大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室(江戸時代のフロア)および10階展望フロアが閉鎖されています。今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って正面のスクリーンの裏側にある「心斎橋筋商店街」をご紹介します。
心斎橋筋は近世から続く商いのまちです。近代にはショーウィンドーをしつらえ、とりどりの看板を掲げた華やかな店構えの商店が軒を並べ、消費文化・情報発信の中心地として賑わいました。心斎橋筋をウィンドーショッピングしながら歩く「心ぶら」は、都市生活の楽しみの一つとなっていました。
「心斎橋筋案内」は昭和2年(1927)に描かれた町並みのイラストで、各店舗の店構えが表情豊かに描かれています。模型では、心斎橋筋の東側、周防町から三津寺筋、宗右衛門町に至る町の賑わいを「心斎橋筋案内」をもとに再現しています。
模型は、通りに沿って並ぶ街並みと、通りを歩く人々が動く仕組みになっています。「廻る寿司」と同じ仕掛けを利用しています。
「心斎橋筋案内」(大阪くらしの今昔館蔵) |
昭和4年の心斎橋(「大大阪の時代を歩く」より) |
現在でも、心斎橋の周辺は、心斎橋筋商店街を中心に、百貨店、専門店、高級ブランド店などが集積する大阪市を代表する日本有数の繁華街です。
心斎橋筋の名前は、船場と島之内を分ける長堀川(現在は埋立。長堀通)に架かっていた心斎橋(橋梁)に由来し、単に船場と島之内を繋ぐにとどまらず、道頓堀川にも戎橋が架けられ、なおかつ、西横堀川(現在は埋立。阪神高速1号環状線北行き)寄りの道であったことから、道頓堀の芝居小屋と下船場の新町遊廓を結ぶ道として賑わいを見せるようになり、今日に至っています。
このように心斎橋筋は土佐堀川から道頓堀川まで南北に伸びる道ですが、船場においては心斎橋という認識は薄いです。これは、明治5年(1872)に心斎橋筋(1・2丁目)の町名が島之内においてのみ実施されたことに拠ります。
もともと心斎橋筋は、新町遊廓へ至る順慶町通と交差する船場側が栄えていました。順慶町通は夜市で知られ、煌々と照らされる街路は江戸から来た人々も驚くほどでした。しかし、松島遊廓の誕生や大火によって新町遊廓は衰退・焼失してしまい、南海難波駅や湊町駅(現・JR難波駅)の開業(道頓堀以南は「戎橋筋」と名称を変えますが難波駅前まで通じている)、大丸や十合(そごう)といった呉服店による百貨店経営の開始などにより、明治以降は島之内側が栄えるようになりました。なお、現在も船場側には、順慶町通を境に、せんば心斎橋筋商店街と心斎橋筋北商店街があります。
平成元年(1989)に島之内のうち堺筋~畳屋町筋間が東心斎橋、御堂筋以西が西心斎橋という町名になりました。しかし、現在も鰻谷(中之町・西之町)、大宝寺町(中之丁・西之丁)、東清水町、西清水町、千年町、玉屋町、笠屋町、畳屋町、周防町、八幡町、三津寺町、久左衛門町といった旧町名およびそれに基く筋や通の名称は健在で、御堂筋などの交差点名にも使用されています。千年町、玉屋町、笠屋町、畳屋町は、南北の道に沿ってまちが形成されているため、東西方向の周防町、八幡町、三津寺町は、周防町筋、八幡筋、三津寺筋と呼称されています。
東心斎橋(とりわけ周防町筋以南)および南接する宗右衛門町は、歓楽街として「ミナミ」と呼ばれることが多いですが、このエリアでは店舗や居場所の特定に旧町名が頻繁に用いられています。また、西心斎橋の周防町筋周辺はアメリカ村と通称されています。
心斎橋筋2丁目、三津寺筋付近を「大阪市パノラマ地図」で見たものです。「三ツ寺」が描かれ、心斎橋筋の一つ東の筋には、「タタミヤ丁」の文字があり、南北に町が形成されていることが分かります。
大阪市パノラマ地図の心斎橋筋(大阪くらしの今昔館蔵) |
範囲を広げて見ました。島之内の北半分は東西の通りに「鰻谷」「大宝寺町」などの名前が入っていますが、南半分は南北の筋に沿って「笠屋町」「畳屋町」など、町の名前が入っています。御堂筋が拡幅される前ですから、大丸、十合(そごう)も心斎橋筋に顔を向けています。
大阪市パノラマ地図の心斎橋筋付近 (大阪くらしの今昔館蔵) |
江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の心斎橋筋付近です。心斎橋と戎橋の間に「大丸呉服店」「ヲグラヤ」があり、「三津寺」も描かれています。
浪華名所獨案内の心斎橋筋 (「ちずぶらり」より:上が東) |
範囲を広げて見てみると、大丸の前から心斎橋筋を南へ進み、戎橋を渡ると千日前に至り、道頓堀五座(芝居小屋)があります。逆に、北へ進み心斎橋を渡り、順慶町通を西に曲がると新町廓に至ります。お勧めのモデル観光ルートにもなっていて、当時から栄えていたことが分かります。
浪華名所獨案内の心斎橋筋 (「ちずぶらり」より:上が東) |
天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大阪全圖」を見ると、通りと筋が細かく描かれていて、町の名前も書かれています。島之内の北半分では通りに沿って町が形成され、南半分では南北の筋に沿って町が形成されています。現在でも東西の道が「八幡筋」「三津寺筋」と呼ばれているのは、このためです。
天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大阪全圖」(日文研蔵) |
1920年代の心斎橋(「大大阪の時代を歩く」より) |
最後に『大阪春秋』#133心斎橋・島之内特集号に、島之内の町名変更前後のわかりやすい図が掲載されていましたので、ここに転載させていただきます。
町名変更前の島之内地区略図(大阪春秋#133より) |
いまの島之内地区略図(大阪春秋#133より) |
今回は、大阪くらしの今昔館8階の「心斎橋筋商店街」をご紹介しました。近代展示室に入って正面のスクリーンの裏側にありますので、見落とさないようにしてください。
〇企画展「漆造形の旗手 栗本夏樹の世界」は終了しました
〇「2022年度 建築設計展 第63回全国大学・高専卒業設計展示会」(7/7~7/10開催)のお知らせ
全国の大学及び高等専門学校の卒業設計優秀作を展示する「2022年度 建築設計展 第63回全国大学・高専卒業設計展示会」を7月7日(木)~10日(日)の4日間、当館企画展示室にて開催します。
本展開催期間中の入館料は以下のとおり変更になります。
●常設展:一般、高大生 200円
●企画展:一般、高大生 無料
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000401
※本展示開催準備のため、7月4日(月)~6日(水)は、臨時休館となります。また、次期企画展の準備のため、7月11日(月)~14日(木)は、臨時休館となります。
〇次回の企画展は、特別展「商都大坂の豪商・加島屋 あきない町家くらし」
2022年7月15日(金)〜2022年9月26日(月)
江戸時代の大坂は、「天下の台所」とうたわれ、日本経済の中心地でした。この企画展では大坂を代表する豪商であった加島屋・廣岡家の商い・住まい・暮らしを紹介します。加島屋は米仲買や蔵屋敷の管理を行い、堂島米市場の中心的存在でした。同家の本宅は土佐堀川に面した玉水町(現・大阪市西区江戸堀一丁目)にあり、今回、あらたに発見された資料から、その店がまえや華やかな暮らしぶりが明らかになりました。加島屋をルーツとする大同生命保険株式会社では、創立120周年記念事業のひとつとして、加島屋本宅の復元模型を製作し、大阪くらしの今昔館はその監修をおこないました。この展覧会はその調査成果を展示したものです。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000359
※企画展の準備のため、7月11日(月)~14日(木)は、臨時休館となります。
〇「明治後期~昭和初期にかけてのレトロな”パッケージデザイン”ミニ展示」を開催!(~7月末迄)
明治後期から大正、昭和初期にかけて、国内で販売されていた化粧品や石鹸類、お菓子などパッケージのミニ展示を開催します。これらパッケージデザインは、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど、当時の西洋様式の影響を受けたものが多く、舶来品の模倣に近いものや、西洋様式をベースにうまく日本風にアレンジした和洋折衷の優美な意匠が多く残されています。この期間限りの展示ですので、この機会にどうぞご覧ください。
●とき:令和4年6月15日(水)~7月末迄 10時~17時(入館は16時30分まで)
●ところ:8階常設展示室内
●展示:佐野宏明氏所蔵品展示
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000416
〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ
大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。
・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
一般 400円 団体(20名以上)300円
高・大生 300円 団体(20名以上)200円 *要学生証提示
【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。
【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。
イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。
開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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