2020年1月28日火曜日

今週の今昔館(200) 木津川口 20200128

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(31)
 今回は「浪華の賑ひ」の「木津川口」をご紹介します。

■木津川口
 この所は浪花の津の湊口にして、諸国の海舶出入の要津(ようしん)なり。かるがゆゑに、廻舟の弁理よからしめんが為、去(さんぬ)る天保三年、公の御仁恵によって長さ八百七十間余の石塘(いしづつみ)を築かせたまふ。これを石波戸(いしばと)といふ。水をよく抱へ蓄へ、諸船の出入すこぶるよし。まことに万代不朽にして浪花繁栄の基、公恩の程仰ぐべし、尊ぶべし。
 また、この堤は上に数株の松を植ゑつらぬるゆゑに俗に木津川の千本松といふ。洋々たる滄海に築き出だせし松原の風景は彼の名に高き天の橋立・三保の松原などもほかならずと覚ゆ。さる程に雅俗ともに舟行して遊観すること平生(つね)に絶えず。

浪華の賑ひ「木津川口」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 浪花百景には、「木津川口千本松」があります。

■木津川口千本松(芳雪画)
 木津川口は諸国廻船が出入りする要港であったので、幕府は天保3年(1832)に石堤を築いて防波堤を設け港を整備しました。石堤の上には松が植え連ねられ、千本松と称されました。天の橋立・三保の松原とも肩を並べるほどの景勝地として見物人が多く、潮干狩りや舟遊びに打ち興じました。秋にはこの辺りの川口ではハゼ釣りが盛んで、小舟を仕立てて釣り糸を垂れ、あるいは漁夫に網を打たせ、とった魚を調理して終日ここで酒宴を催すものもありました。釣り客目当ての物売り船も出てにぎわいました。

 町家衆の湯川さんの解説によると、木津川口千本松の色紙の図柄は「石畳」。釣り糸の輪(=和)と合わせて、隠し石和(書肆の石川屋和助)となっています。また、釣り竿の先が画面の外にはみ出ている点も興味深いところです。


 現在この付近は工場地域となり、千本松渡船と近代的なループ橋の千本松大橋にその名をとどめています。

浪花百景「木津川口千本松」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 1840年代刊行の「大阪安治川口細見」です。安治川口の天保山を中心に描いた地図ですが、地図の右下の方、木津川の川筋をご覧ください。安治川や尻無川と比べて川幅が広く、河口部には堤が築かれ、堤上に並木が植えられている様子が描かれています。河口には澪標も描かれています。

大阪安治川口細見
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の木津川河口付近を見ると、「木場」「難波嶋」「三軒家」「泉尾新田」などの地名が見えます。この地図は、東が上になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。木津川の河口部は、津守新田、田中新田までが地図に描かれています。千本松はさらに下流になりますので、地図の範囲に入っていません。津守新田の東には十三間川の文字があります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、木津川の両岸は、空き地が目に付きますが、その中に工場や造船所が描かれています。渡し舟の絵があり、「千本松渡し」「十番渡し」の文字が見えます。地図の右下の堤防には松並木が描かれ、「千本松」の文字も見えます。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、木津川には下流側から順に「五番渡」「千本松渡」「落合下ノ渡」があります。パノラマ地図の「十番渡し」がこの地図では「千本松渡」になっています。少し上流には「平尾浜」の文字も見えます。陸揚げの場だったのでしょうか。
 木津川と木津川運河には観光艇の絵があります。映画「大大阪観光」にも登場する観光艇「水都」のルートになっていました。木津川運河には、開閉式の「大船橋」が描かれています。船町には、飛行機の絵が描かれ「大日航空飛行場」の文字も見えます。


大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 地形図を見てみましょう。まず、明治18年陸地測量部地図です。木津川の両岸には干拓によって新田が開発されている様子がよくわかります。

明治18年陸地測量部地図
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
 今昔マップ3を利用して、その後の地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、木津川の両岸は、ほとんどが新田開発された田畑となっています。さらに沖合へと埋め立てが進んでいます。
 右上の昭和7年では、土地の造成が進み木津川運河をはじめ多くの運河が掘られています。当時の輸送の主力は水運でした。南恩加島には市街地が形成されています。大正区には市電が、西成区には阪堺電鉄が走っています。
 左下の昭和22年では、白い部分が戦災で焼失した地域です。千本松渡しの文字が見えます。
 右下の昭和42年を見ると、市街地の復興が進み、川沿いは工場や造船所ができ、内陸部は住宅市街地になっています。大正内港(千歳湾)が掘られ、木津川運河への水路があります。千本松渡しの文字も見えます。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 木津川口千本松付近の現状を見てみましょう。

千本松大橋付近(地理院地図)
千本松大橋全景
千本松大橋と渡船
千本松大橋の親柱

 今回は、「浪華の賑ひ」の「木津川口」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
 千本松大橋の写真は、大阪市建設局のホームページからお借りしました。


〇実物大模型「蓑庵」組立工事の見学会

 谷直樹館長による茶室起こし絵図の解説に加え、大工棟梁の阿保昭則氏が蓑庵組立工事を現場で解説します。
 中井家蔵「茶室起こし絵図」(重文)にちなんで、大坂の豪商鴻池善右衛門が寛保2年(1742)に京都・大徳寺玉林院に造立した茶室「蓑庵」(重文)を実物大模型((公財)竹中大工道具館蔵)で再現展示します。大工棟梁の知恵と技術を目の当たりに見ることができます。

解説:阿保昭則氏(大工棟梁・耕木杜代表)、谷直樹(大阪くらしの今昔館館長)
日時:令和2年2月16日(日)~20日(木)10:30~12:00
募集人数:各回10名(応募多数の場合は抽選)
申込期間:令和2年1月25(土)~2月5日(水)必着
場所:大阪くらしの今昔館(詳細は参加証等でお知らせします)
参加費:各回2,000円
申し込みは、こちらからどうぞ。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33693


〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」開催中です
2020年2月14日(金)まで

みどころ
・大坂の屋敷の台所を模して特注で制作された特大のミニチュア台所
・当時の家庭雑誌「暮しの手帖」を生活道具とともに紹介
・ダイヤル式電話機など、触って昔の道具を体験できるコーナー

 調理と食事、衣類の手入れ、住まいを整えるなど、家事は今も昔も家庭内で日々行われています。生活に使われる道具は、高度経済成長期に電化製品が普及し、より便利に効率的な生活となるように改良されていきました。現代においてはあえて自動化せずに、鍋でご飯を炊くなど手間ひまをかけて生活を楽しむ「ていねいな暮らし」という言葉も生まれ、それぞれの家庭の暮らし方は多様になりました。

 昔の暮らしは、どのようなものだったのでしょうか。電気・ガス・水道の整備や生活道具の変化だけでなく、家族の形態や家庭の機能も大きく変化しています。例えば、職住が一致していた時代には、従業員も住み込みで家族とともに暮らすため、大きな台所にたくさんの食器が必要でした。また、来客に備えて住まいには座敷や客間を設けており、膳や座布団なども多数そろえておくことが当たり前でした。しかし、そういったふだんの暮らしというのは記録に残りにくいものです。その一端を、大阪くらしの今昔館が所蔵する生活道具を展示することを通して紹介します。商業都市として栄えた大阪で育まれた豊かな生活文化までをのぞいてみませんか。

旧八代敏所蔵雛飾り台所ミニチュア(部分)
吸物椀
暮しの手帖
電話(さわってみよう)


〇今週のイベント・ワークショップ

 今昔館は毎週火曜日が休館日です。
 カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202002



1月29日(水)~2月1日(土)、3日(月)、5日(水)~8日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~

※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。

2月2日(日)、9日(日)、
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


2月1日(土)
イベント 日本の伝統文化『香道(聞香)』

①13:00 ②15:00
優雅な香あそびを体験してみませんか
講師:はなの会(主宰:神垣裕子)
会場:今昔館9階展示室 薬屋 座敷(正座椅子等の持ち込可能)
対象:中学生以上
定員:各回20名
参加費:500円(別途、大阪くらしの今昔館の入館料が必要です)

【申込方法】
①往復はがきに以下の必要事項をご記入の上お申込ください
郵便番号、住所、氏名(ふりがな)、電話番号、年齢、参加希望時間(①か②)
〒530-0041 大阪市北区天神橋6-4-20  大阪くらしの今昔館「香道」係
②インターネットからのお申し込みは
「住まい・まちづくり・ネット」よりお申込ください
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33686
●申込期間:2019/12/23~2020/1/23(申し込みは終了しました。)
※いただいた個人情報は目的以外に使用いたしません。

2月2日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

2月5日(水)
イベント 町家寄席-講談

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、講談をきいてみませんか
出演:旭堂南左衛門、旭堂南山、旭堂南雲
14時~15時

2月8日(土)
ワークショップ『木版画はがきを作ろう』

13時30分~15時
参加費:200円

2月9日(日)
町家衆イベント 上方ことば塾

14時30分~15時

おじゃみ(有料)
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse


2020年1月21日火曜日

今週の今昔館(199) 住吉 20200121

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(30)
 今回は「浪華の賑ひ」の「住吉」をご紹介します。

■住吉
 この所を長峡(ながを)の浦といひ、松原の末にある橋を長峡のはしといへり。
 滄海(うなばら)をはるかに眺望(ながむ)れば、月落ちかかると詠じたる淡路島山をはじめ、左手(ゆんで)には紀の路(ぢ)の山々列なり、右手(めて)には和田の岬・須磨・明石の浦々・摩耶・六甲山一望の中にありて、その絶景いふばかりなし。
 弥生三月の汐干には貝ひろふ男女打ち群れていと賑はし。

浪華の賑ひ「住吉」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 浪華の賑ひの本文には、「住吉大神社」として、以下の記載があります。

 安部野の南、およそ一里余りにあり。
 祭神一神殿底筒男命、二神殿中筒男命、三神殿表筒男命、四神殿神功皇后、以上四社なり。摂社・末社境内に充満し、名所・旧跡すこぶる多し。事繁ければ、ここに略す。
 大神の霊験あらたなるは言うべくもあらず。大小の祭祀一箇年に七十五度、なかんづく二月の祈念穀祭、五月の御田植、六月の大祓、九月の宝市、十一月の新嘗祭等は普く婦女子も知る所にして、群参言語に絶せり。誕生石は名に高き反橋の東の詰にあり。また、神宮寺は一の社の北の方にして、本尊は薬師如来、宝蔵には五大力尊を安ず。大海神の社・奥天神等はなほ北にあり。
 最も方境広太に神祠の数多く、かつ年中の行事繁く、名所・旧跡等容易(たやすく)記しがたし。委しくは「摂津名所図会大成」に編輯し、近きに出版に及べば、閲(けみ)してその密細(つばら)なるを知るべし。

 浪花百景には、住吉大社周辺が5枚描かれています。「住吉本社」、「住吉反橋」、「住吉高とうろう」、「住吉五大力」、「浅澤の弁財天」の5枚を見てみましょう。

■住吉本社(国員画)
 住吉大社の本殿です。絵図のタイトルは「住吉本社」となっています。住吉三神と、神功皇后を祀る摂津一之宮で、4つの神殿を持ち、祭神は、一の神殿は底筒男命、二の神殿は中筒男命、三の神殿は表筒男命、四の神殿は神功皇后。住吉大社のホームページでは、「第一本宮」~「第四本宮」となっています。古来より国家鎮護、船舶守護、祈雨、和歌神、武道神としての信仰が厚く、庶民に至るまで住吉詣は四天王寺詣とともに最も親しまれた参詣でした。
 「住吉造(すみよしづくり)」の4棟の本殿が海に向かって西面し、15世紀までは20年ごとに遷宮していたようですが、現本殿は文化7年(1810)建立です。「住吉造」は神社建築史上最古の様式の一つといわれ、4棟いずれも国宝建造物に指定されています。市内で唯一の国宝建造物です。
 本殿を囲むように、摂社、末社、名所旧跡が多く、大小の祭祀は年に75回に及び、その中でも特に2月の祈念穀祭、6月の御田植神事、7月の夏越大祓神事、10月の宝の市、11月の新嘗祭は著名で多くの参詣者で賑わいをみせています。

 町家衆の湯川さんの分析によると、住吉本社の色紙は「霞紋」で、図柄は摂津名所図会の一部を切り取ったパクリとなっています。


浪花百景「住吉本社」(大阪市立図書館蔵)

■住吉反橋(芳瀧画)
 住吉大社と言えば反橋(太鼓橋)が有名ですが、浪花百景にも反橋の錦絵があります。
 住吉大社を象徴する反橋は急こう配の美しい反りを持ち、別に太鼓橋とも呼ばれます。擬宝珠のある見事な石柱木造橋で、淀君の寄進を受け、豊臣秀頼が片桐且元に命じて再興したと伝えられます。
 たびたびの修復作業は船大工の奉仕で行われていたといわれますが、石造りの橋柱や梁は別として木製の床板や桁の維持管理は難しかったようで、享和元年(1801)に修復される以前は歳久しく朽ちて石杭のみ残り、橋とは名ばかりの状態になっていたといわれます。
 以前は渡りやすくするための横木がなく、渡橋は困難でしたが、「反橋を渡るだけでお祓いになる」ということから、懸命に上り下りする参詣者も多かったといわれます。その後も時おり修復が加えられ、現在に至っています。

 住吉反橋の色紙は「石畳」で、書肆の石和(石川屋和助)の石が隠されています。浪華百景の短冊の「月」の〇(輪)と合わせて、「石和」となっています。


浪花百景「住吉反橋」(大阪市立図書館蔵)

■住吉高とうろう(国員画)
 高灯籠は、瀬戸内海から船で大阪に入ってくる場合に目に入ってくる目印でした。住吉大社境内前の出見の浜にあった高さ約16mの常夜灯で、住吉の代表的名所として知られていました。鎌倉時代末期、漁民により建立されたもので、灯台としての役割と住吉大社への献灯を兼ねるほか、展望台としても利用され、ここからの眺望は絶景でした。

 船場の町家の住吉詣は船で渡り、高灯籠の下の船着き場から社に入りました。灯籠の最上部は東は生駒山から紀泉山地、西は六甲山まで望める展望台。眼前に広がる出見の浜は、3月には遠浅の海が干潟となり、潮干狩りの季節となります。貝や魚釣りまで楽しめ、浜には蛤汁を出す茶店も出て大層な人出で賑わいました。

 昭和25年のジェーン台風で木造部分が破壊され、石組みの台のみが残っていましたが、昭和47年に道路拡張のため撤去されることになり、昭和49年に場所を約200m東の国道26号線沿いの現在地に移して再建されました。現在、海は埋め立てられ、高灯籠からはかなりの距離があります。

 住吉高とうろうの色紙も「霞紋」で、絵柄は浪華の賑ひのパクリとなっています。


浪花百景「住吉高とうろう」(大阪市立図書館蔵)

■住よし五大力(芳瀧画)
 住吉大社には20を超える摂社・末社が集まります。そのうち神仏習合の思想から建立された神宮寺は平安時代から文献にも表れ、江戸時代には仏堂・僧堂を備えていました。
 宝蔵には住吉明神自らが描いたと伝えられる五大力菩薩の画像五幅を安置していたと伝えられ、宝蔵前には百度石となっている五大力碑があり、厄除けほか願掛けなどの民間信仰に支えられていました。「五」「大」「力」の文字の書かれた石を3つ集めるとお守りになるといわれています。
 神宮寺は天平2年(730)あるいは天平宝字2年(758)の創建といわれ、藤原純友の乱平定の祈祷もここで行われるなど長い歴史を持っていましたが、明治に入り神仏分離・廃仏毀釈の波の中で姿を消しました。現在はその跡地に石碑が建っています。

 住よし五大力の色紙の柄は、「イ菱」に「輪」、これも「イ」が4つで「石」、「輪」=「和」で、隠し石和となっています。


浪花百景「住よし五大力」(大阪市立図書館蔵)

■浅澤の弁財天(芳瀧画)
 住吉大社から東南に2丁ほどのところにある場外末社で市杵島姫命ほかを祀る浅澤神社。姫命が弁才天に結び付けられて女性守護の神として信仰を集めました。池中には弁才天の小祠が祀られています。錦絵に描かれた石碑と柳が現在も残っていて貴重です。
 細江川が流れ込む浅沢小野と呼ばれる一帯は、池沼の多い低湿地で、古来、杜若の名勝。和歌の名所として知られ歌枕にもなっており、万葉集に「住吉の浅沢小野の杜若衣にすりつけ着む日知らずも」と詠まれていますが、すでに江戸時代には途絶えていました。宝暦13年(1763)地元の人々が新たに杜若を植え直して往時を再現したといわれます。現在、杜若は住吉区の花に指定されています。

 淺澤の弁才天の色紙の柄は「石畳」、右下の板元の短冊の柄も「石畳」で、隠し石和となっています。


浪花百景「浅澤の弁財天」(大阪市立図書館蔵)

 次に、摂津名所図会の住吉を見てみましょう。こちらは住吉大社とその周辺を上空から見た鳥観図となっています。4枚を横に並べるとパノラマ図となっています。浪華の賑ひの「住吉本社」は、この図の本殿の辺りを切り取った絵柄となっています。第一本宮と第四本宮の半分を切り取って、背景に田園風景と山を描く縦型の図版としている所はユニークです。

摂津名所図会「住吉本社」(大阪市立図書館蔵)
摂津名所図会「大海神社」(大阪市立図書館蔵)

 摂津名所図会には、出見濱高燈籠もありますので、こちらも見てみましょう。浪華の賑ひの「住吉」とよく似た構図ですが、松が大きく描かれています。

摂津名所図会「出見濱高燈籠」(大阪市立図書館蔵)

 次に、古地図で住吉大社あたりの変遷を見てみましょう。江戸時代天保年間の「浪華名所獨案内」では、地図の右端(南端)に「住吉」が押し込まれていて、本殿と松並木、高灯籠が描かれています。大坂三郷からは距離は離れていますが名所としては欠くことができなかったのでしょう。

「浪華名所獨案内」(「津の清」蔵・上が東です)

 文化3年(1806)発行の「増修改正摂州大阪地図」とグーグル空中写真を合成した下の図を見ると、地図の範囲は茶臼山付近までで、住吉大社は含まれていません。

「増修改正摂州大阪地図」とグーグル空中写真の合成
(ラムゼイコレクションより)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」では、当時の大阪市域の東西南北の4区が対象エリアとなっていますが、その外にある住吉神社は、今宮の南側に唯一の挿絵として挿入され描かれています。
 4つの本殿と反橋が位置関係も含めて正確に描かれています。また阪堺電車の住吉鳥居前停留所、南海本線住吉駅も描かれています。パノラマ地図の精度の高さが伺えます。

「大阪市パノラマ地図」(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年の「大大阪観光地図」では、住吉大社周辺は大阪市域に編入された以降で、「住吉神社」と「住吉公園」が名所として挿絵が入っています。阪堺電車、南海本線のほか、南海高野線も描かれています。

「大大阪観光地図」(日文研蔵)

 次に、今昔マップ3を利用して、明治42年から最近までの地形図で、住吉大社から堺にかけての地域の変遷を見てみましょう。
 左上は明治42年、住吉大社と堺以外には、小さい旧集落と、紀州街道・熊野街道があります。大和川の付け替えによる土砂の堆積と、干拓によって、埋め立てが始まっています。右上は昭和7年、区画整理によって市街地整備が始まっています。左下は昭和22年、戦災によって紀州街道沿いの地域などが焼失しています。右下は最近の地理院地図です。

明治42年、昭和7年、昭和22年、最近の地形図
(今昔マップ3より)

 明治42年の地図を拡大して、詳しく見てみましょう。
 十三間堀川よりも西側は、干拓によって埋め立てが進んでいますが、旧住吉の津にあたる細井川の河口部は埋め立てられずに水面が残っています。
 大和川が付け替えられたことによって、川に運ばれてきた土砂によって、堆積が進んでいます。市街地化が進んでいない状況の中で、紀州街道と熊野街道(地図では「阿部野街道」)の道筋がよくわかります。

明治42年陸地測量部地図(拡大・今昔マップ3)

 最後に、最新のグーグルの空中写真とマップを見てみましょう。住吉大社、大海神社、生根神社の境内の樹々と、住吉公園の緑やグラウンド、細井川の流れもよくわかります。

グーグル空中写真
グーグルマップ



 今回は、「浪華の賑ひ」の「住吉」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。


〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」開催中です
2020年2月14日(金)まで

みどころ
・大坂の屋敷の台所を模して特注で制作された特大のミニチュア台所
・当時の家庭雑誌「暮しの手帖」を生活道具とともに紹介
・ダイヤル式電話機など、触って昔の道具を体験できるコーナー

 調理と食事、衣類の手入れ、住まいを整えるなど、家事は今も昔も家庭内で日々行われています。生活に使われる道具は、高度経済成長期に電化製品が普及し、より便利に効率的な生活となるように改良されていきました。現代においてはあえて自動化せずに、鍋でご飯を炊くなど手間ひまをかけて生活を楽しむ「ていねいな暮らし」という言葉も生まれ、それぞれの家庭の暮らし方は多様になりました。

 昔の暮らしは、どのようなものだったのでしょうか。電気・ガス・水道の整備や生活道具の変化だけでなく、家族の形態や家庭の機能も大きく変化しています。例えば、職住が一致していた時代には、従業員も住み込みで家族とともに暮らすため、大きな台所にたくさんの食器が必要でした。また、来客に備えて住まいには座敷や客間を設けており、膳や座布団なども多数そろえておくことが当たり前でした。しかし、そういったふだんの暮らしというのは記録に残りにくいものです。その一端を、大阪くらしの今昔館が所蔵する生活道具を展示することを通して紹介します。商業都市として栄えた大阪で育まれた豊かな生活文化までをのぞいてみませんか。

旧八代敏所蔵雛飾り台所ミニチュア(部分)
吸物椀
暮しの手帖
電話(さわってみよう)


〇今週のイベント・ワークショップ

 今昔館は毎週火曜日が休館日です。
 カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202001



1月22日(水)~25日(土)、27日(月)、29日(水)~2月1日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

1月25日(日)、2月2日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


1月22日(水)
イベント 町家寄席―落語―

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

1月25日(土)
町家衆イベント ワークショップ『鬼のお面を作ろう』

①13時30分 ②14時30分
各回先着10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します

1月26日(日)
イベント 座敷舞

山村流の立ち方が華やかな舞を披露します
出演:山村若女御一門 地方:井上満智子連中
14時~15時


町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00


2月1日(土)
イベント 日本の伝統文化『香道(聞香)』

①13:00 ②15:00
優雅な香あそびを体験してみませんか
講師:はなの会(主宰:神垣裕子)
会場:今昔館9階展示室 薬屋 座敷(正座椅子等の持ち込可能)
対象:中学生以上
定員:各回20名
参加費:500円(別途、大阪くらしの今昔館の入館料が必要です)

【申込方法】
①往復はがきに以下の必要事項をご記入の上お申込ください
郵便番号、住所、氏名(ふりがな)、電話番号、年齢、参加希望時間(①か②)
〒530-0041 大阪市北区天神橋6-4-20  大阪くらしの今昔館「香道」係
②インターネットからのお申し込みは
「住まい・まちづくり・ネット」よりお申込ください
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33686
●申込期間:2019/12/23~2020/1/23(応募多数の場合抽選)
※いただいた個人情報は目的以外に使用いたしません。

2月2日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
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 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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