桜下美人図
今回は、5月20日(月)まで企画展「春夏秋冬 花鳥風月に遊ぶ」に展示中の作品「桜下美人図」(佐藤魚大画)をご紹介します。
咲きこぼれる八重桜に両腕を伸ばし、枝を折ろうとしている女性。桜の枝は裂け、その振動で花びらが散っています。大胆で意表をつく構図とは対照的に、女性の表情は柔和で優作品は優美な情感にあふれています。
「桜下美人図」佐藤魚大 |
女性の顔貌をみると、眉を剃って額上部に描き眉をし、口元は高価な笹紅(ささべに)をさし、御殿風の「下げ上げ」に髪を結っています。着物は墨絵風で色彩を抑えていますが、帯は対照的に鮮やかな橙(だいだい)色で、大きく描かれた白菊が際立っています。また、鯉口(こいくち)という狭い袖口や舟底型(ふなぞこがた)の袂(たもと)、幅の狭い帯を結び切りにして下方に垂らす公家風の着付をしています。たくし上げたお引きずりの裾を帯に挟んで引き出し、足元は庭下駄を履いているので、ごく近い外出の様子を描いています。
公家の侍女と思しき女性が桜の枝を折っている図から思い起こされるのは、後醍醐天皇の中宮(ちゅうぐう)西園寺禧子(きし)が、政務に忙しい帝の気を引くために、侍女に命じて紫宸(ししん)殿の左近の桜の枝を折らせ、折った枝を帝の前でみせびらかして、自分を追いかけさせた逸話です。
後醍醐天皇と禧子はおしどり夫婦として「増鏡」など複数の歴史物語に記されています。御所の桜を折ることは禁忌とされていましたが、帝は禧子を咎めることなく、次の歌を送っています。
九重(ここのえ)の雲ゐの春の桜花
秋の宮人(みやびと)いかでおるらむ
雲の立つ大空に向かって高く咲く春の桜花(紫宸殿の桜を指す)を、秋の宮人(中宮に仕える人)が、どうして折ったのだろうか
これに対する禧子の返歌は、
たをらすは秋の宮人いかでかは
雲ゐの春の花をみるべき
秋の宮(中宮)である私が、宮中の春の桜のように愛しいあなたに、どうしても逢いたかったからです
「新千載和歌集」春下116・117
禧子の実家の西園寺邸は「秋の深山」と呼ばれ、禧子は「秋の宮」と称されていました。女性の帯の白菊は「秋の宮」即ち禧子の暗喩(あんゆ)として描かれたものと思われます。
鑑賞者は本図を見て、帝と禧子の逸話や紫宸殿の桜に思いを巡らせ、さらに、帝が吉野に南朝を樹立した歴史から、名所吉野の桜へ思いを馳せたことが想像されます。
佐藤魚大は、長堀三休橋南に居住し、山水画や風俗画を描いて船場の旦那衆に愛好されました。本図は古典、和歌、歴史的な知識の基に鑑賞すると、画面を超えて様々な情景へと想像が広がる作品です。このような作品が受容され愛好されたことは、大坂町人の教養の深さを物語っています。
新収蔵品「桜下美人図」について(深田智恵子(大阪くらしの今昔館学芸員))あんじゅ98号より
作品名:桜下美人図
作家名:佐藤魚大(さとうぎょだい)(生年不詳〜天保8(1837)年頃)
制作年代:江戸時代後期
〇企画展「春夏秋冬 花鳥風月に遊ぶ」開催中です
2024年4月20日(土)〜2024年6月23日(日)
大阪くらしの今昔館では、近世から近代にかけて大阪で活動した絵師(大阪画壇)の作品を収集しています。彼らの作品の多くは、四季折々のまちの景観や年中行事を画題としています。 経済都市として繁栄した大坂の市中は商家が密集して建ち、自然の風物に触れられる場所は限られていました。都市に暮らす人々は絵画によって、四季の移ろいや自然の風情を感じ取っていました。
本展では月岡雪鼎(つきおか せってい)、佐藤魚大(さとう ぎょだい)、西山完瑛(にしやま かんえい)、菅楯彦(すが たてひこ)、五井金水(ごい きんすい)など、近世から近代にかけての大阪画壇の作品を展示します。大阪の人々が愛好した春夏秋冬・花鳥風月の世界をお楽しみください。
以下2点は5月20日(月)までの展示となります。
・「桜下美人図」佐藤魚大
・「源氏物語図屏風」個人蔵
入館料
企画展:500円
常設展+企画展:一般1,000円(団体900円)、高・大生700円(団体600円)(要学生証原本提示)
※団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳・ミライロID等提示者(介護者1名を含む)、
大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書原本提示)
「源氏物語図屏風 右隻」個人蔵 |
「源氏物語図屏風 左隻」個人蔵 |
「四季花鳥図」 |
「定家詠十二ヵ月押絵貼屏風」月岡雪鼎 |
「桜下美人図」佐藤魚大 |
「大川夕涼図」西山完瑛 |
「春風小午 野崎参り」菅楯彦 |
〇ワークショップ・イベントのご案内
和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
*スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。
〇入場料のお知らせ
【常設展】一般600円(団体500円)
高校生・大学生300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
ホームページをご覧ください。
※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。
〇着物体験サービス
感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。
着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。
●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日
※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。
【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。
〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム
〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
今昔館の展示関連の動画を集めました。
⇒https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました
「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」
コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))
■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください
■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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