今回は、あんじゅ84号に掲載されている、大阪くらしの今昔館前館長の谷直樹先生が執筆された「江戸時代の大坂の災害ー火事・地震・津波ー」を紹介します。
江戸時代の大坂三郷の範囲は、大阪環状線のひと廻り内側、現在の大阪市中央区・西区および北区の一部である。人口は三〇万人から四〇万人、町数はおよそ六五〇町、平家建てか中二階建ての木造家屋がびっしり詰まっていた。そのため日常生活でもっとも注意されたのは火事への備えであった。
大坂町奉行は毎年「火之元念入れ申す可く候」という触を出して市民の防火意識を喚起し、さらに火事に関する触を頻繁に発していた。例えば、くわえ煙管の禁止、大型花火の打ち上げやとんど焼きの規制、町々用水桶の設置、井戸の場所の明示、火の見櫓・半鐘の設置などである。また火災時の消火は町人の義務とされ、それぞれの受持ち区域で出火すれば手桶を持参して火元へ集まるように決められていた。
火災の鎮火後には類焼者の調査を行ない、難渋者には金銭を施したり、救小屋を建てて収容したりしているが、これらの費用のため相互扶助として町人の施行を募ることが多かった。また建築資材の高騰を見越した買い占めの禁止、材木・板類その他の諸品や家賃銀の値上げ禁止などの触が出された。さらに大火後は五年間に限り、田舎大工・木挽、他国瓦などの大坂への流入が解禁されている。
町家も防火対策を施したものに進化していった。屋根は板葺きから瓦葺きに変わり、幕末には裏長屋にまで瓦葺きが普及した。同じ時期、江戸ではまだ板葺きの裏長屋が主流であったことと対照的である。また軒裏は漆喰で塗籠め、隣家との境には袖壁を設けて火を断ち切るなど様々な工夫がなされた。軒裏に木材の垂木を見せる京の町家とは異なる、重厚な表構えが完成した。さらに敷地の奥に配置された土蔵が町境に林立することで一種の防火帯が出来上がり、延焼を食い止める効果があったとされる。おそらく大坂は日本でもっとも防火対策が進んだ町であったと思われる。
それでも木造の建物は火事から免れることができなかった。寛永五年(一六二八)から幕末の慶応三年(一八六七)までの二四〇年間で、記録に残る火災は九六回に達した。平均すれば二年半に一回の頻度で火災が起こったことになる。
図1「大阪今昔三度の大火」(大阪くらしの今昔館蔵) |
ここに紹介する「大阪今昔三度の大火」(図1.以下、「三大火の図」。大阪くらしの今昔館蔵)は、幕末の文久の大火後に発行された一枚摺である。「往古より大坂ニてハかゝる大火めづら(珍)しき事也、依而後世咄しの種、旦ハ火の元心得のためにもならん歟と一紙に図して諸人の見覧ニそなへたてまつる」と発行の目的を記している。具体的には享保、天保、文久の大火を取り上げ、その焼失範囲と被害状況を記して、大火の記憶を世間に伝えたものである。
まず左端の「享保九辰年大火」は、享保九年(一七二四)三月の火事で、南堀江橘通二丁目の金屋妙智の家から出火した(妙智焼)。折からの西南風によって瞬く間に大坂全域に燃え広がり、大坂三郷のほぼ全域が焼失した。その被害は「家数二万八千余、竈九万八千七百余、土蔵二千八百余、死人凡三万余人、けが人十二万余」と記されている。
この江戸時代最大の大火によって、大坂夏の陣以降に復興された大坂の町は消滅した。しかし大火後の復興について、大坂の人で京都町奉行与力であった神沢吐口が「火事後の新造なれば、殊に家居きらきらしく、聊仮屋なども見えず、いつ大変有りし体もなし、火事後纔に六年目に、元の大坂に成たり」(『翁草』)と記しており、火災後、急速に復興している。
つぎに中央の「天保八酉年大火」は、天保八年(一八三七)二月十九日、大塩平八郎の乱によって火災が発生し、「大塩焼」と呼ばれる大火になった。被災は天満・北船場・上町の一一二町、焼失家数三三八九軒(竈数一万八五七八軒)、穴蔵一三〇ヶ所、「死人怪我人数知らず」と記されている。
最後に右端の「文久三亥年大火」は文久三年(一八六三)十一月二十一日から二十三日にかけての火事で、北は本町・安土町辺りから、南は長堀まで、西は西横堀から東は玉造まで、町数一五二町、家数四七〇〇余(竈数二万五〇〇〇余)が被災している。
「三大火の図」には「心得之為」と題した欄があって「火災ハたゞ火を麁末にするものを天よりいましめ給ふなり、よくよく心得給ふべし」と火事の教訓を添えている。
大阪くらしの今昔館館長(当時) 谷 直樹
〇6月1日よりミュージアムショップが再開しました
今昔館が発行する刊行物(図録)や各種地図はもとより、和小物や大阪のお土産物など取り揃えております。どうぞご利用ください。
〇企画展「春夏秋冬 花鳥風月に遊ぶ」開催中です
2024年4月20日(土)〜2024年6月23日(日)
大阪くらしの今昔館では、近世から近代にかけて大阪で活動した絵師(大阪画壇)の作品を収集しています。彼らの作品の多くは、四季折々のまちの景観や年中行事を画題としています。 経済都市として繁栄した大坂の市中は商家が密集して建ち、自然の風物に触れられる場所は限られていました。都市に暮らす人々は絵画によって、四季の移ろいや自然の風情を感じ取っていました。
本展では月岡雪鼎(つきおか せってい)、佐藤魚大(さとう ぎょだい)、西山完瑛(にしやま かんえい)、菅楯彦(すが たてひこ)、五井金水(ごい きんすい)など、近世から近代にかけての大阪画壇の作品を展示します。大阪の人々が愛好した春夏秋冬・花鳥風月の世界をお楽しみください。
以下2点の展示は終了しました。
・「桜下美人図」佐藤魚大
・「源氏物語図屏風」個人蔵
入館料
企画展:500円
常設展+企画展:一般1,000円(団体900円)、高・大生700円(団体600円)(要学生証原本提示)
※団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳・ミライロID等提示者(介護者1名を含む)、
大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書原本提示)
「源氏物語図屏風 右隻」個人蔵 |
「源氏物語図屏風 左隻」個人蔵 |
「四季花鳥図」 |
「定家詠十二ヵ月押絵貼屏風」月岡雪鼎 |
「桜下美人図」佐藤魚大 |
「大川夕涼図」西山完瑛 |
「春風小午 野崎参り」菅楯彦 |
〇ワークショップ・イベントのご案内
和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
*スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。
〇入場料のお知らせ
【常設展】一般600円(団体500円)
高校生・大学生300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
ホームページをご覧ください。
※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。
〇着物体験サービス
感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。
着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。
●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日
※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。
【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。
〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム
〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
今昔館の展示関連の動画を集めました。
⇒https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました
「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」
コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))
■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください
■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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