今回は、「江口君堂」をご紹介します。
■江口君堂(国員画)
江口は古来淀川の河口にあたり川舟と海船とを乗り換えた場所で、古代以来栄えた淀川水運の要衝。平安期から天皇公家らの社寺参拝にも利用され、往来の旅人を相手にした遊興地として繁栄しました。
当地の遊女は古典の教養や今様などの諸芸に通じて貴人との交流も深く、後鳥羽上皇も江口の遊女との神楽や今様を楽しんだといわれます。
西行法師が四天王寺詣の道中、遊女妙(たえ・江口の君)と歌問答の後に心を通わせたといわれ、謡曲「江口」によって広く知られています。のちに妙は出家、草創したといわれる寂光寺は、一般に江口の君堂と呼ばれ親しまれました。
現在の建物は江戸時代のもので、昔は淀川を往来する船からも望めましたが、現在は護岸にさえぎられています。
浪花百景「江口君堂(国員画)」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
まず、地形図で江口君堂周辺の様子をみてみましょう。明治41年陸地測量部地図を見ると、淀川から神崎川が分かれるところに江口の集落があります。集落の南にあるお寺が江口の君堂です。明治30~40年代の淀川改修工事によって新しく堤防が築かれたため、淀川から神崎川への船の通行はできなくなっています。
明治42年陸地測量部地図 (今昔マップ3より) |
国土地理院地図に「明治時代の低湿地」という図があり、明治20年ころの河川や池、水田などの様子がわかります。淀川の改修工事以前には、淀川から神崎川へ直接船の行き来ができ、その中継地点に江口の里があったことがわかります。
国土地理院地図(明治時代の低湿地) |
今昔マップ3を利用して、明治41年以降の江口の里周辺の変遷を見てみます。
左上の明治41年では、江口の集落の周りはほとんどが水田でした。
右上の昭和4年では、道路がいくつか整備されていますが、大半は農地です。「江口町」の文字が見えます。
明治41年から平成7年の地形図 (今昔マップ3より) |
左下の昭和42年を見ると、「南江口町」の表示となり、南に「北大道町」、西に「小松」の市街地ができています。地図の左上を新幹線が通っています。
右下は平成7年の地形図ですが、住居表示の整理により「南江口三丁目」「瑞光五丁目」「大桐五丁目」「小松五丁目」といった表示に変更されています。全体に市街地化が進んでいます。
江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」、文化3年(1806)発行の「増修改正摂州大阪地図」、天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大坂全圖」、大正13年(1924)発行の「大阪市パノラマ地図」では、淀川と中津川の分岐点よりも北に位置する江口付近は地図の範囲に入っていません。
昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、大阪市の北東の隅に江口があります。境界線が3種類に書き分けられています。1つは市と郡の境、1つは市と河内の国の境、1つは摂津と河内の国境です。この時代でも「国境」が表示されていることは興味深いことです。
大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵) |
現在の江口の君堂付近の状況を写真で見てみましょう。淀川の堤防から降りたところに「江口の里」の石碑があり、その前に江口の君堂(寂光寺)のお堂や鐘楼が並んでいます。境内には君塚、西行塚、歌塚、謡曲「江口」と贈答歌の説明板、句碑などがあります。
江口の里 |
江口君堂 |
君塚と西行塚 |
謡曲「江口」と贈答歌 |
境内掲示の由緒には、「当寺は摂津の国中島村大字江口に在り、宝林山普賢院寂光寺と号すも、彼の有名な江口の君これを草創せしを以って、一に江口の君堂と称す。
そもそも江口の君とは平資盛の息女にして、名を妙の前と言い平家没落後に授乳母なる者の郷里、即ち江口の里に寓せしが、星移り月は経るも、わが身に幸巡り来らざるを嘆き、後遂に往来の船に棹の一ふしを込め、秘かに慰さむ浅ましき遊女となりぬ。・・・」とあります。かなりの長文です。
境内掲示の由緒 |
境内にある西行と妙の歌碑(歌塚)は江戸時代の好事家が淀川の堤防上に建てたもので、明治の淀川の改修工事で境内に移築されました。右面に西行法師の歌、左面に遊女妙の返歌が刻まれています。一夜の宿を断られた西行が、「悩み多い世の中を嫌って出家するところまでは難しいだろうが、仮の宿を貸す事さえも惜しむのですか」と女になじったところ、女(遊女妙)から、「あなたは悩み多いこの世を嫌って出家なさっている人とお見受けしますので仮の宿に執着なさるなと思うだけなのです」と、軽妙に応じ返してきたものです。
妙女・西行法師歌碑(歌塚) |
境内には、七世文字太夫の功績をたたえる「常磐津塚」もあります。
常磐津塚 |
鐘楼にある鐘は、淀川を往来する川船に美しい余韻を響かせ、船人たちも思わず襟を正したといわれます。現在のものは再鋳されたものですが、「くまもなき月の江口のシテぞこれ 虚子」をはじめ、高名な七人の俳人の句が刻まれ、俗に俳句鐘と呼ばれています。
鐘楼 |
当地で催される流燈会(お盆の灯籠流し)を詠んだ阿波野青畝句碑「流燈の帯の崩れて海に乗る」もあります。
阿波野青畝句碑 |
江口の里の傍の堤防に上がり、上流側を見るとモノレールが走る鳥飼大橋の白いアーチ型のトラスが見えます。下流側は川が蛇行しているため、豊里大橋は見えません。河川敷はグラウンドとなっています。
堤防より淀川上流を望む |
堤防より淀川下流を望む |
江口の里から北東へ約600mのところに、国土交通省一津屋樋門があります。淀川本流から神崎川が分岐する地点です。水量の制御ができるようになっていますが、船の通行はできません。
一津屋樋門(神崎川の分岐点) |
一津屋樋門と神崎川 |
現在の神崎川 |
今回は、「浪花百景」の「江口君堂(国員画)」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、大大阪時代に入る頃の大阪の姿をご覧ください。
錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。また、江口の君堂の由緒や歴史については東淀川区役所発行の「東淀川歴史探訪」を参考にさせていただきました。
〇4月13日(土)からは、9階江戸時代のフロアの常設展示は「夏祭りの飾り」の展示となりました。
展示替えによって、
幔幕(まんまく)と高張り提灯
造り物
お迎え人形
天神丸
などが加わりました。
光と音の演出にも、祭囃子や花火が入り、にぎやかさが演出されます。
〇企画展「モダン都市大阪の記憶」終了しました
多くのみなさまのご来場ありがとうございました。
〇次回の企画展は「おかげさまで第6回 吉例 昭和レトロ家電 ―マスダコレクション展―」
2019年4月20日(土)~5月26日(日)
大阪くらしの今昔館で好評を博してきました昭和レトロ家電の展覧会が、今年も開催となりました。
本展では、家電コレクターである増田健一氏が20年以上にわたって収集したコレクションの中から、魅力あふれるレトロ家電を選りすぐり、販売当時の懐かしいポスターやチラシ等と共に展示します。どうぞお楽しみに。
(松下)大阪万博記念トランジスタラジオ 「パナペット70」 昭和45年 |
(三洋)アート・ドア冷蔵庫「金馬車」 昭和44年 |
〇今週のイベント・ワークショップ
4月17日(水)~20日(土)、22日(月)、24日(水)~27日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
4月21日(日)、28日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
4月20日(土)
イベント 町家寄席-落語
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演・演目:桂出丸、他
14時~15時
町家衆イベント 折り紙(有料)
季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30-15:00
4月21日(日)
町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00
イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時
4月27日(土)
イベント 座敷舞
山村流の立ち方が華やかな舞を披露します
出演:山村若女 御一門
14時~15時
町家衆イベント ワークショップ『綿くり体験』
13時30分~15時
定員なし、参加費無料
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆
4月28日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ http://konjyakukan.com/index.html
「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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