2017年11月14日火曜日

今週の今昔館(85) からくり錦絵「造幣寮」 20171114

〇今昔館の近代展示室を愉しむ(19) からくり錦絵「造幣寮」

 今回は、大阪くらしの今昔館の8階近代展示室に入って、すぐ左手にある「からくり錦絵」をご紹介します。

からくり錦絵の解説板

 からくり錦絵は、造幣寮、心斎橋、梅田ステンショの3枚で構成される「からくり仕掛けの錦絵」で語る大阪の文明開化です。からくり錦絵と川口居留地の模型は、お客様が江戸時代のフロアから近代のフロアに降りてこられた際の、近世から近代へのエントランスになっています。
 大阪の文明開化は旧大坂三郷の東と西から始まりました。西は慶応4年(1867)につくられた川口の外国人居留地。東は明治4年(1871)に天満川崎の地に完成した造幣寮で、外国から機械を輸入して近代工業の灯をともしました。
 やがて、市中には人力車が走りはじめ、高麗橋、新町橋に続いて明治6年には心斎橋が木製から鉄橋に架け替えられました。さらに、明治7年には鉄道の駅が誕生し、梅田ステンショの名で親しまれました。ここでは、近代都市として新しい発展の道を歩み始めた大阪の様子を、からくり仕掛けの錦絵で紹介しています。
 真ん中の赤いボタンを押すと、ブザーが鳴って演出が始まります。明治時代に入って、文明開化のなかで江戸時代の風景がどのように変わってきたのかを「からくり仕掛け」で見えるようになっています。

赤いボタンを押す前の状態
3枚の演出が終了した状態

 今回は、演出の順に沿って左端の「造幣寮」を取り上げます。現在では「桜の通り抜け」で有名なあの造幣局です。
 明治4年(1871)、造幣寮が貨幣鋳造を開始。イギリス製の貨幣鋳造機械を導入し、近代工業のさきがけとなりました。


からくり錦絵「造幣寮」

 造幣局のホームページによると、造幣局は、近代国家としての貨幣制度の確立を図るため、明治新政府によって大阪の現在地(大阪市北区)に創設され、明治4年4月4日に創業式を挙行し、当時としては画期的な洋式設備によって貨幣の製造を開始しました。
 その頃我が国では、機械力を利用して行う生産工業が発達していなかったため、大型の機械設備は輸入するとしても、貨幣製造に必要な各種の機材の多くは自給自足するよりほかなかったので、硫酸、ソーダ、石炭ガス、コークスの製造や電信・電話などの設備並びに天秤、時計などの諸機械の製作をすべて局内で行っていました。また事務面でも自製インクを使い、我が国はじめての複式簿記を採用し、さらに風俗面では断髪、廃刀、洋服の着用などを率先して実行しました。
 このように、造幣局は、明治初年における欧米文化移植の先駆者として、我が国の近代工業及び文化の興隆に重要な役割を果たしたので、大阪市が今日我が国商工業の中心として隆盛を見るようになったのも、造幣局に負うところが少なくないといわれています。
 その後、造幣局は、貨幣の製造のほか、時代の要請にこたえて勲章・褒章及び金属工芸品等の製造、地金・鉱物の分析及び試験、貴金属地金の精製、貴金属製品の品位証明(ホールマーク)などの事業も行っています。
 平成15年4月1日から、独立行政法人造幣局となりました。

 次に、古地図で造幣寮付近を見てみましょう。明治5年(1872)発行の「大阪市中地區甼名改正繪圖」です。絵図という名前のとおり、造幣寮の絵が描かれています。淀川(大川)の対岸には、桜宮の文字もあります。

「大阪市中地區甼名改正繪圖」の造幣寮付近(日文研蔵)

 次は、大正元年(1912)発行の「實地踏測大阪市街全圖」です。造幣局、泉布観の名前が白抜きの文字で示され、大川には淀川橋が架かっています。市電の計画線が点線で書かれています。

「實地踏測大阪市街全圖」の造幣寮付近(日文研蔵)

 大正13年発行の「大阪市パノラマ地図」で造幣局を見ると、煙突のある赤レンガの建物が並び、大川沿いには桜の並木が描かれています。大川には蒸気船が走っています。

大阪市パノラマ地図の造幣局

 「パノラマ地図」でもう少し広い範囲を見ると、泉布観の北側には「淀川橋」が架かり、その北側には「三菱精錬所」があります。現在のOAPの場所です。その対岸には、「桜ノ宮神社」があります。造幣局の対岸にも桜並木が描かれ、このあたり一帯の「淀川公園」が桜の名所であったことが分かります。対岸の南寄り「網島」の地には「藤田邸」があります。造幣局の西には小学校が描かれています。このあたりの地名は「川崎」と記されていて、大川には「川崎ノ渡シ」が描かれています。
「大阪市パノラマ地図」の造幣局周辺

 それでは、なぜこの場所に造幣寮が建設されることになったのか、江戸時代の古地図で見てみましょう。まず、いつもの「浪華名所獨案内」では、「川崎御蔵」の文字があります。ここには、江戸幕府の蔵があったのです。西隣には「御宮」の文字があります。さらに西には「天満宮」がありますから、御宮は天満宮ではありません。江戸時代この場所には家康をまつる東照宮がありました。現在、滝川小学校の正門前に川崎東照宮跡の碑があります。大阪城のすぐ北側に当たり淀川の水運にも恵まれた川崎の地は、幕府にとっても重要な拠点であったことが分かります。

浪華名所獨案内の天満付近

 同じく天保年間の「天保新改攝州大阪全圖」を見ると、「御蔵」「御材木蔵」と「御宮」の間には「町与力」があり北側にも続いています。与力の西側には「同心」もあります。このあたりが、幕府直轄の武士で固められていたことがわかります。
 明治維新で幕府領が新政府のものになり、文明開化の一環で、大阪の地に造幣寮を建てることになった際に、水運の便が良く、まとまった用地のある川崎の地が選ばれたことは納得できるところです。

天保新改攝州大阪全圖(天保8(1837)年発行)の東天満付近

 明治時代以降のこの地の変遷を「今昔マップ」で見てみましょう。
 左上の明治41年の陸地測量部地図では、造幣局の北側に泉布観があり、その北側に淀川橋が架かっていて対岸と結ばれています。

 右上の昭和4年の地形図では、造幣局と泉布観の間に広い道路が作られて分断され、現在と同じ位置関係になっています。橋はまだ架かってなく、淀川橋が残っています。桜宮橋は大阪市の第一次都市計画事業に基づいて昭和5年(1930)に建設されました。昭和12年に大阪市電気局及び産業部によって制作された映画「大大阪観光」には、造幣局、泉布観、明治天皇記念館(造幣寮の鋳造所正面玄関が移築され創建当時の姿に復元されたもの)と合わせて桜宮橋(銀橋)が紹介されています。
明治41年、昭和4年、昭和22年の地形図、最近の航空写真の東天満付近(今昔マップ3)
造幣局の遠景(「大大阪観光」より)
泉布観(「大大阪観光」より)
明治天皇記念館(「大大阪観光」より)
造幣局と桜宮橋(「大大阪観光」より)
桜宮橋と市電(「大大阪観光」より)

 今昔マップに戻って、左下は昭和22年です。白くなっているところは、戦災で焼失した地域です。造幣局は建て替えられた建物が戦災を免れて残っています。泉布観との間には道路(国道1号線)が通り、桜宮橋が架かっています。

 右下は最近の空中写真で、国道1号線はさらに拡幅され、桜宮橋と並んで新桜宮橋が架けられています。新桜宮橋は安藤忠雄氏の設計で、平成18年(2006)に開通しました。旧橋よりも橋長(アーチスパン)が長く、旧橋とデザインを合わせるためにアーチ高さを同じにした関係で平べったいアーチの橋となっています。

 今回は、からくり錦絵の第1回目として「造幣寮」をご紹介しました。近代展示室中央の光床「大阪市パノラマ地図」や、9階にパネル展示している「浪華名所獨案内」と合わせて見ることで、より楽しんでいただけることと思います。


〇特別イベント  民家をたのしむ!民家をつたえる!

★Part1 シンポジウム「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
◇日  時:平成29年11月26日(日)10:00~12:30 (受付開始:9:40~)
◇「大阪くらしの今昔館の町家建築物語」谷 直樹(大阪くらしの今昔館館長)
 「体験することはわかること―Weald and Downland Living Museumの民家建築と伝統的なくらしの学びを生き生きとしたものにするために―」通訳あり
  Martin Purslow CEO of the Weald and Downland Living Museum
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇定  員:150名(事前申込、先着順)
      定員になり次第、締め切ります。
◇参 加 費:無料

 Weald and Downland Living Museum(ウィ-ルド・アンド・ダウンランドくらしの博物館)は、1972年に開園した英国イングランド南部にある民家博物館です。広大な敷地に、600年の時代を通じた52棟の民家が学術的な修復を受けて移築され、当時のくらしを再現しています。
 同館では、民家の建築的保全とくらしの技術の保存の両面から学習プログラムを提供しています。現代に暮らす人たちに民家の保全への意識を持ってもらうこと、また伝統的な生活の技やものづくりに関心を持ってもらうことが目的です。おとなのための学習プログラムやヨ-ク大学大学院と連携した民家の保存技術の専門的プログラムにも力を入れています。
 シンポジウムでは、英国くらしの博物館と江戸時代の町家を再現した大阪くらしの今昔館の事例から、民家を楽しみ、伝統的な建築技術を伝える方法を考えます。

●司会:碓田智子(博物館住まい学習研究会代表、大阪教育大学教授)
●通訳:和田美貴((一財)日本国際協力センター)

★Part2イベント 「大工体験! 匠の技」
①江戸時代の町並みで実演 手道具を使った大工の匠の技
 棟梁による、手道具を使った大工の伝統の技をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (予約不要、自由見学)
◇場  所:大阪くらしの今昔館 9階常設展示室
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

②町家の二階の特別見学-町家の構造を見よう-
 通常は非公開の町家(薬屋)の2階に上がって、町家建築の構造をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (要予約 シンポジウム申込者を優先)
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

☆匠の技を体験しよう!
 「ミニ削ろう会in今昔館」の大工さんから大工の技を教えてもらいます。
 鉋削りの体験や削り花でつくる「かんなフラワー」も楽しめます。お子さんも体験できます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:30
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇参 加 費:無料

民家をたのしむ!民家をつたえる!
Let’s Learn from Historic Houses in the Museum
主 催:博物館住まい学習研究会、大阪くらしの今昔館
協 力:「ミニ削ろう会in今昔館」の大工棟梁のみなさん



申込はこちらからどうぞ。

https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/32955


〇今週のイベント・ワークショップ

11月15日(水)~18日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
時 間:11:30、14:30

11月19日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

11月18日(土)19日(日)
関西文化の日(11/18・19)は今昔館の入館料(常設展)が無料です!


町家衆イベント 楽市町家
13時~16時

ぜんざい
11時~
100円/杯(なくなり次第終了)

11月19日(日)
町家衆イベント 連鶴(有料)

折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:14:00~15:30

11月25日(土)
町家衆イベント ワークショップ 『千代紙ろうそくを作ろう』

①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆

11月26日(日)
町家衆イベント 今昔語り

大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30~15:00

町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00

イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時

町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30~15:00

特別イベント 民家をたのしむ!民家をつたえる!
Part1 シンポジウム 「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
Part2 『大工体験! 匠の技』



そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。


大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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