2020年1月28日火曜日

今週の今昔館(200) 木津川口 20200128

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(31)
 今回は「浪華の賑ひ」の「木津川口」をご紹介します。

■木津川口
 この所は浪花の津の湊口にして、諸国の海舶出入の要津(ようしん)なり。かるがゆゑに、廻舟の弁理よからしめんが為、去(さんぬ)る天保三年、公の御仁恵によって長さ八百七十間余の石塘(いしづつみ)を築かせたまふ。これを石波戸(いしばと)といふ。水をよく抱へ蓄へ、諸船の出入すこぶるよし。まことに万代不朽にして浪花繁栄の基、公恩の程仰ぐべし、尊ぶべし。
 また、この堤は上に数株の松を植ゑつらぬるゆゑに俗に木津川の千本松といふ。洋々たる滄海に築き出だせし松原の風景は彼の名に高き天の橋立・三保の松原などもほかならずと覚ゆ。さる程に雅俗ともに舟行して遊観すること平生(つね)に絶えず。

浪華の賑ひ「木津川口」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 浪花百景には、「木津川口千本松」があります。

■木津川口千本松(芳雪画)
 木津川口は諸国廻船が出入りする要港であったので、幕府は天保3年(1832)に石堤を築いて防波堤を設け港を整備しました。石堤の上には松が植え連ねられ、千本松と称されました。天の橋立・三保の松原とも肩を並べるほどの景勝地として見物人が多く、潮干狩りや舟遊びに打ち興じました。秋にはこの辺りの川口ではハゼ釣りが盛んで、小舟を仕立てて釣り糸を垂れ、あるいは漁夫に網を打たせ、とった魚を調理して終日ここで酒宴を催すものもありました。釣り客目当ての物売り船も出てにぎわいました。

 町家衆の湯川さんの解説によると、木津川口千本松の色紙の図柄は「石畳」。釣り糸の輪(=和)と合わせて、隠し石和(書肆の石川屋和助)となっています。また、釣り竿の先が画面の外にはみ出ている点も興味深いところです。


 現在この付近は工場地域となり、千本松渡船と近代的なループ橋の千本松大橋にその名をとどめています。

浪花百景「木津川口千本松」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 1840年代刊行の「大阪安治川口細見」です。安治川口の天保山を中心に描いた地図ですが、地図の右下の方、木津川の川筋をご覧ください。安治川や尻無川と比べて川幅が広く、河口部には堤が築かれ、堤上に並木が植えられている様子が描かれています。河口には澪標も描かれています。

大阪安治川口細見
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」の木津川河口付近を見ると、「木場」「難波嶋」「三軒家」「泉尾新田」などの地名が見えます。この地図は、東が上になっています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見てみましょう。木津川の河口部は、津守新田、田中新田までが地図に描かれています。千本松はさらに下流になりますので、地図の範囲に入っていません。津守新田の東には十三間川の文字があります。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、木津川の両岸は、空き地が目に付きますが、その中に工場や造船所が描かれています。渡し舟の絵があり、「千本松渡し」「十番渡し」の文字が見えます。地図の右下の堤防には松並木が描かれ、「千本松」の文字も見えます。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、木津川には下流側から順に「五番渡」「千本松渡」「落合下ノ渡」があります。パノラマ地図の「十番渡し」がこの地図では「千本松渡」になっています。少し上流には「平尾浜」の文字も見えます。陸揚げの場だったのでしょうか。
 木津川と木津川運河には観光艇の絵があります。映画「大大阪観光」にも登場する観光艇「水都」のルートになっていました。木津川運河には、開閉式の「大船橋」が描かれています。船町には、飛行機の絵が描かれ「大日航空飛行場」の文字も見えます。


大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 地形図を見てみましょう。まず、明治18年陸地測量部地図です。木津川の両岸には干拓によって新田が開発されている様子がよくわかります。

明治18年陸地測量部地図
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)
 今昔マップ3を利用して、その後の地形図の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、木津川の両岸は、ほとんどが新田開発された田畑となっています。さらに沖合へと埋め立てが進んでいます。
 右上の昭和7年では、土地の造成が進み木津川運河をはじめ多くの運河が掘られています。当時の輸送の主力は水運でした。南恩加島には市街地が形成されています。大正区には市電が、西成区には阪堺電鉄が走っています。
 左下の昭和22年では、白い部分が戦災で焼失した地域です。千本松渡しの文字が見えます。
 右下の昭和42年を見ると、市街地の復興が進み、川沿いは工場や造船所ができ、内陸部は住宅市街地になっています。大正内港(千歳湾)が掘られ、木津川運河への水路があります。千本松渡しの文字も見えます。

明治42年~昭和42年の地形図(今昔マップ3より)

 木津川口千本松付近の現状を見てみましょう。

千本松大橋付近(地理院地図)
千本松大橋全景
千本松大橋と渡船
千本松大橋の親柱

 今回は、「浪華の賑ひ」の「木津川口」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。
 千本松大橋の写真は、大阪市建設局のホームページからお借りしました。


〇実物大模型「蓑庵」組立工事の見学会

 谷直樹館長による茶室起こし絵図の解説に加え、大工棟梁の阿保昭則氏が蓑庵組立工事を現場で解説します。
 中井家蔵「茶室起こし絵図」(重文)にちなんで、大坂の豪商鴻池善右衛門が寛保2年(1742)に京都・大徳寺玉林院に造立した茶室「蓑庵」(重文)を実物大模型((公財)竹中大工道具館蔵)で再現展示します。大工棟梁の知恵と技術を目の当たりに見ることができます。

解説:阿保昭則氏(大工棟梁・耕木杜代表)、谷直樹(大阪くらしの今昔館館長)
日時:令和2年2月16日(日)~20日(木)10:30~12:00
募集人数:各回10名(応募多数の場合は抽選)
申込期間:令和2年1月25(土)~2月5日(水)必着
場所:大阪くらしの今昔館(詳細は参加証等でお知らせします)
参加費:各回2,000円
申し込みは、こちらからどうぞ。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33693


〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」開催中です
2020年2月14日(金)まで

みどころ
・大坂の屋敷の台所を模して特注で制作された特大のミニチュア台所
・当時の家庭雑誌「暮しの手帖」を生活道具とともに紹介
・ダイヤル式電話機など、触って昔の道具を体験できるコーナー

 調理と食事、衣類の手入れ、住まいを整えるなど、家事は今も昔も家庭内で日々行われています。生活に使われる道具は、高度経済成長期に電化製品が普及し、より便利に効率的な生活となるように改良されていきました。現代においてはあえて自動化せずに、鍋でご飯を炊くなど手間ひまをかけて生活を楽しむ「ていねいな暮らし」という言葉も生まれ、それぞれの家庭の暮らし方は多様になりました。

 昔の暮らしは、どのようなものだったのでしょうか。電気・ガス・水道の整備や生活道具の変化だけでなく、家族の形態や家庭の機能も大きく変化しています。例えば、職住が一致していた時代には、従業員も住み込みで家族とともに暮らすため、大きな台所にたくさんの食器が必要でした。また、来客に備えて住まいには座敷や客間を設けており、膳や座布団なども多数そろえておくことが当たり前でした。しかし、そういったふだんの暮らしというのは記録に残りにくいものです。その一端を、大阪くらしの今昔館が所蔵する生活道具を展示することを通して紹介します。商業都市として栄えた大阪で育まれた豊かな生活文化までをのぞいてみませんか。

旧八代敏所蔵雛飾り台所ミニチュア(部分)
吸物椀
暮しの手帖
電話(さわってみよう)


〇今週のイベント・ワークショップ

 今昔館は毎週火曜日が休館日です。
 カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202002



1月29日(水)~2月1日(土)、3日(月)、5日(水)~8日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~

※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。

2月2日(日)、9日(日)、
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


2月1日(土)
イベント 日本の伝統文化『香道(聞香)』

①13:00 ②15:00
優雅な香あそびを体験してみませんか
講師:はなの会(主宰:神垣裕子)
会場:今昔館9階展示室 薬屋 座敷(正座椅子等の持ち込可能)
対象:中学生以上
定員:各回20名
参加費:500円(別途、大阪くらしの今昔館の入館料が必要です)

【申込方法】
①往復はがきに以下の必要事項をご記入の上お申込ください
郵便番号、住所、氏名(ふりがな)、電話番号、年齢、参加希望時間(①か②)
〒530-0041 大阪市北区天神橋6-4-20  大阪くらしの今昔館「香道」係
②インターネットからのお申し込みは
「住まい・まちづくり・ネット」よりお申込ください
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33686
●申込期間:2019/12/23~2020/1/23(申し込みは終了しました。)
※いただいた個人情報は目的以外に使用いたしません。

2月2日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00-16:00

2月5日(水)
イベント 町家寄席-講談

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、講談をきいてみませんか
出演:旭堂南左衛門、旭堂南山、旭堂南雲
14時~15時

2月8日(土)
ワークショップ『木版画はがきを作ろう』

13時30分~15時
参加費:200円

2月9日(日)
町家衆イベント 上方ことば塾

14時30分~15時

おじゃみ(有料)
古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00-16:00


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse


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