「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、大坂から京都までの淀川左岸(川の流れから見て左側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「藤杜岐道」をご紹介します。有馬稲荷から伏見街道をさらに北へ、京阪電車に沿って徒歩で京へ向かっていきます。
■藤杜岐道(ふぢのもりわかれみち)
墨染を過ぎると街道筋は北へ折れます。有馬稲荷からしばらく上がると、藤杜岐道に出ます。挿絵は西北から見た風景で、道標に「左 京みち」と刻まれていることからわかるように、右手(南側)墨染の方から上がってきて、直進すれば京の町へ、右へ折れると山科へと向かいます。右へ折れると左手に藤森社の南の鳥居が見えてきます。
この辺りには旅館、茶屋が並び、伏見街道には人力車、牛車が多く行き交い、年貢米などの荷物を伏見船場から京二条城の米蔵へ積み上げていました。この様子が挿絵によく描かれています。
淀川両岸一覧上船之巻「藤杜岐道」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
西国大名が江戸へ参勤交代の際に通行するルートは、大坂の高麗橋から守口、枚方、淀、伏見を経て、京へ入ることなく、伏見街道から東へ分岐して小野、山科追分を経て近江の大津へ入り、江戸へと向かう東街道五十七次を通ることが定められていました。徳川幕府は、天子のおられる皇都に彼らが近づくことを恐れ、このような措置を取ったのです。挿絵はこの「岐道(わかれみち)」、伏見街道と東海道の分岐地点を描いています。
東南角には「御やど」「一ぜんめし、さけ」の提灯を軒先にさげた店、少し南の墨染から伏見街道の界隈には「旅舎、貨食家(りょうりや)」が軒を連ねていて、大変賑わっていたと本文にも記されています。ここで宿泊するもよし、ちょっと休憩するもよし、あるいは、旅装を解き京に入る身支度をするのにも利用されました。
「御やど」の前に見える駕籠、傍らに控えるふたりは二本差しです。おそらく御家人クラスの侍が乗っているのでしょう。これから東街道を進むとみえ、駕籠かきたちが草鞋を整えているところです。また、その先、東へ折れたところにも小者を連れた侍がみえます。大名のみならず武家方は特別な用向きがない場合、京の町を避けて通行していたことがわかります。
絵の左側、中央に木戸が見えます。この先は山道となりますから、こうした木戸を設け、夜間や緊急時には閉めたのです。
絵の上部、賛の発句は次のとおりです。
梅さくや 伏見は牛の むちにまで 南谿(なんけい)
作者は橘南谿、伊勢出身の医者です。若くして京に上り、京坂に住まいました。数度の転居を重ね、病を患った折には伏見に居を構えることもありました。伏見は洛中よりも気候が穏やかで、療養には適していたのです。この辺りは江戸時代「梅渓(うめだに)」とよばれる観梅の名所でした。南谿は梅を眺めつつ、この地の陽気を実感したことでしょう。
付近の様子を地形図で見てみましょう。
まず、明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)を見てみます。最も古い測量図で江戸時代の街道の様子が想像しやすいと思います。図の赤い丸印が藤杜岐道です。挿絵はこの交差点付近を地図の左上の方から描いた風景です。南から来てまっすぐ進むと京へ至り、右に曲がり、突き当りを北へ進むと山科へ至ります。突き当りを南へ、さらに次の突き当りを東へ進むと宇治に至ります。こちらの方が道幅が広かったようです。江戸時代、藤杜岐道は交通の要衝であったことがわかります。
地図の右上に描かれている鉄道は「従大津至神戸鐡道」で、現在の東海道本線に当たります。当時は、京都駅を出て東へ直進せずに、大きく南へ迂回して東海道五十七次に沿って走り大津へと向かっていました。京都駅から東へ進む現在の東山トンネルは大正10年(1921)に開通したもので、これによって山科へ直進できるようになりました。京都駅から藤森までの線路は現在はJR奈良線として利用されています。藤森から山科の間の線路は廃止され、線路跡の大半は名神高速道路として利用されています。
明治22年陸地測量部地図(仮製地図)に加筆 国際日本文化研究センター蔵 |
2枚目は、今昔マップを利用して藤杜岐道付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの。右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
左の地図では東海道五十七次をたどることができますが、右の地図では、市街地化が進み街道を読み取ることが難しくなっています。黄色の線は府道を示しており、ルートは変わってはいますが旧東海道が府道に引き継がれています。
左の地図の東海道本線が右の地図では奈良線となっています。線路が切り替えされた様子がよくわかります。京都教育大学は歩兵営の跡地を利用していることも読み取れます。
今昔マップより藤杜岐道付近 |
3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。標高20mから5m刻みで色を変えてみました。
京阪電車墨染駅の北東で伏見街道から東へ分岐する東海道は藤森神社の南を東へ進みJR藤森駅の手前で左折して北へ向かいます。高度がだんだん上がり、山へ入っていく様子が分かります。
地理院地図+自分で作る色別標高図 |
今回は、「淀川両岸一覧」の「藤杜岐道」をご紹介しました。
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇次回の企画展は「くらしと漆工」
令和2年12月19日(土)〜令和3年2月14日(日)
古来より漆は日本人のくらしや文化と密接に結び付いてきました。実用性と美観に優れる漆は、日用品としての食器類をはじめ、ハレの日の装身具や調度、建築装飾に至るまで幅広く用いられており、今日に至るまで日本の伝統文化を支え続けています。
2001年の開館以来、大阪くらしの今昔館には「住まいの歴史と文化」に関する資料の一分野として、形も用途も様々な漆工品が集められました。
本展では、それらのコレクションの中から魅力あふれる作品を選りすぐり、漆商いの中心地であった大坂所縁の作品とともに展観します。今昔館では初となる漆工をテーマにした展示を通し、長い歴史と共に育まれてきたその魅力に迫ります。
草花蒔絵引盃 |
草花蒔絵熨斗形香合 |
鉄線蒔絵双六盤 |
〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています
ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。
今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を 1 日 2 回実施します。
お気軽にご参加ください。
【実施】スタッフによるまちの解説(町家ツアー)スケジュール
① 11 時 30 分~(約 30 分)
② 14 時 30 分~(約 30 分)
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇企画展「景聴園×今昔館 描きひらく上方文化」は終了しましたが、紹介動画が公開されています。
「景聴園(けいちょうえん)」は京都で日本画を学んだグループです。80〜90年代生まれの関西出身の作家5名と企画を担当する2名が所属し、2012年に結成されました。同世代でありながらも異なる制作スタイルを持つ作家たちを中心に、日本画を通して文化と歴史を再考することで絵画のあり方を見つめ、日夜議論を重ねながら制作と発表を続けてきました。第6回目を迎える今回の展示は、大阪での初開催となります。
大阪くらしの今昔館は、大阪における住まいの歴史を紹介する一環として、江戸時代を中心に近代までの美術・歴史資料を所蔵しています。それらは床の間や座敷で掛軸や屏風として、生活の中を彩るものとして、生活に取り入れられてきました。時代の流れとともに住まいは郊外にうつり、座敷を持たない家も増え、生活の中で日本画に親しむ機会も少なくなってしまいました。しかし現在も、連綿と続いてきた日本画の歴史を継承して学び、絵を描くことについて問いかけながら制作活動をつづける人たちがいます。
景聴園の作家たちは当館で展示をするにあたり、所蔵品の熟覧を重ねることで大阪の歴史と文化から着想を得て、それぞれのテーマを設けました。本展では、5者5様のアプローチによって描き出された景聴園の新作を中心に今昔館の所蔵品も交えながら、上方で発展してきた都市文化が持つ奥深い世界を展開します。
こちらから企画展の紹介動画をご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=JfeeQ8ShSgo&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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