今回は「浪華の賑ひ」の「真言坂」をご紹介します。
■真言坂
生玉の社僧は貫首南坊をはじめ、余(ほか)九院あり。ゆゑにこれを十坊といふ。この坂を上れば左右おのおの寺院にして、悉く真言宗なるゆゑかくは号(なづ)けそめしなるべし。いづれも大師の御影堂ありて、浪花大師めぐりの札所なり。なかんづく、左の第一を桜本坊(さくらもとぼう)といひて、この寺内に秋葉権現の祠・観音堂等ありて詣人殊に多し。
浪華の賑ひ「真言坂」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
浪花百景にも「真言坂」があります。一昨年の「第9回なにわなんでも大阪検定(上級)」に出題されました。有栖川有栖さんの「幻坂」の文章を読み空欄を埋める記述式問題で、「真言坂」「浪花百景」が正解でした。「幻坂」の本文は「浪花百景」ですが、錦絵のタイトルは「浪速百景・真言坂」ということで、「浪花百景」「浪速百景」「浪華百景」の3つとも正解と認められたようです。
■真言坂(国員画)
上町台地の西側には起伏に富んだ地形が坂を形成、いわゆる「天王寺七坂」と称して趣ある風景を作り出しています。その一つの真言坂は、当時は高津宮参道と生国魂神社北門を結ぶ坂で、両神社への参拝者で周辺はにぎわいました。
生国魂神社の神宮寺は真言宗の法案寺で、同寺は別当南坊以下、医王院、観音院、桜本坊、新蔵院、遍照院、曼荼羅院、持宝院、覚園院、地蔵院という塔頭十ヶ寺を擁していました。俗に生玉十坊と総称されたこれらの塔頭の内、南坊、医王院、観音院が神社から北へ下る坂道の西側に並び、対面する東側には遍照院、新蔵院、桜本坊の3ヶ寺が並んでいました。そのためこの坂は一般に真言坂と称されました。浪花大師巡りの札所としても知られていました。しかし、明治の神仏分離で塔頭寺院は神社周辺を離れました。
錦絵のタイトルは「浪速百景・真言坂」となっています。理由はよくわかりませんが、絵によって「浪花」「浪華」「浪速」が使い分けられています。
浪花百景「真言坂」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブより) |
また、幕末から明治初年に初代長谷川貞信によって描かれた浪花百景にも「生玉真言坂」があります。
■生玉真言坂
真言坂は道頓堀樋の上より生玉にいたる道路にして、ことに此辺の寺院多く真言宗なれば、月毎の大師巡り、又は彼岸会等に詣人の往来たへず。実に江南第一の繁花といふべし。
貞信浪花百景「生玉真言坂」(神戸市立博物館蔵) |
摂津名所図会にも「生玉真言坂」があります。こちらは鳥瞰図的に描かれています。石段の上に生玉十坊が並んでいた様子がわかります。
摂津名所図会「生玉真言坂」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
天保年間発行の「浪華名所獨案内」には、「生玉宮」と「高津宮」の間に東西方向の通りが1本あり、谷町筋との交差点に「梅ガ辻」があります。「梅ガ辻」は現在も谷町筋の跨道橋の名前として残っています。
この通りは現在の千日前通りよりも1本北側の道と推定され、この通りと生國魂神社北門の間に真言坂があったものと思われます。藍色の線は、モデル観光ルートを示しています。
浪華名所獨案内(「津の清」蔵・上が東です) |
天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、生玉宮の北側に、「南坊」「医王イン」「観音イン」「桜本坊」「真蔵イン」「遍照イン」などの寺院が並んでいます。真言坂は「高津(宮)」の近くまで続いていたことが伺われます。
天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵) |
大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」の生魂神社付近を見ると、神社の北側に千日前通りが通り、市電が走っています。「下寺町」から「谷町九」に向かって上り坂になっていますが、市電が走れるように埋め立てられて真言坂が分断されてしまったようです。
大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵) |
昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「生玉神社」から北へ真言坂を下り、市電が走る千日前通りを渡って北へ進むと「高津神社」へ向かうことができたようです。
大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵) |
今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
左上の明治41年では、上町筋、千日前通りともに拡幅前で、北にある高津神社へと道続きでした。
右上の昭和7年を見ると、生國魂神社と高津神社の間に千日前通りができて、市電が走っています。上町筋も拡幅されて市電が走っています。
明治41年から最近の地形図(今昔マップ3より) |
左下の昭和42年を見ると、戦災から復興して全域が市街地化しています。2つの神社の間に等高線が何本も見え、高低差が分かります。市電はまだ健在です。神社の西の松屋町筋の西側の堀が埋め立てられて、高速道路が通っています。
右下の最新地理院地図では、千日前通にも高速道路が通り、神社の北側にランプが設けられ、横断ができなくなりました。上町筋と千日前通りの市電は廃止され、谷町筋と千日前通りに地下鉄が通っています。
現在の様子を写真で見てみましょう。
1枚目の写真は、千日前通りから見た真言坂、2枚目は真言坂の生國魂神社北門前付近、3枚目と4枚目は北門側から見た真言坂です。5枚目は、坂の途中にある「右京道」の石碑です。右へ進むと熊野街道を経て八軒家浜につながるという意味でしょうか。6枚目は、真言坂と千日前通りの交差点から北を見た様子です。高速道路のランプによって分断され、横断するには東の谷町筋か、西の松屋町筋まで大回りする必要があります。生國魂神社北門から高津神社へまっすぐ行けなくなったことは残念です。
現在の真言坂 |
現在の真言坂の生國魂神社付近 |
生國魂神社北門から見た真言坂 |
北門前から見た真言坂 |
「右・京道」の碑 |
真言坂と千日前通りの交差点から北を見る 高速道路のランプによって分断されています |
今回は、「浪華の賑ひ」の「真言坂」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
〇展示替えについて
大阪くらしの今昔館は、9月7日(土)から、「商家の賑わい」の展示となりました。
江戸時代の大坂の店先を再現し、当時の賑やかな商家の様子を楽しめます。
9月10日(火)以降は通常通り、毎週火曜日が休館日となります。9月のカレンダーは、こちらでご確認ください。
≫ http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=201909
〇今週のイベント・ワークショップ
9月11日(水)~14日(土)、18日(水)~21日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
9月15日(日)、16日(月・祝)、22日(日)、23日(月・祝)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
9月11日(水)
イベント 町家寄席-落語
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時
9月14日(土)
町家衆イベント ワークショップ『組ひもでストラップをつくろう』
①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆
9月15日(日)
町家衆イベント 紙芝居
昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時
町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00
町家衆イベント 連鶴(有料)
折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
14:30~中級者以上向け
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00
イベント 今昔庵茶会―お煎茶―
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
当日先着50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
13時~15時30分
9月21日(土)~22日(日)
イベント 彼岸の屋台
「のぞきからくり」や「宝引き」など・・
昔ながらの遊びは、大人も子どもも楽しめます
13時~16時
9月22日(日)
今日は「どっぷり」今昔館!
大阪くらしの今昔館をミュージアムボランティア町家衆が半日間たっぷりとご案内します。今昔館にどっぷりと浸かってください。
当日は「彼岸の屋台」開催中で、「のぞきからくり」や「宝引き」など、昔ながらの遊びは、大人も子どもも楽しめます。
参加費は無料、今昔館の入館料(600円)が必要です。
12:45に、大阪くらしの今昔館8階エントランス前集合。
12:45~15:15 9階江戸時代のフロア、彼岸の屋台
(13:10~ 風呂屋シアター)
15:25~17:00 8階近代のフロア
(15:30~ 住まいの劇場)
途中からの参加、途中までの参加も可能です。
詳細と申し込みはこちらからどうぞ。
https://www.facebook.com/events/2715247875176595/
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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