2022年7月27日水曜日

今週の今昔館(329) 浪花行事十二月 七夕月 盆をとり 20220727

〇今昔館の館蔵品紹介「浪花行事十二月 七夕月 盆をとり」
 今回は、大坂の行事を12か月の月別に描いた二代長谷川貞信(はせがわさだのぶ)による画帖「浪花行事十二月」から「七夕月 盆をとり」をご紹介します。

 江戸時代の大坂には諸国の物産が集積し、商業によって富み栄えた商人たちは文化的にも豊かな生活を送るようになりました。年中行事や季節に応じた行楽、寺社への参拝と祭礼などを盛んに行いました。このような都市生活の様子は、名所絵や浮世絵として様々な画家によって残されています。ここでは今昔館が所蔵する資料の中から、大坂の行事を12か月の月別に描いた、二代長谷川貞信(にだいはせがわさだのぶ)による画帖「浪花行事十二月」を紹介します。

 作者の二代長谷川貞信は、嘉永元年(1848)に初代長谷川貞信の長男徳太郎として大坂に生まれました。慶応元年(1865)頃から小信の号で描き、明治8年 (1875)に父から貞信の名を譲り受け、二代長谷川貞信と称しました。
 父の初代貞信は役者絵や「浪花百景」などの風景版画の分野を得意として、幕末から明治初年にかけて上方浮世絵界で活躍しました。二代貞信もその伝統を受け継いで役者絵を主に描いています。その他に神戸名所、浪花名所、浪花十二景などの風景画、玩具絵、武者絵、美人画、『日々新聞』の挿絵や銅版画を手がけています。
 小信を名乗っている頃には、「播州神戸海岸繁栄之図」を初めとして神戸・大阪(川口)の居留地などを舞台に、鉄道、鉄橋、西洋館など明治初年の文明開化の風俗をよく描きました。また貞信を継いだ後は、錦絵新聞や西南戦争に題材を求めた錦絵を多く手がけました。銅版画や石版画が普及し、浮世絵の需要が衰えた明治10年(1877)以降には、商店の引き札や輸出茶の商標、芝居絵の番付なども描いています。昭和15年(1940)没。享年93。墓所は初代と同じ天鷲寺。法名は明徳院貞信遍照居士。

 「浪花行事十二月」は帙(ちつ)入りの折本(1帖)、絹本着色、法量は本紙縦14.5 x 横20.5cm(総寸 20.8 x 26.9cm)、目次を含めて13面の図で構成されています。目次には小信の落款が、各月の場面 には「九十二翁 貞信」の落款があります。本作品が描かれたのは貞信の最晩年である昭和14年 (1939)ですが、江戸時代の後期に生まれ、江戸時代の風景と風俗の面影を残す町で育った貞信は、江戸時代の大阪の様子を回顧するように描いています。

■浪花行事十二月 七夕月 盆をとり
 盆踊りは旧暦7月15日頃、仏事である盂蘭盆の時期に、寺社の境内に集まり、祖先の魂を供養するために踊る行事。『大阪繁華風土記』7の月の項に「当月踊十五日より八朔迄所々におどり有、軒へ丸太をわたし芝居又茶屋のてうちんをつり東雲までをどる也」とあり、半月に渡り、明け方まで踊りが行われたことがわかります。
 本図には満月の明かりに照らされ、揃いの笠と着物で輪をなして踊る女性たちが描かれています。手前には菊花模様の切子燈籠が風にたなびき、夏の夜の風情を感じさせます。
(大阪くらしの今昔館研究紀要16号掲載の、学芸員服部麻衣さんの論文『資料紹介 二代長谷川貞信 「浪花行事十二月」』より)


浪花行事十二月 七夕月 盆をとり
(大阪くらしの今昔館蔵)



〇特別展「商都大坂の豪商・加島屋 あきない町家くらし」開催中です

2022年7月15日(金)〜2022年9月26日(月)

江戸時代の大坂は、「天下の台所」とうたわれ、日本経済の中心地でした。この企画展では大坂を代表する豪商であった加島屋・廣岡家の商い・住まい・暮らしを紹介します。加島屋は米仲買や蔵屋敷の管理を行い、堂島米市場の中心的存在でした。同家の本宅は土佐堀川に面した玉水町(現・大阪市西区江戸堀一丁目)にあり、今回、あらたに発見された資料から、その店がまえや華やかな暮らしぶりが明らかになりました。加島屋をルーツとする大同生命保険株式会社では、創立120周年記念事業のひとつとして、加島屋本宅の復元模型を製作し、大阪くらしの今昔館はその監修をおこないました。この展覧会はその調査成果を展示したものです。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000359



〇「明治後期~昭和初期にかけてのレトロな”パッケージデザイン”ミニ展示」を開催!(~7月末迄)
明治後期から大正、昭和初期にかけて、国内で販売されていた化粧品や石鹸類、お菓子などパッケージのミニ展示を開催します。これらパッケージデザインは、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど、当時の西洋様式の影響を受けたものが多く、舶来品の模倣に近いものや、西洋様式をベースにうまく日本風にアレンジした和洋折衷の優美な意匠が多く残されています。この期間限りの展示ですので、この機会にどうぞご覧ください。
●とき:令和4年6月15日(水)~7月末迄 10時~17時(入館は16時30分まで)
●ところ:8階常設展示室内
●展示:佐野宏明氏所蔵品展示
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000416


〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



2022年7月20日水曜日

今週の今昔館(328) 浪花風景十二月 文月 新清水寺之小瀑 20220720

〇今昔館の館蔵品紹介「浪花風景十二月 文月 新清水寺之小瀑」
 今回は、大坂の風景を12ヶ月の月別に描いた二代長谷川貞信(はせがわさだのぶ)による画帖「浪花風景十二月」から「文月 新清水寺之小瀑」をご紹介します。

 12ヶ月の月ごとの行事や風俗を主題として描く「月次絵」は、古くから屏風や襖絵、巻子などいろいろな形式で描かれてきました。
 今回紹介する画帖「浪花風景十二月」も、画帳の形式で1枚に1月づつ、江戸時代の大坂を象徴する景色や名所を季節感を織り交ぜながら描いています。
 二代長谷川貞信(にだいはせがわさだのぶ)の肉筆で、二代貞信は江戸時代から昭和初期の変化に富んだ時代の様子を書き残した浮世絵師として知られています。

 今昔館には同じく二代貞信が描き、本画帖と同じ寸法かつ類似の表装で仕立てられた「浪花風俗十二月」も所蔵されており、2つの画帖は「対」もしくは「シリーズ」として製作されたことがうかがえます。

 本作品が描かれたのは貞信の最晩年の昭和14年(1939)ですが、描かれている様子は江戸時代の風景のため、本作は実像を見ながら描いているのではなく回顧して描いている点に留意する必要があります。しかし江戸時代の後期の大坂に生まれ、古くからの行事や風景に親しんで育った二代貞信の描写は、大阪のかつての風景を探る上で一定の信頼性があると考えられます。

■浪花風景十二月 文月 新清水寺之小瀑
 大阪の清水寺は勝鬘院の南にあり、京都の清水寺から聖徳太子作と伝えられる十一面千手観音を移したことから、享保年間(1716~1736)に新清水寺と称するようになりました。清水寺の名のとおり、京都の音羽山清水寺で有名な舞台と滝を備えています。舞台からかつては南西方向の山海を見通すことができました。
 滝は「玉手の滝」と呼ばれる清水が3筋あります。参詣をする子連れの家族や床几に腰をかけて休憩する女性などが描かれ、町人が平素から利用していた寺であったことがうかがえます。着物を脇にかかえた軽装の男性2人連れが滝の方へ向かって歩いていますが、これから滝に当たるところでしょうか。
(大阪くらしの今昔館研究紀要17号掲載の、学芸員服部麻衣さんの論文『資料紹介 二代長谷川貞信 「浪花風景十二月」』より)


浪花風景十二月 文月 新清水寺之小瀑
(大阪くらしの今昔館蔵)



〇特別展「商都大坂の豪商・加島屋 あきない町家くらし」が始まりました

2022年7月15日(金)〜2022年9月26日(月)

江戸時代の大坂は、「天下の台所」とうたわれ、日本経済の中心地でした。この企画展では大坂を代表する豪商であった加島屋・廣岡家の商い・住まい・暮らしを紹介します。加島屋は米仲買や蔵屋敷の管理を行い、堂島米市場の中心的存在でした。同家の本宅は土佐堀川に面した玉水町(現・大阪市西区江戸堀一丁目)にあり、今回、あらたに発見された資料から、その店がまえや華やかな暮らしぶりが明らかになりました。加島屋をルーツとする大同生命保険株式会社では、創立120周年記念事業のひとつとして、加島屋本宅の復元模型を製作し、大阪くらしの今昔館はその監修をおこないました。この展覧会はその調査成果を展示したものです。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000359



〇「明治後期~昭和初期にかけてのレトロな”パッケージデザイン”ミニ展示」を開催!(~7月末迄)
明治後期から大正、昭和初期にかけて、国内で販売されていた化粧品や石鹸類、お菓子などパッケージのミニ展示を開催します。これらパッケージデザインは、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど、当時の西洋様式の影響を受けたものが多く、舶来品の模倣に近いものや、西洋様式をベースにうまく日本風にアレンジした和洋折衷の優美な意匠が多く残されています。この期間限りの展示ですので、この機会にどうぞご覧ください。
●とき:令和4年6月15日(水)~7月末迄 10時~17時(入館は16時30分まで)
●ところ:8階常設展示室内
●展示:佐野宏明氏所蔵品展示
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000416


〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
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2022年7月13日水曜日

今週の今昔館(327) 近代の大阪「天神祭」 20220713

〇今昔館の近代展示室の見どころ(31)「天神祭」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室(江戸時代のフロア)および10階展望フロアが閉鎖されています。今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って向かって左側の壁面にある「天神祭」をご紹介します。天神祭は、今月25日に本宮をむかえます。

 7月に入って天神橋筋商店街もすでにお祭りモードに入っています。現在は天井改修工事のためにお休み中ですが、大阪くらしの今昔館の9階の江戸時代の町並みも、いつもなら夏祭りの飾りの展示になっています。

大阪くらしの今昔館の「夏祭りの飾り」
(公式ガイドブック「逍遥指南書」より)

 天神祭は、かつては旧暦6月25日に開催されていましたが、新暦になって、毎年7月25日に開催されるようになりました。

 天神祭は大阪で最大の都市祭礼です。祭りは、最終日に大川、堂島川で繰り広げられる船渡御をもってクライマックスを迎えます。大勢の見物人、川沿いの篝火と夜店、そして打ち上げ花火が、大阪の夏の夜を華やかに彩ります。模型は大正10年(1921)に描かれた絵巻「夏祭船渡御図」(大阪天満宮蔵)をもとに再現したもので、かんかん帽に洋服を着た船上の人、蒸気船、川べりに建つ近代建築に当時の雰囲気があふれています。

「夏祭船渡御図」(大正10年、大阪天満宮蔵)

大阪くらしの今昔館8階の天神祭の模型

 船渡御の舞台は、現在では天神橋から上流の毛馬橋にかけての大川ですが、当時は鉾流橋から下流にあたる松島の御旅所に向けて堂島川を中心に行われていました。フロアの中央にある「大阪市パノラマ地図」で、当時の様子を見てみましょう。中之島には西側から日本銀行、市庁舎、豊国神社、図書館、公会堂、大阪ホテルが並んでいて、公会堂の北側には鉾流橋が架かっています。対岸には天満警察があり、その前に鳥居が描かれています。毎年7月24日の朝、ここで天神祭の幕開け行事である鉾流神事が催されます。天満警察の左手(西側)には赤レンガの控訴院(現在の高等裁判所)があります。8階フロアの天神祭の模型にも背景に控訴院が描かれています。模型の中の御迎船は控訴院の前を左手、下流に向かって進んでいる様子が再現されています。

「大阪市パノラマ地図」の堂島川付近
(大正13年、大阪くらしの今昔館蔵)

大正時代の天神祭船渡御(大阪くらしの今昔館)


 天神祭本番を迎える前に、天神祭の歴史と、祭りに欠くことのできない御迎人形について、天神祭総合情報サイトから引用させていただき、ご紹介します。

〇天神祭の歴史
 大阪天満宮が創祀されたのは平安時代後期の天暦3年(949)のことです。その当時、都では落雷や疫病の流行などの天変地異が度重なり、人々はこれを配所で非業の死を遂げられた道真公の怨霊によるものと考え、その霊を鎮めるために「天満大自在天神」としてお祀りしました。いわゆる「天神信仰」の成立です。

(天神祭の始まり)
 大阪天満宮が創祀された翌々年の天暦5年(951)に鉾流神事が始まりました。鉾流神事とは、社頭の浜から大川に神鉾を流し、漂着した場所にその年の御旅所を設ける神事で、御旅所とは御神霊がご休憩される場所のことです。この御旅所の準備ができると御神霊は陸路で川岸まで出御、乗船して大川を下り御旅所へ向かうルートを辿りました。 この航行が船渡御で、天神祭の起源とされています。
 当時は旧暦6月に鉾流神事が行われ、6月25日に船渡御が行われたといいます。室町時代の宝徳元年(1499)の公家、中原康富の「康富日記」には7月7日に天神祭が行われたとの記録も残っており、また、戦国時代の公家、山科言経の日記「言経卿記」では、天正十四年(1586)6月25日に天神祭が記録されています。菅原道真の生誕の日に因んで旧暦の6月25日に変更されたといわれます。(明治11年、太陽暦の採用で7月25日に変更されました。)
 なお、江戸初期の御旅所の常設にともない鉾流神事は中止されましたが、昭和5年(1930)に古式にのって復活しました。現在では7月24日の朝に旧若松町浜(天満警察署前)で斎行される鉾流神事は当初と同じく、天神祭の幕開け行事となっています。

(江戸時代の船渡御)
 大坂の陣の戦火で一時吹田に避難した大阪天満宮でしたが、江戸初期に再び天満へ還座された後、天神祭の再開にあたっては鉾流神事で御旅所の地を決めるのをやめて、雑喉場町(西区)に常設の御旅所がおかれました。これによって船渡御のコースは固定化され、祭礼の一部始終を事前に計画できるようになりました。天満宮周辺の氏子・崇敬者が境内から川辺の乗船場まで徒歩で行列を組み(陸渡御)、乗船場からは船列を仕立てて下流の御旅所へ向かっていましたが(船渡御)、御旅所の常設後は天満宮周辺の氏子・崇敬者も御迎船を仕立てて川を遡行し、神霊奉安船と合流後に反転して、御旅所まで一緒に下航するようになったのです。

御迎船と御迎人形(大阪くらしの今昔館)

 江戸時代の町の様子を、幕末に刊行された「浪華名所獨案内」(「津の清」蔵、9階にパネル展示しています。)で見てみましょう。地図の右手に天満宮があり、大川沿いには青物市場と市ノ側が描かれています。西天満と中之島には「蔵屋敷多シ」、堂島には「米市場」の文字があります。中之島は難波橋の手前までしかなく、大川はここで堂島川と土佐堀川に分かれます。当時の船渡御は堂島川を下流へと進み、雑魚場(後には戎島)にあった御旅所に向かいました。

大阪くらしの今昔館9階にパネル展示している「浪華名所獨案内」
(「津の清」蔵、この地図は東が上になっています。)

「浪華名所獨案内」の天満・堂島付近(「津の清」蔵)

 天保8年(1637)刊行の「天保新改攝州大坂全圖」(国際日本文化研究センター蔵)を見ると、道路の様子も詳しく描かれ、西天満、中之島には各藩の蔵屋敷が詳細に描かれています。控訴院の場所には、佐賀・鍋島藩の蔵屋敷があったことがわかります。

「天保新改攝州大坂全圖」の天満・堂島付近
(天保8年、日文研蔵)

(幕末・維新期)
 14代将軍徳川家茂が長州再征のために来阪した時期、世情不安を理由に天神祭の渡御列は中止となり、慶応元年(1865)から明治4年(1871)までの7年間、本殿での祭儀のみが斎行されていました。戎島付近が外国人居留地になったという理由もあり、明治5年の船渡御の復興の際には、従来の戎島の御旅所ではなく松島に移転されました。しかし、明治6年以降、再び船渡御は中止されます。維新以来、大阪の経済は沈滞したことが最大の理由で、再び土砂の堆積をとって船渡御が復興されたのは明治14年のことでした。天神祭は昔も今も大阪経済とともに歩んできたといえるのです。

大正時代の天神祭船渡御(大阪くらしの今昔館)


「大阪市パノラマ地図」の天満・堂島付近
(大正13年、大阪くらしの今昔館蔵)

(現在の天神祭の形に)
 昭和5年(1930)には江戸時代初期から途絶えていた鉾流神事が300余年ぶりに復活されました。そして、第二次世界大戦後まもない昭和24年に、昭和13年以来中止されていた船渡御が再開されました。ところが長年にわたる大阪一帯の地盤沈下のために大川の水位があがり、川に架かる橋の下を神輿が通れず、下流の松島にある御旅所への航行が不可能になったため、翌年(昭和25年)にはまたもや中止となりました。
 歴史ある船渡御を継続させるため、昭和28年(1953)に大川を上流に遡って航行するという、今までとは全く逆の新しいコースの船渡御が復活しました。このコースが現在の船渡御のコースです。 これによって、御旅所で行っていた神事を御鳳輦奉安船で行うようになり、両岸の大群衆が見守る中で「船上祭」を斎行するようになりました。それ以来、コースを少しずつ伸ばしながら天神祭を代表する船渡御は続いています。

(新たな試みへ)
 平成6年(1994)5月、関西国際空港の開港を記念して、大阪天満宮の神職および氏子・崇敬者ら約1000名がオーストラリアに渡り、ブリスベン市で天神祭を斎行しました。創祀以来、初めて異国で斎行された「天神フェスティバル」はその厳粛な祭儀と、豪壮華麗な渡御列によって、人々を魅了し大きな感動を与えました。
 現在では天神祭は毎年7月25日に開催されていますが、かつて、天神祭が7月7日に行われていたこともあり、七夕の祭り、星辰信仰との関係が深いこと、大阪天満宮の境内にある「星合池」がそのなごりを留めていることを踏まえて、平成7年(1995)に天満天神七夕祭りが復興しました。星愛七夕まつり、平成OSAKA天の川伝説が開催されていることにもつながっているそうです。

〇御迎人形
 江戸時代、大坂の淀川沿いには諸藩の蔵屋敷が立ち並び、堂島の米市場、天満の青物市場、雑喉場の魚市場と三大市場の繁栄とともに、天神祭は盛大化していきました。
その江戸時代前期、町人文化(元禄文化)が花咲く元禄期に、御旅所は常設されました。この御旅所周辺の町々では、天神祭の様々な趣向を凝らした風流人形をこしらえました。これが、御迎船人形(御迎人形)の始まりです。
 当時、船渡御を迎えるため、御旅所周辺の町々が祭礼に先立ち各町で飾り付け、祭り当日に船に乗せて御旅所から堂島川を上り、船渡御の一行を御旅所まで導く役割を担っていました。この頃に登場した御迎人形は、7尺8寸(2.4m)ほどの大きさで、船上に立てた棒の先に高く飾られていましたが、享保期(1716〜36)頃から約1丈5尺(4.5m)の大型人形も作られたといいます。
 御迎船に飾られた御迎人形の様子は、8階フロアの模型を見るとよくわかります。

御迎船と御迎人形(大阪くらしの今昔館)

 御迎人形の多くが、浄瑠璃や歌舞伎の登場人物を題材としていました。これらの人形は船上に設けられた舞台に人形をセットし、物語性が演出されるように工夫されました。文楽人形の細工人たちが作った御迎人形には頭や手足を動かすカラクリがほどこされていました。歌舞伎の見栄を切る人形もあれば恵比寿のように鯛を釣り上げる人形もありました。また、御迎人形が必ず赤(緋)色を身につけているのは「疫病(疱瘡)祓い」という意味があります。
 多いときには延べ数は50体を超えたといわれる御迎人形ですが、現在は16体しか残っていません。幕末・維新期の天神祭の中止や大戦の影響などにより人形数は減少してしまいました。人形たちを支えた町はその姿を変え、戦後は人形が船に乗せられることもなくなったのです。

(現存する御迎人形)
 三番叟・雀踊・安倍保名・与勘平・酒田公時・関羽・胡蝶舞・鬼若丸・八幡太郎義家・羽柴秀吉・猩々・素盞嗚尊・鎮西八郎・佐々木高綱・木津勘助・豆蔵・恵比寿(頭のみ)

 昭和48年に、このうち14体が大阪府の有形民俗文化財に指定され、平成23年には残る2体も追加指定され16体が文化財に指定されています。現在、毎年、天神祭の時期に天満宮境内と帝国ホテルのロビーなどに数体ずつ飾られています。
 また、今昔館の9階江戸時代のフロアにおいても、夏祭りの飾りの展示期間中、御迎人形の「雀踊」と「酒田公時」を交互に町会所に展示しています。今年はお休みですが、来年からは再開できる予定です。

雀踊の御迎人形


酒田公時の御迎人形


 今昔館の展示を見てから天神祭の陸渡御、船渡御に行っていただくと、一層実りの多い天神祭見物になることでしょう。



〇企画展「漆造形の旗手 栗本夏樹の世界」は終了しました


〇次回の企画展は、特別展「商都大坂の豪商・加島屋 あきない町家くらし」

2022年7月15日(金)〜2022年9月26日(月)

江戸時代の大坂は、「天下の台所」とうたわれ、日本経済の中心地でした。この企画展では大坂を代表する豪商であった加島屋・廣岡家の商い・住まい・暮らしを紹介します。加島屋は米仲買や蔵屋敷の管理を行い、堂島米市場の中心的存在でした。同家の本宅は土佐堀川に面した玉水町(現・大阪市西区江戸堀一丁目)にあり、今回、あらたに発見された資料から、その店がまえや華やかな暮らしぶりが明らかになりました。加島屋をルーツとする大同生命保険株式会社では、創立120周年記念事業のひとつとして、加島屋本宅の復元模型を製作し、大阪くらしの今昔館はその監修をおこないました。この展覧会はその調査成果を展示したものです。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000359
※企画展の準備のため、7月11日(月)~14日(木)は、臨時休館となります。




〇「明治後期~昭和初期にかけてのレトロな”パッケージデザイン”ミニ展示」を開催!(~7月末迄)
明治後期から大正、昭和初期にかけて、国内で販売されていた化粧品や石鹸類、お菓子などパッケージのミニ展示を開催します。これらパッケージデザインは、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど、当時の西洋様式の影響を受けたものが多く、舶来品の模倣に近いものや、西洋様式をベースにうまく日本風にアレンジした和洋折衷の優美な意匠が多く残されています。この期間限りの展示ですので、この機会にどうぞご覧ください。
●とき:令和4年6月15日(水)~7月末迄 10時~17時(入館は16時30分まで)
●ところ:8階常設展示室内
●展示:佐野宏明氏所蔵品展示
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000416


〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html



2022年7月6日水曜日

今週の今昔館(326) 近代の大阪「心斎橋筋商店街」 20220706

〇今昔館の近代展示室の見どころ(30)「心斎橋筋商店街」

 大阪くらしの今昔館は、天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)まで、9階常設展示室(江戸時代のフロア)および10階展望フロアが閉鎖されています。今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って正面のスクリーンの裏側にある「心斎橋筋商店街」をご紹介します。



 心斎橋筋は近世から続く商いのまちです。近代にはショーウィンドーをしつらえ、とりどりの看板を掲げた華やかな店構えの商店が軒を並べ、消費文化・情報発信の中心地として賑わいました。心斎橋筋をウィンドーショッピングしながら歩く「心ぶら」は、都市生活の楽しみの一つとなっていました。


 「心斎橋筋案内」は昭和2年(1927)に描かれた町並みのイラストで、各店舗の店構えが表情豊かに描かれています。模型では、心斎橋筋の東側、周防町から三津寺筋、宗右衛門町に至る町の賑わいを「心斎橋筋案内」をもとに再現しています。
 模型は、通りに沿って並ぶ街並みと、通りを歩く人々が動く仕組みになっています。「廻る寿司」と同じ仕掛けを利用しています。

「心斎橋筋案内」(大阪くらしの今昔館蔵)
昭和4年の心斎橋(「大大阪の時代を歩く」より)

 現在でも、心斎橋の周辺は、心斎橋筋商店街を中心に、百貨店、専門店、高級ブランド店などが集積する大阪市を代表する日本有数の繁華街です。

 心斎橋筋の名前は、船場と島之内を分ける長堀川(現在は埋立。長堀通)に架かっていた心斎橋(橋梁)に由来し、単に船場と島之内を繋ぐにとどまらず、道頓堀川にも戎橋が架けられ、なおかつ、西横堀川(現在は埋立。阪神高速1号環状線北行き)寄りの道であったことから、道頓堀の芝居小屋と下船場の新町遊廓を結ぶ道として賑わいを見せるようになり、今日に至っています。


 このように心斎橋筋は土佐堀川から道頓堀川まで南北に伸びる道ですが、船場においては心斎橋という認識は薄いです。これは、明治5年(1872)に心斎橋筋(1・2丁目)の町名が島之内においてのみ実施されたことに拠ります。


 もともと心斎橋筋は、新町遊廓へ至る順慶町通と交差する船場側が栄えていました。順慶町通は夜市で知られ、煌々と照らされる街路は江戸から来た人々も驚くほどでした。しかし、松島遊廓の誕生や大火によって新町遊廓は衰退・焼失してしまい、南海難波駅や湊町駅(現・JR難波駅)の開業(道頓堀以南は「戎橋筋」と名称を変えますが難波駅前まで通じている)、大丸や十合(そごう)といった呉服店による百貨店経営の開始などにより、明治以降は島之内側が栄えるようになりました。なお、現在も船場側には、順慶町通を境に、せんば心斎橋筋商店街と心斎橋筋北商店街があります。


 平成元年(1989)に島之内のうち堺筋~畳屋町筋間が東心斎橋、御堂筋以西が西心斎橋という町名になりました。しかし、現在も鰻谷(中之町・西之町)、大宝寺町(中之丁・西之丁)、東清水町、西清水町、千年町、玉屋町、笠屋町、畳屋町、周防町、八幡町、三津寺町、久左衛門町といった旧町名およびそれに基く筋や通の名称は健在で、御堂筋などの交差点名にも使用されています。千年町、玉屋町、笠屋町、畳屋町は、南北の道に沿ってまちが形成されているため、東西方向の周防町、八幡町、三津寺町は、周防町筋、八幡筋、三津寺筋と呼称されています。

 東心斎橋(とりわけ周防町筋以南)および南接する宗右衛門町は、歓楽街として「ミナミ」と呼ばれることが多いですが、このエリアでは店舗や居場所の特定に旧町名が頻繁に用いられています。また、西心斎橋の周防町筋周辺はアメリカ村と通称されています。


 心斎橋筋2丁目、三津寺筋付近を「大阪市パノラマ地図」で見たものです。「三ツ寺」が描かれ、心斎橋筋の一つ東の筋には、「タタミヤ丁」の文字があり、南北に町が形成されていることが分かります。

大阪市パノラマ地図の心斎橋筋(大阪くらしの今昔館蔵)

 範囲を広げて見ました。島之内の北半分は東西の通りに「鰻谷」「大宝寺町」などの名前が入っていますが、南半分は南北の筋に沿って「笠屋町」「畳屋町」など、町の名前が入っています。御堂筋が拡幅される前ですから、大丸、十合(そごう)も心斎橋筋に顔を向けています。

大阪市パノラマ地図の心斎橋筋付近
(大阪くらしの今昔館蔵)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の心斎橋筋付近です。心斎橋と戎橋の間に「大丸呉服店」「ヲグラヤ」があり、「三津寺」も描かれています。

浪華名所獨案内の心斎橋筋
(「ちずぶらり」より:上が東)

 範囲を広げて見てみると、大丸の前から心斎橋筋を南へ進み、戎橋を渡ると千日前に至り、道頓堀五座(芝居小屋)があります。逆に、北へ進み心斎橋を渡り、順慶町通を西に曲がると新町廓に至ります。お勧めのモデル観光ルートにもなっていて、当時から栄えていたことが分かります。

浪華名所獨案内の心斎橋筋
(「ちずぶらり」より:上が東)

 天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大阪全圖」を見ると、通りと筋が細かく描かれていて、町の名前も書かれています。島之内の北半分では通りに沿って町が形成され、南半分では南北の筋に沿って町が形成されています。現在でも東西の道が「八幡筋」「三津寺筋」と呼ばれているのは、このためです。

天保8年(1837)発行の「天保新改攝州大阪全圖」(日文研蔵)
1920年代の心斎橋(「大大阪の時代を歩く」より)

 最後に『大阪春秋』#133心斎橋・島之内特集号に、島之内の町名変更前後のわかりやすい図が掲載されていましたので、ここに転載させていただきます。

町名変更前の島之内地区略図(大阪春秋#133より)
いまの島之内地区略図(大阪春秋#133より)


 今回は、大阪くらしの今昔館8階の「心斎橋筋商店街」をご紹介しました。近代展示室に入って正面のスクリーンの裏側にありますので、見落とさないようにしてください。


〇企画展「漆造形の旗手 栗本夏樹の世界」は終了しました


〇「2022年度 建築設計展 第63回全国大学・高専卒業設計展示会」(7/7~7/10開催)のお知らせ
全国の大学及び高等専門学校の卒業設計優秀作を展示する「2022年度 建築設計展 第63回全国大学・高専卒業設計展示会」を7月7日(木)~10日(日)の4日間、当館企画展示室にて開催します。
本展開催期間中の入館料は以下のとおり変更になります。
●常設展:一般、高大生 200円
●企画展:一般、高大生 無料
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000401
※本展示開催準備のため、7月4日(月)~6日(水)は、臨時休館となります。また、次期企画展の準備のため、7月11日(月)~14日(木)は、臨時休館となります。



〇次回の企画展は、特別展「商都大坂の豪商・加島屋 あきない町家くらし」

2022年7月15日(金)〜2022年9月26日(月)

江戸時代の大坂は、「天下の台所」とうたわれ、日本経済の中心地でした。この企画展では大坂を代表する豪商であった加島屋・廣岡家の商い・住まい・暮らしを紹介します。加島屋は米仲買や蔵屋敷の管理を行い、堂島米市場の中心的存在でした。同家の本宅は土佐堀川に面した玉水町(現・大阪市西区江戸堀一丁目)にあり、今回、あらたに発見された資料から、その店がまえや華やかな暮らしぶりが明らかになりました。加島屋をルーツとする大同生命保険株式会社では、創立120周年記念事業のひとつとして、加島屋本宅の復元模型を製作し、大阪くらしの今昔館はその監修をおこないました。この展覧会はその調査成果を展示したものです。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000359
※企画展の準備のため、7月11日(月)~14日(木)は、臨時休館となります。




〇「明治後期~昭和初期にかけてのレトロな”パッケージデザイン”ミニ展示」を開催!(~7月末迄)
明治後期から大正、昭和初期にかけて、国内で販売されていた化粧品や石鹸類、お菓子などパッケージのミニ展示を開催します。これらパッケージデザインは、アール・ヌーヴォーやアール・デコなど、当時の西洋様式の影響を受けたものが多く、舶来品の模倣に近いものや、西洋様式をベースにうまく日本風にアレンジした和洋折衷の優美な意匠が多く残されています。この期間限りの展示ですので、この機会にどうぞご覧ください。
●とき:令和4年6月15日(水)~7月末迄 10時~17時(入館は16時30分まで)
●ところ:8階常設展示室内
●展示:佐野宏明氏所蔵品展示
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/topic/260000416


〇天井改修工事の実施に伴う一部展示室等の閉鎖のお知らせ

 大阪くらしの今昔館から重要なお知らせです。
 天井改修工事の実施に伴い、令和4年秋頃(予定)までの約1年間、9階常設展示室および10階展望フロアが閉鎖されますので、ご注意ください。


・9階、10階の閉鎖期間中は8階企画展示室に町家座敷を実物大で再現し展示します。
・8階の吹抜け部分に大型映像コーナーを新設し、江戸時代の大坂の町なみと天保年間の人々の暮らしを描いた動画をご覧いただけます。


・天井改修工事期間中の入館料
8階常設展と企画展をご覧いただけます。
 一般   400円  団体(20名以上)300円
 高・大生 300円  団体(20名以上)200円 *要学生証提示

【年間パスポート】
現在年間パスポートは販売を休止しております。

【年間パスポートをお持ちの方へ】
天井改修工事期間を含む年間パスポートをお持ちの方は有効期限を延長いたします。インフォメーションにて手続きをいたしますので、次回ご来館の際にご提示ください。



 今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編公開されています。動画を見てから見学すると、見どころがよくわかると思います。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。昨年、開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は開館していますが、イベント・ワークショップ等の開催は中止しています。

 イベント・ワークショップおよびボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)等は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の為、当面の間 開催を中止いたします。

 開催を楽しみにしてくださった皆様にはご迷惑をおかけしますが、ご理解をいただきますようお願いいたします。


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画(全4編)の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be




〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/manabi_program/今昔館のオンラインまなびプログラム




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html