今回は、あんじゅ90号 特集「商店街と暮らす」に掲載されている、大阪くらしの今昔館 増井正哉館長の論文をご紹介します。
「商店街」には明確な定義がないそうです。経済産業省の商業統計表では、「小売店、飲食店及びサービス業を営む事業所が近接し」、数も「30店舗以上」となっていますが、私たちが「商店街」と呼んでいてもこれに当てはまらないものもたくさんあります。
ただ、「親しみやすい」「対面での応対が中心」など、共通するイメージがあるのも確かです。個々のお店の構えがそれぞれに特徴があり、通りの両側に立ち並んだお店が町並み・「街」をなしていることも共通のイメージではないでしょうか。
大正期の心斎橋筋商店街(大阪府写真帖・大正3年から) |
近代大阪には数多くの商店街がありました。昭和13年(1938)の「大阪市内商店街二関スル調査」(商工省商務局)では、天神橋筋商店街をはじめとして心斎橋筋商店街など13の「主要商店街」が調査の対象になっていますが、これらはほんの一部でした。その起源も、近世からの同業者街・市場・寺社の門前・街道筋の町並み、大規模な施設や駅の建設に付随して成立したものなど、さまざまでした。
今昔館では心斎橋筋商店街のジオラマと空堀商店街の模型を展示しています。心斎橋筋は昭和2年、空堀は昭和13年の設定で、それぞれ、昭和4年にはじまる大恐慌の前で大大阪の繁栄の頂点ともいえる時代と、日中戦争が始まり戦時色が加わっていく時代の商店街の様子です。
心斎橋筋では通りの人びとの服装を当時の写真雑誌を参考にして作成したり、空堀ではヒアリングから得られたエピソード(地蔵盆や坂道を上る荷馬車など)を再現したり、それぞれに風俗面でも見所が多いのですが、ここでは2つの展示を店構えや町並みに注意して見てみましょう。
心斎橋筋は近世からつづく賑わいの町です。近代にはショーウィンドーをしつらえ、とりどりの看板を掲げた華やかな店構えの商店が軒を連ね、消費文化・情報発信の中心地でした。心斎橋筋をウィンドーショッピングしながら歩く「心ブラ」は都市生活の楽しみのひとつだったようです。
ジオラマの拠り所は昭和2年の「心斎橋筋案内」と題したパンフレットに書かれた町並みのイラストで、周防(すおう)町(まち)から宗右衛門(そうえもん)町まで、東西の店舗の店構えが表情豊かに描かれています。今昔館では心斎橋筋の東側、八幡筋から南の宗右衛門町に至る町並みを再現しました。
昭和20年代の空堀商店街 |
江戸時代はじめの空堀は瓦土取場のまん中を街道が通るさびしい場所でしたが、次第に市街地化していき、明治末には路地と長屋がならぶ高密度居住地となります。空堀商店街は模型のなかでも少し高まったところにある街道筋の両側に発展していきました。低くなったところは瓦土取場のあとの長屋群です。まさに居住地のなかの商店街で、心斎橋筋に比べると食料品や小間物・雑貨のお店も多く庶民的な雰囲気です。
心斎橋筋商店街模型 八幡筋から宗右衛門町までの東側 |
心斎橋筋商店街の今 |
表構えを見てみましょう。まず、心斎橋筋では洋風の建物が目につきます。ギリシャ・ローマ風の柱形に櫛形の破風を飾った様式建築風、軒蛇腹に細かい意匠を凝らしたセセッション風、すっきりとしたモダニズム建築風など、19世紀から20世紀初めに流行した建築様式が取り入れられています。看板もアールデコ風・アールヌーボー風なども見られます。
ただ、それぞれに様式を表現しているのですが、正統的なものではなく、いわば大阪らしい崩し方の「〇〇風」で、親しみのある雰囲気を感じます。写真のシーンでは近世以来の伝統的な5軒長屋がモダニズム風建築がとなり合うようにたち、新旧のコントラストが際立ちます。この時代の心斎橋筋には伝統的町家の表構えが残すお店がたくさんありました。ただ、本来は格子の構えであったところにガラス張りのショーウィンドーがはめ込まれています。
空堀商店街模型(南側から東西通の商店街を覗く) |
空堀では伝統的な長屋が密度高く立ち並んでいます。寄席の建物や4階建ての町家に加えて、シンプルなデザインのモダニズム風建築の店舗が目につきます。この店舗(正面建物)、裏から見ると4軒長屋です。このように裏手はそのままに表構えだけを洋風に作り替えた建物を「看板建築」といい、全国各地で建てられました。看板建築では表構えと町家本体は構造的に別物のため、自由にデザインができました。心斎橋筋でも多くの例が確認されています。また、通りには「すずらん灯」と呼ばれた街灯や木煉瓦舗装も、近代大阪の商店街らしいところです。
裏から見ると4軒長屋。「看板建築」という。 建物前には「すずらん灯」と「木煉瓦舗装」。 |
その一方で、伝統的な町家の表構えをそのまま残したお店もたくさんありました。通り側をすべて掃き出しの構えにしたり(「いけいけ」と呼んだそうです)、庇にテントを架けたりしています。昆布屋さんでは業種のシンボルとして杉丸太を表の結界に使っていたそうで、模型にも反映しています。
もともと、店構えには近世から業種ごとに特徴がありました。看板や暖簾の意匠はもちろん、庇の仕様や表の建具にも業種ごとの傾向があったことが分かっています。たとえば瓦葺の庇が一般的であったなかで、呉服屋・薬屋が杮(こけら)葺きであったり、屋根看板と吊り看板にも業種別の違いがありました。
江戸と京都・大坂の風俗比較を詳細に語った『守貞謾稿(もりさだまんこう)』で語られたように、近世大坂は大屋根や庇の高さが整った町並みで壁面の仕様や建具の意匠も比較的統一されていました。そのなかにも、目立つ工夫、お客を呼び込む工夫はあったのです。
空堀商店街の今 |
近代にはいると、西洋風の新しい様式・工法も加わることになって、店構えはより競争的・個性的になっていきます。しかも時代は大正から昭和初年の好景気で、建物の新築・増改築も進みました。このように近代の商店街は、多様な時代の建物、多様な様式が集まる町並みとなっていきます。
現代の商店街が抱える問題に対して各地で意欲的な取り組みが見られます。長い時間が作り出した町並み、そこに集う人びとの日常の風景を取り戻す取り組みもあれば、空き店舗・シャッター街をキャンバスに創造的な思いを描く取り組みもあります。
これらの取り組みの共通点の一つは、個性的なお店と、お店が並ぶ町並みを面白いと感じ、通り・軒下・空き店舗などの空間を活用しようとしている点です。そうした空間の細部にこだわった今昔館の2景にも取組のヒントが隠されているかも知れません。
※本文で紹介している模型・2景は大阪くらしの今昔館8階モダンパノラマ遊覧でご覧いただけます。是非、お立ち寄りください。
〇企画展「春夏秋冬 花鳥風月に遊ぶ」開催中です
2024年4月20日(土)〜2024年6月23日(日)
大阪くらしの今昔館では、近世から近代にかけて大阪で活動した絵師(大阪画壇)の作品を収集しています。彼らの作品の多くは、四季折々のまちの景観や年中行事を画題としています。 経済都市として繁栄した大坂の市中は商家が密集して建ち、自然の風物に触れられる場所は限られていました。都市に暮らす人々は絵画によって、四季の移ろいや自然の風情を感じ取っていました。
本展では月岡雪鼎(つきおか せってい)、佐藤魚大(さとう ぎょだい)、西山完瑛(にしやま かんえい)、菅楯彦(すが たてひこ)、五井金水(ごい きんすい)など、近世から近代にかけての大阪画壇の作品を展示します。大阪の人々が愛好した春夏秋冬・花鳥風月の世界をお楽しみください。
以下2点の展示は終了しました。
・「桜下美人図」佐藤魚大
・「源氏物語図屏風」個人蔵
入館料
企画展:500円
常設展+企画展:一般1,000円(団体900円)、高・大生700円(団体600円)(要学生証原本提示)
※団体は20名以上
※中学生以下、障がい者手帳・ミライロID等提示者(介護者1名を含む)、
大阪市内在住の65歳以上の方は無料(要証明書原本提示)
「源氏物語図屏風 右隻」個人蔵 |
「源氏物語図屏風 左隻」個人蔵 |
「四季花鳥図」 |
「定家詠十二ヵ月押絵貼屏風」月岡雪鼎 |
「桜下美人図」佐藤魚大 |
「大川夕涼図」西山完瑛 |
「春風小午 野崎参り」菅楯彦 |
〇ワークショップ・イベントのご案内
和文化体験のワークショップやパフォーマンスです。どうぞお楽しみください。
*スケジュール表はこちら≫https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/event
定員がある当日先着イベントは8階受付で12時から参加券を発行しています。
〇入場料のお知らせ
【常設展】一般600円(団体500円)
高校生・大学生300円(団体200円)
【企画展】展覧会ごとに料金が異なります。
ホームページをご覧ください。
※常設展と企画展のお得なセット券も販売しております。
(注)団体は20名以上
(注)高校生・大学生は学生証原本要提示
(注)中学生以下、障がい者手帳等持参者(介護者1名を含む)、大阪市内の在住の65歳以上の方は無料(証明書原本(運転免許証、健康保険証、敬老優待乗車証、障がい者手帳等、またはミライロID)要提示)
今昔館は、毎週火曜日が休館日となっています。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/guide
〇風呂屋シアターもリフレッシュ
「桂米朝・米團治と行く 大坂むかしまち巡り」と題して、商家の賑わいを紹介しています。
〇着物体験サービス
感染症対策のため中止しておりました、着物体験サービスを再開しています。
着物(夏季は浴衣)に着替えて江戸時代の町並みを散策することができます。洋服の上からはおる簡単な着付けなので気軽にご利用いただけます。
●受付時間 10:00〜
●受付場所:9階着物コーナー(人形屋)
●料金:お1人につき1回1000円
●体験時間:30分(着替え時間を含まない)
●定員:先着100名様/日
※身長制限 110cm以上
※国内外に関わらず、小学校・中学校団体様の着物体験利用の受付は行っておりません。
【ご提供するサービスの内容】
・着物・草履のレンタル
・着付け ※服の上から着物を着ていただきます。
・上着、厚手の衣類(セーター、トレーナー等)は脱いでください。
〇反物着装パフォーマンス
約13メートルの長さの反物を2個のクリップと帯紐だけで、あたかも着物を着たかのように着装します。まるで手品のようです。
場 所:9階呉服屋
日 時:不定期(イベントスケジュールをご覧ください)
※町家衆のパフォーマンスをご覧ください。着装の体験はできません。
〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?
「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムである「大阪くらしの今昔館」は、2001年4月26日に開館しました。2023年4月26日に開館22周年を迎えました。これからも、大阪くらしの今昔館をどうぞよろしくお願いいたします。
住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。
前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
こちらからどうぞ。
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo
〇「今昔館 まなびプログラム」が公開されています
大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
こちらからどうぞ。
⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館 まなびプログラム
〇おうちにいながらミュージアムを楽しもう!
今昔館の展示関連の動画を集めました。
⇒https://www.youtube.com/@user-zy5nw1vs2o
英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=lOgkk5mfaT0
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFcAzP08Ys
今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be
⇒https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4
〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw
〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
こちらからご覧ください。
⇒https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be
〇天満天神繁昌亭コラボレーション企画【チケ得】が始まりました
「天満天神繁昌亭」×「大阪くらしの今昔館」
コラボレーション企画【チケ得】が始まりました!
窓口でチケット半券を提示していただくとお得に入場、入館していただけます。
詳細は以下に記載しておりますのでご利用の前にご確認ください。
(実施期間2023年8月1日(火)~2024年3月31日(日))
■天満天神繁昌亭にお得に入場■
「大阪くらしの今昔館」のチケット半券を提示すると
「天満天神繁昌亭」の入館料が300円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※昼席一般当日入場料から300円引きいたします(例)当日料金2,800円が2,500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※満席の場合はご利用いただけません
※その他割引との併用はできません
※ご利用いただけない日程がございます。詳しくは天満天神繁昌亭にお問い合わせください
■大阪くらしの今昔館にお得に入館■
「天満天神繁昌亭」のチケット半券を提示すると
「大阪くらしの今昔館」の入館料が100円OFF!!
※対象チケットは公演日より30日間有効
※窓口でお買い求めの際にのみ適用されます
※入館料から100円引きいたします(例)常設展大人600円が500円に!!
※半券1枚につき1名様1回限り利用可
※企画展のみの場合は割引できません
※その他割引との併用はできません
※ お支払い方法は現金のみとなります
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
≫ https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/
「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html
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