2021年6月9日水曜日

今週の今昔館(270) 鳥飼、藤杜神社 20210609

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(49)

 琵琶湖から大阪湾へと流れる淀川は、人の流れ、物の流れを担う交通の大動脈として機能してきただけでなく、人々の暮らしと大きく関わり、政治・経済・文化にも大きな影響を与えてきました。

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。
 今回は「鳥飼、藤杜神社」をご紹介します。鳥飼は摂津市の南東部、淀川沿いに細長く広がる地域で、現在では鳥飼大橋や新幹線の車両基地があることで知られています。中世に鳥を飼い養っていた牧に由来する地名です。

■鳥飼、藤杜神社
 絵は淀川右岸にある鳥飼あたりの風景を描いています。絵の上部の解説は次のとおりです。

≪鳥飼は上・中・下・西村と四ヶ村ありて、そのあひだ至って長し。およそ上村より西村までの間一里の余あり。生土神社(うぶすなのやしろ)は西村にありて、藤の森の社といふ。この所にも河堀の人夫を出だして土砂をさらへ、水路をよくす。柱本におなじ。≫

 現在の鳥飼は中央環状線の鳥飼大橋から東へ仁和寺大橋、淀川新橋にかけての淀川沿いの地域ですが、江戸時代には、上・中・下・西の4つの村に分かれていたのです。
 鳥飼の産土神社は、西村にある藤森社で、この神社について本文は次のように記しています。

≪山州藤の森、崇道天皇を勧進す。例祭九月九日。同所に三本松天満宮と称するあり。菅公筑紫に御下向のときここに船をよせさせ給し旧跡といふ。例祭六月二十五日。また、当村中に下り松、義経松、踊り松とて名木あり≫

淀川両岸一覧下船之巻「鳥飼、藤杜神社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 この社、もとは山城国伏見の藤森神社に祀られる崇道天皇を勧進し、その名がつけられたとあります。崇道天皇とは早良親王のこと。桓武天皇の弟宮で、藤原種継暗殺に連座したという嫌疑により配流される途中、憤死したといわれています。世くだって、藤原時平の讒言により太宰府に左遷された菅原道真は、鳥飼に立ち寄ります。その際、「もしも若葉が芽吹いたら、ふたたび京に戻ることができるだろう」と、使い終えた楊枝松を地面に挿された。果たして、幹は伸び三枝に分かれた。その場所に社祠を営んだという。とはいえ、下り松、義経松、踊り松と楊枝松とがつながっているとみるのは、ややうがちが過ぎるかもしれません。

 絵の左に見える鳥居は一の鳥居で、藤森神社はここから西北の方角にあります。この鳥居の左下には、土手を降りるための階段がみえます。ここには鳥飼の渡しがありました。本文は次のように記しています。

≪下鳥飼より河州茨田郡仁和寺村、淀川をわたす舟わたしなり。故に仁和寺のわたしとも云。≫

 絵の右の土手、京をめざす旅人が駕籠かきに道を尋ねる姿が見えます。賛は次の作品です。

 淀川やのぼる堤に下る舟 浪花みやこと行きわかれつつ 歌城


 本文には次のように解説しています。「下り船の部」においては、淀川の右岸の地名や名所を上流から下流へと順に紹介していきますから、「○○の下にあり」という言い回しが、頻繁にでてきます。「○○の下流側に位置する」という意味になります。また、「右○○にあり。」という表現もでてきますが、原文は縦書きですから、「右隣りの項目と同じところにある」の意味です。
■鳥飼
 柱本村の下にあり。この所より摂州島下郡といふ。上村・中村・下村・西村とあり。堤の間至って長し。三島江より上鳥飼まで水上およそ十五町、上鳥飼より下鳥飼まで水上およそ三十二丁といふ。この所より大坂へ陸路行程三里。
「散木」
おきへなき高瀬の船をさしすゑて鳥飼にても暮しつるかな  俊頼

■鳥飼宗慶の跡
 右上村にあり、今にその苗孫つづけり。
 宗慶は鳥飼氏、当村の人なり。書を能くし世に名高し。初め御家流を学び、のちに一家をなす。これを鳥養流と称し、後を宗嘯(そうしょう)といふ(十市兵部少輔遠忠、同弟遠勝、また貞徳の父永種、楠長譜(ながひさ)・飯尾常氏、みな鳥養流の名家なり。)
■馬島
 鳥飼の前、淀川の中にあり。長さ一里ばかり。いにしへより洪水にも崩流せず、往古御牧の古跡なり。
■鳥飼御牧
 右馬島その古跡なり。
 「延喜式」に曰く「凡諸節及行幸応用国飼御馬者勧量須数奏聞乃下官符令進。唯牧放飼馬者寮移当国即令牧子索送(但摂津国鳥飼牧豊島牧不移当国寮直放繋)。凡国飼馬者摂津国十疋(右寮、また同式曰く、左寮、摂津国鳥飼牧)」。
 「土佐日記」云く「二月八日、なほ川のぼりになづみて鳥飼の御牧といふほとりにとどまる」云々。

 延喜式の引用部分が漢文表記のため、「摂津名所図会巻之五」にほぼ同じ解説があるので、参考に引用します。
■鳥飼御牧(とりがひのみまき)
 (淀川の中馬島は御牧の古跡なり。長さ一里ばかり、いにしへより洪水にも崩流せず。また鳥飼に亭子院(ていじいん)の旧跡あり。遊女白女の和歌を読みし所なり)
『延喜式』曰く、
すべて諸節および行幸、応(まさ)に国飼の御馬を用うべき者は須(のぞ)む数を勘量して奏聞し、すなはち官符を下して進めしむ。唯牧の放飼の馬は、寮当国に移し、すなはち牧子をして牽き送らしむ(ただし、摂津国鳥飼牧・豊島牧当国に移さず。寮より直に放ち繋ぐ)。
すべて国飼の御馬は摂津国二十疋(右寮、また同式に曰く、左寮、摂津国鳥飼牧)。
『土佐日記』云ふ、
二月八日なほ川のほりになつみて鳥養の御牧といふほとりにとどまる云々。

■鳥飼渡口
 下鳥飼より河州茨田郡仁和寺村、淀川をわたす舟わたしなり。故に仁和寺のわたしとも云ふ。この辺にも河堀あり、柱本に同じ。水上百三十間といふ。
■藤杜神祠
 鳥飼西村にあり。この地五ヶ村の生土神(うぶすな)なり。山州藤の森崇道神敬天皇を勧進す。例祭九月九日。同所に三本松天満宮と称するあり。菅公筑紫に御下向のときここに船をよせさせ給し旧跡といふ。例祭六月二十五日。また、当村中に下り松、義経松、踊り松とて名木あり
■輪道
 同下にあり、鳥飼の内なり
■柳島
 輪道村の前、淀川の中にあり。


 摂津名所図会にも「鳥飼 藤森社」があります。
 賛は次の2つです。
 大和談載
 浅みどりかひある春にあひぬれば霞ならねど立ちのぼりけり  大江玉淵女

 散木集
 おきべなき高瀬の船をさしすゑて鳥かひにても暮しつるかな  俊頼

 また、絵の左下には、次の説明があります。
 鳥飼の書流家は上の村にありて鳥飼宗慶といふ。今にその苗孫あり。


 藤森社は鳥飼西村にあり、一帯の五箇村の産土神(うぶすな)です。境内に末社とあるのは、三本松天満宮で、右手には松原が見えます。絵の右下には、「淀川 川上」の文字が見えます。

摂津名所図会「鳥飼 藤森社」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 次に、大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の鳥飼付近を見てみましょう。絵の左手が上流、右手が下流になります。絵の上部・左端に「大間むら」、そこから右に「點野」「仁なじ」があり、絵の中央付近には「佐田村」が大きく描かれ、奥には天満宮と「来迎寺」があります。川沿いには「一番村」「五番」の名前が見えます。淀川沿いの京街道には松の木が描かれています。
 絵の手前側が淀川の右岸で、中央左寄りに「とり飼大神」、その右手に「鳥飼むら」のラベルが見えます。鳥居も描かれています。堤防の上には綱で船を曳く水主たちの姿があり、川の左手には網で漁をする舟が二艘見えます。

「よと川の図」の鳥飼付近(大阪くらしの今昔館蔵)

 地形図で鳥飼付近の様子をみてみましょう。今昔マップを利用して昔と今の様子を見比べてみます。左は明治41年陸地測量部地図、右は最新の地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 1枚目は鳥飼付近の広域を表しています。右上から川沿いに鳥飼上・鳥飼中・鳥飼下・鳥飼西・和道が並びます。対岸には、點野、葛原、仁和寺、大庭一番・二番・五番・大日・七番が見えます。
 2枚目は鳥飼村付近を拡大した図。3枚目は、さらに拡大したもので、鳥飼下の西に藤森神社、鳥飼野々の文字が見えます。鳥飼西の川岸には渡船が描かれています。そこから、藤森神社へ参道がのびています。
 右側の地理院地図では、赤色の線は国道を、黄色の線は府道を示しています。淀川に架かる橋は、右から淀川新橋、鳥飼仁和寺大橋有料道路、鳥飼大橋です。川は中央付近をまっすぐに流れ、両岸の河川敷は河川公園となっています。


今昔マップより鳥飼付近(広域)
今昔マップより鳥飼付近
今昔マップより鳥飼下・西付近


 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「鳥飼、藤杜神社」をご紹介しました。


〇住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」とは?

 住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」は2001年4月26日に開館しました。今年で開館20周年を迎えました。
 前館長の谷直樹先生と新館長の増井正哉先生がこれまでの道のりを振り返り、これからの課題について語り合う動画が公開されています。
 こちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=kFW0qbelLNo

 ここは「住まいの歴史と文化」をテーマにした、日本で初めての專門ミュージアムです。
 住まい情報センターのビルの9階「なにわ町家の歳時記」は、江戸時代のフロア。天保初年(1830年代前半)の大坂の町並みを実物大で復元しています。
 8階「モダン大阪パノラマ遊覧」は、明治・大正・昭和のフロアで近代大阪の住まいと暮らしを模型や資料で展示。
 さらに企画展示室では特別展や企画展を開催しています。


〇大阪くらしの今昔館は、臨時休館しています
 【令和3年4月25日(日)~ 当面の間 】


 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言の発令に伴い、4月25日(日)~ 当面の間、臨時休館しています。



〇企画展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる」も臨時休館しています

 会期は、令和3年4月17日(土)~6月27日(日)(会期延長)
 4月25日(日)~ 当面の間は臨時休館

 大阪くらしの今昔館では現代日本画家の個展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ」を開催します。
 日本の絵画は住まいの中で、座敷における「しつらい」として親しまれてきました。中でも四季の彩りを表す花鳥画は古くから愛好され、現代においても人気のある画題のひとつです。
 重岡良子氏は自然の中に身を置いて花や鳥などの動植物を写生し、その心を50年にわたって描き表してきました。また、京都で培われた「琳派」に着想を得て「IMA琳派」として装飾性を持たせた作品も発表されています。今回は屏風を中心に代表的な作品を披露します。
 春から初夏にかけて草木が青々とするこの時期に、日本画のもつ繊細かつ優美な色彩の織り成す世界をご堪能ください。

【インタビュー動画】重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ
 こちらからどうぞ
⇒ https://www.youtube.com/watch?v=KJRYeH5yqWk

 企画展「重岡良子 花鳥画展-刻を紡ぐ- 」の動画第2弾として、会場の風景と作品を作者の言葉の抜粋とともに紹介されています。
【作者の言葉から】重岡良子 花鳥画展 -刻を紡ぐ-
https://www.youtube.com/watch?v=rzOhEpV-mys

喜雨滴る
あお麦風々
桜東風
朝露涼夏
ランプシェード


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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