2020年2月18日火曜日

今週の今昔館(203) 順慶町 20200218

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(34)

 今回は「浪華の賑ひ」の「順慶町」をご紹介します。

 昨年5月、令和の時代に入ってから連載を続けてきました「浪花の賑ひ」ですが、前回までで初編、二編が終わり、今回から三編に入ります。
 三編の本文は、新町橋から始まります。

■新町橋
 西横堀に架せり。この川すぢ北より第十二番目の橋なり。
 東は順慶町、西は新町の廓にして、瓢箪町の入口なれば瓢箪橋とも号す。四時橋上に夜店ありて賑はし。西詰の北は瀬戸物の商家・石屋・荒物屋等多く、東詰の南北には樹木屋軒をならべり。東の方一丁ばかり東の辻に井ありて、俗に井の辻といへり。これはいにしへ浄国寺の旧地にして寺内にありし井なりとぞ。今に至ってこの地を浄国寺町と号す。この寺今は下寺町に有り。また、東を順慶町といふは、往昔(そのかみ)天正十一年筒井順慶この地をたまはるにより旅館を営みて寓居せしゆゑかくは号せり。委しくは『和州諸将軍伝』に見えたり。

 挿絵の方は、順慶町から始まります。

■順慶町
 井戸の辻は順慶町の十字街にして浪花奇観たり。ことさら黄昏の頃より、往来の左右に店を出だし、種々の品をかざり、おもひおもひの標(しるし)の行灯(あんどん)をてらすこと万灯のごとく、西は新町ばし、東は堺すぢまで尺地(せきち)の間もなく連なれり。されば、これを求めんとて、東に往き、西に漂いて群をなす。かく賑はしきこと元日より大三十日(おほみそか)にいたるまで一夜も闕(か)くことなくまことに他に比類なき繁昌なり。今は心斎橋すぢより南へつづきて島の内及び道頓堀・戎橋(えびすばし)まで夜店ありて、年々賑はひを増せり。

浪華の賑ひ「順慶町」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 天保年間発行の浪華名所獨案内の新町橋付近を見ると、西横堀と長堀が十字にクロスする四ツ橋の北(左)にある橋が「シンマチバシ」で、橋の西には「新町廓 通りスジ」が描かれています。橋の東には「イナリ社」「五レウ圓」があり、その西に「順ケイ町通」の文字があります。

浪華名所獨案内の新町橋付近(上が東)
(大阪市立中央図書館蔵)

 順慶町通を東へ進むと、東横堀で突き当りになっています。この地図では、一筋北に「久ホウジバシ」が架かる「久宝寺町通」、一筋南に「安ドウジバシ」が架かる通が描かれています。いくつかの通りが省略されていますが、順慶町通は省略されず、名前も記されています。
 南北の筋は、心斎橋通と堺筋通が描かれ、長堀に心斎橋と長堀橋が描かれています。この地図では、「通」と「筋」の区別は明確ではありません。

浪華名所獨案内の順慶町付近(上が東)(大阪市立中央図書館蔵)

 天保8年発行天保新改攝州大阪全圖の新橋付近を見ると、橋の西側(左)には廓の門があり、その西に「ヘウタン丁」の文字が見えます。橋の東側の1つ目の交差点に「□」の印があります。これが浪花の賑ひに描かれている「井戸の辻」でしょうか。その東に「△初セ丁」、さらに東には「△浄国寺丁」があります。その東に「△五丁メ」の文字が見えます。これは順慶町五丁目のことでしょう。1つの通りでも、場所によって固有の名前が付けられていたようです。この地図では、「△印」は大坂三郷の南組を示しています。

天保8年発行天保新改攝州大阪全圖の新町橋付近
(国際日本文化研究センター蔵)

 下の地図でさらに東側を見ると、右手の東横堀側から、「△順慶丁一丁メ」「△二丁メ」・・・と大坂城に近い東から西に向かって順番に丁目が付けられています。一筋北には、浪華名所獨案内では省略されていた「△博労丁」があります。さらに北は「△南久宝寺丁」となっており、「久宝寺ハシ」が架かっています。順慶町通の一筋南は「△安堂寺丁」で、「安堂寺ハシ」が架かっています。

天保8年発行天保新改攝州大阪全圖の順慶町付近
(国際日本文化研究センター蔵)

 大正元年発行の實地踏測大阪市街全圖を見ると、順慶町と博労町の間の背割下水(太閤下水)が東区と南区の区境になっていることがわかります。堺筋と末吉橋通(現在の長堀通)に市電が走り、丸印で停留所が描かれています。地図の左端には「新町橋」があります。

大正元年発行の實地踏測大阪市街全圖
(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、西横堀の西側の四ツ橋筋と、長堀の北側の末吉橋通に市電が走り、新町橋の西には、「新町一(丁目)」の電車停留所(電停)があったことがわかります。パノラマ地図では、電停の位置に電車の絵が描かれています。

大阪市パノラマ地図の新町橋付近
(国際日本文化研究センター蔵)

 東横堀には北から「きうほうじばし」「あんどうじばし」が架かり、通には「ミナミキウホウジマチ一丁メ」「バクロマチ一丁メ」「ジュンケイマチ一丁メ」「アンドウジバシドーリ一(丁目)」の文字が見えます。

大阪市パノラマ地図の順慶町付近
(国際日本文化研究センター蔵)

 新町橋と順慶町周辺の現状を写真で見てみましょう。西横堀は昭和37年に埋め立てられ、昭和39年には上空に阪神高速道路ができています。新町橋は撤去され、橋の西詰に顕彰碑が建っています。新町橋があった位置(高速道路の下)には、「順慶町の夕市」の説明板があります。

現在の新町橋跡(南東より)
現在の新町橋跡(南西より)
新町橋の顕彰碑
顕彰碑の説明文
顕彰碑の錦絵「坂府新名所の内 新町鉄橋」
二代長谷川貞信画(神戸市博物館蔵)
順慶町の夕市のパネル
高速道路の高架下にある
パネルの拡大版
順慶町通の南にオーガニックビル

 「順慶町」は旧南区の最も北に位置する町で、住居表示の変更によって「南船場」となりましたが、一筋北の「博労町」は旧東区にあったため、現在も町名として残っています。旧東区では町名を保存しようとする地元の運動が活発であったといわれます。2つの町の間の背割下水のところに、「博労町」と「南船場」の住居表示板が並ぶ姿を見ることができます。町名の「順慶町」は「南船場」に統合されて無くなりましたが、マンションの名前などに残っています。

旧東区と南区の区境
東区側は博労町、南区側は南船場
堺筋と順慶町通の角にある堺筋倶楽部
旧東区と南区の区境にある太閤下水
マンション名に「順慶町」
順慶町通の東の突き当り
東横堀の上空に阪神高速道路

 浪華の賑ひの三篇の表紙と扉です。表紙のタイトルは「浪速乃賑ヒ」となっています。
 扉には、「川口にて もも舟も千船も 諷ふやらんやら 目出たやここぞ 日本一の街 貞柳」と記されています。


浪華の賑ひ三編、表紙と扉
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 今回は、「浪華の賑ひ」の「順慶町」をご紹介しました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、昔の地図、現代の地図と見比べながらお楽しみください。「ジュンケイマチ」の文字も見つかると思います。

 大阪市パノラマ地図についてはこちらをどうぞ。
http://sumai-osaka.blogspot.jp/2015/08/blog-post_29.html
http://konkon2001.blogspot.jp/2017/10/blog-post_10.html


〇企画展「ちょっといい 昔の暮らし」終了しました
 多くのみなさまのご来場、ありがとうございました。

〇次回の企画展示は、
特別展「世界遺産をつくった大工棟梁―中井大和守の建築絵図細見」
Architecture Drawings of Master Carpenters:
The Family Behind the World Heritage of Japan です。

令和2年2月22日(土)~4月5日(日)
2020.2.22~2020.4.5

 中井大和守(初代・正清)は、江戸幕府の草創期に、二条城、江戸城、駿府城、名古屋城の天守や御殿をつくった大工棟梁で、元和5年(1619)に没しました。それから400年。中井正清とその子孫の建築作品の多くは火災などで失われましたが、現存するものは国宝や重要文化財に指定され、一部は世界遺産に登録されています。

 重要文化財「大工棟梁中井家関係資料」(中井正知氏・中井正純氏蔵)の建築絵図は、中井家の建築作品の全容を伝えてくれる貴重な資料です。その内容は、城、武家屋敷、内裏(御所)、寺院、神社、茶室などの建物を網羅し、建物の平面図や立面図だけでなく、儀式図、庭園図、起こし絵図など多彩です。これらの絵図は、破損や老朽化が進んできたので、平成25年(2013)から文化庁の指導監督の下で国庫補助事業として保存修理を行ってきました。この事業は住友財団の助成対象にも選定されました。

 特別展「世界遺産をつくった大工棟梁―中井大和守の建築絵図細見」は、この修理でよみがえった建築絵図を公開し、同時に中井家資料の修理技法を紹介します。

 チラシの拡大版は、こちらからどうぞ。 ⇒http://konjyakukan.com/kikakuimage/kara1241510494.pdf



「中井大和守正清肖像」
「洛東清水寺惣絵図」(部分)
「豊臣時代大坂城本丸指図」

〇特別展関連イベント
 講演会「大修理‼建築絵図ビフォーアフター 文化財をよみがえらせる日本の修理技術」


講師:坂田雅之氏・坂田さとこ氏(坂田墨珠堂)
谷直樹(大阪くらしの今昔館館長)
日時:令和2年3月7日(土)13:00~15:00(12:30開場)
定員:150名(定員に達し次第締め切ります)
申込期間:令和2年1月25(土)~3月3日(火)
場所:大阪市立住まい情報センター 3階ホール
参加費:300円
申し込みはこちらからどうぞ。
https://www.sumai-machi-net.com/event/portal/event/33694



〇今週のイベント・ワークショップ

 今昔館は毎週火曜日が休館日です。
 カレンダーは、こちらです。
http://konjyakukan.com/kaikanjikan.php?nextm=202002



2月19日(水)~22日(土)、26日(水)~29日(土)
町家ツアー

住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~


※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。

2月23日(日・祝)、24日(月・振替休日)、3月1日(日)
町家衆イベント 町家ツアー

江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00


2月22日(土)
ワークショップ『ミニ雛人形を作ろう』

①13時30分 ②14時30分
各回先着10名、参加費300円
*当日12時より8階インフォメーションで参加券を販売します

2月23日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間

むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30-15:00


2月26日(水)
イベント 町家寄席-落語

江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演:桂出丸、桂華紋
14時~15時


そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。

 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse


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