今回は、大坂の行事を12か月の月別に描いた二代長谷川貞信(はせがわさだのぶ)による画帖「浪花行事十二月」から「桜月 十三堤草つみ」をご紹介します。
江戸時代の大坂には諸国の物産が集積し、商業によって富み栄えた商人たちは文化的にも豊かな生活を送るようになりました。年中行事や季節に応じた行楽、寺社への参拝と祭礼などを盛んに行いました。このような都市生活の様子は、名所絵や浮世絵として様々な画家によって残されています。ここでは今昔館が所蔵する資料の中から、大坂の行事を12か月の月別に描いた、二代長谷川貞信(にだいはせがわさだのぶ)による画帖「浪花行事十二月」を紹介します。
作者の二代長谷川貞信は、嘉永元年(1848)に初代長谷川貞信の長男徳太郎として大坂に生まれました。慶応元年(1865)頃から小信の号で描き、明治8年 (1875)に父から貞信の名を譲り受け、二代長谷川貞信と称しました。
父の初代貞信は役者絵や「浪花百景」などの風景版画の分野を得意として、幕末から明治初年にかけて上方浮世絵界で活躍しました。二代貞信もその伝統を受け継いで役者絵を主に描いています。その他に神戸名所、浪花名所、浪花十二景などの風景画、玩具絵、武者絵、美人画、『日々新聞』の挿絵や銅版画を手がけています。
小信を名乗っている頃には、「播州神戸海岸繁栄之図」を初めとして神戸・大阪(川口)の居留地などを舞台に、鉄道、鉄橋、西洋館など明治初年の文明開化の風俗をよく描きました。また貞信を継いだ後は、錦絵新聞や西南戦争に題材を求めた錦絵を多く手がけました。銅版画や石版画が普及し、浮世絵の需要が衰えた明治10年(1877)以降には、商店の引き札や輸出茶の商標、芝居絵の番付なども描いています。昭和15年(1940)没。享年93。墓所は初代と同じ天鷲寺。法名は明徳院貞信遍照居士。
「浪花行事十二月」は帙(ちつ)入りの折本(1帖)、絹本着色、法量は本紙縦14.5 x 横20.5cm(総寸 20.8 x 26.9cm)、目次を含めて13面の図で構成されています。目次には小信の落款が、各月の場面 には「九十二翁 貞信」の落款があります。本作品が描かれたのは貞信の最晩年である昭和14年 (1939)ですが、江戸時代の後期に生まれ、江戸時代の風景と風俗の面影を残す町で育った貞信は、江戸時代の大阪の様子を回顧するように描いています。
■浪花行事十二月 桜月 十三堤草つみ
川沿いの堤に広がる草原で、着物をたすき掛けにし、籠を手に草つみに興じる人々の姿が描かれています。草つみをする家族を横目に持参した酒を楽しむ男性や、奥の屋台にも人が集まっています。川べりに腰掛ける男女や親子の姿もあり、春の十三の堤はうららかな気候を楽しむスポットであったことがうかがえます。
遠景に描かれるのは、中津川に架かる初代の十三大橋と推測します。木橋であった十三大橋は明治11年(1878)から明治30年(1897)まで架けられ、その後新淀川の開削によって中津川とともに取り壊されました。明治43年(1910)、新淀川に新たに鉄製の十三大橋がかけられました。
本図が描かれた昭和14年(1939)にはすでにこのような木橋の見える風景は失われていましたが、二代貞信はかつて見た光景を描いたのだと思われます。
(大阪くらしの今昔館研究紀要16号掲載の、学芸員服部麻衣さんの論文『資料紹介 二代長谷川貞信 「浪花行事十二月」』より)
浪花行事十二月 桜月 十三堤草つみ (大阪くらしの今昔館蔵) |
〇企画展「浪花 なりわいづくし」開催中です
2022年1月21日(金)〜2022年4月10日(日)
前期 1月21日(金)~2月27日(日)
後期 3月3日(木)~4月10日(日)
江戸時代、米をはじめとして全国の農産物・海産物・名産品など様々な物資の集積地であった大坂は商業をはじめ、物流、金融の中心地となり経済都市として繁栄しました。一方で、摂津名所図会や浪花名所独案内に紹介されているように、市中には有名な社寺、料理屋、豪商の大店、桜や紅葉のみどころなど、諸国から人々が訪れる観光名所が生まれました。また、夜店で有名な順慶町や、道頓堀・曽根崎新地の芝居街などの盛場も形成され、市民や旅行者の娯楽の場として大変な賑わいをみせました。
経済都市として、また観光都市、遊興都市として繁栄した大坂には、華やかな都市文化を支える多種多様な生業(なりわい)が成立しました。本展では絵画資料に描かれた「働く人々」の姿から、江戸時代の大坂で営まれた多種多様な生業を紹介します。生き生きと働く人々の姿を通して、大坂の活気と賑わいをお伝えします。
*前期と後期で展示の一部を入替えます。
企画展示室内には、江戸時代における商家の座敷の再現や、重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵」の構造模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)など実物大の模型を設置し、2種の建築から住まいと暮らしの様相をお見せします。
*茶室「蓑庵」の実物大構造模型は前期のみの展示となります。(終了しました)
職人尽屏風 右隻部分(個人蔵)前期展示 |
職人尽屏風 左隻部分(個人蔵)後期展示 |
堂島穀あきない(部分)摂津名所図会 |
祭礼提灯引き札 |
虫売り(小西秀麿) |
茶室「蓑庵」実物大模型 (公財)竹中大工道具館蔵 |
〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ
大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。
・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
一般 400円 団体(20名以上)300円
高・大生 300円 団体(20名以上)200円 *要学生証提示
【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。
【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。
イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。
開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
0 件のコメント:
コメントを投稿