2020年11月11日水曜日

今週の今昔館(240) 淀小橋 20201111

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(20)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、大坂から京都までの淀川左岸(川の流れから見て左側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「淀小橋」をご紹介します。淀城の北側で宇治川に架かっていた橋です。現在は宇治川が淀城の南側に付け替えられたため、橋の痕跡はありません。京阪電車淀駅の北西すぐ、納所(のうそ)交差点の手前あたりになります。

■淀小橋
 淀城に続く一枚には城郭の北側に架かる淀小橋が描かれています。絵の解説は次のとおりです。

≪橋の北詰に三嶋屋といふよき貨食店(りやうりや)あり。淀上がりの人はかねて蒿子(かこ)に約し置きて、此岸に船をよせて上陸す。是より宇治川の下流急なれば、綱引きの人夫を加ふるを例(ならひ)とす。伏見にいたる客衆も、やがて着船の支度に心いさみ、彼の柱本(はしらもと)の河堀に狸寝入せし親仁(おやぢ)も、目をひらきて綱引の割銭(わりせん)を出だす。彼方(かしこ)には荷物のふろしきをしめ直し、此方(こなた)には弁当の余りを調ぶるなど、皆、船中の通情なり。

橋の灯も おぼろに明けて 水ぐるま 千山≫

 小橋の界隈には多くの旅籠や茶店が軒を連ねていました。そのなかのひとつ、北詰にあった「三嶋屋」はすこぶる評判がよく、淀で船を降りる上り船の客に人気があったそうです。

淀川両岸一覧上船之巻「淀小橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 淀川筋でも淀小橋の辺りは特に流れが急で、その上橋脚の下は水流が巻いていて危険でした。棹の操作を誤れば、船を橋脚にぶつけ大事故になります。このため、橋脚には鉄燈籠が釣り下げられ、終夜灯火し、通船の便りとしました。

 淀小橋を過ぎると宇治川の流れは速さを増します。淀からの曳き船の場合も、通常は四人である水主(かこ)を増員し、船を川岸から綱で曳きつつ伏見をめざすのが慣例でした。人夫を増員すると当然割り増し料金を取られます。他の場所なら話は別ですが、船頭も船客も緊張する淀の辺りでは狸寝入りをすることもできず、むしろここまで来ると、船客も着船の支度に心が勇み、金払いも良かったと言います。

 橋を越え最後の曳き船が始まると、船内は急にざわめきたちます。荷物の風呂敷包みの口を締め直す人があるかと思うと、弁当の余りを確かめる人もいるといった様子です。長かった上りの船旅もそろそろ終着となります。

 また、淀小橋の上流、納所(のうそ)には過書船の番所があったと言います。通常、風雨をしのぐため、船には苫が葺いてありました。ただし、番所を通過する際にはこの苫を開けさせ、船中を改めたのです。そもそも納所という地名は、船で運ばれてきた物資を「納」め置く場「所」だったことにちなみます。往古より川の道の要衝として機能していたことが知られます。そのため、江戸時代には大坂から淀川を上ってきた朝鮮通信使が使用したという船着き場がありました。現在は、旧京阪国道の納所交差点から千本通を少し上がった場所に、「唐人雁木(がんぎ)旧跡」と刻まれた石碑だけが残っています。


 前回ご紹介した其五と淀小橋は、並べるとパノラマになります。また、淀大橋から淀小橋までの7枚はすべてつながり超ワイドなパノラマになります。クリックすると多少大きくなります。

淀川両岸一覧上船之巻「淀城其五、淀小橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

淀川両岸一覧上船之巻「淀大橋から淀小橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 本文は次のとおりです。淀小橋から巨椋大池の全文を掲載しておきます。
■淀小橋
 城郭の上にあり。長さ七十六間、橋下の大間に鉄燈炉(かなどうろ)を釣り終夜(よもすがら)灯を燈じ通船の便(たより)とす。美豆よりこの所まで水上およそ十二丁十間といふ。
■伊勢向宮(いせむかひのみや)
 小橋の東にあり。天照太神をまつる。この所浮島なり。洪水の時といへどもあぶるることなし。この傍を大池口といふ。
■巨椋大池(おぐらのおほいけ)
 川すぢの傍にあり。前に葭島ありて船中よりは見えず。おぐらの入江とも伏見の大池ともいふ。長さ二十九町、幅十五町といふ。


 次に、大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の淀小橋から上流にかけてを見てみましょう。
 図の右端の淀城の傍を通り過ぎた京街道は、小橋を渡り宇治川の右岸を川に沿って進みます。街道に沿って船頭たちが綱で引き上げる三十石船が描かれています。宇治川の流れが急な箇所で、上り船の最後の曳舟となります。
 小橋の左手に「浮嶋明神」が描かれ、「大池」「一口村」「いちたむら」「佐古むら」の文字が見えます。それぞれ、巨椋池、一口(いもあらい)、市田村、佐古村で、明治42年の地形図で確認することができます。なお、この絵は、宇治川の北側の上空から見た風景を描いています。絵の左手が上流側で、宇治川を遡ると伏見に至ります。


「よと川の図」の淀小橋付近(大阪くらしの今昔館蔵)


 淀付近の地域の変遷は、前々回ご紹介した内容と重なりますので、簡単にご紹介します。
 明治42年の地形図では、宇治川は淀の町の南側に付け替えられた後ですが、旧宇治川の川筋が残っており「小橋」の文字も見えます。京街道の道筋も読み取ることができます。
 最新の国土地理院地図では、旧宇治川が埋め立てられて市街地化しており、川筋をたどることは難しくなっています。ここでは、地理院作成の「明治期の低湿地」を重ねましたので、水色の部分が旧宇治川の川筋です。納所(のうそ)交差点は、旧街道の交差する所に斜めに旧国道1号線が通ったため、変則的な交差点になっています。

明治42年陸地測量部地図+明治期の低湿地
最新の国土地理院地図+明治期の低湿地

 地理院の空中写真です。図の中央やや下の濃い緑のところが淀城跡です。この写真から、付け替え前の宇治川の川筋をたどることは難しいと思われます。

国土地理院空中写真

 最後にもう1枚、当時の景観に最も近いと思われる明治22年陸地測量部地図(仮製地図とも呼ばれる)を掲載しておきます。測量技術の水準が現在と異なるため、正確な比較は難しいですが、当時の大まかな地形を見ることができます。
 宇治川は付け替え前の流れが描かれています。現在よりも北側、淀城よりも北を流れていました。木津川は明治初年に付け替え工事が行われ、地図の左下の八幡付近で淀川と合流しています。付け替え前には地図に「木津川旧河道」と示したところを流れていました。淀から伏見までの京街道の道筋も確認することができます。
 付け替え工事前には淀城の北側で桂川と宇治川が合流し淀川となり、城の西側で木津川と合流していました。淀城は、まさに水に浮かぶ要塞のようであったと想像できます。

明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵


 今回は、「淀川両岸一覧」の「淀小橋」をご紹介しました。淀周辺は木津川・宇治川の付け替え工事などによって地形が大きく変わっていますので注意が必要です。


〇企画展「景聴園×今昔館 描きひらく上方文化」開催中です

 令和2年11月4日(水)~11月23日(月・祝)

 「景聴園(けいちょうえん)」は京都で日本画を学んだグループです。80〜90年代生まれの関西出身の作家5名と企画を担当する2名が所属し、2012年に結成されました。同世代でありながらも異なる制作スタイルを持つ作家たちを中心に、日本画を通して文化と歴史を再考することで絵画のあり方を見つめ、日夜議論を重ねながら制作と発表を続けてきました。第6回目を迎える今回の展示は、大阪での初開催となります。
 大阪くらしの今昔館は、大阪における住まいの歴史を紹介する一環として、江戸時代を中心に近代までの美術・歴史資料を所蔵しています。それらは床の間や座敷で掛軸や屏風として、生活の中を彩るものとして、生活に取り入れられてきました。時代の流れとともに住まいは郊外にうつり、座敷を持たない家も増え、生活の中で日本画に親しむ機会も少なくなってしまいました。しかし現在も、連綿と続いてきた日本画の歴史を継承して学び、絵を描くことについて問いかけながら制作活動をつづける人たちがいます。
 景聴園の作家たちは当館で展示をするにあたり、所蔵品の熟覧を重ねることで大阪の歴史と文化から着想を得て、それぞれのテーマを設けました。本展では、5者5様のアプローチによって描き出された景聴園の新作を中心に今昔館の所蔵品も交えながら、上方で発展してきた都市文化が持つ奥深い世界を展開します。

上坂秀明「ナゾトキヤマ」2017年
合田徹郎「霊猫/狼/インターフェース」2019年
服部しほり「仙」2019年
松平莉奈「菌菌先生」2016年
三橋卓「つなぎとめる方法」2019年


 

〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会などのイベント)
・町家衆による各種ワークショップ


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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