今回は「浪華の賑ひ」の「梅屋敷」をご紹介します。
■梅屋敷
この地は上の宮より乾の方にして、生玉馬場先の東にあり。園中に数株の梅を植ゑつらね、樹下に席を設く。さる程に如月の花の頃には清香四方(よも)に薫じて、道行く人も唯に過ぐることを得ず。もとより風流(みやび)の好士等むれ集ひて遊観す。
また、予ては菊を作りて長月のはじめより花壇をひらきて遊客をなぐさむ。実(げ)に春秋ともに美景なる勝地なり。もと、この梅やしきといふは東都亀戸にありて、世に名高く聞こえたるを、文化初年の頃これを模してかくはなれる所なり。
浪華の賑ひ「梅屋敷」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
浪花百景にも「梅やしき」がありますので、見てみましょう。
■梅やしき(芳瀧画)
現在の近鉄上本町駅周辺、いわゆる上六界隈には梅屋敷という梅見の名所がありました。園内に梅を植えつらね、樹下に席を設けて風流の士に供しました。評判をとった江戸の亀戸にあった梅屋敷に倣って文化初年(19世紀初頭)に作られたといわれます。
園内の梅林の元では謡や舞い、連歌や俳句、双六など思い思いに宴席が設けられました。江戸時代は花見といえば桜ですが、梅の清香を楽しむ風流な観梅も好まれ、四天王寺に向かう道すがら多くの人が早春の花を楽しみました。
往時このあたりは市塵を遠ざかっていたといわれますが、現在はビルの谷間となっています。
手前に花がいっぱいの梅の木、その下を歩く花見の客、遠景には宴席が描かれています。右手前には立って歓談する3人の男たち、瓢箪の中はお酒でしょうか?短冊は無地の赤とブルーが使われ、色紙はブルーで横縞が入っています。タイトルは「浪花百景」、絵師は芳瀧で、彫り師の名前は省略されています。
浪花百景「梅やしき」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
また、幕末から明治初年に初代長谷川貞信によって描かれた浪花百景にも「梅屋敷」があります。
■梅屋敷
生玉のひがし、桃畑のうちにありて、
梅林一園の柏戸(りょうりゃ)なり。
盛りの頃は数株の梅花薫々として四方に散じ、
雑人・墨客ここにつどひて風雅に遊び、
花に諷ふありさま実に春興此に尽すといふべし。
殊更近年あらたに造作なして、美楼・宴席風流をつくし、
又此辺の土をもつて陶器を作り、是を土産にひさぐなど、
すべて風雅の佳景をまして浪花遊観の勝地となれり。
貞信浪花百景「梅屋敷」(大阪府立図書館蔵) |
天保年間発行の「浪華名所獨案内」には、生玉宮の「馬場先」の東、八丁目寺町通トモ云と書かれた通りに面して「梅ヤシキ」が描かれています。現在の上町筋の東にあったことがわかります。挿絵もついていて、モデルルートにも入っています。
浪華名所獨案内(「津の清」蔵・上が東です) |
文化3年(1806)発行の増修改正摂州大阪地図をみても、同様に、梅屋敷の表示はありません。
天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵) |
増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより) |
大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると生魂神社から右上に延びる道が馬場先で、市電の走る上町筋に至っています。市電の「上本町七」の停留所の東側に梅屋敷があったものと思われます。
大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵) |
昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「生玉神社」から右に延びる道に赤い文字で「馬場先」と表示があり、市電の「上本町七」停留所に至ります。その右に大きく「大軌電車」「大軌百貨店」の文字と挿絵があります。梅屋敷はこの辺りにありました。
大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵) |
今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
左上の明治41年では、地図の左端の生國魂神社から右手に延びる道をたどると「石ヶ辻町」の文字があります。その「町」の字の辺りが「梅屋敷」があった場所と思われますが、地図には表示はありません、
右上の昭和22年を見ると、白くなっている部分が戦災によって焼失した地域で、幹線道路沿いのビル以外は全焼となり大きな被害を受けています。上町筋と千日前通りに市電が走っています。交差点の南東(右下)に「うえほんまち」駅が見えます。
明治41年から最近の地形図(今昔マップ3より) |
左下の昭和42年を見ると全域が市街地化しています。石ヶ辻町の文字の上に、「うえほんまち」のターミナルがあります。市電はまだ健在です。
右下の最新地理院地図では、近鉄百貨店の南にYUFURAが完成しています。上町筋と千日前通りの市電は廃止され、谷町筋と千日前通りに地下鉄が通っています。
現在の様子を写真で見てみましょう。
1枚目の写真は、現在の上本町六丁目の交差点から南を見たものです。上町筋を挟んで左に近鉄百貨店、右に上本町ハイハイタウンがあります。梅屋敷は上町筋の東側にありましたので、左手の近鉄百貨店やその南のYUFURAのあたりにあったものと思われます。
上本町交差点の近鉄百貨店と上本町ハイハイタウン |
上町筋の南から見ると、近鉄百貨店の南に上本町YUFURA(ユフラ)があります。上本町YUFURAは、2010年8月に近鉄大阪上本町駅南側に誕生した、新歌舞伎座とショップ、オフィスからなる複合ビルです。近鉄百貨店とオフィスビルの間に新歌舞伎座があります。
近鉄百貨店と上本町YUFURA |
奥に新歌舞伎座 |
YUFURAの建物の周囲には、かつてこの辺りに「梅ヤシキ」があったことに因んで梅の並木が植えられています。
YUFURAの周囲には梅の並木 |
梅の並木 |
今回は、「浪華の賑ひ」の「梅屋敷」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
〇企画展「大大阪時代に咲いたレトロモダンな着物たち~北前船(きたまえぶね)船主・大家(おおいえ)家のファッション図鑑~」開催中。
残りわずかとなりました。9月1日(日)までです。
江戸時代後期から昭和戦前期まで、北前船の船主として(明治中期以降は汽船会社を経営)繁栄した大家七兵衛家には祖母・母・娘へと3代にわたって引き継がれた大正・昭和期の着物が数多く残されています。この貴重な着物類が、大阪くらしの今昔館に寄贈されたのを機に、展示公開する運びとなりました。
これらは船主ならではのイベント、進水式で着用された振袖をはじめ、留袖や訪問着などの礼装、小紋のおしゃれ着、銘仙の普段着のほか、お宮詣りや七五三、十三詣りの子供用の晴れ着など多岐にわたっています。華やかで大胆な柄、洗練された幾何学模様、斬新な色使いに、大正ロマン・昭和モダンの時代の雰囲気を感じることができます。
〇今週のイベント・ワークショップ
今昔館は9月2日(月)から6日(金)まで、展示替えのため休館となります。
9月7日からは「商家の賑わい」の展示となります。江戸時代の大坂の店先を再現し、当時の賑やかな商家の様子を楽しめます。
8月28日(水)~31日(土)、9月7日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
9月1日(日)、8日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
9月1日(日)
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00
9月8日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00
9月11日(水)
イベント 町家寄席-落語
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
梅屋敷の詳細素晴らしいです。私の曾祖父岡本半兵衛が一時期この梅屋敷を所有していたと聞いていたので色々調べていましたがこれほど詳細に調べている資料には出会えませんでした。うれしいです。
返信削除続きです。私の曾祖父岡本半兵衛は梅屋敷を住居とし道頓堀角座前で写真館『梅香軒』を明治35年1902年に創業し現在私が5代目の当主として株式会社岡本スタジオを経営しています。今年創業120周年目にあたりこのような資料と巡り会えたのは本当に嬉しく思います。100年企業として紹介していただいたので紹介させた頂きます。 株式会社岡本スタジオ オーナーフォトグラファー岡本昇
返信削除http://blog.livedoor.jp/syoukeigijuku/archives/51055295.html