大阪くらしの今昔館は、展示替えのための臨時休館が終わり、9月18日から開館していますが、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室(江戸時代のフロア)および10階展望フロアが閉鎖されています。前回に引き続き近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」の見どころをご紹介します。
今回は隠れた見所です。ややマニアックですが、知っていると愉しみが増えること間違いなしです。
まずは、地図の左下、大阪港のあたりの欄外を見てみましょう。一番上には、印刷日と発行日が書かれています。大正12年12月28日印刷、大正13年1月5日発行とあります。年末に印刷して、新年早々に発行しています。この翌年、大正14年に大阪市は第二次市域拡張により周辺の町を合併して約3倍の面積になり、大大阪の時代を迎えます。このパノラマ地図はその直前の大阪市の様子を描いています。
その下には、「著作者 美濃部政次郎」とあり、住所は西区三軒家上之町322番地とあります。美濃部政次郎氏は銅板作家であったこと以外、あまりよくわかっていません。
次に、「印刷兼発行者 日下伊兵衛」とあり、住所は西区新町通3丁目159番地とあります。この2枚に「雲」が描かれていますが、煙突の煙ではありません。絵巻物によく使われる手法と同じです。「雲」で旧市街地と大阪港の間を一部省略することによって、画面に「大桟橋」をおさめるようにしたのだと思われますが、それでも枠から少しはみ出しています。はみ出ていることで注目され、かえって、迫力が出ているのかもしれません。
一番下には、「発行所 日下わらじ屋」とあり、こちらの住所は西区新町通3丁目角となっています。わらじ屋は、平成14(2002)年に無くなってしまいましたが、地図出版で有名な出版社でした。
今度は地図の右上、タイトルの下をほうを見てみます。パノラマ地図の説明文が書かれています。
「本図は大阪市街の原型を模写せし者にして実地踏写に成り普通地図と全然其の趣を異にし・・・」で始まる効能書きですが、面白いのは、「新式重要図」「大なる誇りとせざるを得ず」と自慢しながらも、最後の方で「是れ止むを得ざる次第にして・・・」と言い訳をしているところです。「雲」で省略している築港方面のこともちゃんと例示しています。
大阪市パノラマ地図は、90年以上前の制作としては、十分自慢に足りる力作だと思います。
地図の一番下の中央辺りには、「記号」の欄があります。凡例ですね。何が記号になっているか見てみると、停車場、停留所、名所、郵便局に始まり、簡易食堂、公設市場、私設市場、劇場、演舞場、寄席、湯屋と、時代を感じさせます。大阪でよく使う「風呂屋・銭湯」とせずに「湯屋」となっているところが、ちょっと意外な感じがします。
では、記号にもある「停留所」を実際に見てみましょう。市電の東西線(本町通)と南北線(堺筋)がクロスする本町2丁目付近、堺筋本町です。
本町通に、本町一、本町二、本町三と3つの停留所が描かれていますが、停留所名の近くには必ず市電の車両の絵があります。プラットホームの位置を示しているのです。したがって市電がクロスする「本町二」のような交差点には4台の車両が描かれています。行先別のプラットホームの位置が分かるようになっているのです。きめ細かな配慮ですね。
この地図で、湯屋(風呂屋・銭湯)も確認できます。小さい煙突の下に「ゆ」の変態仮名(「む」のようにも見えますが「ゆ」です)のマークのあるところが湯屋です。
次に、記号にはありませんが、市電に関連して、「跨線橋」がどのように描かれているかを見てみましょう。パノラマ地図の左上のほうにある天神橋5丁目~6丁目付近です。
現在のJR大阪環状線は、当時はまだ環状になっておらず、城東線と呼ばれていて、地上を走っていました。この地図の右のほうにある天満駅を見ると、線路をまたぐ跨線橋のある駅が描かれています。田舎に行くとよくある形の駅ですね。
駅から線路を左の方にたどると、天神橋筋との交差点では、道路と市電が線路をまたいでいます。
さらに左の方を見ると、地図の左下角で、道路とクロスしています。こちらは道路は平面で、市電だけが鉄橋で高架になって線路をまたいでいます。今もこのあたりの道幅が広くなっているのは、高架橋の名残です。現在道幅の広い部分は、地下鉄の出入り口として活用されています。
現在のJR大阪環状線は、当時はまだ環状になっておらず、城東線と呼ばれていて、地上を走っていました。この地図の右のほうにある天満駅を見ると、線路をまたぐ跨線橋のある駅が描かれています。田舎に行くとよくある形の駅ですね。
駅から線路を左の方にたどると、天神橋筋との交差点では、道路と市電が線路をまたいでいます。
さらに左の方を見ると、地図の左下角で、道路とクロスしています。こちらは道路は平面で、市電だけが鉄橋で高架になって線路をまたいでいます。今もこのあたりの道幅が広くなっているのは、高架橋の名残です。現在道幅の広い部分は、地下鉄の出入り口として活用されています。
このように、細かいところまできっちりと書き分けているところは、たいしたものです。
この地図で、天満駅の北側には大きな煙突が沢山描かれています。こちらは工場の煙突で、銭湯の煙突とちゃんと書き分けられています。
この地図で、天満駅の北側には大きな煙突が沢山描かれています。こちらは工場の煙突で、銭湯の煙突とちゃんと書き分けられています。
次に、川の上を見てみましょう。安治川には、大きな船が何隻も描かれています。当時はこのあたりまで大きな船が上がってくるということで、安治川には橋を架けることができず、渡し船が何か所もあります。昭和19年には海底トンネルが建設されます。現在では、自転車と歩行者の専用トンネルになっています。
最後に、著作者の「お遊び」をご紹介します。西区三軒家(現在は大正区)を見ると、三軒家電停の北側に赤いラベルの名所の記号で「美濃部」とあります。しっかり自己主張しているところが面白いと思います。
西区新町を見ると、同じく名所の記号で「わらぢや」とあります。ちゃんと「新町通3丁目角」に書かれています。発行者への配慮も忘れていません。
今回は大阪市パノラマ地図の隠れた見どころをご紹介しました。大阪市パノラマ地図は、スマホのアプリ「こちずぶらり」にも搭載されています。国際日本文化研究センターのWebサイトでも公開されています。
今昔館8階には、パノラマ地図を拡大した光床がありますから、じっくり観察すると、まだまだ他にも面白いことが発見できると思います。
大阪くらしの今昔館近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」 |
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇企画展「大工頭中井家伝来 茶室起こし絵図展」が始まりました
2021年11月19日(金)〜2022年1月16日(日)
わびの造形を極限にまでつきつめた草庵風茶室、それを書院にもちこみ洗練させた数寄屋風書院。いずれも現在の和室の原点とされています。本展覧会は、そうした茶室と数寄屋を、江戸時代の大工の手になる紙の建築模型「起こし絵図」によって紹介します。出品作品は、徳川幕府の京都大工頭として活躍した中井家に伝来したもので、国の重要文化財に指定されています(中井正知氏・中井正純氏蔵)。日本を代表する茶室、妙喜庵「待庵」、大徳寺龍光院「密庵」、大徳寺孤篷庵「忘筌」、大徳寺真珠庵「庭玉軒」や、現在は失われてしまった幻の茶室の「起こし絵図」も含まれています。同時に展示する茶室「蓑庵」(大徳寺玉林院・重要文化財)の実物大模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)と併せて、茶室と数寄屋の魅力をご堪能ください。
入館料 :(8階常設展示室の入場料を含む)
一般4 0 0円(団体3 0 0円)
高校生・大学生3 0 0円(団体2 0 0円)(要学生証提示)
(注)団体は2 0名以上
大阪周遊パスでもご入場いただけます。
中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内在住の6 5歳以上の方は無料です。(要証明書提示)
【特別展関連講演会のご案内】
※何れの講演会も令和3年10月1日より募集を開始します。
講演会①(終了しました)
開催日:令和3年11月23日(火・祝)
◆中井家本「茶室起こし絵図」の建築史的価値(谷直樹氏/大阪くらしの今昔館前館長・大阪市立大学名誉教授)
◆「茶室起こし絵図」の保存修理(坂田さとこ氏/㊑坂田墨珠堂代表取締役)
詳しくはこちら
https://www.osaka-angenet.jp/event/145
講演会②
開催日: 令和3年12月25日(土)
◆数寄大名小堀遠州と大工頭中井大和守(谷直樹氏/前出)
◆大徳寺塔頭玉林院の茶室「蓑庵」と牌堂「南明庵」の建築にみる大工の技ー数寄屋大工と堂宮大工の協働ー(日向進氏/京都工芸繊維大学名誉教授)
詳しくはこちら
https://www.osaka-angenet.jp/event/146
大徳寺真珠庵茶室「庭玉軒」(起こし絵図) 重要文化財/中井正知氏・中井正純氏蔵 |
茶室「蓑庵」実物大模型 (公財)竹中大工道具館蔵 |
小堀遠州自筆書状(中井大和守宛) 重要文化財/中井正知氏・中井正純氏蔵 |
千利休画像(土佐光芳筆) 大阪城天守閣蔵 |
〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ
大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
天井改修工事の実施に伴い、9月18日より令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。
・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
一般 400円 団体(20名以上)300円
高・大生 300円 団体(20名以上)200円 *要学生証提示
【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。
【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えました。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。
イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。
開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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