2022年3月9日水曜日

今週の今昔館(309) 近代の大阪「高麗橋」 20220309

〇今昔館の近代展示室の見どころ(21) 近代の大阪「高麗橋」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されています。
(追記:令和4年10月29日(土)から全面開館しています。)


 今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室の入り口に展示されている近代の大阪「高麗橋」をご紹介します。

 大阪市のホームページによると、高麗橋(こうらいばし)は、大阪城の外堀として開削された東横堀川に架かる橋で、慶長9年(1604)には擬宝珠(ぎぼし)をもつ立派な橋となっていた。現在大阪城天守閣に保存されている慶長9年の銘のある鉄製擬宝珠はこの橋のものと伝えられている。高麗橋という橋の名の由来には諸説あるが、古代・朝鮮半島からの使節を迎えるために作られた迎賓館の名前に由来するというものと、豊臣秀吉の時代、朝鮮との通商の中心地であったことに由来するというものが主なものである。

 高麗橋通には元禄時代から三井呉服店(三越百貨店の前身)や三井両替店をはじめ様々な業種の店が立ち並び、人々の往来が絶えなかった。

 江戸時代に交通の要所など重要地点に架けられ、幕府が直接管理する橋を公儀橋と呼び、大坂には12の公儀橋があったが、この高麗橋は公儀橋の中でも特に重要視されていた。橋の西詰には幕府の御触書を掲示する制札場があったほか、諸方への距離をはかる起点にもなっていた。明治時代には里程元標がおかれ、西日本の主要道路の距離計算はここを起点として決められた。

 明治3年(1870)9月、イギリスより輸入された鉄橋に架け替えられ、「くろがね橋」とよばれていた。現在の橋は昭和4年(1929)6月に架けられた鉄筋コンクリート製のアーチ橋で、橋長:62.54m、幅員:11.00mである。欄干の擬宝珠や西詰にあった櫓屋敷(やぐらやしき)を模した親柱が、昔の面影をしのぶよすがとなり、橋の歴史を物語っている。


 近代のフロア入口に展示されている写真は、明治3年(1870)9月、大阪で最初の鉄橋に架け替えられた高麗橋です。橋の東側から西を見た姿で、鉄製の橋桁が写っています。対岸の西詰には櫓屋敷があり、白壁の蔵も写っています。水上には外輪船も見えます。

 江戸時代の高麗橋の姿は「浪華の賑ひ」に描かれています。

 高麗橋 当橋詰の左右に城郭にひとしき矢倉あり。号(なづ)けて矢倉屋敷といふ。また、堺すぢ平野町の角にも、かくのごとき櫓あり。浪花市中の奇観なり。さて、恵比須屋の呉服店をはじめ、玉露堂の団扇店(あふぎみせ)、岩城三井の呉服店、虎屋伊織の菓子店、そのほか種々の商家軒をならべ、交易に暇なく、至って賑はし。この地西は西長堀、北は大川、南は長堀、東はこの川を限りとしてすべて船場と称す。
 月雪のちまたに暮れてかざり竹 鼎左

浪華の賑ひ「高麗橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 「浪華の賑ひ」の本文には以下のように記載されています。
高麗橋 東堀に渡せり。此川すじ十三橋の内、川上より第三の橋にして高欄壮観なり。
凡そ大阪よりして諸方に至る行程の里数を此橋よりして定るを例とす。この川を東堀と号し、是より東を上町という。西を船場と称す。当橋の上なるを今橋と号す。此橋筋の船場の方を俗に内町と号し、名に聞えたる冨家、豪家軒をつらぬ。又此辺より北を北浜という。此に金相場とて日毎に市中の両替屋あつまり、金の売買をなし、相場を立てて金の価を定む。是は堂島に於いて米の価を定むるとは異にして、又浪花の一奇というべし。


 「摂津名所図会」には高麗橋と三井呉服店が描かれています。江戸時代高麗橋には道路元標があり、京街道(東海道五十七次)、暗峠奈良街道などの街道の起点となっていました。橋の西詰には通りを挟んで南北に矢倉屋敷が建ち、高麗橋通りには三井呉服店、岩城呉服店などの大店が軒を連ねていました。
 三井は、東海道五十七次の両端である江戸の日本橋と大坂の高麗橋に店を構えたといわれています。


摂津名所図会「高麗橋矢倉屋敷」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
摂津名所図会「三井呉服店」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 浪花百景には高麗橋は描かれていませんが、1つ上流側の「今橋」の「つきぢの風景」があります。

浪花百景「今橋つきぢの風景(国員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 大川から分かれた東横堀川の流れはまず葭屋橋(奥の橋)をくぐり、息つく間もなく今橋(手前の橋)をくぐります。今橋は南の高麗橋とともに豊臣時代から架橋されていた橋で、この堀川は大坂城の外堀の役割を持ち、真っ先に整備されて船の通行も多かったといわれます。
 葭屋橋の西詰(左側)は天明3年(1783)に新たに造成された新地で、「築地」あるいは「蟹島新地」と呼ばれました。葭屋橋はこの新地と東横堀東岸とを結ぶためにその際に新設された橋。眺めの良い築地は料亭や旅館が軒を連ねる街で、遊郭も開かれ、船場の旦那衆が遊楽の場へ出入りする架け橋となりました。
 今橋の北には北浜、西側には天王寺屋や鴻池屋など名だたる大両替商が集まり、当地の繁栄はのちの証券取引所に引き継がれます。

 つぎに、「浪華名所獨案内」の高麗橋付近を見てみましょう。
 天神橋の下流で大川から東横堀川が分岐し、上流側からヨシヤバシ、今バシ、カウライバシが架かっています。今橋通りには「平五」「天五」「鴻ノ池」といった両替商が軒を並べ、高麗橋通りには、岩城、三井の呉服店、三井両替店、スルガヤ、虎屋マンヂウが並んでいます。船場の中でも特に大店の集まるエリアでした。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保新改攝州大坂全圖を見ると、今橋、高麗橋の名前は見えませんが、通り名や〇丁目などは詳しく表示されています。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正3年発行の大阪市内詳細図です。葭屋橋に市電が走り土佐堀通が拡幅されたことにより、今橋よりも葭屋橋の交通量が増えています。堺筋が拡幅されて市電が走り、北浜の南の市電停留所(電停)は高麗橋になっています。一筋西側の難波橋筋に架かっていた旧難波橋と並んで、堺筋に「大川橋」が架かっています。旧難波橋の撤去後、大川橋が難波橋の名を引き継ぐことになります。

大阪市内詳細図(大正3年)
(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見てみましょう。市電が走る葭屋橋の様子と、今橋から高麗橋、平野橋にかけて、東横堀の両岸に白壁の蔵が並んでいた様子が描かれています。中之島公園が天神橋まで伸びてきています。

大阪市パノラマ地図(大正13年)
(国際日本文化研究センター蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、株式取引所と三越百貨店の挿絵が描かれ、その間を高麗橋通りが通っています。堺筋には、北浜二、高麗橋、平野町、瓦町に電停があったことがわかります。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 大阪で最初に鉄橋に架け替えられた高麗橋は、明治初年の錦絵にも描かれ、写真も残っています。また、昭和4年に架け替えられた鉄筋コンクリート製のアーチ橋も、当時の絵はがきになっています。あわせて、現在の高麗橋と今橋の写真も見てみましょう。東横堀川の川幅が狭くなり、上空を高速道路が通るようになって、風景がずいぶん変わったことがわかります。

浪花東堀鉄橋之図(長谷川貞信作)
(大阪くらしの今昔館蔵)
浪花繁栄東堀鉄橋図(二代歌川貞広作)
(大阪くらしの今昔館蔵)
明治初年の高麗橋(大阪市立図書館蔵)
明治初年の高麗橋(大阪市立図書館蔵)
明治初年の高麗橋(大阪市立図書館蔵)
昭和4年の高麗橋の絵はがき(大阪市立図書館蔵)
昭和4年の高麗橋(大阪市立図書館蔵)
現在の高麗橋
高麗橋の親柱
里程元標跡
里程元標跡の側面
高麗橋の顕彰碑
現在の今橋
今橋の顕彰碑

 今回は、近代のフロアの入り口に展示されている「高麗橋」をご紹介しました。つい見落としてしまいそうな展示ですが、じっくり見ると面白い写真です。展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、「高麗橋」や「今橋」を確かめてください。


〇企画展「浪花 なりわいづくし」開催中です

 2022年1月21日(金)〜2022年4月10日(日)

前期 1月21日(金)~2月27日(日)
後期 3月3日(木)~4月10日(日)

 江戸時代、米をはじめとして全国の農産物・海産物・名産品など様々な物資の集積地であった大坂は商業をはじめ、物流、金融の中心地となり経済都市として繁栄しました。一方で、摂津名所図会や浪花名所独案内に紹介されているように、市中には有名な社寺、料理屋、豪商の大店、桜や紅葉のみどころなど、諸国から人々が訪れる観光名所が生まれました。また、夜店で有名な順慶町や、道頓堀・曽根崎新地の芝居街などの盛場も形成され、市民や旅行者の娯楽の場として大変な賑わいをみせました。

 経済都市として、また観光都市、遊興都市として繁栄した大坂には、華やかな都市文化を支える多種多様な生業(なりわい)が成立しました。本展では絵画資料に描かれた「働く人々」の姿から、江戸時代の大坂で営まれた多種多様な生業を紹介します。生き生きと働く人々の姿を通して、大坂の活気と賑わいをお伝えします。

*前期と後期で展示の一部を入替えます。

 企画展示室内には、江戸時代における商家の座敷の再現や、重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵」の構造模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)など実物大の模型を設置し、2種の建築から住まいと暮らしの様相をお見せします。

*茶室「蓑庵」の実物大構造模型は前期のみの展示となります。(終了しました)

職人尽屏風 右隻部分(個人蔵)前期展示
職人尽屏風 左隻部分(個人蔵)後期展示
堂島穀あきない(部分)摂津名所図会
祭礼提灯引き札
虫売り(小西秀麿)
茶室「蓑庵」実物大模型
(公財)竹中大工道具館蔵



〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
(追記:令和4年10月29日(土)から全面開館しています。)


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。

 イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

 開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム





 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



0 件のコメント:

コメントを投稿