2019年3月19日火曜日

今週の今昔館(155) 長柄三頭 20190319

〇浪花百景に見る江戸時代の大坂(60)

 今回は、「長柄三頭」をご紹介します。

■長柄三頭(国員画)
 長柄三頭(みつがしら)は、淀川と中津川との分岐点付近の通称で、往時は北に向かって長く砂州が伸び、遠く妙見山を望む風光明媚な地として知られました。
 付近は水流の難所で、古来何度も架橋された長柄橋も洪水のたびに流失し、そのはかなさが歌枕として歌に詠まれました。江戸時代には砂州を中継地点として、長柄の渡しと毛馬の渡しが設けられ渡し舟が行き来し、北摂方面に向かう人々に利用されました。
 明治18年(1885)の淀川大水害を契機に、明治29年から42年にかけて淀川改修工事が行われ、中津川の一部を利用して新淀川が開削されるとともに、市内を洪水から守るため毛馬閘門が設置され、旧淀川(大川)に注ぎ込む水量が調節されるようになりました。そのため景観は一変しました。

浪花百景「長柄三頭(国員画)」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖では、淀川と中津川が分岐する長柄三頭は地図の範囲に入っていません。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)
天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 文化3年発行の増修改正摂州大阪地図を見てみましょう。毛馬村の西で淀川は中津川と大川に分かれています。分岐点には北へ砂洲が伸びており、「三つ頭」の文字が見えます。

増修改正摂州大阪地図(ラムゼイコレクションより)


 大正13年発行の大阪市パノラマ地図は、当時の大阪市域が地図の範囲となっており、大川は都島橋から南が描かれています。淀川と中津川が分岐する長柄三頭は地図の範囲に入っていません。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、淀川改良工事によって新淀川が完成し、毛馬閘門が建設されて川の流れが大きく変わっています。新淀川には長柄橋と新京阪電車(現在の阪急千里線)の橋梁が架けられています。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 地形図で確認してみましょう。明治18年の陸地測量部地図を見ると、毛馬村と柴島村の間で淀川から中津川が分岐しており、その間に中洲も見えます。国分村、南長柄村、北長柄村、豊崎橋、柴島村を経て高槻街道(亀岡街道とも呼ばれる)が通っているほかはほとんどが田畑です。

明治18年陸地測量部地図
(国際日本文化研究センター蔵)

 明治18年、6月中旬から7月初旬にかけて、発達した低気圧が相次いで大阪を襲いました。枚方の三矢、伊加賀で堤防が決壊したのを最初に、淀川は洪水によって堤防が次々と決壊。これにより、府下の北・中河内郡、東成郡及び大阪市街の約15,142ha、当時の大阪府全体の世帯数の約20%となる約71,000戸が最大約4m浸水し、家屋流失約1,600戸、同損壊約15,000戸という甚大な被害に見舞われました。
 大阪市内では大阪城~天王寺間の一部高台地域を除くほとんどの低地部が水害を受け、被災人口は約27万人。八百八橋とうたわれる大阪の橋は30余りが次々に流失する大水害となりました。

明治18年の洪水で浸水した地域(国土交通省HPより)
明治18年の洪水の被害写真(国土交通省HPより)

 明治18年の大洪水をきっかけに、大橋房太郎氏などの尽力により明治29年(1896)河川法が制定され、淀川の洪水対策が本格化し「淀川改良工事」が行われました。 
 改良前の淀川は、川幅が狭く蛇行しており、また、低平地である大阪の街の中心部を流れていたため、いったん洪水が起こるとその被害は甚大でした。
 そこで、街の中心部から離れた北側に新しい放水路を開削し、川幅を大きく拡げて、大雨の時に大量の水を直線的に素早く海に流せるよう、新しい川を造りました。
 守口から大阪湾までの約16㎞の「新淀川」は明治42年に竣工し、安全に流せる水の量が飛躍的に増え、大阪の街の中心部は洪水の被害が起こりにくくなりました。

淀川改良工事で誕生した新しい淀川(国土交通省HPより)

 明治42年陸地測量部地図を見ると、竣工間近の新淀川の姿が描かれ、毛馬の閘門や洗堰が確認できます。

明治42年陸地測量部地図
(今昔マップ3より)

 今昔マップ3を利用して、その後の毛馬閘門付近の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、新淀川に長柄橋が架けられ、亀岡街道が付け替えられています。街道沿いの家屋以外はほとんどが田畑でした。
 右上の昭和4年では、淀川から西の市街地化が進み、工場も多く建設されています。淀川に毛馬橋が架けられ、毛馬町、友渕町にも工場や家屋が見えます。長柄橋と並行して新京阪(現在の阪急千里線)が通っています。

明治41年から最近の地形図
(今昔マップ3より)

 左下の昭和22年を見ると、地図の白い部分は戦災の被害を受けて建物が焼失した地域です。城北運河が建設されています。
 右下は最近の国土地理院地図ですが、新淀川に淀川大堰ができ、毛馬の閘門が改修されています。毛馬橋が拡幅され城北公園通が通っています。城北運河の上空を阪神高速道路森小路線が通っています。

 現在の毛馬閘門付近の状況を写真で見てみましょう。1枚目は現在の淀川大堰、2枚目は現在の毛馬閘門です。3枚目は毛馬閘門から新淀川の下流部を見たものです。

淀川大堰と毛馬閘門への水路
現在の毛馬閘門
毛馬閘門から下流部を見る

 現在の毛馬閘門の西側(下流部)に、明治42年の淀川大改修の際に建設されたかつての毛馬閘門が土木遺産として保存され、重要文化財に指定されています。

かつての毛馬閘門
かつての毛馬閘門


 今回は、「浪花百景」の「長柄三頭」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、大大阪時代に入る頃の大阪の姿をご覧ください。

 錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。淀川大洪水と改良工事については、国土交通省淀川河川事務所のホームページを参考にさせていただきました。


〇企画展「モダン都市大阪の記憶」開催中です
 2019年3月2日(土)~4月7日(日)


 今も昔も、大阪は魅惑的なビジュアルに満ちています。美しくパッケージされた商品、目を引く広告パンフレット、凝ったディスプレイ、豪華な百貨店建築、橋や道路、地下鉄などの都市基盤も含め、それらは形態、形象、記号の宝庫であり、往時のグラフィックからは華やかな時代の息吹が感じられます。
 本展では、橋爪節也氏のコレクションから、明治~昭和期の絵画・チラシ・ポスター・雑誌などを紹介し、当時の写真とともに近代大阪を振り返ります。百貨店、劇場、花街、交通など、さまざまな見所を持つモダン大阪を、グラフィックをたよりにそぞろ歩いてみませんか。


《口紅》北野恒富 (大正6~7年)
「だいまる」 (昭和2年3月号)
「TOURIST MAP OF OSAKA」(昭和11年)
「⼤阪遊覧乗合⾃動⾞」(昭和初期)

〇今週のイベント・ワークショップ

3月20日(水)、22日(金)、23日(土)、25日(月)、27日(水)~30日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

3月21日(木・祝)、24日(日)、31日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



3月21日(木・祝)
ワークショップ 『千代紙ろうそくを作ろう』

①13時30分 ②14時30分
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆
参加費200円

3月23日(土)、24日(日)
イベント 彼岸の屋台

「のぞきからくり」や「宝引き」など・・
お祭りは大人も子どもも楽しめます
13時~16時 8階・9階大通り


3月31日(日)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!
大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:笑福亭伯枝、桂出丸
14時~15時



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪のまちづくり」に掲載しています。
 「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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