2019年9月5日木曜日

今週の今昔館(179) 生玉社 20190905

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(16)

 今回は「浪華の賑ひ」の「生玉社」をご紹介します。

■生玉社
 本社の後辺(しりへ)の舞台より西の方を遙かに見わたせば、市中の万戸は甍(いらか)の波のごとく、河口の帆柱笋(たかんな)の繁るに似たり。洋々たる碧海(あをうみ)に千船百船(ちふねももふね)の出で入る白帆の光景(ありさま)、げに類なき眺望といふべし。
 また、社頭に桜の木多く、弥生の幽艶斜ならず。門前の池には夏日、蓮の花紅白をまじへて咲き乱れ、荷葉の匂ひ四方(よも)に芳(かんば)し。

浪華の賑ひ「生玉社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 浪華の賑ひの本文には、次のように紹介されています。
■生魂神社
馬場先の正面にして、石鳥居は谷町の辻にあり。
祭神生魂命・大国主命なり。『延喜式』に曰く「生国魂二座」と云々。社頭に末社許(あまた)あり。本地堂の本尊は薬師如来にして、聖徳太子の御作と聞こゆ。大師堂は本地堂の左に並ぶ。歓喜天の宮は北の方にあり、近世本社の後辺(しりへ)に舞台を建営ありて、瞻望(せんもう)ひとしほによし。

 浪花百景には「生玉絵馬堂」と「生玉辨天池夜景」がありますので、見てみましょう。

■生玉絵馬堂(国員画)
 生国魂神社は生島神・足島神を祀る「延喜式」式内大社です。「日本書紀」の大化元年(645)孝徳天皇即位前紀に「仏法を尊び、神道を軽(あなど)」った孝徳天皇が「生国魂社の樹を斮(き)」ったと記されるほどの古社で、「難波大社」とも称されました。
 もともとは、石山本願寺(大坂城地)近傍に鎮座しましたが、信長の石山合戦の際に焼失。秀吉の寄進により現在地に遷座したと伝えられます。
 西側は上町台地の断崖で、安政年間(1854~1860)頃、絵馬堂が作られ、難波津から六甲山系、淡路の島影まで見渡せる絶景が好まれました。西鶴の俳諧興行、近松の「生玉心中」など文芸とのつながりも深い土地です。

浪花百景「生玉絵馬堂」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブより)

■生玉辨天池夜景(芳雪画)
 生国魂神社の東門の前には、かつては池があり、中央の島に弁天宮が祀られていたため一般に弁天池と称せられました。弁天宮の南側部分には白蓮が、北側には紅蓮が一面に植えられて、蓮の香りが四方に芳しく、江戸時代には幽玄な蓮見の名所として知られていました。
 池畔の料理屋では蓮葉飯や蓮酒が供され、季節の風流を楽しめました。

浪花百景「生玉辨天池夜景」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブより)

 摂津名所図会にも「生玉神社」と「生玉神社流鏑馬」があります。こちらは鳥瞰図的に描かれていて、境内の様子がよくわかります。

摂津名所図会「生玉神社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
摂津名所図会「生玉神社流鏑馬」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保年間発行の「浪華名所獨案内」には、「生玉宮」が絵入りで描かれています。東側には鳥居があり、東へ「馬場先」が延びています。藍色の線は、モデル観光ルートを示しています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵・上が東です)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、生玉宮から右手(東)に馬場先がのび、鳥居が描かれています。馬場先の北に「弁才天」、南に「北ムキ」の文字が見えます。本殿の北側に描かれているお堂が絵馬堂でしょうか。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」の生魂神社付近を見ると、神社の右上(東側)に、辨天池が描かれています。この時代には、まだ池があったのですね。神社から右上に延びる道が馬場先で、谷町筋の手前に鳥居があり、市電の走る上町筋に至っています。

大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「生玉神社」から右に延びる道に赤い文字で「馬場先」と表示があり、市電の「上本町七」停留所に至ります。千日前通りを挟んで北側には「高津神社」があります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治41年では、地図の左端の生國魂神社から右手に延びる道をたどると「石ヶ辻町」の文字があります。上町筋、千日前通りともに拡幅前で、北には高津神社があります。
 右上の昭和22年を見ると、白くなっている部分が戦災によって焼失した地域で、幹線道路沿いのビル以外は全焼となり大きな被害を受けています。上町筋と千日前通りが拡幅されて市電が走っています。

明治41年から最近の地形図(今昔マップ3より)

 左下の昭和42年を見ると全域が市街地化しています。石ヶ辻町の文字の上に、「うえほんまち」のターミナルがあります。市電はまだ健在です。神社の西側の堀が埋め立てられて、高速道路が通っています。
 右下の最新地理院地図では、千日前通にも高速道路が通り、神社の北側に出入口が設けられています。上町筋と千日前通りの市電は廃止され、谷町筋と千日前通りに地下鉄が通っています。


 現在の様子を写真で見てみましょう。

 1枚目の写真は、生國魂神社の鳥居、2枚目と3枚目は拝殿です。4枚目は、拝殿の北側にある「天満宮」「住吉社」「皇大神宮」です。摂津名所図会に描かれている境内の様子から見ると、皇大神宮のある辺りに絵馬堂があったものと思われます。
境内には、多くの摂社があり、米澤彦八の碑、井原西鶴像、織田作之助像などがあります。

生國魂神社鳥居
生國魂神社拝殿
生國魂神社拝殿
生國魂神社天満宮・住吉社・皇大神宮
米澤彦八の碑
井原西鶴像
織田作之助像
境内には多くの摂社があります


 今回は、「浪華の賑ひ」の「生玉社」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。


〇企画展「大大阪時代に咲いたレトロモダンな着物たち~北前船(きたまえぶね)船主・大家(おおいえ)家のファッション図鑑~」は、終了しました。
 多くのみなさまのご来場ありがとうございました。



〇展示替えに伴う休館について
 大阪くらしの今昔館は、9月2日(月)から6日(金)まで、展示替えのため休館となります。
 9月7日(土)からは、「商家の賑わい」の展示となります。
 江戸時代の大坂の店先を再現し、当時の賑やかな商家の様子を楽しめます。


 なお、9月10日(火)以降は通常通り、毎週火曜日が休館日となります。
 9月のカレンダーは、こちらでご確認ください。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=201909



〇今週のイベント・ワークショップ
9月7日(土)、9日(月)、11日(水)~14日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

9月8日(日)、15日(日)、16日(月・祝)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


9月8日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00


9月11日(水)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

9月14日(土)
町家衆イベント ワークショップ『組ひもでストラップをつくろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

9月15日(日)
町家衆イベント 紙芝居

昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時

町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00

町家衆イベント 連鶴(有料)
折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:13:30~初心者向け
    14:30~中級者以上向け

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

イベント 今昔庵茶会―お煎茶―
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
当日先着50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
13時~15時30分


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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