2024年5月15日水曜日

今週の今昔館(423) 館蔵品のご紹介 職人尽屏風 20240515

〇今昔館の館蔵品のご紹介

職人尽屏風


 今回は、令和2年2月に新収蔵資料として受託した「職人尽屏風(しょくにんづくしびょうぶ)」をご紹介します。

 本屏風は縦135㎝(本紙131.5㎝)横375㎝(367.6㎝)、八曲(はっきょく)一双(いっそう)の仕立てです。
 作者は不明ですが、画中の人物の着物や髪型など風俗的な意匠から、制作年代は江戸時代中期以降と推定されます。
 右隻左隻(うせきさせき)それぞれに、通りに沿って町家が並ぶ近世の都市景観が描かれ、店の間で活動する職商人の姿を中心に、通りや川、浜地で働く庶民の姿が描かれています。
 ここでは、本屏風に描かれた種々多様な職商人の姿から、近世の生業(なりわい)と都市の生活世界を読み解いてみたいと思います。
 あんじゅ89号に掲載の「近世都市に展開する多様な生業 寄託資料『職人尽屏風』より」(大阪くらしの今昔館学芸員深田智恵子氏著)から、引用させていただきました。

■職人尽絵とは
 職人を描いた絵画類は、鎌倉時代に制作された職人歌合絵巻(注1) が始まりとされています。
 以来、数多くの職人図が描かれ、近世に入ると、当時流行していた風俗画と掛け合わされた職人尽図屏風が盛んに制作されるようになりました。
 現存する職人尽図屏風のなかで最も有名なものが、近世前期に活躍した狩野吉信(1552-1640)の制作とされる埼玉県川越市喜多院所蔵の「職人尽絵屏風(注2)」 です。
 六曲(ろくきょく)一双(いっそう)の各扇(かくせん)にそれぞれ2図が貼られ、合計24図で構成されています。
 描かれているのは仏師、傘張り、革細工師、鎧細工師、表具師、糸師、型置師、筆結(ふでゆい)、扇師、檜物師(ひものし) (注3)、研師(とぎし)、弓師、念珠挽、鍛冶師(かじし)、機織師、刀師、矢作師(やはぎし)、蒔絵師、向膝師(むかばきし)(注4) 、番匠(ばんしょう)、畳師、桶結(おけゆい)、縫取師、纐纈師(こうけちし)(注5) 、藁細工師の25種です。
 職種ごとに職人の動作、衣装、道具、材料などが描かれています。この喜多院本と類似の構図・図様の作例は多数現存し、描かれる職種に定型があったようです。

■寄託資料「職人尽屏風」に描かれた生業
 今昔館寄託資料の「職人尽屏風」は、八曲全体に都市の景観が大きく描かれ、その中で活動する職人や商人の姿が描写されています。

■右隻
 まず、右隻から見てみましょう。

右隻

 第一扇第二扇には鍛冶屋、檜物師、大工が描かれています。

図1

 大工は町家の出格子を造作しており、手伝いの男が格子の材料を運んでいます。傍らではこの家の主人と思われる隠居風の男性が大工の仕事振りを見守っています【図1】。

 隣の町家では檜物師が薄板を削り、室内に三宝など完成した曲げ物が置かれています。その隣は鍛冶屋です。鍛冶師が打っているのは小型の鉄片なので、刀鍛冶ではなく、包丁や大工道具などの日用品なのでしょう。

図2

 第三扇では左官が3階蔵の壁を塗っています。櫓(やぐら)を組んで2階の壁を仕上げています。櫓の上の職人に、下から別の職人が長い柄の付いた鏝(こて)台(だい)で漆喰を渡しています。高所の左官作業の手法を窺うことができる興味深い描写です【図2】。

 第四扇は足袋屋で、生地を裁断しているところが描かれています。

 第五扇は烏帽子の仕上げに漆を塗る烏帽子(えぼし)折(おり)が描かれています。その隣の町家では、念珠師が数珠玉に糸を通す作業をしています。念珠屋の二階の窓は仏具を象徴する花灯窓で描かれています。

 第六扇は本屋です。ここは角地のため、通りに面した二方向が開放されています。店の間では紙を滑らかにする紙打ちと、本を綴じる製本の様子が描かれています。本屋の上手(かみて)には研屋があり、その隣では傘張りが作業をしています。また、本屋の向かいの町家では仏師が仏像を彫っています。

 第七扇では柄巻(つかまき)師が刀の柄に糸を巻く姿が描かれています。その隣は染物屋で、女性が床下に埋め込まれた染料の甕に生地を浸しています。さらにその隣の町家で作業するのは弓師です。

■左隻
 左隻は第一扇から第六扇まで画面中央に町並みが続き、第七~八扇にかけて画面の上方から下方に橋の架かる川が流れ、変化のある町並みが描かれています。

左隻

 第一扇には筆結(ふでゆい)と木地師。筆結の軒には筆を描いた看板が下げられ、店では筆師が小刀を使って毛の調整や仕上げをしています。木地師は轆轤(ろくろ)を使って椀や壺型の器を作っています。

 第二扇は呉服屋。店舗間口の約半分は黒い長暖簾で覆われています。呉服屋では反物の日焼けを防ぐために長暖簾が用いられました。残りの半分は開放されていて、反物を広げて客に対応する手代の姿があります。

 第三扇は薬屋で、薬(や)研(げん)で薬草を砕く様子と、薬を袋に詰める作業が描かれています。薬屋の向かいは味噌屋で外壁に杉玉が飾られています。杉玉は酒造や醸造業者が店頭の飾りとして用いました。

 第四扇は扇屋。店の暖簾は扇の柄です。3人の女性が分業で扇を作製しています。その隣の町家には糸繰りをする女性が描かれています。

 第五扇は川からの町の入り口に当たり、ここには両替屋があります。店の間には秤(はかり)、丁(ちょう)銀(ぎん)、分銅(ふんどう)があり、手代が竿秤(さおばかり)で小玉銀を測っています。

 このように職人と商人合わせて約20種の生業が描かれています。本来、表通りに面する店の間は商いの空間で、職人は路地奥に作業場を構えることが一般的ですが、職人の姿を描くことをテーマとしている本図では店の間に職人を配しています。

 さて、本図と喜多院本に描かれた職種を比較すると、鍛冶師、大工、傘張り、仏師など共通するものがある一方、喜多院本にあった職種の半数が描かれていません。

 反面、喜多院本に見られない本屋、薬屋、呉服屋、両替商といった商家か描かれています。職工の姿が減って、商家の商いの様子が多く捉えられているところに、近世中期以降の都市生活の成熟が反映されているといえるでしょう。

■都市の賑わい

図3

 都市景観を描いた本図には、通りや川、橋、浜地といった屋外空間での様々な生業が描かれています。大通りをみると、大量の薪を運ぶ馬子や頭に薪を乗せた大原女がいます。

 また、天秤棒に水桶や笊(ざる)を付けた振売り、瓢箪(ひょうたん)を叩きながら歩く茶筅売りの姿もあります。大きなつづらを背負った男は地方からの行商人と思われます。

 また、客を乗せた駕籠屋が何組も描かれています。その他にも、風呂敷を背負った商家の手代や丁稚もいます。

 また町家の軒先で尺八を吹く虚無僧(こむそう)と、その虚無僧に店の女将がお布施を渡している場面も描かれています。

 別の町家の前では琵琶(びわ)法師(ほうし)が佇み、少し離れて猿回しが芸を披露するなど、通りには芸能者の姿もあり、これらを面白そうに見物する人々もいます。

 一方、川をみると、米俵を積んだ舟が岸に繋留され、人足が浜地に米俵を下す作業をしています。積み上げられた米俵の前で、筆と帳面を持った2人の男が商談をしています。卸問屋と米屋が値段交渉をしているのでしょうか。

 交渉が成立したのか、べか車(注6)で米俵を運搬していく商人の姿もあり、活発な商いの様子が窺えます。米俵の周りには商人だけでなく、腰掛けて雑談する人足や、こぼれた米粒をついばむ鶏たちもいます。米俵から少し離れた橋のたもとには駄菓子を売る露店が出て、子どもが興味を示しています【図3】。

 川沿いの空地には茶店が設えられ、床机に掛けて川を眺めながら一服している客がいます。向こう岸では、公家屋敷風の家の門前に、立売の一服(いっぷく)一銭(いっせん)の茶屋が出ています。

 川の中に目を向けると、鵜匠とシジミ取りが漁をしています。そのすぐ上流には客を乗せた渡し船があり、乗客たちは酒宴をしています。

 都市に展開される生業と、それを享受する人々によって賑わいと活気が創出されています。本図には町家の店の間、大通り、浜地、空地、川といった都市のあらゆる場所で、様々な生業を営む職商人が描かれています。

 それらは、衣・食・住に直結して日常の暮らしを支えるもの、信仰、医療に関わるもの、娯楽的な要素を持って暮らしに潤いを提供するものなど、実に多彩です。多種多様な営みが並行して展開される生活世界が捉えられており、近世都市の賑わいと活気を読み取ることができます。

(注1)職人を題材とした歌合で歌、判詞に職人の姿絵が描かれました
(注2)国指定重要文化財。紙本着色。近世初期における代表的な風俗画
(注3)桧などの薄板を用いて、円形や楕円形の容器を作る職人
(注4)中世から近世の頃、遠行の外出・旅行・狩猟の際に両足の覆いとした布や毛皮の類を作る職人
(注5)絞り染めの職人
(注6)荷車のことを大坂ではべか車と呼んだ



〇企画展「春夏秋冬 花鳥風月に遊ぶ」開催中です

2024年4月20日(土)〜2024年6月23日(日)

 大阪くらしの今昔館では、近世から近代にかけて大阪で活動した絵師(大阪画壇)の作品を収集しています。彼らの作品の多くは、四季折々のまちの景観や年中行事を画題としています。 経済都市として繁栄した大坂の市中は商家が密集して建ち、自然の風物に触れられる場所は限られていました。都市に暮らす人々は絵画によって、四季の移ろいや自然の風情を感じ取っていました。

 本展では月岡雪鼎(つきおか せってい)、佐藤魚大(さとう ぎょだい)、西山完瑛(にしやま かんえい)、菅楯彦(すが たてひこ)、五井金水(ごい きんすい)など、近世から近代にかけての大阪画壇の作品を展示します。大阪の人々が愛好した春夏秋冬・花鳥風月の世界をお楽しみください。

以下2点は5月20日(月)までの展示となります。
・「桜下美人図」佐藤魚大
・「源氏物語図屏風」個人蔵

入館料
企画展:500円
常設展+企画展:一般1,000円(団体900円)、高・大生700円(団体600円)(要学生証原本提示)

※団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳・ミライロID等提示者(介護者1名を含む)、
 大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書原本提示)

「源氏物語図屏風 右隻」個人蔵
「源氏物語図屏風 左隻」個人蔵
「四季花鳥図」
「定家詠十二ヵ月押絵貼屏風」月岡雪鼎
「桜下美人図」佐藤魚大
「大川夕涼図」西山完瑛
「春風小午 野崎参り」菅楯彦


〇ワークショップ・イベントのご案内
 和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
 *スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
 定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。


〇入場料のお知らせ
【常設展】一般600円(団体500円)
     高校生・大学生300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
     ホームページをご覧ください。
     ※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。

(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)

今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
 https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide


〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。


〇着物体験サービス

感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。

着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。

●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日

※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。

【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。



〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。

 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。

 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo



〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム




〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
 今昔館の展示関連の動画を集めました。
https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o


 英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
 https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました

「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」

コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))

■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!

※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください

■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!

※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



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