2020年5月19日火曜日

今週の今昔館(216) 堂島濱 20200519

〇浪華の賑ひに見る江戸時代の大坂(47)

 今回は「浪華の賑ひ」の「堂島濱」をご紹介します。

■堂島濱
 この地は浪花の北にありて、諸国の米穀をあきなふ市場なり。年の豊凶、時候の幸災、天地の順・不順によりてその価の尊きあり、卑しきあり。その極を市●(ごんべんに貝)(そうば)といふ。さる程に左右ともに潔き家宅(いへいへ)軒をならべ売買の客を請待す。これを相庭店(そうばみせ)といふ。
 客ここに有って、使人(つかひど)を以て売買を自由にす。朝を寄付(よりつき)といひ、昼の休みを消(きえ)といふ。夕の終りを大引(おほひき)と号す。されば早旦より夕日西にうすづく頃まで市人浜に群れ集ひ、指頭(ゆびさき)を揺(うご)かして、数百万の斛数(こくすう)を相対す。そのすさまじき事鼎(かなへ)の沸くがごとし。その繁昌すること浪花の一奇観といふべし。

浪華の賑ひ「堂島濱」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)


 浪花の賑ひの本文には、堂島浜について、次のような記載があります。

■堂島浜
 浪花の北方に有り
 貞享年間、この地開け、元禄中、大江橋・渡辺橋・田蓑橋・玉江橋等を初めて架(わた)せり。米穀の市場は大江橋北詰より渡辺橋の間にあり。これを相庭(そうば)の浜といふ。
 この東西の両側は残らず相庭屋にして、屋の上に物見の台を作り、市人ここに登りて、雲気(くもゆき)を考ふ。晴雨寒暖により日毎に米価の高下ありて、売買の賑はしき事、言語に絶す。実に他邦に比類なき市といふべし。


 「浪花百景」には、「堂じま米市」があります。

■堂じま米市(国員画)
 米取引はもと米商人淀屋の自主運営で行われていました。
 諸国米市場の中心的存在であった堂島米市場は、元禄10年(1697)に開発されたばかりの堂島新地に中之島の米市場が移転して成立しました。堂島米相場会所は公的機関として認可され、ここで立てられた相場は全国の基準となり、いつしか「堂島」といえば米相場を意味するようになりました。
 諸国の蔵屋敷に運び込まれた蔵米は、実際には米切手の入札によって仲買に払い下げられる先物取引。早朝火縄に火が点され、夕方水を撒いて消されるまで、仲買のすさまじい雑踏と熱気の中で立会いを行いました。相場を混乱させないようにとの配慮から、米相場の立会い中は役人も市場を通行できず、犯罪人が逃げ込んでも逮捕できませんでした。大阪経済隆盛の主役は米市場にありました。現在、米市場跡の記念碑が立っています。
 錦絵は、仲買人の足元とその様子を眺める人物だけが描かれた面白い図柄となっています。米市場は米切手を取引する市場ですので、現場には実物の米俵はありません。

浪花百景「堂じま米市」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 江戸時代天保年間発行の「浪華名所獨案内」を見ると、地図の中央部、堂島と中之島の間に架かる「大江バシ」と「ワタナベバシ」の中間あたり、北岸の堂島に米市場がありました。地図にも大きな文字で記載されています。「八木」に見えますが、「米」です。堂島は、堂島川と蜆川(曽根崎川)に囲まれた文字通り「島」でした。この地図は、東が上に書かれています。北を上にしましたので文字は右を向いています。

浪華名所獨案内(「津の清」蔵)

 次に、天保8年(1837)発行の天保新改攝州大坂全圖を見ると、堂島川に「大江バシ」と「渡辺橋」が架かり、2つの橋の中間あたり堂島川の北岸に米市場がありました。地図には表示はありません。堂島や中之島には多くの藩の蔵屋敷が林立していました。

天保新改攝州大坂全圖(国際日本文化研究センター蔵)

 大正13年発行の大阪市パノラマ地図を見ると、堂島と中之島の間に「大江橋」と「渡辺橋」が架かり、その中間の北岸に「米穀取引所」が描かれています。

大阪市パノラマ地図(大阪くらしの今昔館蔵)

 昭和12年発行の大大阪観光地図を見ると、堂島には「毎日新聞社」が大きく描かれています。その南側に「米穀取引所」の文字が見えます。対岸の中之島には、日本銀行、中央郵便局があります。これらの敷地はもとは各藩の蔵屋敷でした。

大大阪観光地図(国際日本文化研究センター蔵)

 今昔マップ3を利用して、周辺地域の変遷を見てみます。
 左上の明治42年では、堂島川から北側一帯が白くなっており、北の大火によって焼失した地域であったことが分かります。地図の右側は、明治41年のものですので、焼失前の様子が描かれています。中之島には東西に市電が走っていますが、右側はまだ通っていません。
 右上の昭和7年を見ると、地域一帯は復興が進み市街地が広がっています。堂島の北側にあった蜆川(曽根崎川)は埋め立てられ、川の跡地は堂島の敷地に取り込まれています。2つの橋の中間あたりに「米穀取引所」の文字があります。御堂筋と四つ橋筋、中之島通りに市電が走っています。
 左下の昭和42年を見ると、堂島川の上を阪神高速道路が通っています。市電はすべて廃止されています。
 右下の平成8年では、大江橋と渡辺橋の間に「中之島ガーデンブリッジ」が架かっています。この橋の北詰が米市場のあった場所で、記念碑が建っています。

明治42年から平成8年の地形図
(今昔マップ3より)

 堂島米市場があった辺りは現在どのようになっているのか。写真で見てみましょう。堂島米市場は中之島ガーデンブリッジの北詰、ANAホテルが建っている場所にありました。一昨年、建築家安藤忠雄氏のデザインによる新しいモニュメント「一粒の光」が設置されました。「一粒の米」ではありません。(笑)

堂島米市場跡モニュメント「稲に遊ぶ子供」(以前の様子)
新しいモニュメントの設置工事中(平成30(2018)年10月)
新しく設置されたモニュメント「一粒の光」
「稲に遊ぶ子供」は橋の西側に移設されました
堂島川に架かる「中之島ガーデンブリッジ」
平成2年に架けられた新しい橋です
ガーデンブリッジは歩行者専用です
正面はANAホテル
ガーデンブリッジの北詰
ANAホテルの所に米市場がありました
写真右下に米市場跡のモニュメント

 今回は、「浪華の賑ひ」の「堂島濱」をご紹介し、周辺地域の変遷を見てきました。今昔館8階展示室の床面には大きく拡大した「大阪市パノラマ地図」がありますので、「堂島」や「中之島」を確かめてください。


〇大阪くらしの今昔館からのお知らせです。

 開館のお知らせ 令和2年6月3日(水)~


 大阪市立住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」では、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2月29日(土)より臨時休館を継続してまいりました。去る5月14日(木)に公表された大阪府緊急事態措置において、府が定める標準的対策を遵守することを条件に、施設の休止要請が解除されたことを受け、大阪市と協議を重ねた結果、6月3日(水)より再開させていただく運びとなりました。ご来館を心待ちにしておられた皆さまには、長期の休館により多大なご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます。

 再開にあたっては、感染症拡大防止の観点から、いわゆる「3密」状態の防止やアルコール消毒の実施など十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。 なお、詳しくは今昔館のホームページ等でご案内させていただきますので、ご来館の際には必ずご確認くださいますようお願い申し上げます。


〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪くらしの今昔館は6月3日(水)より再開の予定ですが、休館が長引いています。大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf


〇大阪くらしの今昔館「町家の商い編」
 館の見どころを動画でご紹介しています。今回は「町家の商い編」です。
https://www.youtube.com/watch?v=kUQlQjGQpVE


 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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