2017年10月31日火曜日

今週の今昔館(83) 大阪市パノラマ地図の隠れた見どころ 20171031

〇今昔館の近代展示室を愉しむ(17) 大阪市パノラマ地図の隠れた見どころ

 前回に引き続き「大阪市パノラマ地図」の見どころをご紹介します。今回は隠れた見所です。ややマニアックですが、知っていると愉しみが増えること間違いなしです。

 まずは、地図の左下、大阪港のあたりの欄外を見てみましょう。一番上には、印刷日と発行日が書かれています。大正12年12月28日印刷、大正13年1月5日発行とあります。


 その下には、「著作者 美濃部政次郎」とあり、住所は西区三軒家上之町322番地とあります。美濃部政次郎氏は銅板作家であったこと以外、あまりよくわかっていません。


 次に、「印刷兼発行者 日下伊兵衛」とあり、住所は西区新町通3丁目159番地とあります。この2枚に「雲」が描かれていますが、煙突の煙ではありません。絵巻物によく使われる手法と同じです。


 一番下には、「発行所 日下わらじ屋」とあり、こちらの住所は西区新町通3丁目角となっています。わらじ屋は、平成14(2002)年に無くなってしまいましたが、地図出版で有名な出版社でした。
 「雲」で途中を省略することによって画面に「大桟橋」を収めるようにしたのだと思いますが、それでも枠からはみ出しています。はみ出ていることで注目され、かえって、迫力が出ているのかもしれません。


 今度は地図の右上、タイトルの下をほうを見てみます。パノラマ地図の説明文が書かれています。
 「本図は大阪市街の原型を模写せし者にして実地踏写に成り普通地図と全然其の趣を異にし・・・」で始まる効能書きですが、面白いのは、「新式重要図」「大なる誇りとせざるを得ず」と自慢しながらも、最後の方で「是れ止むを得ざる次第にして・・・」と言い訳をしているところです。「雲」で省略している築港方面のこともちゃんと例示しています。
 パノラマ地図は、90年以上前の制作としては、十分自慢に足りる力作だと思います。


 地図の一番下の中央辺りには、「記号」の欄があります。凡例ですね。何が記号になっているか見てみると、停車場、停留所、名所、郵便局に始まり、簡易食堂、公設市場、私設市場、劇場、演舞場、寄席、湯屋と、時代を感じさせます。大阪でよく使う「風呂屋・銭湯」とせずに「湯屋」となっているところが、ちょっと意外な感じがします。


 では、記号にもある「停留所」を実際に見てみましょう。市電の東西線(本町通)と南北線(堺筋)がクロスする本町2丁目付近、堺筋本町です。
 本町通に、本町一、本町二、本町三と3つの停留所が描かれていますが、停留所名の近くには必ず市電の車両の絵があります。プラットホームの位置を示しているのです。したがって市電がクロスする「本町二」のような交差点には4台の車両が描かれています。行先別のプラットホームの位置が分かるようになっているのです。きめ細かな配慮ですね。
 この地図で、湯屋(風呂屋・銭湯)も確認できます。小さい煙突の下に「ゆ」の変態仮名(「む」のようにも見えますが「ゆ」です)のマークのあるところが湯屋です。


 次に、記号にはありませんが、市電に関連して、「跨線橋」がどのように描かれているかを見てみましょう。パノラマ地図の左上のほうにある天神橋5丁目~6丁目付近です。
 現在のJR大阪環状線は、当時はまだ環状になっておらず、城東線と呼ばれていて、地上を走っていました。この地図の右のほうにある天満駅を見ると、線路をまたぐ跨線橋のある駅が描かれています。田舎に行くとよくある形の駅ですね。
 駅から線路を左の方にたどると、天神橋筋との交差点では、道路と市電が線路をまたいでいます。
 さらに左の方を見ると、地図の左下角で、道路とクロスしています。こちらは道路は平面で、市電だけが鉄橋で高架になって線路をまたいでいます。今もこのあたりの道幅が広くなっているのは、高架橋の名残です。

 このように、細かいところまできっちりと書き分けているところは、たいしたものです。
 この地図で、天満駅の北側には大きな煙突が沢山描かれています。こちらは工場の煙突で、銭湯の煙突とちゃんと書き分けられています。


 次に、川の上を見てみましょう。安治川には、大きな船が何隻も描かれています。当時はこのあたりまで大きな船が上がってくるということで、安治川には橋を架けることができず、渡し船が何か所もあります。昭和19年には海底トンネルが建設されます。現在では、自転車と歩行者の専用トンネルになっています。


 大阪市パノラマ地図の中で、1か所だけ、エリア外の施設が、コラムのように挿絵になっています。住吉神社(大社)です。地図の右下の方に描かれています。
 住吉大社には、本殿が第一から第四まで4つありますが、その並び方も含めて正確に描かれています。有名な太鼓橋も描かれています。挿絵の下にある方位コンパスもかわいいデザインです。


 最後に、著作者の「お遊び」をご紹介します。西区三軒家(現在は大正区)を見ると、三軒家電停の北側に赤いラベルの名所の記号で「美濃部」とあります。しっかり自己主張しているところが面白いと思います。


 西区新町を見ると、同じく名所の記号で「わらぢや」とあります。ちゃんと「新町通3丁目角」に書かれています。発行者への配慮も忘れていません。


 今回は大阪市パノラマ地図の隠れた見どころをご紹介しました。大阪市パノラマ地図は、スマホのアプリ「こちずぶらり」にも搭載されています。

 今昔館8階には、パノラマ地図を拡大した光床がありますから、じっくり観察すると、まだまだ他にも面白いことが発見できると思います。

大阪くらしの今昔館近代のフロアの「大阪市パノラマ地図」



〇特別イベント  民家をたのしむ!民家をつたえる!

★Part1 シンポジウム「英国くらしの博物館 VS 大阪くらしの今昔館」
◇日  時:平成29年11月26日(日)10:00~12:30 (受付開始:9:40~)
◇「大阪くらしの今昔館の町家建築物語」谷 直樹(大阪くらしの今昔館館長)
 「体験することはわかること―Weald and Downland Living Museumの民家建築と伝統的なくらしの学びを生き生きとしたものにするために―」通訳あり
  Martin Purslow CEO of the Weald and Downland Living Museum
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇定  員:150名(事前申込、先着順)
      定員になり次第、締め切ります。
◇参 加 費:無料

 Weald and Downland Living Museum(ウィ-ルド・アンド・ダウンランドくらしの博物館)は、1972年に開園した英国イングランド南部にある民家博物館です。広大な敷地に、600年の時代を通じた52棟の民家が学術的な修復を受けて移築され、当時のくらしを再現しています。
 同館では、民家の建築的保全とくらしの技術の保存の両面から学習プログラムを提供しています。現代に暮らす人たちに民家の保全への意識を持ってもらうこと、また伝統的な生活の技やものづくりに関心を持ってもらうことが目的です。おとなのための学習プログラムやヨ-ク大学大学院と連携した民家の保存技術の専門的プログラムにも力を入れています。
 シンポジウムでは、英国くらしの博物館と江戸時代の町家を再現した大阪くらしの今昔館の事例から、民家を楽しみ、伝統的な建築技術を伝える方法を考えます。

●司会:碓田智子(博物館住まい学習研究会代表、大阪教育大学教授)
●通訳:和田美貴((一財)日本国際協力センター)


★Part2イベント 「大工体験! 匠の技」
①江戸時代の町並みで実演 手道具を使った大工の匠の技
 棟梁による、手道具を使った大工の伝統の技をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (予約不要、自由見学)
◇場  所:大阪くらしの今昔館 9階常設展示室
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

②町家の二階の特別見学-町家の構造を見よう-
 通常は非公開の町家(薬屋)の2階に上がって、町家建築の構造をご覧いただきます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:00
      (要予約 シンポジウム申込者を優先)
◇参 加 費:無料(ただし常設展示室への入館料が必要)

☆匠の技を体験しよう!
 「ミニ削ろう会in今昔館」の大工さんから大工の技を教えてもらいます。
 鉋削りの体験や削り花でつくる「かんなフラワー」も楽しめます。お子さんも体験できます。
◇日  時:平成29年11月26日(日)14:00~16:30
◇場  所:大阪市立住まい情報センター 3階 ホール
◇参 加 費:無料

民家をたのしむ!民家をつたえる!
Let’s Learn from Historic Houses in the Museum
主 催:博物館住まい学習研究会、大阪くらしの今昔館
協 力:「ミニ削ろう会in今昔館」の大工棟梁のみなさん



申込はこちらからどうぞ。

https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/32955


〇今週のイベント・ワークショップ

11月1日(水)、2日(木)、4日(土)、6日(月)、8日(水)~11日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
時 間:11:30、14:30

11月3日(祝)、5日(日)、12日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00

11月3日(金・祝)
イベント 乙女文楽

上方の地で生まれ親しんだ芸能。磨かれた芸の技をご覧ください
出演:乙女文楽座
14時~15時

11月5日(日)
町家衆イベント 町の解説

江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00

11月11日(土)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸 他
14時~15時

ワークショップ 『ふくろうストラップを作ろう』
各回先着10名、1人300円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
①13時30分 ②14時30分

11月12日(日)
町家衆イベント おじゃみ(有料)

古布を四角く切って縫い合わせて作るおじゃみ(お手玉)。
作り方をていねいにお教えします。
開催日:第2日曜
時 間:14:00~16:00

11月18日(土)19日(日)
関西文化の日(11/18・19)は今昔館の入館料(常設展)が無料です!


町家衆イベント 楽市町家
13時~16時

ぜんざい
11時~
100円/杯(なくなり次第終了)

11月19日(日)
町家衆イベント 連鶴(有料)

折鶴がいくつもつながった連鶴。
一枚の紙から折るところに特色があります。
作り方を詳しくお教えします。
開催日:奇数月の第3日曜
時 間:14:00~15:30


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。


大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。

 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse



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