2021年12月22日水曜日

今週の今昔館(298) 近代展示室の見どころ(16) 浪華名所獨案内 20211222

〇今昔館の近代展示室の見どころ(16)「浪華名所獨案内」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されています。

 今回は、大阪くらしの今昔館の9階近世のフロア入り口付近にパネル展示していた「浪華名所獨案内(なにわめいしょ ひとりあんない)」についてご紹介します。
 「浪華名所獨案内」は、今から約200年前の江戸時代天保年間に発行された古地図です。今回はこの地図の特徴と見どころをご紹介することにします。前回までご紹介してきた近代展示室の「大阪市パノラマ地図」は約100年前の大阪のまちを描いています。2つの地図を見比べながら、その場所の現状を想像することによって、江戸時代・大正時代・現代を比較することができ、近代展示室をさらに愉しめることと思います。


【概要】
 「天下の台所・大坂」(学習研究社)によると、「この地図は天保3(1832)年に、ある合薬屋が広告として作ったもの。近世大坂の名所や店舗が記されており、当時のにぎやかな市中の様子を知ることができる。」とあります。この本では、「なにわ名所ガイド」のタイトルで、この図が大きく掲載されています。「天下の台所・大坂」は住まい情報センターのライブラリーにも置いています。

浪華名所獨案内(友鳴松旭による図)

 図は、友鳴松旭(暁 鐘成による図もある)。書肆は、石川屋和助。
 一枚摺りの地図で、この地図一枚で大坂の観光を独りで楽しめるようになっています。
 地図の右中央に、「赤の色にて図中筋を引きたるは一遍通りの見物巡路なり。藍の色茶の色にて筋引きたる所これ皆同じ一遍通りの巡路と見るべし。」とあります。現在の観光ガイドマップのモデルルートと同様の手法が、200年近く前に既に使われていたことは驚きです。昔の人は健脚だったので、2泊3日で、3つのコースをめぐれるという仕掛けになっています。
 暁 鐘成による図には、図中の筋は引かれていますが、説明文はありません。

浪華名所獨案内(暁鐘成による図)

【構図】
 この図は、東を上に描かれており、海から眺めた大坂のまちの姿になっています。
 図の上部の左寄りに、御城が大きく描かれ、そこから右方向に森ノ宮・イナリ社・高津宮・生玉社・キヨミズ・四天王寺・一心寺などの上町台地の寺社が、図の右端には、今宮村、戎社、天下茶屋、住吉の文字が見えます。背景には、左から生駒山、二上山、葛城山、金剛山が描かれています。

【水の都】
 図の横方向(南北)に水色で、上から東横堀、西横堀、木津川が、縦方向(東西)に、左から大川、長堀、道頓堀が描かれています。大川は、土佐堀川、堂島川と、蜆川(明治の北の大火の後埋められ現在は無い)に分かれています。
 西横堀から西へ木津川との間には、江戸堀、京町堀、阿波座堀、立売堀が並んでいます。
 多くの橋の名称も記されており、水の都の様相がよく現れています。

浪華名所獨案内に見る「水の都」

 東横堀と西横堀の間が中心市街地で、長堀よりも北側(左側)の大川までが「船場」、南側の道頓堀までが「島之内」と呼ばれていました。東横堀より東側は「上町」、西横堀より西側は「西船場」「堀江」と呼ばれていました。
 長堀と西横堀が十字にクロスする所に橋が4つ架かっていて「四ツ橋」と呼ばれ、夕涼みの名所だったそうです。
 4つの橋にはそれぞれ名前があり、
・上繋橋(かみつなぎばし)西横堀川に架かる北の橋。
・下繋橋(しもつなぎばし)西横堀川に架かる南の橋。
・炭屋橋(すみやばし)長堀川に架かる東の橋。島之内西端の旧町名「炭屋町」に由来。
・吉野屋橋(よしのやばし)長堀川に架かる西の橋。北堀江東端の旧町名「吉野屋町」に由来。
となっていました。
 江戸時代中期の俳人小西来山の句「涼しさに 四ツ橋を四ツ わたりけり」が有名で、長堀通の中央部に句碑が建っています。
 現在では、大川、土佐堀川、堂島川、木津川、道頓堀、東横堀(いわゆるロの字の水路)を残して、ほとんどの堀が埋立てられています。

【まちの姿】
 道路を見ると、図の中央部南北(横方向)に、堺筋通り、心斎橋通りが描かれ、長堀橋、日本橋、心斎橋、戎橋の名前も見えます。この2本の道が、船場、島之内を突き抜けるメインストリートになっていた様子がよくわかります。(この図では、南北の道も「通り」と表記されています。東西の「スジ」もいくつか見られ、当時は、東西は通り、南北は筋という明確な使い分けは無かったようです。)

 東西(縦方向)の通りを見ると、伏見町、道修町、淡路町、安土町、本町、久宝寺町、順ケイ町などの名前が見えます。通り名は入っていませんが、今バシ、カウライバシ(高麗橋)、シアンバシ、ノウニンバシ、安堂寺バシ、九ノ介バシ、瓦ヤバシといった橋の名前が書かれています。

船場・島之内周辺

【天下の台所】
 名所・名店についてみると、
赤いラベルで、御城と銅吹屋、平五・天五・鴻池・加嶋屋といった両替商。
茶色のラベルで、スルガヤ、玉露堂、虎屋饅頭、ウルユス店、コシヤウシ円、古梅園などの名店。
黄色のラベルに赤い紋章入りで、升屋岩城呉服店、三井呉服店(後の三越)、小橋屋呉服店、松屋呉服店(現在の大丸)が目立っています。
現在も残っている名店も多くあります。
 黄色のラベルはたくさんありますが、ざっと見ると、東御奉行所・西御奉行所、天満宮、四天王寺、住吉、西御堂・東御堂(方角では北・南ですが)、川沿いに八ケン家、青物市場・雑喉場魚市場、金相場、御蔵、道頓堀に沿って竹田・若太夫・角・中・筑後の浪花五座、周辺部には曽根崎新地・高津新地・難波新地など、多数の名所や地名が記されています。
 中之島や西天満には蔵屋敷多し、堂島には米市場の文字が見えます。
 堀川の水運に支えられ、天下の台所として栄えた商都大坂のにぎわいが伝わってきます。
 この地図で、西御堂、東御堂となっているのは、西本願寺別院(津村御堂・北御堂)、東本願寺別院(難波御堂・南御堂)だからのようです。方角による位置関係よりも建物の由来からそのように呼ばれていたようです。この地図では東が上に描かれていますから、ちょうど京都の西本願寺、東本願寺と同じような並びになっており、それぞれ大坂城、二条城との位置関係も同じです。御堂筋の名前は西本願寺派の「北御堂」と、東本願寺派の「南御堂」が沿道にある事から名付けられています。この地図の当時の御堂筋は、淀屋橋筋とは西に少しずれており、どちらも幅6mほどの狭い道に過ぎなかったのですが、1920年に市長となった關一によって、1933年に地下鉄の梅田~心斎橋間が開通、1937年には44mと大幅に道路拡幅された御堂筋が完成しました。一躍大阪を代表する道路へと様変わりし、大阪のメインストリートの座が堺筋から御堂筋へと移りました。

南北両御堂と東西本願寺の位置関係の比較

【雑誌「大阪人」の最終号での紹介】
 『浪華名所独案内』については、本渡章さんが一冊丸ごと編集を担当された古地図の大特集、雑誌「大阪人」の最終号「古地図で歴史をあるく」のP24,25に 《古地図入門-3【名所図】名所めぐりモデルコース付き、必携!浪華観光ガイドマップ。》 として紹介されています。

大阪人最終号 古地図で歴史をあるく

 本渡さんの解説には、「通り」と「筋」の使い分けの話題があります。
《この図では、谷町通、松屋町通、心斎橋通など南北の道を通り、平野町スジ、淡路町スジなど東西の道をスジと呼んでいるところが多く現在と逆になっている。東西でも本町通があったり、堺筋通のように両方ついていたりする。当時は使い分けに一貫性はない。明治初期に、行政が東西を「通り」、南北を「筋」と定めた経緯については、大阪城へ向かう東西の道を本通りとし、南北を横道として筋としたからという。これにも異説があって、結論ははっきりしない。》とあります。


 今回は江戸時代天保年間に発行された「浪華名所獨案内」をご紹介しました。今昔館8階には、パノラマ地図を拡大した光床がありますから、「浪華名所獨案内」と「大阪市パノラマ地図」を見比べながら、じっくり観察すると、まだまだ他にも面白いことが発見できると思います。
 古地図を見ながらのまち歩き、ブラタモリの気分で楽しんでみませんか。
 本ブログで使用した地図は、二つ井戸津の清さん、ちずぶらりさん、国土地理院さんからお借りしました。


大阪くらしの今昔館近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」


 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇企画展「大工頭中井家伝来 茶室起こし絵図展」開催中です

 2021年11月19日(金)〜2022年1月16日(日)

 わびの造形を極限にまでつきつめた草庵風茶室、それを書院にもちこみ洗練させた数寄屋風書院。いずれも現在の和室の原点とされています。本展覧会は、そうした茶室と数寄屋を、江戸時代の大工の手になる紙の建築模型「起こし絵図」によって紹介します。出品作品は、徳川幕府の京都大工頭として活躍した中井家に伝来したもので、国の重要文化財に指定されています(中井正知氏・中井正純氏蔵)。日本を代表する茶室、妙喜庵「待庵」、大徳寺龍光院「密庵」、大徳寺孤篷庵「忘筌」、大徳寺真珠庵「庭玉軒」や、現在は失われてしまった幻の茶室の「起こし絵図」も含まれています。同時に展示する茶室「蓑庵」(大徳寺玉林院・重要文化財)の実物大模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)と併せて、茶室と数寄屋の魅力をご堪能ください。

入館料 :(8階常設展示室の入場料を含む)
     一般4 0 0円(団体3 0 0円)
     高校生・大学生3 0 0円(団体2 0 0円)(要学生証提示)
     (注)団体は2 0名以上
     大阪周遊パスでもご入場いただけます。
     中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内在住の6 5歳以上の方は無料です。(要証明書提示)

【特別展関連講演会のご案内】
※何れの講演会も令和3年10月1日より募集を開始します。

講演会①(終了しました)
開催日:令和3年11月23日(火・祝)
◆中井家本「茶室起こし絵図」の建築史的価値(谷直樹氏/大阪くらしの今昔館前館長・大阪市立大学名誉教授)
◆「茶室起こし絵図」の保存修理(坂田さとこ氏/㊑坂田墨珠堂代表取締役)

詳しくはこちら
https://www.osaka-angenet.jp/event/145

講演会②
開催日: 令和3年12月25日(土)
◆数寄大名小堀遠州と大工頭中井大和守(谷直樹氏/前出)
◆大徳寺塔頭玉林院の茶室「蓑庵」と牌堂「南明庵」の建築にみる大工の技ー数寄屋大工と堂宮大工の協働ー(日向進氏/京都工芸繊維大学名誉教授)

詳しくはこちら
https://www.osaka-angenet.jp/event/146

大徳寺真珠庵茶室「庭玉軒」(起こし絵図)
重要文化財/中井正知氏・中井正純氏蔵
茶室「蓑庵」実物大模型
(公財)竹中大工道具館蔵
小堀遠州自筆書状(中井大和守宛)
重要文化財/中井正知氏・中井正純氏蔵
千利休画像(土佐光芳筆)
大阪城天守閣蔵


〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、9月18日より令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。

 イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

 開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。


〇大阪くらしの今昔館を紹介する動画作成プロジェクトが「2021年度都市住宅学会賞・業績賞」を受賞しました

 受賞対象は「歴史博物館から発信する大阪の町家と住文化の魅力-子ども・若者・外国人に町家と住文化を理解してもらうための動画制作プロジェクト-」です。
 この動画制作プロジェクトは、2018年度に申請者らからなる博物館住まい学習研究会が「建築技術教育普及センター」の助成を受け、大阪くらしの今昔館の9階常設展示「商家の賑わい」で撮影・編集し、2019年3月に完成しました。ドイツ人留学生のザビ-ネさんがナビゲートし、今昔館ボランティア「町家衆」の皆さんが江戸時代の住民に扮して出演しています。その後、2019年7月からYouTubeで配信しました。

 大阪くらしの今昔館を紹介する学習ビデオは、「なにわの町並み」、「町家の商い」、「町家のくらしとおもてなし」、「裏長屋のくらし」の4編(それぞれ日本語字幕版と英語字幕版)で構成されています。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf





 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



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