2021年3月3日水曜日

今週の今昔館(256) 竹田分道、安楽寿院 20210303 

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(35)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「竹田分道、安楽寿院」をご紹介します。


■竹田分道、安楽寿院
 稲荷御旅所から街道沿いにさらに南へ下ると安楽寿院があり、挿絵の奥の方に見える塔がこの寺院の南に建つ近衛天皇陵の二重の多宝塔です。その奥に愛宕山が見えますので、この絵は南東から北西を望む景色が描かれています。

 安楽寿院は竹田村にある真言宗の寺院で、保延3年(1137)鳥羽上皇が鳥羽離宮の東殿の御堂を仏刹にされたもので、上皇の御陵とその中宮美福門院の御陵、そしてその皇子である近衛天皇の御陵を境内に建ててあります。

淀川両岸一覧下船之巻「竹田分道、安楽寿院」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 洛中から南へ行くこと一里足らず、鳥羽の地には平安時代後期壮大な離宮が造営され、上皇たちによる院政の舞台となりました。まず、長保3年(1001)、白河上皇によって南殿が創建されます。そして、久寿元年(1154)、鳥羽上皇による田中殿の創建まで、徐々に離宮はその範囲を広げていきました。保延3年(1137)、そのうちのひとつ、東殿に鳥羽上皇が御堂を建立されました。これが安楽寿院のはじめです。

 絵の手前を左右に走るのは竹田街道と車道です。竹田街道は、伏見で陸揚げされた畿内年貢米の二条蔵への輸送経路にあたり、都へと向かう牛車は米俵を積んでいます。牛車は街道沿いの一段低い車道を進み、車夫が街道から手綱を引いています。重量のある牛車は街道を破損させるので、別に車道を設けたわけです。
 その後方から二人の人足が天秤棒で荷を担ってやってきます。絵の中央の道標には「右東六条」「左西六条」の文字。人足たちはこの道標から左へ行き、鳥羽の作り道を北上します。一方の牛車はこのまま竹田街道を上がっていくのです。
 現在この付近には「城南宮道」の道標が建ち、かつての分道の名残を伝えています。

 ところで、安楽寿院は新義真言宗智山派の寺院で、「都名所図会」の解説には次のように記されています。

 ≪竹田里不動院の北なり。鳥羽上皇脱離の後、城南の離宮にましく、北殿をひらきて、當院をいとなみ、保延三年十月十九日覚行法親王を導師として慶し給ふ。≫

 安楽寿院は東殿に建っていますから、北殿、東殿ともに鳥羽上皇が造らせた施設であると解説しており、この周辺には上皇ゆかりの施設が点在しています。

 隣接する鳥羽天皇陵の法華堂の右脇に残っている「碁盤の梅」。本文の解説には次のようにあります。

 ≪鳥羽上皇、城南の宮中において囲碁を禁じ給ひ、碁盤を集めてこの樹の下に埋めさせ給ふ。このゆゑに名とせり。当院は今にいたって囲碁を禁ず≫

 当時の離宮で囲碁に夢中になるあまり執務や修行をおろそかにする者が増えたために、上皇は碁盤を集めて埋めてしまい、そこに植えられたのが「碁盤の梅」というわけです。当時の人々にとって魅力ある遊興であったことが知られます。絵の安楽寿院は、往時とは異なり、鳥羽の田園風景の中に建つひっそりとした名刹として描かれています。

都名所図会「安楽寿院」
(国際日本文化研究センターデータベース)

 「淀川両岸一覧」の本文には次のとおりの解説があります。

■竹田
 同南にあり。伏見往来の順路なり。この所に辻あり。真幡寸(またぎ)の辻といふ。安楽寿院の艮の外を亀若の辻といふ。
 「続千載」
 契りおかん我が万代(よろづよ)の友なれや竹田の原の鶴の毛衣 法皇御製

■安楽寿院
 竹田村にあり。真言宗。
 本御塔(北の方の本堂をいふ。むかしは五重の塔なり。このゆゑに名とす)本尊卍字阿弥陀仏(尊像の胸面に卍字あり。この堂の下には法皇宸筆の法花経を収む)薬師堂(本尊は行基作)五輪塔(上皇如法経をここに収めらる)三体の土仏(本尊の東にあり。釈迦・弥陀・薬師の三像なり。弘法大師の作)碁盤梅(鳥羽上皇、城南の宮中において囲碁を禁じたまひ、碁盤を集めてこの樹の下に埋めさせたまふ。このゆゑに名とせり。当院は今にいたって囲碁を禁ず)冠石(かぶりいし)(本御塔・新御塔の間にあり。冠の形に似たるゆゑに名とす)新御塔(南の方の本堂をいふ。はじめは五重の塔なり)本尊地蔵菩薩(定朝の作。美福門院御念持仏・鳥羽院宸影・美福門院影・八条女院の影等脇壇に安置す)二重塔(阿弥陀仏を安置す。春日の作。この塔は豊臣秀頼公の御建立ありしなり。鎮守祠塔の傍にあり)
 右は油小路より下る道条にして、すなはち安楽寿院の東門前より東洞院の街道に出でて伏見黒門に至る。


 付近の様子を地形図で見てみましょう。
 1枚目と2枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。1枚目は竹田村の北側で、南北の道は地図の右から順に、伏見街道(本街道)、竹田街道、奈良鐡道、鳥羽街道です。奈良鐡道は現在の近鉄京都線です。竹田街道は他の2つの街道と比べる沿道の家屋がほとんどなかったことが見てとれます。
 2枚目は竹田村とその南側です。挿絵に描かれている竹田分道はこの地図の竹田村の右下、竹田街道と奈良鐡道の交差地点の北側の分岐点(赤丸の印)付近と思われます。北へ直進すると竹田街道、左折すると竹田村に入り、安楽寿院に向かいます。左折して西へ進むと、鳥羽街道へつながります。
明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵
明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵

 3枚目は、今昔マップを利用して竹田村付近を見ています。左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 地図の左上の川は鴨川、水色の横線は旧河道です。左右を見比べると、名神高速道路や近鉄の車庫は旧河道を利用していることがわかります。西竹田村には白河天皇、鳥羽天皇、近衛天皇の陵が見えます。治水地形分類図の黄色は微高地・自然堤防、薄い水色は氾濫平野です。かつての鴨川が暴れ川であったことが伺えます。最新の地理院地図では、赤色の道路は国道24号、黄色は府道です。


今昔マップより竹田村付近

 4枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。15mから5m刻みで色を変えています。北東が標高が高く、南西に向かって低くなっています。安楽寿院付近は15mよりも少し高い標高となっています。

地理院地図+自分で作る色別標高図

 三条橋から伏見までの間、同じ配色を使って京都の地形を見ています。伏見が近づいてきて、水色からブルーの部分が多くなってきました。

地理院地図+自分で作る色別標高図

 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「竹田分道、安楽寿院」をご紹介しました。



〇企画展「博覧会の世紀1851-1970」が始まっています

 2021年2月20日(土)~2021年4月4日(日)

 博覧会の歴史は1851年のロンドン万博に遡り、その後、欧米各国で開催されるようになります。世界中の国々で、今日に至るまで実に数千回にも及ぶ博覧会が開催され、日本においても明治以降、多種多様な博覧会が開催されてきました。
 時代とともに博覧会の内容や展示手法は進化し、開催目的や性格も大きく変わっていきました。博覧会はその時代における社会的な要求や世相を映す鏡であったといえます。
 本展では19世紀から20世紀の博覧会を俯瞰し、時代とともに変わってきた人々の価値観や他者へのまなざしを読み解くとともに、大阪を会場とした博覧会に焦点を当て、大阪の人々の生活スタイルや娯楽、都市文化を紹介します。

『元ト昌平阪聖堂ニ於テ博覧会図』
株式会社乃村工藝社蔵
第5回内国勧業博覧会『明治三六年之大阪』
大阪毎日新聞社発行
株式会社乃村工藝社蔵
『大礼奉祝交通電気博覧会鳥瞰図』
株式会社乃村工藝社蔵
'70大阪万博ペナント4種類
株式会社乃村工藝社蔵


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
 ① 11 時 30 分~(約 30 分)
 ② 14 時 30 分~(約 30 分)

・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
http://konjyakukan.com/shop.html


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
http://www.sumai-machi-net.com/howtouse


0 件のコメント:

コメントを投稿