10月29日から全面開館している「大阪市立住まいのミュージアム(愛称:大阪くらしの今昔館、以下「今昔館」という)」の江戸時代のフロアの見どころをシリーズで紹介しています。第3回目の今回は、大坂町三丁目の木戸門を入って表通り(町通り)の一番奥、右側にある薬屋(合薬屋)をご紹介します。
合薬屋は、展示場に再現された町並みの中で、最も間口が広い町家で、奥行きも深く取られ、裏庭と蔵の一部まで再現されています。
合薬屋の正面外観 |
合薬屋の正面外観は、本瓦葺きの屋根にこけら葺きの通り庇が付き、中央には大きな屋根看板が付いています。大坂の大店によくみられた店構えです。通り庇は「ねじがね」で釣られています。
屋根看板や暖簾に見える「ウルユス」は薬の名前で、その語源は「体内の毒を空にする」という意味の「空ス」の空の字を3つに分割して「ウルユ」として「ス」をつけ、オランダ語めかした名前を付けたとされています。下剤の一種ですね。
町家の規模が大きくなると、表と奥の2つの棟に分けて建てられるようになります。これは表屋造と呼ばれる形式で、表の店部分(表棟)と奥寄りの台所・座敷部分(奥棟)に分かれ、両者は平屋の玄関で接続されます。また、通風や採光を配慮して、玄関の前後には中庭が配置されています。
表屋造の町家 |
合薬屋の構成 |
合薬屋の店の間。正面には日本産や中国渡来の薬草を収める小引き出しのついた百味箪笥。出格子の前には薬研・臼・秤・薬草切りが並んでいます。天井からは、薬袋が吊り下げられています。
合薬屋の主人は肥後屋丈右衛門で、家族は6人ですが、奉公人6人を抱えて手広く商売を営んでいます。土地建物を所有し、町年寄を勤めたこともある町内の有力町人です。モデルとなったのは淡路町心斎橋筋西にあった長崎健寿堂で、ここでは「ウルユス」という蘭方薬を店先で調合販売していました。長暖簾にはウルユスの効能書きが記してありますから、これをじっくりと解読するのも一興かもしれません。「ウルユス」については、こちらの動画もご覧ください。
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
〈②町家の暮らし編〉
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
合薬屋の座敷は、もみじ色の大坂土で仕上げられており、座敷には床・棚・付書院の座敷飾りを備え、座敷と中の間との境には欄間がはまっています。建具を開け放つと、座敷の縁側から店の間、さらには表通りまで見通すことができます。町家の間取りの大きな特色です。右下の写真は、夏の合薬屋座敷。暑い夏、座敷のしつらいは大きく変わります。ふすまや障子はすべて簾戸(すど:簾をはめ込んだ建具)に入れ替えられ、部屋には籐(とう)の上敷きが敷き詰められます。いかにも涼しげです。
合薬屋の土蔵。大坂の土蔵は鉢巻と呼ばれる屋根の軒が厚く、窓は片扉、壁面下部の石垣を漆喰で塗り込めないのが特色でした。
天保年間発行の浪華名所獨案内を見ると、淡路町通(地図では淡路町スジ)と心斎橋筋(地図では心斎橋通)の交差点の西側に「ウルユス店」の文字が確認できます。隣にある「コシヤウシ圓」(巨勝子円(コセウシヱン))も薬屋で、腎臓(じんぞう)を強くする薬を販売していたそうです。西御堂とあるのは、本願寺津村別院(北御堂)のことですが、西御堂とも呼ばれていたようです。
浪華名所獨案内の船場付近 (大阪市立図書館蔵) |
浪華名所獨案内の北御堂(西御堂)付近 (大阪市立図書館蔵) |
今回は、大坂町三丁目の木戸門を入って表通り(町通り)の一番奥、右側にある薬屋(合薬屋)をご紹介しました。
〇今昔館は10月29日から全面開館しています
天井改修工事にともない閉鎖していた9階常設展室及び10階展望フロアが令和4年10月29日(土)から再開されています。
●入場料変更のお知らせ
令和4年10月29日(土)から通常料金になります
【一 般】600円(団体500円)
【高校生・大学生】300円(団体200円)
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
〇企画展「なにわを語る 明治・大正・昭和の絵葉書」開催中です
2022年10月29日(土)〜2022年12月18日(日)
日本の郵便制度は明治4年(1871)に始まり、明治6年(1873)には国内初となる官製葉書が発行されました。その後、明治33年(1900)に私製絵葉書の使用が認められると、風景や美人を題材にした絵葉書が人気を博し、各地で絵葉書専門店が登場するなど、人々の間に新たな大衆文化の1つとして浸透してゆきました。
国内における絵葉書文化が花開くのと時を同じくして、大阪では明治36年(1903)の第五回内国勧業博覧会をはじめ、都市の近代化や大大阪時代の到来を象徴する絵葉書が次々に発行されたほか、作家たちによる「なにわ」の風俗を扱った芸術性の高い絵葉書なども登場し、大流行しました。
本展では明治から大正、昭和にかけて発行された大阪ゆかりの絵葉書にスポットをあて、時代とともに移り変わる街の風景や建築、人々の暮らしや文化の醸成、趣味人たちの交流などを幅広く紹介します。絵葉書ならではの多様なジャンル、ユニークなデザイン、巧みな技法によって表現された魅力あふれる大阪の姿をお楽しみください。
なお、本展は今年で創立20周年を迎える日本絵葉書会との共同開催展です。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画はこちらからどうぞ。
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/@user-hm7hq2uu4o/videos
https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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