2022年2月23日水曜日

今週の今昔館(307) からくり錦絵「心斎橋」 20220223

〇今昔館の近代展示室の見どころ(19)からくり錦絵「心斎橋」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されています。
 今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って、すぐ左手にある「からくり錦絵」の2枚目、「心斎橋」をご紹介します。


 明治6年(1873)3月、心斎橋が鉄橋に生まれ変わりました。ドイツから輸入した弓型鉄製トラス橋が長堀川に架かりました。大阪市内では高麗橋、新町橋に続いて3番目の鉄橋でした。

 心斎橋は、元和8年(1622)ころ美濃屋岡田心斉が中心となって、長堀川の開削と同時に両岸に沿うこの町の往来の便のため、南北に橋を架けたところから名づけられたとされます。

 心斉は、長堀川を開いて物流を盛んにし、大阪繁栄の基礎をつくったひとりでもあります。江戸時代の心斎橋は長さ18間(約35.5m)幅2間1尺(約4.2m)の木橋で、橋筋の人々が大切に維持管理する 「町橋」として近代までその生命を保ちました。

 文明開化の波にのって、明治6年(1873)、本木昌造氏の設計によってドイツ直輸入の鉄製弓形トラス橋となった心斎橋は橋脚なしに川をまたぐものでした。当時の人にとって鉄橋は非常に珍しく、大阪の人の間で話題となり、錦絵にも描かれました。

心斎橋(土木図書館蔵)
心斎橋南詰(大阪市立図書館蔵)
心斎橋から北を望む(左手奥に南北御堂が見える)
(大阪市立図書館蔵)

 心斎橋の弓形トラスは、1908年(明治41年)に心斎橋としての役割を終え撤去された後は、境川運河の境川橋として再利用され、1928年(昭和3年)に大和田川の新千船橋(大阪市西淀川区)と移設を重ね、1973年(昭和48年)に鶴見緑地にすずかけ橋として保存されました。1989年に現在地に移り、鶴見緑地公園の「緑地西橋」として余生を送っています。日本現存最古の鉄橋と言われています。なお、大阪市パノラマ地図には、境川橋として再利用されているアーチ橋が描かれています。


境川橋として再利用されている心斎橋の弓形トラス
(大正13年発行の大阪市パノラマ地図)
心斎橋の弓形トラスが再利用されている緑地西橋
心斎橋の弓形トラスが再利用されている緑地西橋

 明治42年(1909)には野口孫市氏の設計によって石造2連アーチ橋に架け替えられ、壮大な渡り初めが行われました。眼鏡橋として川面に映るガス灯と共に長く親しまれました。愛媛県今治市沖の大島産の良質の御影石を用い、西洋風意匠で組み上げた秀麗な雰囲気の名橋でした。

石造アーチの心斎橋(「絵はがきで読む大大阪」より)

 昭和37年(1962)に長堀川が埋め立てられて撤去された後、昭和39年(1964)に長堀通を横断する歩道橋として移築されました。映画「ブラック・レイン」にもワンシーンながら登場しています。

 その後、地下鉄長堀鶴見緑地線の工事のため撤去されましたが、平成9年(1997)にクリスタ長堀が完成した際、もとの心斎橋の位置に石造橋の一部がガス灯と共に復元されました。親柱、四つ葉のクローバー型の装飾のある欄干は建造時のもので、橋名・架橋年月・石工棟梁と石材提供人の名が刻まれています。クリスタ長堀の天井部を川に見立て、長堀川の水面が再現されています。南側歩道の東側に顕彰碑が設置されています。
 また、大阪市営地下鉄 心斎橋駅長堀鶴見緑地線ホームは、心斎橋の欄干やガス灯をモチーフとした装飾が施されています。

 それでは、古地図を通して心斎橋付近の変遷を見てみましょう。
 まず、江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、心斎橋筋には赤い線が引かれモデル観光ルートになっています。小梅エン、五レウ圓、大丸呉服店、ヲグラヤなどの老舗が並んでいます。戎橋を渡ると道頓堀の五座が並んでいます。心斎橋筋は、堺筋と並んで、長堀、道頓堀の両方に橋が架かり、南北方向のメインストリートであったことがわかります。堺筋の2つの橋(長堀橋と日本橋)は幕府が管理する「公儀橋」ですが、心斎橋と戎橋は町人が管理する「町橋」です。


「浪華名所獨案内」の心斎橋周辺(上が東)

 次は、同じく天保年間発行の「天保新改攝州大阪全圖」です。町名が詳しく書かれており、長堀に架かる橋も心斎橋、長堀橋のほかに、中橋、佐ノヤ橋も描かれています。名前の入っていない橋は三休橋です。

「天保新改攝州大阪全圖」の心斎橋(日文研蔵)

 明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」を見ると、心斎橋は長堀に架かる他の橋よりも太い線で描かれ、橋脚(杭)も表現されています。この時はまだ木造の橋で、翌年に鉄橋に架け替えられることになります。 

「大阪市中地區甼名改正繪圖」の心斎橋(日文研蔵)

 大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」を見ると、長堀に沿って東西に市電が通り、堺筋と四つ橋筋にも南北に市電が通っています。長堀よりも北の船場では通りに沿って東西方向の町が残っていますが、長堀の南の島之内では南北に「心斎橋筋一丁目」となっています。島之内の周防町より南側では、笠屋町、千年町など南北方向の町割りが多くみられます。

「實地踏測大阪市街全圖」の心斎橋(日文研蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」には、明治42年に架け替えられた石造アーチ橋が描かれています。心斎橋筋に沿って十合(そごう)、大丸もあります。長堀の北には市電が走り、停留所には電車の絵が描かれています。

「大阪市パノラマ地図」の心斎橋

 範囲を広げて見てみると、堺筋と四ツ橋筋には市電が走り、長堀通りの市電には心斎橋のほかに三休橋にも停留所があります。御堂筋は拡幅前で、長堀にも橋はありません。

「大阪市パノラマ地図」の心斎橋周辺

 最後に、明治時代以降の心斎橋付近の変遷を「今昔マップ」で見てみましょう。
 左上の明治41年の陸地測量部地図では、長堀の北側の通りが拡幅されていますが、それ以外の通りや筋は、江戸時代の町割りがそのまま残っています。堺筋も拡幅前です。

 右上の昭和4年の地形図では、長堀通りと堺筋が拡幅され市電が通っています。
 左下は昭和32年です。白くなっているところは、戦災で焼失した地域です。復興はまだあまり進んでいない様子です。

 右下は、最新の国土地理院地図です。長堀は埋め立てられ、広い幅の長堀通りになっています。西横堀も埋め立てられて、上を阪神高速道路環状線が通っています。

明治41年、昭和4年、昭和32年、最近の心斎橋(今昔マップ3)

 からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。近代都市として新しい発展の道を歩み始めた大阪の様子を、からくり仕掛けの錦絵で紹介しています。

からくり錦絵の解説板

 真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。明治時代に入って、文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。

赤いボタンを押す前の状態
3枚の演出が終了した状態

 今回は、からくり錦絵の第2回目として「心斎橋」をご紹介しました。近代展示室中央の光床「大阪市パノラマ地図」や、「浪華名所獨案内」で位置を確認し、変化の様子をたどることで、より楽しく見学していただけることと思います。



〇企画展「浪花 なりわいづくし」開催中です

 2022年1月21日(金)〜2022年4月10日(日)

*2月28日(月)~3月2日(水)は展示替えのため休館となります

前期 1月21日(金)~2月27日(日)
後期 3月3日(木)~4月10日(日)

 江戸時代、米をはじめとして全国の農産物・海産物・名産品など様々な物資の集積地であった大坂は商業をはじめ、物流、金融の中心地となり経済都市として繁栄しました。一方で、摂津名所図会や浪花名所独案内に紹介されているように、市中には有名な社寺、料理屋、豪商の大店、桜や紅葉のみどころなど、諸国から人々が訪れる観光名所が生まれました。また、夜店で有名な順慶町や、道頓堀・曽根崎新地の芝居街などの盛場も形成され、市民や旅行者の娯楽の場として大変な賑わいをみせました。

 経済都市として、また観光都市、遊興都市として繁栄した大坂には、華やかな都市文化を支える多種多様な生業(なりわい)が成立しました。本展では絵画資料に描かれた「働く人々」の姿から、江戸時代の大坂で営まれた多種多様な生業を紹介します。生き生きと働く人々の姿を通して、大坂の活気と賑わいをお伝えします。

*前期と後期で展示の一部を入替えます。

 企画展示室内には、江戸時代における商家の座敷の再現や、重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵」の構造模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)など実物大の模型を設置し、2種の建築から住まいと暮らしの様相をお見せします。

*茶室「蓑庵」の実物大構造模型は前期のみの展示となります。

職人尽屏風 右隻部分(個人蔵)前期展示
職人尽屏風 左隻部分(個人蔵)後期展示
堂島穀あきない(部分)摂津名所図会
祭礼提灯引き札
虫売り(小西秀麿)
茶室「蓑庵」実物大模型
(公財)竹中大工道具館蔵



〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。

 イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

 開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム





 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



2022年2月16日水曜日

今週の今昔館(306) からくり錦絵「造幣寮」 20220216

〇今昔館の近代展示室の見どころ(18)からくり錦絵「造幣寮」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されています。(追記:令和4年10月29日(土)から全面開館しています。)

 今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って、すぐ左手にある「からくり錦絵」をご紹介します。

からくり錦絵の解説板

 からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。からくり錦絵と川口居留地の模型は、近世から近代へ、幕末から明治へのエントランスとなっています。
 大阪の文明開化は旧大坂三郷の東と西から始まりました。西は慶応4年(1867)につくられた川口の外国人居留地。東は明治4年(1871)に天満川崎の地に完成した造幣寮で、外国から機械を輸入して近代工業の灯をともしました。五代友厚氏が大きく関与したともいわれています。
 やがて、市中には人力車が走りはじめ、高麗橋、新町橋に続いて明治6年には心斎橋が木製から鉄橋に架け替えられました。さらに、明治7年には大阪神戸間の鉄道が開通し、大阪で初めての鉄道の駅が誕生しました。市民には梅田ステンショの名で親しまれました。ここでは、近代都市として新しい発展の道を歩み始めた大阪の様子を、からくり仕掛けの錦絵で紹介しています。
 真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。左から右へと順に場面展開して、明治時代に入り文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。

赤いボタンを押す前の状態
3枚の演出が終了した状態

 今回は、演出の順に沿って左端の「造幣寮」を取り上げます。現在では「桜の通り抜け」で有名なあの造幣局です。
 明治4年(1871)、造幣寮が貨幣鋳造を開始。イギリス製の貨幣鋳造機械を導入し、近代工業のさきがけとなりました。


からくり錦絵「造幣寮」

 造幣局のホームページによると、造幣局は、近代国家としての貨幣制度の確立を図るため、明治新政府によって大阪の現在地(大阪市北区)に創設され、明治4年4月4日に創業式を挙行し、当時としては画期的な洋式設備によって貨幣の製造を開始しました。
 その頃我が国では、機械力を利用して行う生産工業が発達していなかったため、大型の機械設備は輸入するとしても、貨幣製造に必要な各種の機材の多くは自給自足するよりほかなかったので、硫酸、ソーダ、石炭ガス、コークスの製造や電信・電話などの設備並びに天秤、時計などの諸機械の製作をすべて局内で行っていました。また事務面でも自製インクを使い、我が国はじめての複式簿記を採用し、さらに風俗面では断髪、廃刀、洋服の着用などを率先して実行しました。
 このように、造幣局は、明治初年における欧米文化移植の先駆者として、我が国の近代工業及び文化の興隆に重要な役割を果たしたので、大阪市が今日我が国商工業の中心として隆盛を見るようになったのも、造幣局に負うところが少なくないといわれています。
 その後、造幣局は、貨幣の製造のほか、時代の要請にこたえて勲章・褒章及び金属工芸品等の製造、地金・鉱物の分析及び試験、貴金属地金の精製、貴金属製品の品位証明(ホールマーク)などの事業も行っています。
 平成15年4月1日から、独立行政法人造幣局となりました。

 次に、古地図で造幣寮付近を見てみましょう。まず明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」です。絵図という名前のとおり、造幣寮の絵が描かれています。淀川(大川)の対岸には、桜宮の文字もあります。

「大阪市中地區甼名改正繪圖」の造幣寮付近(日文研蔵)

 次は、大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」です。造幣局、泉布観の名前が白抜きの文字で示され、大川には淀川橋が架かっています。現在の桜宮橋よりも北側に架かっていた木造の橋でした。市電の計画線が点線で書かれています。実際には、この点線よりも南側に、造幣局と泉布観を分断する形で道路が拡幅され、桜宮橋が架けられることとなります。


「實地踏測大阪市街全圖」の造幣寮付近(日文研蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」で造幣局を見ると、煙突のある赤レンガの建物が並び、大川沿いには桜の並木が描かれています。大川には蒸気船が走っています。

大阪市パノラマ地図の造幣局

 「パノラマ地図」でもう少し広い範囲を見ると、泉布観の北側には「淀川橋」が架かり、その北側には「三菱精錬所」があります。現在のOAP(大阪アメニティパーク)の場所です。その対岸には、「桜ノ宮神社」があります。造幣局の対岸にも桜並木が描かれ、このあたり一帯の「淀川公園」が桜の名所であったことが分かります。対岸の南寄り「網島」の地には「藤田邸」があります。造幣局の西には小学校が描かれています。このあたりの地名は「川崎」と記されていて、大川には「川崎ノ渡シ」が描かれています。

「大阪市パノラマ地図」の造幣局周辺


 それでは、なぜこの場所に造幣寮が建設されることになったのか、江戸時代の古地図で見てみましょう。まず、いつもご紹介している「浪華名所獨案内」では、「川崎御蔵」の文字があります。「御蔵」とあるように、ここには、江戸幕府の蔵があったのです。西隣には「御宮」の文字があります。さらに西には「天満宮」がありますから、御宮は天満宮ではありません。江戸時代この場所には家康をまつる東照宮がありました。現在、滝川小学校の正門前に川崎東照宮跡の碑があります。大阪城のすぐ北側に当たり淀川の水運にも恵まれた川崎の地は、幕府にとっても重要な拠点であったことが分かります。

浪華名所獨案内の天満付近

 同じく天保年間の「天保新改攝州大阪全圖」を見ると、「御蔵」「御材木蔵」と「御宮」の間には「町与力」があり北側にも続いています。与力の西側には「同心」もあります。このあたりが、幕府直轄の武士で固められていたことがわかります。
 明治維新で幕府領が新政府のものになり、文明開化の一環で、大阪の地に造幣寮を建てることになった際に、水運の便が良く、まとまった用地のある川崎の地が選ばれたことは、当時の輸送手段は水運でしたから納得できるところです。


天保新改攝州大阪全圖(天保8(1837)年発行)の東天満付近

 明治時代以降のこの地の変遷を、埼玉大学教育学部人文地理学研究室の谷謙二先生が公開されている「今昔マップ」で見てみましょう。
 左上の明治41年の陸地測量部地図では、造幣局の北側に泉布観があり、その北側に淀川橋が架かっていて対岸と結ばれています。

 右上の昭和4年の地形図では、造幣局と泉布観の間に広い道路が作られて分断され、現在と同じ位置関係になっています。橋はまだ架かってなく、淀川橋が残っています。桜宮橋は大阪市の第一次都市計画事業に基づいて昭和5年(1930)に建設されました。昭和12年に大阪市電気局及び産業部によって制作された映画「大大阪観光」には、造幣局、泉布観、明治天皇記念館(造幣寮の鋳造所正面玄関が移築され創建当時の姿に復元されたもの)と合わせて桜宮橋(銀橋)が紹介されています。

明治41年、昭和4年、昭和22年の地形図、最近の航空写真の東天満付近(今昔マップ3)
造幣局の遠景(「大大阪観光」より)
泉布観(「大大阪観光」より)
明治天皇記念館(「大大阪観光」より)
造幣局と桜宮橋(「大大阪観光」より)
桜宮橋と市電(「大大阪観光」より)

 今昔マップに戻って、左下は昭和22年です。白くなっているところは、戦災で焼失した地域です。造幣局は建て替えられた建物が戦災を免れて残っています。泉布観との間には道路(国道1号線)が通り、桜宮橋が架かっています。

 右下は最近の空中写真で、国道1号線はさらに拡幅され、桜宮橋と並んで新桜宮橋が架けられています。新桜宮橋は建築家安藤忠雄氏の設計で、平成18年(2006)に開通しました。旧橋よりも橋長(アーチスパン)が長く(旧橋は約100m、新橋は約150m)、旧橋とデザインを合わせるためにアーチ高さを同じにした関係で平べったいアーチの橋となっています。

 今回は、からくり錦絵の第1回目として「造幣寮」をご紹介しました。近代展示室中央の光床「大阪市パノラマ地図」や、「浪華名所獨案内」と合わせて見ることで、より楽しんでいただけることと思います。


〇企画展「浪花 なりわいづくし」開催中です

 2022年1月21日(金)〜2022年4月10日(日)

前期 1月21日(金)~2月27日(日)
後期 3月3日(木)~4月10日(日)

*2月28日(月)~3月2日(水)は展示替えのため休館となります

 江戸時代、米をはじめとして全国の農産物・海産物・名産品など様々な物資の集積地であった大坂は商業をはじめ、物流、金融の中心地となり経済都市として繁栄しました。一方で、摂津名所図会や浪花名所独案内に紹介されているように、市中には有名な社寺、料理屋、豪商の大店、桜や紅葉のみどころなど、諸国から人々が訪れる観光名所が生まれました。また、夜店で有名な順慶町や、道頓堀・曽根崎新地の芝居街などの盛場も形成され、市民や旅行者の娯楽の場として大変な賑わいをみせました。

 経済都市として、また観光都市、遊興都市として繁栄した大坂には、華やかな都市文化を支える多種多様な生業(なりわい)が成立しました。本展では絵画資料に描かれた「働く人々」の姿から、江戸時代の大坂で営まれた多種多様な生業を紹介します。生き生きと働く人々の姿を通して、大坂の活気と賑わいをお伝えします。

*前期と後期で展示の一部を入替えます。

 企画展示室内には、江戸時代における商家の座敷の再現や、重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵」の構造模型(公益財団法人 竹中大工道具館蔵)など実物大の模型を設置し、2種の建築から住まいと暮らしの様相をお見せします。

*茶室「蓑庵」の実物大構造模型は前期のみの展示となります。

職人尽屏風 右隻部分(個人蔵)前期展示
職人尽屏風 左隻部分(個人蔵)後期展示
堂島穀あきない(部分)摂津名所図会
祭礼提灯引き札
虫売り(小西秀麿)
茶室「蓑庵」実物大模型
(公財)竹中大工道具館蔵



〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。
(追記:令和4年10月29日(土)から全面開館しています。)


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し、茶室の実物大構造模型とともに展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。

 イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

 開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
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 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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