2021年3月24日水曜日

今週の今昔館(259) 東竹田、藤茶屋 20210324

〇淀川両岸一覧にみる江戸時代の大坂(38)

 「淀川両岸一覧」は、江戸時代の大坂から京都までの淀川沿いの名所旧跡を挿絵を添えて紹介しています。このシリーズでは、淀川両岸一覧(下り船之巻)に沿って、京都から大坂までの淀川右岸(川の流れから見て右側)沿いの風景を訪ねていきます。今回は「東竹田、藤茶屋」をご紹介します。竹田街道に接して軒先に藤棚がある茶屋がありました。


■東竹田、藤茶屋
 竹田村に藤茶屋という風情のある茶店がありました。柳茶屋と同じく竹田街道に接して軒を構えていましたが、柳茶屋との違いは、軒先にあるのが柳の代わりに藤棚であるということです。その名の由来でもあるこの藤棚は店先の街道筋をアーケードのように覆い、初夏には満開の藤が天井から垂れ、見事な藤暖簾ができました。藤浪の底に旅人が集い酒食を囲む様子は、地上の竜宮城のような趣でした。
 挿絵を見ると、座敷に腰を掛けて、2、3人で一杯酌み交わしている旅客あり、駕籠を置いて軒先の床几で一服する駕籠かき人足あり、藤を愛でながら思わず足を止める通行人あり、街道筋を上下する人々のオアシスのようです。

淀川両岸一覧下船之巻「東竹田、藤茶屋」
(大阪市立図書館デジタルアーカイブ)

 本文には、次のように記されています。

 ≪東竹田村にあり。茶店に藤の棚あり。ゆゑに名とす。≫

 絵を見ると、店名の由来でもある藤棚が、軒で日陰を作る役割を果たしています。花はちょうど見ごろ。初夏の雰囲気が伝わってきます。絵の向こう側に車道が通っていることから、この茶店が竹田街道に面していることがわかります。

 絵の右上には、賛の狂歌と発句がひとつずつ。

 龍宮に勝る茶店はたこに鯛に 豆腐はたらく藤浪の底 力丸

 その奥に のれん掛けたり ふじの花 伴水園

 歌にある「たこに鯛」と「豆腐」はここの名物料理だったようです。大坂方面で水揚げされた魚介は伏見に運ばれ、陸路を通って都へと運ばれましたから、そのルート上にある藤茶屋では、一足先に客に出すことができたのです。
 一方の発句では、藤の盛りともなれば、店の暖簾よりも外側にある藤の花房が、頭上から暖簾のように下がっている様子を吟じています。

 絵の左側には、「ふぢ茶屋」の提灯が見えます。店内には、旅人がそこここで憩う様子がみえます。左上の賛は次のとおりです。

 夕風や賑はしうなる藤の花 柳亭
 苗とれと水鶏の啼くや竹田道 塘里

 車道を行く牛車には荷が積まれていません。都から伏見への帰路であることがわかります。本文には次のようにあります。

 ≪右は、東洞院通の街道を伏見黒門口に至る道条(みちすじ)なり。≫

 絵は店の中から向こうを通る街道の様子を描いていますから、ここから右(南)へ向かうと伏見に至るということになります。また、西に向かえば、安楽寿院や城南宮ということになります。

 本文は既に紹介しましたが、再掲しておきます。本文は縦書きですから「右は・・・」の意味は、「藤茶屋は東洞院通の街道を伏見黒門口に至る道条(みちすじ)にある。」の意味と考えられます。安楽寿院の解説に、「右は油小路より下る道条にして、すなはち安楽寿院の東門前より東洞院の街道に出でて伏見黒門に至る。」とありました。東洞院通の道条と、油小路より下る道条とが対になっています。
■藤茶屋
 東竹田村にあり。茶店に藤の棚あり。ゆゑに名とす。
 右は、東洞院通の街道を伏見黒門口に至る道条(みちすじ)なり。

 五条橋以降、東竹田村の藤茶屋までの道筋を地図で確認してみましょう。
 五条橋から五条通を西へ進み、A地点で東洞院通を南に下ると、竹田街道に入り東九条村の柳茶屋、東竹田村の藤茶屋、竹田分道(C地点)に至ります。B地点で油小路通を南に下ると、稲荷御旅所、安楽寿院に至ります。高瀬川は竹田街道に沿って付いたり離れたりしながら伏見へと流れています。
 ➀から➄は、淀川両岸一覧の五条大橋から後の挿絵の順番です。上り船の巻では、伏見から伏見街道に沿って京へ向かい、下り船の巻では、五条大橋から竹田街道に沿って伏見へと向かいます。是非紹介したい稲荷御旅所と安楽寿院は竹田街道から外れています。さて、どの順番に紹介しようか・・・と悩んだ結果の順番であると思われます。

明治42年陸地測量部地図の五条通から竹田村付近

 「都名所図会」には、「竹田、北向不動院、西行寺、城南神社」という挿絵があります。右手前に「西行寺」、左手前に「茶所」が描かれています。中央付近に「八幡社」「城南社」「小枝橋」が、左手に「秋の山」、左端には「下鳥羽」の文字が見えます。

都名所図会「竹田」
(国際日本文化研究センターデータベース)

 竹田村付近の様子を地形図で見てみましょう。
 1枚目は明治22年測量の陸地測量部地図(仮製地図)です。竹田村の東を南北に竹田街道が通っています。竹田村より北では高瀬川が街道に沿って流れ、村の南で少し西に離れて伏見へと向かいます。竹田村を横切って南へ走り、図の右下へと向かう線路は、奈良鐡道です。現在の近鉄京都線に当たります。

明治22年陸地測量部地図(仮製地図)
国際日本文化研究センター蔵

 次に、今昔マップを利用して昔と今の様子を見比べてみます。左は明治42年陸地測量部地図に治水地形分類図を重ねたもの、右は地理院地図に色別標高図を重ねたものです。
 地図の左上をかすめている水色は鴨川です。青色の横線は旧河道を示しています。かつての鴨川が暴れ川であった名残です。東竹田村、西竹田村は黄色で示された微高地の上に形成されています。柿色で示されているのは「段丘面」で、東山の山すそに当たります。
 右側の最新の地理院地図では、赤色の道路は国道、黄色は府道、緑色は高速道路を表しています。国道24号は旧街道の東側にバイパスとして新設され、東竹田村の南では竹田街道が拡幅されて国道になり、鉄道に沿って南東に向かいます。鉄道から南では竹田街道は府道になっています。


今昔マップより東竹田村付近

 3枚目は地理院地図に自分で作る色別標高図を重ねたものです。15mから5m刻みで色を変えています。京都盆地の地形は北が標高が高く、南に向かって低くなっています。伏見が近づいてきましたので、水色が多くなってきました。

地理院地図+自分で作る色別標高図

 三条橋から伏見までの間、同じ配色を使って京都の地形を見ています。盆地の中がひな壇状になっていて、北と南で標高が変わる様子がよくわかります。伏見城は東山の南の先端部に築かれ、伏見の港やまち、京から大坂への街道筋、大津から大坂への街道筋も見下ろす戦略上の要所であったことも読み取れます。

地理院地図+自分で作る色別標高図

 今回は、「淀川両岸一覧下り船の巻」の「東竹田、藤茶屋」をご紹介しました。次回は、いよいよ伏見船宿です。


〇企画展「博覧会の世紀1851-1970」開催中です

 4月4日(日)まで。残り少なくなってきました。3月17日から展示資料の一部が入れ替えられました。

 博覧会の歴史は1851年のロンドン万博に遡り、その後、欧米各国で開催されるようになります。世界中の国々で、今日に至るまで実に数千回にも及ぶ博覧会が開催され、日本においても明治以降、多種多様な博覧会が開催されてきました。
 時代とともに博覧会の内容や展示手法は進化し、開催目的や性格も大きく変わっていきました。博覧会はその時代における社会的な要求や世相を映す鏡であったといえます。
 本展では19世紀から20世紀の博覧会を俯瞰し、時代とともに変わってきた人々の価値観や他者へのまなざしを読み解くとともに、大阪を会場とした博覧会に焦点を当て、大阪の人々の生活スタイルや娯楽、都市文化を紹介します。

『元ト昌平阪聖堂ニ於テ博覧会図』
株式会社乃村工藝社蔵
第5回内国勧業博覧会『明治三六年之大阪』
大阪毎日新聞社発行
株式会社乃村工藝社蔵
『大礼奉祝交通電気博覧会鳥瞰図』
株式会社乃村工藝社蔵
'70大阪万博ペナント4種類
株式会社乃村工藝社蔵


〇落語家 桂米團治と歩く江戸時代の大坂
 大阪くらしの今昔館の9階常設展示室にある江戸時代(天保年間)の大坂の町並みをご紹介する新しい動画ができました。案内人は上方の落語家、桂米團治師匠です。
〈①表通り編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=n1moBJy5uB4
〈②町家の暮らし編〉
 こちらからどうぞ。
 https://www.youtube.com/watch?v=dDb2VBmyKnw



〇大阪くらしの今昔館は感染予防に注意して再開しています

 ご来館のみなさまにも、体温検査やマスクの着用などのご協力いただくことがございます。たいへんご不便をおかけしますが、ご理解・ご協力のほど、お願い申し上げます。なお、詳しくは、こちらをご確認ください。

 今昔館では、当面の間、以下の催し物の開催を中止しています。
・ボランティアによる展示解説(町家衆による町家ツアー)
・着物体験
・上方芸能・文化体験(町家寄席、お茶会など)
・町家衆による各種ワークショップ

・スタッフによる展示解説(町家ツアー)を1日2回実施します。お気軽にご参加ください。
 ① 11 時 30 分~(約 30 分)
 ② 14 時 30 分~(約 30 分)

・ミュージアムショップは一時休業していますが、図録などは8階インフォメーションで販売しています。
http://konjyakukan.com/shop.html


〇大阪くらしの今昔館の紹介動画
 今昔館の江戸時代のフロアをご紹介する動画は4編あります。全4編の目次はこちらからどうぞ。
 こちらから、見たい部分だけを見ることができます。英語の字幕入りの動画を見ることもできます。
http://konjyakukan.com/link_pdf/what's%20this%20.pdf



 このほかに「天神祭となにわの町」をご紹介する動画があります。
https://www.youtube.com/watch?v=3or8fq4U8zE&feature=youtu.be



 また、今昔館の近代のフロアをご紹介する動画が2編あります。
https://www.youtube.com/watch?v=SbqzmybwKss&feature=youtu.be


https://www.youtube.com/watch?v=EohP-xqrOi4




〇【動画】重文茶室「蓑庵」ー構造模型で見る茶室建築の世界
 重要文化財 大徳寺玉林院茶室「蓑庵(さあん)」の実物大構造模型(竹中大工道具館所蔵)を京都工芸繊維大学名誉教授 日向進先生が分かりやすく解説してくださいます。
 こちらからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tqJEnPZckbc&feature=youtu.be



〇「今昔館のオンライン まなびプログラム」が公開されています
 大阪のまちと住まいや くらしのことを おうちで学んでみませんか?
 こちらからどうぞ。
 ⇒konjyakukan.com/link_pdf/今昔館のオンラインまなびプログラム.pdf




 大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからご覧ください。
http://konjyakukan.com/index.html


 「今週の今昔館」の第1回から第52回までは、「古地図で愉しむ大阪まち物語」に掲載しています。
 「今週の今昔館」の第1回はこちらからご覧ください。
http://osakakochizu.blogspot.com/2016/08/blog-post_5.html


 「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。

「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
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初めての方はこちらからどうぞ。
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