2019年10月30日水曜日

今週の今昔館(187) 日本橋 20191030

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(21)

 今回は「浪華の賑ひ」の「日本橋」をご紹介します。

■日本橋
 道頓堀川十橋の内、川上より第二の大橋なり。両岸には端麗(きらやか)なる旅舎(はたごや)多く、または三十石の船宿・金毘羅参詣の出舟所、または橋詰の出し店、鮮魚の立売、朝には足もとせはしき芝居行、夕には漂ひもどる住吉詣、あるいは土産買ふ老人・鮓(すし)の立喰する鉢巻男(であひ)・滞留の旅客・出船まつ上京(きょうのぼり)など皆この所の賑ひなり。この橋の南を長町といふは、実は那呉町(なごまち)にして、往古(いにしへ)、那古の浦の遺名なりとぞ。


浪華の賑ひ「日本橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 浪華の賑ひの本文には、日本橋について次のような説明があります。

■日本橋
 道頓堀川、堺すぢに架す
 この通りは北詰より北を堺筋といひ、南詰より南九町を長町といふ。紀州・泉州よりの喉口(ここう)にして往来常に繁く、両詰には旅舎(はたごや)軒をならべ、橋下には船かまびすし。その上、この南二、三丁の間は大道の左右に鮮魚の立売ありて、朝の程より巳の刻過ぐる時分(ころほひ)までは群衆に道塞りて、往来も煩はしきばかりの賑はひなり。
 長町九町の間にも旅舎(やどや)多く、なかんづく瓢箪河内屋・分銅河内屋などいへる大家ありて、数百人を宿す。この町すぢに傘(からかさ)を製する家多くありて、浪花の名物とす。



 浪花百景に描かれている道頓堀は、前々回ご紹介した2枚ですが、日本橋から南へ進んだ長町から難波御蔵を描いた「長町裏 遠見難波蔵」があります。

■長町裏 遠見難波蔵(芳瀧画)
 日本橋から南へ、日本橋3~5丁目の堺筋沿いに文字通り細長く伸びる町並みの長町。町に沿って堺へ向かう紀州街道が通るため往来激しく、街道左右には有名な旅籠屋や木賃宿が並びます。またここは傘職人が多く住む町で、天気の良い日には地面に埋めた竹筒に傘を差し込んで乾燥させるのが常でした。現在は電気機器の専門店街となっていますが、高島屋東別館北側に傘専門店が数件残り、わずかに往時の面影をとどめています。
 難波蔵は享保17(1732)~18年の飢饉に際し設けられた幕府直轄の米蔵で、遠方に臨む広大な難波蔵は八棟が並び建つという規模の大きさから名所の一つでもありました。この辺りは樹木が生い茂り、寂寞として閑静な土地でした。明治以降煙草専売局の工場となり、終戦後には大阪球場が作られた場所です。現在は再開発されて「なんばパークス」となっています。

浪花百景「長町裏 遠見難波蔵」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 日本橋(にっぽんばし)は、1619年(元和5年)に江戸幕府によって架けられた、長さ約40m、幅約7mの木造橋で、江戸の日本橋(にほんばし)と同じく幕府が直接建設・管理する公儀橋でした。
 当時大坂にあった約200の橋の大半は町人が建設・管理する町橋で、公儀橋はわずか12橋しかなく、その大半が大坂城周辺の大川や東横堀に架かっていました。日本橋は、道頓堀川では唯一の公儀橋で、長堀川の長堀橋とともに、堺を経て、御三家のひとつ紀伊徳川家の和歌山に通じる紀州街道に架かっていました。
 現在の橋は1969年(昭和44年)架橋で、長さ28.8m、幅28m。橋の西側は道頓堀川の遊歩道「とんぼりリバーウォーク」と接続しています。

 現在の様子を写真で見てみましょう。
 日本橋周辺には、観光名所や旧跡が多くあり、多くのインバウンドの外国人で賑わっています。

とんぼりリバーウォークから見た日本橋
日本橋の親柱(左側はひらかな)
日本橋の親柱(右側は漢字)
日本橋の顕彰板
日本橋より西側を望む
とんぼりリバーウォークと日本橋
とんぼりリバーウォーク
道頓堀通り
安井道頓・道卜の顕彰碑
皇紀二千六百年の碑
道頓関


 今回は、「浪華の賑ひ」の「日本橋」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。


〇今週のイベント・ワークショップ

〇今昔館は毎週火曜日が休館日です。カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=201911



10月30日(水)~11月2日(土)、6日(水)~9日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

11月3日(日)、4日(月・振替休日)、10日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



11月3日(日・祝)
町家衆イベント 今昔語り

 大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00



町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00




イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時



11月9日(土)
ワークショップ『ふくろうのストラップを作ろう』

各回先着10名、1人300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します
①13時30分 ②14時30分

11月10日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00




〇貸しギャラリーについて
 大阪くらしの今昔館の企画展示室は、当館主催の企画展を開催するほか、住まいと暮らしに関わる展覧会の貸会場(ギャラリー)として、広く一般の方々のご使用を受け付けています。今年は9月14日から12月8日まで、書道展・絵画展など様々な作品展が開催されます。
 催し物のご案内はこちらからどうぞ。



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



2019年10月22日火曜日

今週の今昔館(186) 戎橋 20191022

〇今昔館は毎週火曜日が休館日ですが、本日即位礼正殿の儀の祝日は開館しています。しかも、即位をお祝いして、入館料が無料となります。カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=201910



〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(20)

 今回は「浪華の賑ひ」の「戎橋」をご紹介します。

■戎橋
 この橋すぢは今宮の戎に参詣の正当(しょうとう)なるがゆゑにかくは名づけしものなるべし。南詰を九郎右衛門町といひ、南に続きて難波新地、北は島の内心斎橋通りにして、魚類の貸食屋(りょうりや)・精進の茶漬屋・蕎麦屋・鮓(すし)店・煎売店(にうりみせ)・油浴(あぶらあげ)・麩の焼き・菓子・饅頭・日用の雑具(ぞうぐ)・小間物類何くれとなく商(あきなひ)店軒をつらね、夜は軒前に出店ありて、種々を商ふ。これを夜店といふ。
 船場順慶町の通りよりして、心斎ばしすぢ及びこの戎ばしに至るまで、左右の出しみせ透間(すきま)なく賑はへる事、あたかも鼎(かなへ)の煮ゆるがごとし。なかんづく、食物の店多きは、諺にいはゆる大坂の一癖(いつべき)なるべし。


浪華の賑ひ「戎橋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 浪花百景に描かれている道頓堀は、前回ご紹介した2枚ですが、戎橋から心斎橋筋を北へ進み、左手にある「松屋呉服店」(現在の大丸百貨店の前身)が描かれています。

■松屋呉服店(芳瀧画)
 松屋呉服店は大丸の前身。大丸は享保2年(1717)に下村彦右衛門が京都伏見において開いた大文字屋呉服店が発祥です。心斎橋の大坂店は9年後の同11年(1726)に開設されました。西陣のものを主力として南の芸人衆や遊郭筋を目当てに商いをし、老舗呉服屋の松屋を吸収するまでになりました。明治末まで屋号は「松屋」と「大丸」を併用していましたが、商標は大文字屋の称号にゆかりの深い「〇に大」を用い、人々は「大丸」と呼びならわしました。

 暖簾を見ると江戸や名古屋にも支店を持っていたことがわかります。心斎橋筋には小大丸や十合(そごう)など同業が大店を出し、商都大坂の一端を担っていました。豪商であったにもかかわらず、救民義捐に尽くす義商として知られていたため、大塩平八郎の乱の際にも襲撃をまぬがれたといわれます。

浪花百景「松屋呉服店」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 天保年間発行の「浪華名所獨案内」には、道頓堀の南に「竹田」「若太夫」「角」「中」「チクゴ」の五座が描かれ、道頓堀川沿いはモデルルートになっています。
 道頓堀川には、上流側の東から「下大和バシ」「日本バシ」「太左エ門バシ」「戎バシ」「大コクバシ」が架かっています。
 道頓堀川を挟んで北側の島之内には、「大丸呉服店」「シキブ」「ヲグラヤ」などの名店が記されています。戎橋の北西方面には「三津寺」「三ツ八マン」が描かれています。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、道頓堀には「相合バシ」も架かっています。島之内には南北方向に町の名前が書かれています。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」では、千日前通と堺筋に市電が走り、道路が拡幅されています。戎橋の南は戎橋筋で、今宮戎神社への参道となります。北は心斎橋筋で、大丸・十合(そごう)が描かれています。

大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、御堂筋が拡幅されて地下鉄が開通しています。
 丸囲みの文字で示された観光地として「道頓堀」「心斎橋筋」のほかに「大丸」「高島屋」「文楽座」「歌舞伎座」などの文字が見えます。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、町割りは江戸時代の面影が残っています。
 右上の昭和7年を見ると、堺筋と千日前通が拡幅されて市電が走っています。御堂筋はまだ拡幅されていません。

明治41年から最近の地形図(今昔マップ3より)

 左下の昭和42年を見ると、全域が戦災から復興して市街地化しています。拡幅された御堂筋が描かれ、千日前通の市電はまだ健在ですが、堺筋の市電は廃止されています。
 右下の最新の地理院地図では、御堂筋・堺筋・四つ橋筋・千日前通に地下鉄が通り、高速道路網もできています。


 現在の様子を写真で見てみましょう。

 戎橋付近には、名所や旧跡が多くあります。代表例として、松竹座、かに道楽、中座くいだおれビル、道頓堀安井、浮世小路、㐂川(きがわ)、法善寺などをご紹介します。

戎橋
道頓堀通
松竹座
道頓堀通
かに道楽の前に2025EXPO
インバウンドに人気のたこ焼き
中座くいだおれビル
うどんの「道頓堀安井本店」
浮世小路
法善寺横丁「㐂川(きがわ)」
花月発祥の地の碑
織田作之助の碑
法善寺
水掛不動尊

 今回は、「浪華の賑ひ」の「戎橋」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。


〇今週のイベント・ワークショップ

10月23日(水)~26日(土)、28日(月)、30日(水)~11月2日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

10月22日(祝)、27日(日)、11月3日(日)、4日(月・振替休日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



10月26日(土)
ワークショップ『バランスとんぼ』

①13時30分 ②14時30分
各回先着10名、参加費:200円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します

10月27日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00


11月3日(日・祝)
町家衆イベント 今昔語り

 大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30-15:00



    町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00




イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より8階インフォメーションでお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時




〇貸しギャラリーについて
 大阪くらしの今昔館の企画展示室は、当館主催の企画展を開催するほか、住まいと暮らしに関わる展覧会の貸会場(ギャラリー)として、広く一般の方々のご使用を受け付けています。今年は9月14日から12月8日まで、書道展・絵画展など様々な作品展が開催されます。
 催し物のご案内はこちらからどうぞ。



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



2019年10月16日水曜日

今週の今昔館(185) 道頓堀、角芝居 20191016

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(19)

 今回は「浪華の賑ひ」の「道頓堀、角芝居」をご紹介します。

■道頓堀、角芝居
 当時芝居の櫓(やぐら)数は五ケ所にして日本ばしより戎橋までの間につらなり、春の二の替(かはり)より霜月の顔見世にいたるまで四時ともに櫓に梵天(ぼんでん)の立たざる時なく、川竹にヒイキ幟の見えざることなし。なほ師走の暮にも間の興行ありて、せはしき中にも流行して春秋ともに賑はしく、霜月の霜枯もせぬ繁昌に顔の師走ものびるなるは浪花の一奇といふべし。芝居前の茶屋をいろは茶屋と号するは、むかし四十七軒ありしゆゑなりとぞ。
 つどひ来る魚荷畑荷や花の春 八千房其山


浪華の賑ひ「道頓堀、角芝居」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 本文には、次のような説明があります。

■道頓堀
 大坂の南方にして、東堀の下より西に曲りて都合十橋の下を流れて木津川に入り、海に会す。
 芝居側といへるは日本橋より西、戎橋までの間にして、東の第一にあるを竹田と号し、竹田近江が機捩(からくり)の座なり(今、浄瑠璃あるいは歌舞伎等興行して定まることなし)。
 第二を若太夫(わかたいふ)と号け、豊竹若太夫が戯棚(あやつり)座なり(今は歌舞伎をも興行す)。
 第三を角の芝居といふ。大坂太左衛門の歌舞伎座にして世に大芝居と称す。
 第四を中の芝居といひて、塩屋九郎右衛門が歌舞伎座なり。これも大芝居にて角・中の両座は古来よりの例式ありて、他の座の及ばざること様々あり。
 第五を筑後と号す。これは竹本筑後が戯棚(あやつり)座なり(今多く歌舞伎を興行して、あやつりは稀なり)。


 大坂の古図に、戎橋より西に芝居一箇所あり。俗にこれを大西といひしよし、後年この座絶えてより筑後をさして今大西の芝居といへり。四時ともに興行絶えず。しかのみならず、この辺(ほとり)は住吉・天王寺をはじめ寺社参詣の道条(みちすじ)といひ、月・雪・花見・菊・紅葉、怪瑕(けが)して通ふ難波の療治、月々の灸治(やいとすゑ)まで少しの道の損益を論ぜず、ここに廻りて往返なせば、貴賤肩を摩れ合ひて、賑はしき事双(ならび)なく、浪花(ろうか)第一の繁昌なり。


 浪花百景にも「道頓堀角芝居」と「道頓堀太左衛門橋雨中」があります。

■道頓堀角芝居(国員画)
 安井道頓、道卜による道頓堀開削以降、一帯は遊所や芝居小屋の設置が許可され随一の歓楽街を形成しました。道頓堀の南側、日本橋から戎橋の間は「芝居側」と呼ばれ、浄瑠璃、歌舞伎などの大芝居から、あやつり、からくりなどの見世物小屋に至るまで、芝居小屋が密集する浪花随一の繁華街でした。浜側の芝居茶屋には船から直接上がることができました。角座(角の芝居)は興行主大坂太左衛門が開いた歌舞伎座で、道頓堀の中でも古い小屋で、公許の印である櫓を掲げた5つの劇場のひとつでした。

 いくつかの芝居小屋は近代に引き継がれましたが、今なお江戸時代以来の名前を保っているのは、中座と角座のみです。平成19年(2007)までは映画館と飲食店が雑居する角座ビルとして、大衆芸能の核として長らく当地を盛り上げてきました。平成25年(2013)角座ビル跡地にダイハツ工業がメインスポンサーとなった「松竹芸能 DAIHATSU MOVE 道頓堀角座」が再開場しましたが、平成30年(2018)7月に閉館しました。

浪花百景「道頓堀角芝居」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

■道頓堀太左衛門橋雨中(芳雪画)
 現在の道頓堀周辺は大阪の代表的な遊び場で、若者達でごった返す夜の景観が大阪の一つの顔にもなっています。江戸時代には堀の南側に中の芝居などの芝居小屋が軒を並び、また、観劇の人に向けた芝居茶屋がひしめきあい、ここに近世の大坂文化が花を咲かせていました。役者が船で御目見えする船乗り込みも行われ、水都にふさわしい趣向が見られました。

 太左衛門橋の名は、橋の南に芝居小屋「角の芝居(角座)」を開いた興行師で若衆歌舞伎の座元の大坂太左衛門に由来します。道頓堀には4つの橋が架かっていましたが、この橋を北へ渡ると花街宗右衛門町があり、島之内にも通じます。華やかな町をつなぐ橋には艶っぽい情緒があふれています。織田作之助は、芝居街と花街をつなぐ太左衛門橋を「さまざまな人のさまざまな思い出がこもっている橋だった『大阪の女』」と記しています。

浪花百景「道頓堀太左衛門橋雨中」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)



 天保年間発行の「浪華名所獨案内」には、道頓堀の南に「竹田」「若太夫」「角」「中」「チクゴ」の五座が描かれています。道頓堀川沿いはモデルルートになっています。

 道頓堀川には「日本橋」「太左エ門橋」「戎バシ」「大コクバシ」が架かっています。

 道頓堀川を挟んで北側の島之内には、「三津寺」「三ツ八マン」があり、「大丸呉服店」「シキブ」「ヲグラヤ」などの名店が記されています。

浪華名所獨案内(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、「日本橋」の南西角から「竹田」「ワカ太夫」「角」「中」「チクゴ」の文字が見えます。道頓堀には「相合バシ」も架かっています。角座の南には、法善寺、竹林寺があり、さらに南には「千日墓」の文字が見えます。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」では、千日前通と堺筋に市電が走り、道路が拡幅され、「楽天地」が大きく描かれていて目に付きます。日本橋の南詰から、「辨天座」「朝日座」「角座」「中座」「浪速座」が並び、戎橋筋を挟んで「松竹座」があります。

大阪市パノラマ地図(国際日本文化研究センター蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、「楽天地」の跡に「歌舞伎座」が描かれ、道頓堀の南には芝居小屋の絵があり、「弁天座」「朝日座」「角座」「中座」「浪花座」「松竹座」が並んでいます。御堂筋が拡幅されて地下鉄が開通しています。
 丸囲みの文字で示された観光地として「道頓堀」「心斎橋筋」のほかに「歌舞伎座」「文楽座」「大丸」「高島屋」などの文字が見えます。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、道頓堀の南に「千日前」「難波」、北に「宗右衛門町」の文字が目に付きますが、町割りは江戸時代の面影が残っています。
 右上の昭和7年を見ると、堺筋と千日前通が拡幅されて市電が走っています。「新地」の文字が目に付きます。

明治42年から昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 左下の昭和22年を見ると、白くなっている部分は戦災で焼失したエリアですが、堺筋よりも西側の地域にはすでに建物が密集しています。このエリアは戦災を受けたことは確かですので、これらの建物は、終戦直後に建てられたバラックでしょうか?
 右下の昭和42年では、全域が戦災から復興して市街地化しています。千日前通の市電はまだ健在でが、堺筋の市電は廃止されています。


 現在の様子を写真で見てみましょう。

 1枚目2枚目の写真は、角座跡地の現況、3枚目は建築計画のお知らせ、4枚目は角座敷地の向かい側の現況。5枚目は太左衛門橋南詰。6枚目は太左衛門橋。7枚目8枚目は太左衛門橋から見た道頓堀川の風景です。

角座跡地の現況
角座跡地ではホテル複合施設の工事中
建築計画のお知らせ
角座敷地の向かい側
太左衛門橋南詰
太左衛門橋
太左衛門橋から下流側
太左衛門橋から上流側

 今回は、「浪華の賑ひ」の「道頓堀、角芝居」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。


 今回から「浪華の賑ひ」二編に入ります。二編の扉には、
「芦の錐たつべくもなし津の国のなにはわたりの家のけしきに 栗園」の和歌が記されています。

浪華の賑ひ「二編」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


〇今週のイベント・ワークショップ

 今昔館は毎週火曜日が休館日ですが、22日の祝日は開館します。カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=201910


10月16日(水)~19日(土)、21日(月)、23日(水)~26日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)

10月20日(日)、22日(祝)、27日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00



10月19日(土)
ワークショップ『折り紙』(有料)

季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
13時30分~15時
各回先着16名、参加費:100円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します


10月20日(日)
町家衆イベント 紙芝居

昔ながらの紙しばいを町家衆が上演します。
子どもから大人まで楽しんでいただけます。
開催日:日曜適時
11時~12時



町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00


10月26日(土)
ワークショップ『バランスとんぼ』

①13時30分 ②14時30分
各回先着10名、参加費:200円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します

10月27日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00




〇貸しギャラリーについて
 大阪くらしの今昔館の企画展示室は、当館主催の企画展を開催するほか、住まいと暮らしに関わる展覧会の貸会場(ギャラリー)として、広く一般の方々のご使用を受け付けています。今年は9月14日から12月8日まで、書道展・絵画展など様々な作品展が開催されます。
 催し物のご案内はこちらからどうぞ。



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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