2020年12月15日火曜日

今週の今昔館(245) 藤森社 20201215

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(25)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、大坂から京都までの淀川左岸(川の流れから見て左側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「藤森社」をご紹介します。有馬稲荷から伏見街道をさらに北へ、京阪電車に沿って徒歩で京へ向かっていきます。

■藤森社
 岐道(わかれみち)を過ぎたところでちょっと寄り道をして右へ入ると、藤森社の西側の鳥居があります。これが挿絵の鳥居で、鳥居の奥には拝殿が見えています。祭神が武神と言われる当社では、毎年5月5日の祭礼には神前に鎧武者が飾られますが、これが五月人形の始まりとも言われています。

 藤森社は、神功皇后が大陸から凱旋された際、御旗を納め、祭祀をおこなった地であると伝えられています。深草一帯の産土神で、藤森神社のホームページによると、祭神は十二柱あり、本殿中央(中座)に素戔嗚命、別雷命、日本武尊、応神天皇、仁徳天皇、神功皇后、武内宿禰の七柱が、本殿東殿(東座)に舎人親王、天武天皇の二柱が、本殿西殿(西座)に早良親王、伊豫親王、井上内親王の三柱がそれぞれに祀られています。「都名所図会」の本文には「本朝武功の神を配祀し奉る」とあり、武運を祈願する神社であったことがわかります。

淀川両岸一覧上船之巻「藤森社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

都名所図会「藤森社」
(国際日本文化研究センターデータべース)


 「都名所図会」では、藤森神社が鳥瞰図で描かれていますので、境内の様子がよくわかります。絵の右下に南の鳥居、左下に西の鳥居が描かれています。

 藤森神社の祭神のうち、早良親王にまつわるエピソードが「都名所図会」に紹介されています。

≪藤森の祭は毎年五月五日にして、当社の神、蒙古退治の為出陣し給ふ日なり。(中略)世に端午の佳節に武者人形をかざるは、蒙古退治の吉例より始まる。≫

 この「藤森の祭」は、旧暦、新暦ともに五月五日に行われています。早良親王が陸奥でおこった反乱征討に向かう折、ここで武運を祈願し、五月五日に出陣したからです。ゆえに、端午の節句に武者人形を飾るようになったとしています。「蒙古征伐」とあるのは、陸奥の平定をさすとみてよいでしょう。

 また、藤森祭について本文は次のように記しています。

≪例祭五月五日、神輿渡御あり。産子は宵宮より神前に鎧をかざり、祭日は一の橋より稲荷、藤の森にて朝より走り馬あり。いづれも軍陣の行粧をなし、天下平安の祈りとすといふ。≫

 五月五日の祭礼にあわせ、氏子は前夜から甲冑や鎧を神前に飾る。祭りの当日にはそれを身に着けて、伏見街道の一の橋から稲荷、藤森の氏子町を練り歩くのです。現在行われている武者行列のうち「朝渡(あさわたり)」は早良親王、「皇馬(こんま)」は清和天皇、「払殿(ほって)」は神功皇后の軍装を模したもので、これに、「七福神」の列が加わります。
 とくに、「走り馬」とある駆馬神事は人々の耳目を集め、祭のみどころとなっていました。氏子たちは馬を疾駆させながら、さまざまな妙技を披露します。技の数は時代によって変化しますが、手綱潜り、逆乗り、矢払い、横乗り、逆立ち、藤下がり、一字書きの七種が、現在も行われています。

 「都名所図会」の挿絵に当時の駆馬のようすをみることができます。絵の左側、いままさに技を披露しようとする二騎の乗り手は神妙な面持ち。一方の、右側で待機する四騎。烏帽子をかぶった若者たちは緊張した様子ですが、扇を手にした二人は余裕の笑みを浮かべています。まだ祭に参加してまもない若手とベテランの差を、その表情から読み取ることができます。

都名所図会「藤森の祭」
(国際日本文化研究センターデータべース)


 炭太祇(たんたいぎ)に、藤森祭を吟じた発句があります。

 下手乗せて 馬も遊ぶや 藤の森

 乗り手とは異なり、馬には余裕があるというのが、ユーモラスです。


 本文は次のとおりです。
■藤森神社
 墨染の北にあり。
 本殿三座、中央舎人親王、東は早良親王、西は伊豫親王を祭る(舎人親王は天武天皇の皇子にして天平宝字三年に追尊ありて崇道尽敬皇帝と号す。養老年中勅を受けて「日本紀」を撰したまへり。)
 末社(八幡、大将軍、菅大臣、熊野、厳島、諏訪、住吉、広田、蔵王、本社の後に列す)旗塚(本社の東にあり。神功皇后三韓征伐の後、旗を埋めたまふといふ)神楽殿、御供所(ともに拝殿のかたはらにあり)力石(馬場にあり)。
 例祭五月五日、神輿渡御あり。産子は宵宮より神前に鎧をかざり、祭日は一の橋より稲荷、藤の森にて朝より走り馬あり。いづれも軍陣の行粧をなし、天下平安の祈りとすといふ。



 付近の様子を地形図で見てみましょう。
 まず、明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)を見てみます。最も古い測量図で江戸時代の様子が想像しやすいと思います。藤森神社は、前回ご紹介した藤杜岐道の北東に位置しており、東海道に面して南の鳥居、伏見街道に面して西の鳥居があります。挿絵は伏見街道から西の鳥居を見た風景です。 


明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵


 2枚目は、今昔マップを利用して藤森神社付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの。右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 明治22年の地図と見比べると、神社東側の茶畑などがあったところが、明治42年には歩兵営となり、その跡地が京都教育大学として利用されていることが読み取れます。神社の境内は多少削られているようですが、南と西の鳥居は今も健在で、どちらからも出入りができます。


今昔マップより藤森社付近

 3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。標高20mから5m刻みで色を変えてみました。
 京阪電車墨染駅付近の伏見街道・東海道と同じレベルに藤森神社があり、一段上がったところに京都教育大学が位置していることがわかります。さらに高いところをJR奈良線が走っています。


地理院地図+自分で作る色別標高図

 今回は、「淀川両岸一覧」の「藤森社」をご紹介しました。


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇次回の企画展は「くらしと漆工」

 令和2年12月19日(土)〜令和3年2月14日(日)

 古来より漆は日本人のくらしや文化と密接に結び付いてきました。実用性と美観に優れる漆は、日用品としての食器類をはじめ、ハレの日の装身具や調度、建築装飾に至るまで幅広く用いられており、今日に至るまで日本の伝統文化を支え続けています。
 2001年の開館以来、大阪くらしの今昔館には「住まいの歴史と文化」に関する資料の一分野として、形も用途も様々な漆工品が集められました。
 本展では、それらのコレクションの中から魅力あふれる作品を選りすぐり、漆商いの中心地であった大坂所縁の作品とともに展観します。今昔館では初となる漆工をテーマにした展示を通し、長い歴史と共に育まれてきたその魅力に迫ります。

草花蒔絵引盃
草花蒔絵熨斗形香合
鉄線蒔絵双六盤


〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を 1 日 2 回実施します。
 お気軽にご参加ください。

【実施】スタッフによるまちの解説(町家ツアー)スケジュール
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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