2019年8月6日火曜日

今週の今昔館(175) 二軒茶屋 20190806

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(12)

 今回は「浪華の賑ひ」の「二軒茶屋」をご紹介します。

 「二軒茶屋」も耳慣れない地名ですので、今回も江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」から始めることとします。
 前回の「杉山」から右手(南)を見ると、「森ノ宮」「イナリ社」があり、その隣に「玉造町家」、その右上(南東)に「二ケン茶ヤ」の挿絵と文字があります。「サナダ山」と「玉造町家」の間の通りには「ナライセ道」の文字が見えます。この地図は、東が上に書かれています。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華名所獨案内」の案内書である「新おおさか漫歩」には、
《真田山の北辺の道を東へしばらく行くと二軒茶屋が見えてきます。
 大阪と奈良を結ぶ街道にはいくつかの道がありますが、各街道の中で生駒山地の暗峠を越え最短距離で奈良に至る暗峠奈良街道は、交通量も多く、大阪~奈良間の物資輸送の商業路、中河内~北大和地域相互間の交通路として、また奈良・初瀬・伊勢方面への参詣路としても賑わっています。つまり、暗峠奈良街道(奈良・伊勢道)は、生駒山地を横断する街道の中で、最も重要な道でした。
 この暗峠奈良街道の大阪の起終点に当たるのが、玉造の町はずれ、猫間川に架かる黒門橋西詰の「二軒茶屋」です。街道を挟んで南北につる屋と庄屋(のち、ます屋)という二軒の茶屋があり、旅人の休憩所として、あるいは伊勢参宮者とその見送り人の旅立ちの酒宴会場として利用され、名所になるほど繁盛しています。》
と紹介されています。

 それでは、「浪華の賑ひ」の「二軒茶屋」を見てみましょう。

■二軒茶屋
 この地は玉造の街端(まちはづれ)にして、伊勢神宮・大和巡り・大峰詣(おほみねまうで)等の送別の場所なるゆゑ、左右に酒肴をひさぐ茶店あり。ゆゑにかくは号(なづ)けしなり。さる程に、弥生の初めつ旬(ころ)より難波菅笠一様にうたひ連れたる伊勢おん頭(どう)、しばし別れの酒宴(さかもり)に酔ふて出るあり、這入るあり、あるいは軒端に休むもありて賑はしきこと言ふばかりなし。その上、平日といへども奈良街道の往還なれば旅人の通行絶ゆる間なく、あるいは信貴山(しぎさん)の毘沙門・生駒(いこま)の聖天等は月参りの信者ありて皆この茶店(ちゃや)を休足所と定む。


浪華の賑ひ「二軒茶屋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 浪花百景には、「二軒茶や風景」があります。

■二軒茶や風景(国員画)

 この地は東へまっすぐ伸びる大坂から奈良に通じる奈良街道の起点にあたるため、伊勢神宮や大和巡りに向かう旅人や見送りの人々でいつも賑わっていました。黒門橋(石橋)西詰めに、街道の両側にあった「つる屋」「庄屋(のち、ます屋)」という二軒の茶屋は旅人の休憩所として、また、別れの酒宴の会場として多くの人に利用され、名所となるほどに繁盛しました。また道中用に深江名物の菅笠も販売していました。
 近世を通じてほぼ60年ごとに流行した伊勢神宮のお陰参りの時には、街道沿いは大いに賑わいました。ます屋は明治初年に廃業、つる屋は牛肉屋に転業して大正年間まで存続。現在長堀通(国道308号)南側に石碑が建っています。

浪花百景「二軒茶や風景(国員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、「宰相山 真田山イナリ」の右手に「△平ノ口丁」の文字が見えます。その右手に川幅が拡がったところに橋が架かり、東へと道が続いています。このあたりが二軒茶屋、石橋でしょうか。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、現在の大阪環状線に当たる城東線(省線)の「玉造駅」から東は、当時の大阪市の市域に入っていなかったため、雲で隠されたような表示となっています。駅の近くには郵便局、交番、私設市場、劇場、玉造税務署があったことがわかります。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、長堀通が城東線を越えて拡幅され東へ伸びています。猫間川に架かっていた橋が石橋だったのでしょうか。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治41年では、市街地は城東線の西側までで、東側では、街道に沿って町並みがありますが、周りには農地が残っています。
 右上の昭和4年では、長堀通と玉造筋が拡幅され市電が走っています。長堀通は城東線の東へも延びています。

明治41年から昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 左下の昭和22年を見ると、白くなっている部分が戦災によって焼失した地域で、この地域は大きな被害を受けています。長堀通の市電が今里方面へ延びています。
 右下の昭和42年では、全域が市街地化し、市電はすべて廃止されています。


 現在の様子を写真で見てみましょう。

 JR大阪環状線玉造駅から長堀通を東へ進むと1枚目の写真の二軒茶屋跡の石碑があります。玉造名所石橋旧跡の碑も並んでいます。

二軒茶屋跡の碑

 暗峠奈良街道を東へ進み今里筋との交差点角に、暗峠奈良街道(ならみち)の碑があり、ビルの壁面に街道の解説板が並んでいます。

暗峠奈良街道(ならみち)の碑
暗峠奈良街道
高井田菱江
追分尼ヶ辻
三絛通春日大宮


 街道をさらに東へ進み千日前通りに出るところに文化3年(1806)に建てられた「なら・いせ道」の古い道標があります。

ならいせ道の道標
移設され向きが変わったことを示す説明板

 今回は、「浪華の賑ひ」の「二軒茶屋」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。



〇企画展「大大阪時代に咲いたレトロモダンな着物たち~北前船(きたまえぶね)船主・大家(おおいえ)家のファッション図鑑~」開催中です
 2019年7月24日(水)~9月1日(日)


 江戸時代後期から昭和戦前期まで、北前船の船主として(明治中期以降は汽船会社を経営)繁栄した大家七兵衛家には祖母・母・娘へと3代にわたって引き継がれた大正・昭和期の着物が数多く残されています。この貴重な着物類が、大阪くらしの今昔館に寄贈されたのを機に、展示公開する運びとなりました。

 これらは船主ならではのイベント、進水式で着用された振袖をはじめ、留袖や訪問着などの礼装、小紋のおしゃれ着、銘仙の普段着のほか、お宮詣りや七五三、十三詣りの子供用の晴れ着など多岐にわたっています。華やかで大胆な柄、洗練された幾何学模様、斬新な色使いに、大正ロマン・昭和モダンの時代の雰囲気を感じることができます。



〇今週のイベント・ワークショップ

8月7日(水)~10日(土)、14日(水)~17日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

8月11日(日・祝)、12日(月・振替休)、18日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


8月7日(水)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

8月9日(金)
ワークショップ 『手ぬぐいで作るポケットティッシュカバー』

13時30分~15時00分
当日先着20名、参加費200円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

8月10日(土)、11日(日)
イベント 今昔館で夏祭り ― 楽市町家 ―

町家の店先で、手作りの玩具や、かわいい和風雑貨を販売します。
13時~16時

8月11日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00

8月16日(金)
ワークショップ 『つまみ細工で作るアクセサリー』

13時30分~15時00分
当日先着20名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

8月17日(土)
町家衆イベント 折り紙(有料)

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00


8月18日(日)
町家衆イベント 紙芝居

昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時



町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00


町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00


イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時




そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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