまれ、また大阪名所・観光名所として「摂津名所図会」や「浪花百景」にも描かれ、写真が絵はがきにも用いられました。かつては夕涼みの名所だったそうで、江戸時代中期の俳人小西来山の句「涼しさに 四ツ橋を四ツわたりけり」が有名です。

摂津名所図会の四ツ橋
浪花百景の四ツ橋(大阪市立図書館蔵)

 大正13年(1924年)の大阪市パノラマ地図の四ツ橋周辺です。パノラマ地図では四ツ橋は地図全体のちょうど真ん中に描かれています。鳥瞰図ですので道が斜めになっています。こちらも東を上にしてみました。

 長堀の北側の長堀通と西横堀の西側の四ツ橋筋に市電が走っています。位置は少しずれますが2つの通りの交差点も四ツ橋と呼ばれていました。


大阪市パノラマ地図の四ツ橋付近(上が東)

 日本初の国産ダイヤモンドクロッシング(軌道の交差点)が設置されたのもこの交差点です。大阪市電の東西線と南北線という2つの重要路線がクロスしていましたが、昭和36(1961)年に東西線、昭和38(1963)年に南北線が廃止されたことにより撤去されました。

四ツ橋電車交叉点(大阪府写真帖)

 昭和12年(1937年)の大大阪観光地図です。心斎橋、大丸、そごう、文楽座、新町演舞場など名所と並んで、電気科学館の文字が赤字で大きく表示されています。電気科学館は四ツ橋交差点の北東角に建っていました。昭和12年(1937年)、日本で初の電気科学館(サイエンスセンター)としてオープンした施設で、東洋初のプラネタリウムを置いていました。パノラマ地図は大正13年発行ですので電気科学館は描かれていません。


大大阪観光地図の四ツ橋付近(国際日本文化研究センター蔵)
開館当時の電気科学館 (大阪市立科学館HPより)

 昭和29年(1954年)の最新大阪市街地図です。
昭和29年の四ツ橋付近(国際日本文化研究センター蔵)


 四つ橋筋には市電が走っていて南北線と呼ばれていました。大阪駅前と難波、恵美須町を結ぶ主要幹線でした。四ツ橋周辺の市電は昭和38年(1963年)に廃止されました。昭和40年(1965年)に地下鉄四つ橋線西梅田大国町間が開通しました。地下鉄四つ橋線は2015年に50周年を迎えました。

 名前の表記について、「四ツ橋」と「四つ橋」が使い分けられています。
 地名(橋名・交差点名・駅名)は、「四ツ橋」「四ツ橋駅」とカタカナの「ツ」、線名(道路名・地下鉄路線名)は「四つ橋筋」「四つ橋線」とひらがなの「つ」となっています。
 これは、道路を管理していた市の土木局(当時)と、交通事業(市電に四ツ橋の電停があった)を管理していた電気局(当時)が、監督官庁に別の表記で届け出たことに原因があると言われています。さらに、地下鉄路線名は通過する街路の名前(四つ橋筋)に合わせたのに対して、駅名は地名を採用したという結果、「地下鉄四つ橋線の四ツ橋駅」 のような表記になっています。

 地下鉄四つ橋線の名前の由来は、地名の四ツ橋→橋の近くを通る南北の道の名前が四つ橋筋→そこに地下鉄が建設されたので四つ橋線です。四ツ橋駅の構内は心斎橋駅とつながっていますが、線名になっているので四つ橋線の駅だけは四ツ橋駅を名乗っています。ちなみに、四つ橋線の信濃橋駅は中央線ができて本町駅とつながり、駅名も本町に変更になりました。なんば元町駅もなんば駅に統一されました。地元ゆかりの地名は残してもよかったように思います。

地下鉄四ツ橋駅の壁面デザイン
東側の橋の名前は?
地下鉄四ツ橋駅の壁面デザイン
西側の橋の名前は?
地下鉄四ツ橋駅の壁面デザイン
北側の橋の名前は?
地下鉄四ツ橋駅の壁面デザイン
南側の橋の名前は?

 現在では、大川、土佐堀川、堂島川、木津川、道頓堀、東横堀(いわゆるロの字の水路)を残して、ほとんどの堀が埋立てられています。西横堀川は埋め立てられて上が高速道路になっています。長堀川は埋め立てられて地下に地下街と駐車場が造られました。その上が現在の広い長堀通りになっていて、中央部が広い分離帯になっています。もと長堀の南部分は一部民有地になっているところもあります。


 現在「四ツ橋」は長堀通と四つ橋筋の交差点名となっています。本来の四ツ橋は、長堀川と西横堀川の交差部、つまり、長堀通と阪神高速1号環状線北行きの交差部なので、四ツ橋交差点は本来の四ツ橋の位置より少し西側にずれている事になります。なお、四ツ橋交差点の位置で長堀川に架けられている橋は「西長堀橋」です。

 四ツ橋交差点の東側、長堀通の中央分離帯にはミニ四ツ橋のモニュメントと案内板があります。案内板は高速道路(旧西横堀川)の西側の交差点の脇にあります。こちらは、わかりやすいと思います。


 阪神高速道路の東側には、江戸時代中期の俳人小西来山と上島鬼貫が詠んだ句碑が建っています。少しわかりにくいですが、かつて角屋橋が架かっていたところにあたります。

 上島鬼貫の句は「後の月 入て貌よし 星の空」で、小西来山の句は「涼しさに 四ツ橋を四ツわたりけり」となっています。



 吉野屋橋の北西角、四ツ橋交差点の北東角には、四ツ橋のシンボルとなっていた大阪市立電気科学館がありましたが、老朽化を理由に平成元年(1989年)5月に閉館。同年に北区中之島に大阪市立科学館がオープンしました。

 電気科学館は取り壊されて、現在はヴィアイン心斎橋長堀通を主テナントとする大阪市交通局所有の複合ビル「ホワイトドームプラザ」となっています。ビルの外観は、屋上部分がドーム状に造られるなど、電気科学館を模したデザインとなっています。
四ツ橋交差点のホワイトドームプラザ


 昔の地図を見ながらのまち歩き、古地図を片手に、スマホをお持ちの方はスマホに古地図を取り込んで、いろんな所へちょっと出かけてみませんか?

 スマートフォン(iPhone、アンドロイド)をご利用の方は、「こちずぶらり」というアプリを利用すると、GPS機能によって地図上に現在位置を表示させることができます。まち歩きの際などにその場所に昔は何があったかを現地で確認することができて便利です。
 大阪市パノラマ地図は、「こちずぶらり」に搭載されていますし、浪華名所独案内もこちらからダウンロードできます。

 今回は、「大阪市パノラマ地図」から、「四ツ橋」を取り上げました。古地図を見ながらのまち歩き、ブラタモリの気分で楽しんでみてはいかがでしょうか。


〇特別イベント  民家をたのしむ!民家をつたえる!

★Part1 シンポジウム「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
◇日  時:平成29年11月26日(日)10:00~12:30 (受付開始:9:40~)
◇「大阪くらしの今昔館の町家建築物語」谷 直樹(大阪くらしの今昔館館長)
 「体験することはわかること―Weald and Downland Living Museumの民家建築と伝統的なくらしの学びを生き生きとしたものにするために―」通訳あり
  Martin Purslow CEO of the Weald and Downland Living Museum
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇定  員:150名(事前申込、先着順)
      定員になり次第、締め切ります。
◇参 加 費:無料

 Weald and Downland Living Museum(ウィ-ルド・アンド・ダウンランドくらしの博物館)は、1972年に開園した英国イングランド南部にある民家博物館です。広大な敷地に、600年の時代を通じた52棟の民家が学術的な修復を受けて移築され、当時のくらしを再現しています。
 同館では、民家の建築的保全とくらしの技術の保存の両面から学習プログラムを提供しています。現代に暮らす人たちに民家の保全への意識を持ってもらうこと、また伝統的な生活の技やものづくりに関心を持ってもらうことが目的です。おとなのための学習プログラムやヨ-ク大学大学院と連携した民家の保存技術の専門的プログラムにも力を入れています。
 シンポジウムでは、英国くらしの博物館と江戸時代の町家を再現した大阪くらしの今昔館の事例から、民家を楽しみ、伝統的な建築技術を伝える方法を考えます。

●司会:碓田智子(博物館住まい学習研究会代表、大阪教育大学教授)
●通訳:和田美貴((一財)日本国際協力センター)


★Part2イベント 「大工体験! 匠の技」
①江戸時代の町並みで実演 手道具を使った大工の匠の技
 棟梁による、手道具を使った大工の伝統の技をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (予約不要、自由見学)
◇場  所:大阪くらしの今昔館 9階常設展示室
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

②町家の二階の特別見学-町家の構造を見よう-
 通常は非公開の町家(薬屋)の2階に上がって、町家建築の構造をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (要予約 シンポジウム申込者を優先)
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

☆匠の技を体験しよう!
 「ミニ削ろう会in今昔館」の大工さんから大工の技を教えてもらいます。
 鉋削りの体験や削り花でつくる「かんなフラワー」も楽しめます。お子さんも体験できます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:30
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇参 加 費:無料

民家をたのしむ!民家をつたえる!
Let’s Learn from Historic Houses in the Museum
主 催:博物館住まい学習研究会、大阪くらしの今昔館
協 力:「ミニ削ろう会in今昔館」の大工棟梁のみなさん




申込はこちらからどうぞ。

https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/32955


〇今週のイベント・ワークショップ

10月25日(水)~28日(土)30日(月)、11月1日(水)、2日(木)、4日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
時 間:11:30、14:30

10月29日(日)、11月3日(祝)、5日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

10月28日(土)
ワークショップ 『バランスとんぼを作ろう』

⓵13時30分 ⓶14時30分
各回先着10名、参加費:200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します

11月3日(金・祝)
イベント 乙女文楽

上方の地で生まれ親しんだ芸能。磨かれた芸の技をご覧ください
出演:乙女文楽座
14時~15時

11月5日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。


大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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