2020年9月16日水曜日

今週の今昔館(232) 伊加賀 20200916

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(12)

 船旅の案内書「淀川両岸一覧」は、大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、約160年前の江戸時代の大坂から京都までの淀川南岸(左岸:川の流れから見て左側です)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「伊加賀」をご紹介します。京阪電車枚方公園駅の西側にある古くからの集落です。

■伊加賀
 伊加賀の絵は淀川左岸枚方宿の西端あたりを描いています。右手前に大きく三十石船が、左手には帆をたてた船が描かれています。

 挿絵の上部には、次のような解説があります。

 東堤いかが村より上り船の水主等上りて、枚方まで二十丁ばかり引き上り、それより十四、五丁さし上りて西堤へよせ、大塚の下より上りて三丁ばかり引き上る。ここに檜尾川(ひのをがは)あり。ゆゑに船にのりて五、六丁さしのぼる。また鴨島(かもじま)より上りて前島を引き上り鵜(う)どのまでゆく。

 伊加賀の挿絵の解説は、これに続く「其二」「其三」「其四」も含めて枚方周辺での三十石船の上り船の行程が説明されています。
 「引き上り」は、水主等が岸から綱で船を引っぱりあげること、「さし上り」は水主等が棹をさして上ること、単に「上り」は水主等が陸に上がることを示しています。ややこしいですが、違いがわかると上り船の水主等の苦労がよくわかります。上りは下りの倍の時間がかかり、船賃も倍だったそうです。

淀川両岸一覧上船之巻「伊加賀」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 本文の伊加賀の前後を見てみましょう。
■意賀美神社(おがみのじんじゃ)
 伊加賀村にあり。「延喜式」に出づ。例祭九月九日。
■伊加賀
 出口村の上にあり。
■伊加賀川 伊加賀橋
 ともに同村にあり。これより枚方につづく。
 


 大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の伊加賀付近を見てみましょう。
 図の右手は前回ご紹介した三島江渡口がある「出口」です。出口から左手の「伊加賀村」にかけて、京街道を進む大名行列が描かれています。伊加賀村の奥には「鷹つか山」があります。

「よと川の図」の伊加賀付近(大阪くらしの今昔館蔵)

 伊加賀付近の地域の変遷を地形図で確認してみましょう。
 明治41年陸地測量部地図には、図の中央あたりに京阪電鉄「ひらかた」駅があります。現在の枚方公園駅です。京阪電鉄はこの駅より南では河内街道に沿って走っています。

 駅の左下に「伊加賀」村があります。枚方駅の北から東に向かって京街道沿いに家屋が連なっています。これが枚方宿です。
 伊加賀村の西に淀川の堤防が弓状になっていて、その中が水色になっているところがあります。この地図は地理院の「明治期の低湿地」を重ねたもので、明治20年ごろの水面や水田、湿地、荒地などを示しています。

 伊加賀は、明治18年の淀川大洪水の際に、淀川の堤防が決壊した箇所です。「伊加賀切れ」として知られています。弓状の堤防は水害の後、水をせき止めるために応急的に作られたもので、中に水がたまった状態になっています。本堤防が完成したのちは、住宅地として提供されることになります。図の右下には「鷹塚山」があり、「よと川の図」と合致しています。

明治41年陸地測量部地図に明治期の低湿地を重ねた地図(今昔マップ3より)
明治41年陸地測量部地図に色別標高図を重ねた地図(今昔マップ3より)

 最新の国土地理院地図に、明治期の低湿地を重ねた図です。
 図の水色は水面、黄色は水田、緑色は荒地を表しています。伊加賀村や枚方宿の部分は、白地になっています。
 伊加賀村は伊加賀本町となり、その周りに寿町、緑町、栄町、西町、北町が拡がっています。
 図の中央辺りの「桜町」の文字のあるところが、明治18年の洪水の際に堤防が決壊したところです。本堤防が北側に完成したのちは、住宅地になっています。

最新の国土地理院地図に明治期の低湿地を重ねた図
最新の国土地理院地図に色別標高図を重ねた図

 国土地理院の空中写真を見てみましょう。
 図の中央を南北に通っている道路は国道170号線で、淀川に枚方大橋が架かっています。河川敷は運動公園やゴルフ場として整備されています。
 地図の右下に枚方パークがあり、京阪電車は山裾をカーブして走っています。

国土地理院の空中写真

 伊加賀付近の現状を写真で見てみましょう。
 京阪電鉄枚方公園駅から、西へ向かい、伊加賀本町から桜町あたりの現状です。
 明治18年の淀川大洪水の際の堤防決壊箇所で、現在も淀川河川事務所の出張所があります。

京阪電鉄枚方公園駅
駅前広場の枚方宿モニュメント
伊加賀の町並み
明治18年洪水跡の仮堤防跡
現在は住宅地となっている
明治十八季洪水碑
水面廻廊
水面廻廊

 今回は、「淀川両岸一覧」の「伊加賀」をご紹介しました。


〇企画展「大阪くらしの今昔館所蔵品展『歳時記と祝い事』」の会期は、10月4日まで延長になりました。

 大阪くらしの今昔館ではこれまで、住宅や建築に関する歴史資料、祭礼や年中行事に関する絵画資料など、大阪の伝統的な建築文化および歴史文化を伝える資料の収集に努めてきました。本展ではこれまでに収集した館蔵品の中から「歳時記」と「祝い事」に関連する絵画資料、染織資料、工芸品、節句飾りなどを展示します。

 季節にあわせて飾られた掛軸や屏風、節句飾りや年中行事に用いられた漆器、贈答用の袱紗、通過儀礼の際に身に纏った宮参りや婚礼の衣装など「ハレの日」を彩った100点余りを選びました。 五節句や年中行事、人の一生の節目にあたる儀礼など、大阪の人々が大切に守ってきた生活文化に触れていただきます。

住吉をどり 菅楯彦
浪花行事十二月 七夕月
二代長谷川貞信
花嫁衣裳 扇面四季花鳥模様振袖
花嫁衣裳 揚羽蝶円紋金襴菱木打掛
雛飾り台所道具


〇大阪くらしの今昔館は6月3日(水)から再開しています

 再開にあたっては、十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・町家ツアー(ボランティア等による展示解説)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・ギャラリートーク、講演会


〇「商家の賑わい」の展示

 大阪くらしの今昔館は大規模な展示替えが行われ、9月12日(土)からは「商家の賑わい」の展示になりました。
 江戸時代の大坂の店先を再現し、当時の賑やかな商家の様子を楽しめます。



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4


〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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