2020年9月10日木曜日

今週の今昔館(231) 三嶋江渡口 20200910

〇臨時休館のお知らせ

 大阪くらしの今昔館は、9月7日(月)~11日(金)の間、展示替えのため休館になります。
 9月12日(土)からは、「商家の賑わい」の展示になります。江戸時代の大坂の店先を再現し、当時の賑やかな商家の様子を楽しめます。


〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(11)

 船旅の案内書「淀川両岸一覧」は、大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(上り船之部)に沿って、約160年前の江戸時代の大坂から京都までの淀川南岸(左岸:川の流れから見て左側です)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「三嶋江渡口」をご紹介します。枚方市出口から淀川の対岸の三嶋江までの渡し船がありました。

■三嶋江渡口
 三嶋江渡口の絵は、淀川左岸の「出口」のあたりを描いています。三島江まで引き上げた船をここから対岸の松が鼻へ渡すことになります。左中央が渡し場で、堤の傍らでは茶店が営まれていました。この前を行き交う通行人が描かれています。この淀川左岸の堤防沿いの道が京街道で、川岸を枚方・淀の宿駅を経て伏見肥後橋へ通じています。

 この辺りは通船が比較的多く、京阪上下の三十石船はもちろんのこと、右岸三島江から対岸の出口村松が鼻へ渡す渡船が通った他、三島江村の浜には過書船の荷船問屋があり、荷船の出入りも多かったと思われます。

 前回ご紹介しました「佐太天満宮」の挿絵には過書船の荷船が描かれています。積荷は伏見経由で回送される二条詰米のための年貢米で、これもおそらく三島江浜あたりの荷船問屋の扱いの役船だと思われます。

淀川両岸一覧上船之巻「三嶋江渡口」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 この絵は左岸の景色を描いていますから、本来ならば、賛には出口や松が鼻に関係ある作品を載せるのが筋ですが、三島江は「和歌の種にならぬものがない」と賞される所、とてもそれに勝てるものはないということで、賛の和歌は次の2作です。

みしま江の たま江あたりを 霧の中に をしくもふねの すぎにけるかな 忠秋

落ゆかば しのだの森の 楠よりも 千枝にわかれし 淀川の水 力丸


 本文の三島江渡口の前後を見てみましょう。
■太間(たいま)
 點野(しめの)村の上にあり、「日本紀」に見えたる袗子(ころもこ)絶間(たえま)の旧趾なり。また、「未木集」に出でたる絶間の池もこの地なり。今は水かれて田圃となれり。
■木屋(こや)
 太間村の上にあり。
■松が鼻
 木屋村の上にあり。佐太よりこの所まで水上およそ三十四丁半といふ。
■三島江渡口
 松がはな村の上にあり。摂州島上郡三島江よりこの所へ淀川をわたす舟わたしなり。出口のわたしともいふ。水上三百十間といふ。
■出口
 松が鼻の上に茶店一軒あり。村は堤より遙かに内にあり。村中に光善寺といふ一向宗の寺あり、梓原堂(しげんどう)と号す。東六条に属す。


 大阪くらしの今昔館が所蔵する「よと川の図」の佐太村付近を見てみましょう。
 図の右手、下流側から、京街道は「仁なじ」「點野(しめの)」「大間むら」「木屋」「松がはな」「一里塚」を経由します。その左手には、大名行列の姿が描かれています。一里塚から内陸に入ったところに「出口」と「光善寺」の文字が見えます。
 出口から対岸の三島江への渡し舟がありましたので、河内国から摂津国への「出口」ということが地名の由来と言われます。

「よと川の図」の三島江渡口付近(大阪くらしの今昔館蔵)

 三島江渡口付近の地域の変遷を地形図で確認してみましょう。
 明治41年陸地測量部地図には、図の下部の中央に「松ヶ鼻」があり、その北で京街道は堤防上の道と、「出口」を経由する道に分かれます。出口村の北に「光善寺」の文字も見えます。
 対岸の淀川右岸には、「三島江」があり、江戸時代には、三島江と出口の間に渡し舟がありました。


明治41年陸地測量部地図に明治期の低湿地を重ねた地図(今昔マップ3より)

 今昔マップ3を利用して、その後の付近の変遷を見てみます。左上:明治41年、右上:昭和4年、左下:昭和42年、右下:最新の地理院地図です。

 昭和4年ではあまり大きな変化は見られませんが、昭和42年では、出口の北東に工場の進出がありますが、まだ田園地域です。最新の国土地理院地図では、ほぼ全域が市街地化しています。
 この地図では、国土地理院の「明治期の低湿地」を重ねており、黄色の部分は明治20年ごろ水田だったエリアです。水色は水面、緑色は荒地です。

明治41年から最近の地形図(明治期の低湿地を重ねた)
(今昔マップ3より)

 最新の国土地理院地図に、色別標高図を重ねた図です。
 このあたりでは、丘陵が淀川に迫り、丘陵の裾を京阪電車が走っています。光善寺駅から枚方公園駅にかけての付近です。道路は道路は、赤が国道、黄色が府道です。
 2枚目は、出口あたりを拡大したものです。地図中の「枚方市」の「方」の文字のあたりには、現在も「松ヶ鼻の地蔵尊」が残っています。

最新の国土地理院地図に色別標高図を重ねた図
最新の国土地理院地図に色別標高図を重ねた図

 国土地理院の空中写真を見てみましょう。
 1枚目は、広域を見たものですが、丘陵上は住宅地として開発されている様子が分かります。
 2枚目、3枚目は、出口付近を拡大したものです。旧集落の中を曲がりくねって通る街道がよくわかります。出口の旧集落の南方は、現在も農地が拡がっている様子が分かります。

国土地理院の空中写真
国土地理院の空中写真
国土地理院の空中写真

 今回は、「淀川両岸一覧」の「三嶋江渡口」をご紹介しました。


〇企画展「大阪くらしの今昔館所蔵品展『歳時記と祝い事』」の会期は、10月4日まで延長になりました。

 大阪くらしの今昔館ではこれまで、住宅や建築に関する歴史資料、祭礼や年中行事に関する絵画資料など、大阪の伝統的な建築文化および歴史文化を伝える資料の収集に努めてきました。本展ではこれまでに収集した館蔵品の中から「歳時記」と「祝い事」に関連する絵画資料、染織資料、工芸品、節句飾りなどを展示します。

 季節にあわせて飾られた掛軸や屏風、節句飾りや年中行事に用いられた漆器、贈答用の袱紗、通過儀礼の際に身に纏った宮参りや婚礼の衣装など「ハレの日」を彩った100点余りを選びました。 五節句や年中行事、人の一生の節目にあたる儀礼など、大阪の人々が大切に守ってきた生活文化に触れていただきます。

住吉をどり 菅楯彦
浪花行事十二月 七夕月
二代長谷川貞信
花嫁衣裳 扇面四季花鳥模様振袖
花嫁衣裳 揚羽蝶円紋金襴菱木打掛
雛飾り台所道具


〇大阪くらしの今昔館は6月3日(水)から再開しています

 再開にあたっては、十分な予防対策に努めてまいります。これに伴い、ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などの入館並びに観覧時にご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・町家ツアー(ボランティア等による展示解説)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ
・ギャラリートーク、講演会



〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf


 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be


 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be

https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4


〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf



 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

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