今回は「浪花百景に見る江戸時代の大坂」の15回目、道頓堀付近の名所をご紹介します。
■道頓堀角芝居(国員画)
安井道頓、道卜による道頓堀開削以降、一帯は遊所や芝居小屋の設置が許可され随一の歓楽街を形成しました。道頓堀の南側、日本橋から戎橋の間は「芝居側」と呼ばれ、浄瑠璃、歌舞伎などの大芝居から、あやつり、からくりなどの見世物小屋に至るまで、芝居小屋が密集する浪花随一の繁華街でした。浜側の芝居茶屋には船から直接上がることができました。角座(角の芝居)は興行主大坂太左衛門が開いた歌舞伎座で、道頓堀の中でも古い小屋で、公許の印である櫓を掲げた5つの劇場のひとつでした。
いくつかの芝居小屋は近代に引き継がれましたが、今なお江戸時代以来の名前を保っているのは、中座と角座のみです。平成19年(2007)までは映画館と飲食店が雑居する角座ビルとして、大衆芸能の核として長らく当地を盛り上げてきました。平成25年(2013)角座ビル跡地にダイハツ工業がメインスポンサーとなった「松竹芸能 DAIHATSU MOVE 道頓堀角座」が再開場しました。
浪花百景「道頓堀角芝居」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
■道頓堀太左衛門橋雨中(芳雪画)
現在の道頓堀周辺は大阪の代表的な遊び場で、若者達でごった返す夜の景観が大阪の一つの顔にもなっています。江戸時代には堀の南側に中の芝居などの芝居小屋が軒を並び、また、観劇の人に向けた芝居茶屋がひしめきあい、ここに近世の大坂文化が花を咲かせていました。役者が船で御目見えする船乗り込みも行われ、水都にふさわしい趣向が見られました。
太左衛門橋の名は、橋の南に芝居小屋「角の芝居(角座)」を開いた興行師で若衆歌舞伎の座元の大坂太左衛門に由来します。道頓堀には4つの橋が架かっていましたが、この橋を北へ渡ると花街宗右衛門町があり、島之内にも通じます。華やかな町をつなぐ橋には艶っぽい情緒があふれています。織田作之助は、芝居街と花街をつなぐ太左衛門橋を「さまざまな人のさまざまな思い出がこもっている橋だった『大阪の女』」と記しています。
浪花百景「道頓堀太左衛門橋雨中」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
■松屋呉服店(芳瀧画)
松屋呉服店は大丸の前身。大丸は享保2年(1717)に下村彦右衛門が京都伏見において開いた大文字屋呉服店が発祥です。心斎橋の大坂店は9年後の同11年(1726)に開設されました。西陣のものを主力として南の芸人衆や遊郭筋を目当てに商いをし、老舗呉服屋の松屋を吸収するまでになりました。明治末まで屋号は「松屋」と「大丸」を併用していましたが、商標は大文字屋の称号にゆかりの深い「〇に大」を用い、人々は「大丸」と呼びならわしました。
暖簾を見ると江戸や名古屋にも支店を持っていたことがわかります。心斎橋筋には小大丸や十合(そごう)など同業が大店を出し、商都大坂の一端を担っていました。豪商であったにもかかわらず、救民義捐に尽くす義商として知られていたため、大塩平八郎の乱の際にも襲撃をまぬがれたといわれます。
浪花百景「松屋呉服店」 (大阪市立図書館デジタルアーカイブ) |
天保年間発行の浪華名所獨案内を見ると、道頓堀川の南側(左)に、竹田座、若太夫座、角座、中座、筑後座の五座が並んでいます。戎橋を北へ渡り心斎橋筋を進むと、左手に〇に大の標があるところが松屋呉服店です。どちらも観光ルートの線が引かれています。
浪華名所獨案内の道頓堀付近(「津の清」蔵) |
大正13年発行の大阪市パノラマ地図では、道頓堀の南側に、辨天座、朝日座、角座、中座、浪速座、に加えて、松竹座が並びます。千日前通と日本橋筋には市電が走っています。千日前の楽天地が目を引きます。
大阪市パノラマ地図の道頓堀付近 (大阪くらしの今昔館蔵) |
戎橋を北へ渡り5つ目のブロックの西側に大丸があります。大正12年当時は御堂筋の拡幅前ですので、大丸、十合(そごう)は心斎橋筋に面して店を開いていました。御堂筋の位置には道頓堀と長堀には橋が架かっていませんでした。
大阪市パノラマ地図の大丸付近 (大阪くらしの今昔館蔵) |
大阪くらしの今昔館8階の近代のフロアに、大阪市パノラマ地図を拡大して床面に展示していますので、じっくりとご確認ください。
大阪市パノラマ地図についてはこちらをどうぞ。
≫ http://konkon2001.blogspot.jp/2017/10/blog-post_10.html
今昔マップ3を使って、地形図の変遷を見てみましょう。
左上は明治41年、通りと筋はほとんどが江戸時代のままの道幅です。その中で、長堀川の北の末吉橋通は、拡幅されています。右上は昭和4年、末吉橋通と堺筋(長堀橋筋)に市電が通っています。左下は昭和22年、御堂筋が拡幅されています。白い部分は戦災で焼失した地域で、とりわけ島之内の東半分は大きな被害がありました。右下は昭和42年の地形図で、長堀川が埋めたてられて、長堀通となっています。島之内の中央部を東西に通る幅の広い通りは、アメリカ村のメイン通りやヨーロッパ通りとしても知名度がある周防町通です。關一大阪市長が推進した大阪市第一次都市計画事業に基づき、1936年(昭和11年)に周防町通が市道堀江玉造線として貫通・拡幅整備されました。その際に、東横堀川に鋼製アーチ橋の東堀橋が架けられました。東堀橋の開通により、玉造と九条が一本の道路で結ばれました。大丸は御堂筋側に増築され、心斎橋筋と御堂筋の両方の筋に面しています。
明治41年から昭和42年の地形図(今昔マップ3より) |
今回は、「浪花百景」の道頓堀付近の名所をご紹介しました。
錦絵の解説は、関西学院大学博物館「浪花百景ー大坂名所案内ー」、大阪城天守閣「特別展浪花百景ーいま・むかしー」を参考にさせていただきました。
〇今昔館は4月9日(月)~13日(金)まで展示替えのため休館となります。
〇4月14日(土)からは、9階江戸時代のフロアの常設展示は「夏祭りの飾り」の展示となります。
展示替えによって、
幔幕(まんまく)と高張り提灯
造り物
お迎え人形
天神丸
などが加わります。
光と音の演出にも、
祭囃子や花火が入り、にぎやかさが演出されます。
9階に実物が展示されているお迎え人形が、祭りの当日にどのように使われていたかは、8階の近代のフロアにある大正時代の天神祭りの船渡御の模型展示を見るとわかります。祭りの当日、お迎え人形が飾られたお迎え船が、神さまの船をお迎えに行く様子を見ることができます。
当時の船渡御は現在とは違って大川の下流にある松島の御旅所に向けて川を下っていました。お迎え人形は江戸時代の元禄期に戎島御旅所周辺の町々が、当時の芝居(歌舞伎・能・文楽など)の登場人物をモデルにして作った大型の風流人形です。
〇企画展「浪花の大ひな祭り」終了しました。
〇次回の企画展は「~生活文化の粋 三井別家中川コレクション~くらしの美を探る 四季のしつらいともてなしの道具」。4月21日(土)から開催です。
本展で初公開となる「三井別家中川コレクション」は、江戸時代の豪商三井家の別家中川九兵衛(なかがわくへえ)家に伝来する書画、茶道具、食器類などのコレクションです。
三井家は、江戸、京都、大坂の三都に呉服店を構え、両替商も営んでいました。幕末の大坂の名所を描いた『浪花百景』には、高麗橋2丁目にあった大坂本店の繫栄ぶりが描かれています。
ところで、京都と大坂では風土や文化が異なるという指摘が古くからあります。一方で、京・大坂を一体にした上方文化という歴史用語もあります。2つの都市は、淀川という大動脈によって密接に結ばれていて、共通する生活文化が醸成されたことも事実です。例えば、船場言葉は京言葉と似ていますし、町家や町並み、年中行事など、両都市に共通する生活文化は数多く見いだすことができます。また、大坂の豪商・加島屋が京都出水の三井家から花嫁を迎えたように、京都と大阪は人や文化の交流を深めながら共に発展してきました。
中川家は、享保期頃(1716~1736)より代々京都西陣に近い千両が辻で本家と同じ呉服業を営んでいました。明治初頭に廃業しますが、現在の当主で10代目を数える旧家です。
歴代の当主たちは家業に勤しむかたわら、歌人や茶人、絵師や陶工と親しく交流しました。また、家業だけでなく年中行事や通過儀礼といった生活面においても、本家や他の別家との交際も重要だったと推察されます。
このような、富裕な商家ならではのくらしを営むなかで、来客をもてなす膳碗や酒器、食器類、四季折々に床の間を飾る掛軸や花器、そのほか調度品や装飾品などが蓄積されました。また、8代目当主(明治14年~大正10年/1881~1921)は茶の湯の愛好者で、茶道具類の収集にも熱心だったといいます。
本展は“四季のしつらい”と“もてなし”をテーマに、「三井別家中川コレクション」から、端午の節句飾り、季節を演出する掛軸や花器、また、茶道具をはじめ陶器、漆器、ガラス器などの道具類、100点余りを展示します。上方の富裕な商家に育まれたくらしの美を感じていただければ幸いです。
唐獅子牡丹図大鉢 |
中川家に伝来の甲冑 |
〇今週のイベント・ワークショップ
4月14日(土)、16日(月)、18日(水)~21日(土)
町家ツアー
住まいのミュージアム「大阪くらしの今昔館」の9階「なにわ町家の歳時記」では、楽しいガイドツアーをおこなっております。
当日ご来館の方は、自由に参加していただけます。
※団体でお越しの場合は、事前にお申し込みください。
開催日:平日・土曜日
時 間:①11:30~、②14:30~
(※日曜日・祝日は下記のとおり、町家衆による町家ツアーがあります。)
4月15日(日)、22日(日)
町家衆イベント 町家ツアー
江戸時代大坂の町並みについて町の特色や見どころをわかりやすく解説します。
時 間:13:10~14:00
4月14日(土)
町家衆イベント ワークショップ『一閑張りの小物入れを作ろう』
①13時30分 ②14時30分
当日先着各回10名、参加費200円
*当日12時より受付で参加整理券を販売します
講師:大阪くらしの今昔館 町家衆
4月15日(日)
町家衆イベント 今昔語り
大阪に残る昔ばなしを、町家の座敷でお聞かせします。
あたたかくなつかしい風情をお楽しみください。
開催日:お茶会と同日
時 間:14:30~15:00
町家衆イベント 町の解説
江戸時代の大坂では人々はどのように暮らしていたのか。
当時の史料(複製)とともに町会所で詳しく説明します。
開催日:第1・3日曜
時 間:13:00~16:00
イベント 町家でお茶会
町家の座敷で「ほっと一息」一服いかがですか
先着順50名、茶菓代300円
※当日12時より受付でお茶券を販売します
協力:大阪市役所茶道部
13時~15時
4月21日(土)
イベント 町家寄席-落語
江戸時代にタイムスリップ!大坂の町家で、落語をきいてみませんか
出演・演目:桂出丸、他
14時~15時
町家衆イベント 折り紙(有料)
季節に合わせてさまざまな折り紙をお教えします。
作品は持ち帰っていただきます。
開催日:偶数月の第3土曜
時 間:13:30~15:00
4月22日(日)
町家衆イベント 絵本で楽しい時間
むかし話などの絵本を表情豊かに読み聞かせます。
じっくりとお聞きください。
開催日: 第4日曜
時 間:14:30~15:00
そのほかのイベント・ワークショップはこちらからご覧いただけます。
そのほか定期開催のイベントはこちらからご覧ください。
大阪くらしの今昔館の展示内容や利用案内などについて詳しくはこちらからどうぞ。
「今週の今昔館」は第1回から第52回までは、大阪市立住まい情報センターの住まい・まちづくり・ネット「スタッフのつぶやき」に掲載されています。
「今週の今昔館」第1回はこちらからご覧ください。
≫ http://sumai-osaka.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html
「住まい・まちづくり・ネット」では、大阪市立住まい情報センター主催のセミナーやイベントの紹介、専門家団体やNPOの方々と共催しているタイアップイベントの紹介などを行っています。イベント参加の申し込みやご意見ご感想なども、こちらから行える双方向のサイトとなっています。
「住まい・まちづくり・ネット」はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/
初めての方はこちらからどうぞ。
≫http://www.sumai-machi-net.com/howtouse
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